サメハダー(?) を つりあげた!   作:青蛙

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対決! ムロのビッグウェーブ!(後編)

 

 

 

 

 

 

 

 

「ココドラ、『てっぺき』で攻撃に備えろ!」

「コォァ!」

 

 いわなだれは強力な『いわタイプ』の物理技だが、『かくとうタイプ』を持つアサナンに効果はいまひとつ。流石にタイプ一致で物理攻撃力の高いココドラから放たれた『いわなだれ』がアサナンにとって無視しきれるダメージではないとはいえ、今の一撃でひんしになったとも思えない。

 今までの戦いから、アサナンが使ってくる技は『はっけい』『みきり』『ビルドアップ』『ねんりき』の四つ。攻撃力を上昇させたアサナンが使ってくるのは確実に『はっけい』。既に傷を負っているココドラでは、残念だが確実に耐えられないだろう。

 てっぺきで防御を固めていれば一発ぐらいなら、といった所だが、そんな犠牲前提の戦い方はしたくない。二回『はっけい』を受ける前に、必ず倒す。

 

「アッ、シャッ!」

 

「やっぱり耐えてたか……」

 

 岩石を押し退けて、中からアサナンが姿を現した。

 アサナンの片腕はおかしな方向に折れ曲がり、身体中傷だらけだったが、アサナンはそんな事を気にした様子はまるで見せず、口元には笑みさえ浮かべている。

 

「アサナン、『はっけい』連打だ!」

「シャッ!」

 

「ココドラ『まもる』で防いで『アイアンヘッド』!」

「コココッ!」

 

 一瞬ぐったりと身体の力を抜いたアサナン。次の瞬間には地を蹴って目にも止まらぬ速さで飛び出し、ココドラに『はっけい』を繰り出してくる。ギリギリの所で発動が間に合った『まもる』で一撃目、二撃目が連続して防がれた。そして三撃目が来るまでの僅かな隙に『アイアンヘッド』を、

 

「アシャァッ!」

「コッ、コガァ!?」

 

 パァン!という空気の弾ける音と共にココドラの姿がかき消えた。そして次の瞬間、僕の真横を何かが凄まじい勢いで通り過ぎ、壁に激突して壁を粉々に砕いた。

 

「………ココ、ドラ?」

 

「勝負あったね」

 

 アサナンが華麗に着地を決める。

 ハッとして後ろを振り返ると、崩れた壁材の中にココドラが埋まっていた。

 

「ココドラ!」

 

 駆け寄り、彼の名前を呼ぶ。

 しかし返事は無く、彼はピクリとも動かなかった。

 

「ココドラ、戦闘不能! アサナンの勝ち!」

 

 互いの手持ちを示す大きな液晶ディスプレイ。それに映されていた僕の手持ちを示すボールのアイコンが、一つ暗くなった。

 

「ココドラ………ごめん、よく頑張ったね」

 

 倒れたココドラをボールに戻し、残り一つのボールをベルトから外して握り締める。

 技の指示は、多分間違ってはいなかった。ココドラも弱くは無かった。アサナンに勝てるだけの力はきっとあったはず。ココドラが負けたのは、ひとえに僕の指示が未熟だったからだ。タイプの相性から見れば僕の指示は間違ってはいなかったが、それは優等生的な、単純極まりないじゃんけんのような指示出し。相性の悪い相手に勝利する為の、工夫が足りていないのだ。

 

「ココドラの頑張り、無駄にはしない! 行くよ『サメまる』!」

「フカッシャア!」

 

 モンスターボールからサメまるが元気よく飛び出し、満身創痍のアサナンと対峙する。アサナンを相手にココドラの相性は最悪だったが、倒すまでは行かなくとも限界近くまで体力は削ってくれた。普通のココドラであれば戦いにすらならなかった所を、よく頑張ってくれた。

 

「フカマル……戦うのは初めてだ。ワクワクするぜ!」

「アッシャ!」

 

 トウキさんが手を握り締めると同時に、アサナンもファイティングポーズをとる。相変わらず片腕は使い物にならないのか、だらりと垂れ下がったままだったが、気合いは充分だ。

 こちらもサメまると一瞬視線を交わし、互いに頷く。ここから逆転だ。サメまるの力で残り二体を倒して見せる。

 

「サメまる『すなじごく』!」

「フガガガ!」

 

「アサナン、みきってから『はっけい』!」

「シャッ!」

 

 サメまるの口から凄まじい勢いの砂の渦が吐き出され、アサナンに襲いかかった。しかしアサナンは既にみきりの体勢に入っている。ビルドアップを一回積んでいるアサナンから、続けて放たれる『はっけい』を受ければサメまるも只では済まない。が、

 

「何っ!? 避けられないだと!」

「アサッ!? アッアッ、シャシャ!?」

 

 サメまるの口から出された『すなじごく』は、アサナンの元に届くまでに急激に膨張、密度こそ薄くなったものの、巨大な砂の渦となったそれはアサナンを飲み込んだ。

 

「だがこんな緩い『すなじごく』じゃ、ダメージは与えられないぜ!」

「ええ、その通りです。でも狙いはそこじゃない。 サメまる、渦に突っ込め!」

「渦に……? しまった、そういう事か!」

 

 サメまるは迷うこと無く砂の渦へと飛び込んで行く。中で何が起きているかすら見えない、巨大化した『すなじごく』。それはごく限定的な範囲で、『すなあらし』と似た状態を起こしていた。

 この状態では、『すなじごく』によるダメージも、『すなあらし』のようなダメージも与えられない。そして、『すなじごく』の様に完全に閉じ込めることも出来ない。ならば何故このような状態を作ったのか。

 

「サメまる、『アイアンヘッド』!」

「フカフカ!」

 

「アシャ!? シャァッ!」

 

 砂の渦の中からアサナンが『はっけい』を使った音が僅かに聞こえた。しかし、アサナンの『はっけい』はサメまるには当たらない。これほどの砂が吹き荒れる中で、視界を一切邪魔されずに攻撃を行えるポケモンなんて、それこそ『すなあらし』に適応できるポケモンぐらいのものだ。

 タイプが『エスパー』と『かくとう』の複合であるアサナンが、この砂の渦の中でまともに攻撃が出来るはずが無かった。

 

「アギャッ! ブ、ァシャァ………」

 

「フカフカァ!」

 

 ゴン!と鈍い音が響き、疑似すなあらしの中からアサナンが血を流しながら吹っ飛んでいく。ココドラとの戦いでアサナンは既に限界まで弱っていた。『アイアンヘッド』を受けて、耐えていられる程の体力はもう残っておらず、地面を転がっていったアサナンが立ち上がることは無かった。

 

「アサナン、戦闘不能! サメまるの勝ち!」

 

「ハハ、マジか。してやられたな。おつかれアサナン」

 

 苦笑いしながらトウキさんはアサナンをモンスターボールへと戻す。互いに一体ずつポケモンを倒し、此方のサメまるは未だに無傷。形勢は再び均衡へと戻された。

 

「でも、二度は無いぜ。行くぞ『マクノシタ』!」

「ハッ、フォアッ!」

 

 出た。マグマ団との戦いでも、その実力を遺憾無く発揮していた強力なポケモン。

 本気では無いジム戦用のポケモンかつ、進化前でありながら、その強さは平均的な『ハリテヤマ』にも迫る強さだと確信していた。サメまると僕で、いったいどこまで食い付けるか。

 

「いや、倒す……倒すよ、サメまる!」

「シャァァァ……」

 

 サメまるは両手を上に上げ、大きく口を開けてマクノシタを威嚇する。特性としての『いかく』では無いが、これは彼なりの気合いの入れ方なのだ。

 全力を尽くして戦っても勝てるかわからない相手だからこそ、限界以上の力を引き出せるように彼も気合いを入れている。

 

「行くぜマクノシタ、『はらだいこ』!」

「ハボーボッッ!」

 

「一撃で倒すつもりか……『りゅうのいかり』!」

「フシャァァ!」

 

「えっ、ヤッバ! 中断して避けろ!」

「マッ!? クホォッ!」

 

 両手で自分の腹を叩こうとしていたマクノシタだったが、技名を聞いたトウキさんの咄嗟の指示で技を中断し、横っ飛びに避けた。サメまるから放たれた『りゅうのいかり』が危うく背中に掠りそうになり、マクノシタは冷や汗を流す。

 『りゅうのいかり』は所謂『固定ダメージ技』と呼ばれる技で、相手の防御力や強さに関わらず一定量のダメージを与える技だ。数値換算したポケモンの体力で、40ピッタリのダメージを相手に与える事が出来る。つまり、鍛え抜かれ、体力が200近くまで成長したポケモンには痛手にはならないが、そうでは無いポケモン相手ならば致命的なダメージとなる。

 ジムバトル用のマクノシタが相手ならば、一撃とは言わずとも致命的なダメージとなる。

 

「逃がすな、『すなじごく』!」

「シャアッ!」

 

「マクノシタ『ふきとばし』!」

「ハッホォ!」

 

 サメまるの口から再び砂の渦が放たれ、今度は膨張すること無くマクノシタに襲い掛かる。対するマクノシタは目にも止まらぬ速さで両手を叩き、その風圧で『すなじごく』を吹き飛ばして見せた。腕力と体格に優れたマクノシタだからこそ出来る力業だ。

 

「っフゥー……危ない危ない。技構成を変えてきてたか」

「こっちとしては当たってくれると助かったんですけどね……」

「ハハハ、ジムリーダーとして情けない姿は見せられないからねぇ………『ねこだまし』!」

「サメまる、『アイアンヘッ━━」

 

 マクノシタがその巨体からは想像もつかないような素早い動きで駆け出し、サメまるの目の前で両手を叩く。不意を付かれたサメまるは『アイアンヘッド』を繰り出せず、懐にマクノシタのパンチを一撃受けてしまった。

 

「フシャッ!」

「サメまる!」

 

 振り抜かれた拳。大きなダメージでは無かったものの、小柄なサメまるはコロコロと転がって距離を離されてしまう。

 

「そのまま『はらだいこ』!」

「マクハァ!」

 

 ドン!ドン!と大きく、腹の底に響くような重低音が建物の中に響き渡った。

 

 『はらだいこ』は自身に大きなダメージを与えつつ、その力を限界まで引き上げることの出来る強力な技。

 限界まで力が上昇したマクノシタの技は、今のサメまるではどれを受けても耐えられない。先程は阻止出来たが、二度目は発動を許してしまった。

 

「互いに一撃食らえば終わり、か……」

 

 サメまるはマクノシタから攻撃を受けた瞬間に終わり。

 マクノシタはサメまるから『りゅうのいかり』を受けた瞬間に終わり。

 

 随分とリスキーな展開にしてきたものだ。『はらだいこ』さえ使わなければ、『りゅうのいかり』で一撃で倒れるような事にはならなかっただろうに。勿論、攻撃力が高くなっていない分、サメまるに当てなければならない攻撃の数は増えただろうが。

 

「マクノシタ、『つっぱり』で岩を飛ばせ!」

「クホァ!」

 

 マクノシタの『つっぱり』に押され、フィールド上に転がっていた岩が二つ、サメまる目掛けて飛ばされた。『つっぱり』を応用した擬似的な『いわおとし』だ。直接的な攻撃でない分まだマシだが、簡単に当たるわけにも行かない。

 

「っ! さっきの『いわなだれ』の岩を……サメまる『すなじごく』で視界を塞いでやれ!」

「シャ!」

 

「同じ手は二度も食らわないぜ! 『ふきとばし』!」

「クホッ!」

 

 再び空気が弾け、『すなじごく』は跡形もなく吹き飛ばされる。しかし、追撃の手を緩めまいと前へと踏み出したマクノシタの前に、サメまるの姿は既に無かった。

 

「消えた? ………何処に」

 

「サメまる、『りゅうのいかり』!」

「フシャァァ!」

 

「………っ! 上だ避けろぉぉ!」

「マックォォァァァ!」

 

 投げ付けられた岩石を足場にし、高く上空へと飛び上がったサメまる。予想だにしていなかっただろう方向からの攻撃に、マクノシタは身体を捻りながら紙一重で回避し、ゴロゴロと転がっていく。

 立ち回りが上手く、反応速度も速く咄嗟の対応にも長けている。身体能力そのものは特別高くはない。だがそれ以外の部分がよく鍛えられている。トウキさんとの息もぴったり合っており、彼の的確な指示と相まってマクノシタは本来の能力以上のパフォーマンスを発揮していた。

 

「逃がすなッッ!『アイアンヘッド』!」

「只では食らうなよ!『つっぱり』!」

 

 一気に距離を詰めた二匹がぶつかり合う。

 フィールドの空気がビリビリと震え、衝撃で地面が砕け、土煙が巻き上がる。

 

「サメまる!」

「マクノシタ!」

 

 土煙の中からサメまるとマクノシタが転がり出て来た。

 ポケモンと言えどあれ程の衝撃を直接受けて平気では無かったようで、互いに生々しい打撲痕を肌に作っている。

 

「くっ………このまま押しきるぜ、マクノシタ」

「……ハッホ」

「『つっぱり』!」

「フン、ホァ!」

 

 素早く復帰したマクノシタがサメまるに迫る。

 

「サメまる!」

「フガ……フシャ………」

 

 しかし、サメまるは立てない。予想を越えてマクノシタの力は強すぎたのだ。

 痛みを堪えながらも立ち上がろうとするサメまるの動きは余りにも遅く、

 

「フカ……」

「ホァァァァ!」

 

 迫る掌。

 駄目だと叫びたい。マクノシタの攻撃からサメまるを庇いたい。

 しかしこれは正々堂々、公式ルールに則ったポケモンバトル。私情からそんな軽率な行動は取れない。

 

 

━━━敗北

 

 

 その二文字が脳裏を過った。

 次の瞬間だった。

 

「……何だ、これ」

 

 突如として視界が切り替わる。いや、自身の視界はそのまま、まるでサメまると同じ視点を手に入れたような。

 

「マクノシタの『はっけい』。あれが当たったら……」

 

 時間が圧縮されたようにゆっくりと、少しずつ景色は動いていく。あの掌。サメまるがいつも通り動けさえすれば、避けられたものを。

 

「サメまる……?」

 

 ふと、サメまるの考えている事が手に取るように理解できた。

 

 勝ちたい。

 弱いのが嫌だ。

 負けたくない。

 強くなりたい。

 まだ戦える。

 

「そうだ、勝たなきゃ」

 

 

 身体の底から、沸き上がる、膨れ上がる、力が。

 

 

「サメまる」

 

 キッと、マクノシタを睨み付ける。

 サメまるの考えていること。アレは『避けない』、真っ向から『打ち倒す』、そして最後に『勝利する』。

 

「今度こそ大丈夫だ」

 

 3度目の正直という言葉がある。

 

 一度目は理性を失い暴走。

 二度目は体力を消耗し戦闘不能。

 

 ならば三度目は?

 

「『げきりん』」

 

「フルルルゥゥ………シャァァァ!」

 

 豹変したサメまるを前に、マクノシタは糸のように細い目を見開き驚愕する。マクノシタが付き出した掌はサメまるに止められていた。

 そして目の前でサメまるの姿が変化していく。小さな身体に抑え込まれていた筋肉は大きな身体を得たことで自由に。丸っこかった身体は流線的で、獰猛さを感じさせるものに。

 

「ガァァッシャァァァ!」

 

 爆発的に上昇した膂力でサメまるはマクノシタの『つっぱり』を押し返し、吹き飛ばした。

 

「嘘だろ!? このタイミングで進化したのか!?」

「マクッ、クホォァ」

「くっ、『ねこだまし』から『つっぱり』!」

 

 華麗に着地を決め、すぐさま『ねこだまし』を繰り出すマクノシタだったが、『げきりん』を発動してコントロール可能な極限まで理性を削ったサメまるは怯まない。マクノシタの攻撃も意に介さず、圧倒的な力でマクノシタを殴り付けた。

 

「マ"ッ!?」

「マクノシタっ!」

 

 ボスッと鈍い音が響き、マクノシタの顔が苦痛に歪む。ワンテンポ遅れて拳は振り抜かれ、マクノシタは凄まじい勢いで壁に突っ込んだ。

 

「サメまる……!」

「フシュゥ……シュゥ……」

 

 サメまるはそれ以上、攻撃の手は加えなかった。

 遂にサメまるの理性は『げきりん』に打ち勝ったのだ。

 

 壁に激突したマクノシタは、再び立ち上がることは無い。

 審判がそれを確認し、旗が上げられる。

 

「マクノシタ、戦闘不能! サメまるの勝ち! よって勝者、チャレンジャー『カナタ』!」

 

 

 

 





・技構成について
 四話でサラッと触れたように、この作品ではバトル中に即座に使えるほどに表層にある記憶を、ゲームで言う技の習得上限としています。なので、他にも技は覚えてはいるのです。『サメまる』の場合はタマゴ技で覚えていた四つに加え、レベルアップ(この作品では単純に強くなる事)によって覚えた技を全て覚えている状態になります。四つの技の変更には特別な事をする必要は無く、またタマゴ技で習得していたものも、記憶として残っているので再び四つの技に加える事が出来ます。


ヒロインって要る?

  • カガリ
  • ヒガナ
  • ルチア
  • ダ イ ゴ さ ん
  • (いら)ないです
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