一日後、キンセツジムにて。
「よし、じゃあサメハダー(?)。お前の名前は『サメまる』だよ。サメハダーっぽくて丸っこいからね」
「フカッ!」
「ええと、気に入ったって事で、いいのかな? 僕、あんまりネーミングセンス無いってよく言われるんだけど」
「フカッフカッ」
「何か機嫌は良さそう……? とりあえず、これから宜しくね!」
「フカッ!」
何を考えているのかいまいち掴みづらいポケモンだが、何となく機嫌が良い事だけはわかった。元気に短い腕をひょいひょいと振り上げるサメまるのザラザラとしたサメ肌を撫でると、サメまるは嬉しそうに目を細める。
あの後、僕がモンスターボールをサメハダー改めてサメまるに見せると、サメまるは自分からその中に入っていった。見た目よりもずっと賢いようで、自分が置かれている状況を理解していたのかもしれない。サメまるが僕の所有になった事で野生に解き放たれる心配は無くなり、トレーナーであるテッセンさんが付き添いで居た事でなんとか治療を受けさせることが出来た。
現在は僕の母への説明を済ませた後、テッセンさんの推薦によって僕のトレーナー申請がホウエンのトレーナー協会に出され、その返信を待っているところだ。僕が10歳の成人を迎える頃にはトレーナーカード等、トレーナーとして活動するのに必要な諸々の道具が送られてくるだろうとの事。
トレーナーとしてサメまるを飼っていく上で、金銭的な問題に関しては自分の力でどうにかするとテッセンさんに言ったのだが、『若いんだから何もかもなんて出来るわけ無い』と一蹴されてしまった。落ち着いて考えてみれば全く彼の言う通りで、大人しく彼の支援を受ける事にしている。
「でも、何でサメまるは海を流れてたりなんてしたんでしょうか。見た目はサメハダーでも、まるで泳げないのに」
「ううむ………これはまだ憶測の段階でしか無いんじゃがなぁ」
サメまるを抱き抱え、膝の上に乗せた格好でテッセンさんの話を聞く。
彼の話によると、ホウエン地方ではまだ確認されていないが、シンオウ地方やジョウト地方で『孵化厳選』なる行為をするトレーナーが多発した時期があったらしい。
何でも雌雄のポケモンを狭い空間に閉じ込め、大量の卵を産ませる事によって意図的に強いポケモンを作り出していたとの事で、必要の無くなった産まれたばかりのポケモンがそのまま野生に逃がされたり、泳げないポケモンは凶暴なポケモンが多く生息する海へとばらまかれたりしていたそうだ。
勿論そんな行為がバレること無く長続きする筈も無く、孵化厳選を行っていたトレーナーは残らずお縄に。孵化厳選に協力していた育て屋等も次々と取り締まりが行われ、ポケモン協会とトレーナー協会の協力の元に『育て屋業界』の一新が行われた。現在では厳正な審査を通った育て屋のみが営業を許されるといった状態になっているとの事。
「つまり、サメまるは『孵化厳選』をしたトレーナーによって、ホウエンの海へと捨てられたポケモンだと言うことですか?」
「そうじゃ。特にサメハダーの多い外海はそうしたトレーナーにとっては持ってこいの場所だったのじゃろう。産まれたばかりで弱く、泳げないポケモンが凶暴なサメハダーから逃げられる筈が無い。捨てられたポケモンは皆食い荒らされ、捨てたという証拠すら残らんからな」
「そんな………トレーナーのする事じゃ無い!」
「強さを求める余り、道を誤るトレーナーがそれだけ多いと言う事じゃ。そうしたトレーナーに限って幼少からポケモンの知識が深く、『神童』やら『天才トレーナー』なんて呼ばれる事も多く有る」
「ポケモンについてそんなにも詳しいなら、ポケモンが嫌いな筈なんか無いのに。おかしいですよ」
「だが紛れも無い事実じゃ。逮捕したトレーナーが育った環境についても十分な調査が行われた。しかしどれも、悪環境どころか恵まれた産まれ、恵まれた環境ばかり。精神に歪みを産む原因なぞこれっぽっちも見つからなんだ」
正直な所、怒りよりも困惑の感情の方が大きかった。自分なんかよりも恵まれた環境で、きっと小さな頃からポケモンとふれ合ってきた事だろう。この歳になるまで全くと言っていいほどポケモンとの密なふれあいが無かった僕よりも、ずっとポケモンに対して深い愛を持っているはず。
それなのにどうして、ポケモンに対して余りにも一方的に心無い行為を行えるのか。ポケモンを好きだからトレーナーになったのでは無いのか。強いポケモンを作る?『ポケモンと共に強くなる』の間違いでは無いのか。
「どうして………」
「ァカ!」
「……サメまる?」
鳴き声がして、ふと下を向くとサメまるが此方をジッと見詰めていた。感情のいまいち掴みづらい、吸い込まれそうになる程に黒々とした瞳。
サメまるの身体をこちら側に向かせ、ぎゅっと抱き締めると、その小さな身体は暴れること無く大人しく収まった。
「頑張ったんだな、サメまる」
「フカ」
「本当に、生きてて良かったな」
「フカ!」
サメまるの小さな手が、僕の服をぎゅっと掴んだのを感じる。
始めて見たときはその凶暴そうな見た目から、僕は恐れを感じていた。でも、今はそんな感情は全く無い。腕の中にいるこの命は、間違いなく僕のトレーナー人生で唯一無二の相棒になるポケモンだ。
「テッセンさん。僕、サメまるを助けられて良かったです」
「ああ、そうじゃな。普通ならばこんな奇跡はまず起きない。お前さんとサメまるの出会いは、間違いなく運命だとも」
「あはは。『運命』だなんて、テッセンさんらしくないです」
「確かにそれもそうじゃな。いやー、生きてて良かった! わっはっはっは!」
「フカッカッカッカッ!」
「アハハ! サメまるテッセンさんの真似してる!」
兎に角、今はサメまるが元気になって本当に良かった。
「さて、そんじゃあサメまるが何のポケモンなのか調べないとな」
「多分ですけど、サメハダーじゃない上に『水タイプ』でも無さそうですね……」
「じゃが特性は多分『さめはだ』で、ヒレも生えとる。泳ぐって点に関しちゃ間違ってないと思うんじゃが」
「でも水は嫌い、と」
「空か、それとも砂地を泳ぐって所かのぅ。見たとこ飛びそうには無いし、やっぱり砂地を泳ぐポケモンなんじゃないか?」
サメまるを飼う事において、ずっとボールの中に入れておくわけにも行かない事から、サメまるがいったいどんな環境で暮らしていたポケモンなのか知る必要がある。テッセンさんが既にサメまるの姿をポケナビで撮り、ポケモン協会に問い合わせたのでじきに答えは得られるだろうが、それまでにサメまるの好みそうな環境を予想して整えておこうと言うことになった。
「割りと今も元気と言えば元気ですけどね」
暇になったからか、サメまるは先程からキンセツジムの電撃ゲートの下をコロコロと転がって行き来している。時折電撃ゲートの電撃に身体が触れているようなのだが、全く動じていない点を見るに『地面タイプ』は持っていそうな感じがする。
「アレは多分じゃが、ああいう性格をしているだけな気がするな。さっきワシの笑いかたを真似したりしていたし、『ようき』な性格をしているのやもしれんな」
「へぇ………凄いですねテッセンさん。僕なんかサメまるの感情がまるでわからないのに」
「馴れじゃよ馴れ。そもそもヒトとポケモンは別々の生き物なんじゃから、完全にわかりあう事なんて『カントーの生ける伝説』以外に出来るわけ無いじゃろ」
「チャンピオン『レッド』ですか。全く喋らないのに、完璧な指示出し。彼はもう人間の域を越えてますよ」
「お前さんと歳はほとんど変わらんのになぁ。全く才能は恐ろしいもんじゃ」
トレーナーとしてデビューして、一年も経たずにカントー地方のチャンピオンの座に登り詰めた史上最強と名高いポケモントレーナー『レッド』。当時カントー地方で暗躍していた悪の組織『ロケット団』を旅のついでにとばかりに壊滅させた彼は、カントー地方では『救世主』とも呼ばれているとか。
僕とも歳の近いトレーナーである彼だが、ホウエンからテレビで彼のジムバトルの様子を見た時からすっかりファンになってしまった。
ギャラドスの『ハイドロポンプ』に『だいもんじ』で打ち勝つ程にまで鍛えられたリザードン。
あらゆる攻撃をその巨体で無効化してしまうカビゴン。
凄まじい命中精度を誇る『ハイドロポンプ』で相手を近付けさせないカメックス。
規格外の威力を誇る『ハードプラント』でフィールドを支配するフシギバナ。
フリーザーもかくやと言う程の冷気で相手を氷の彫像に変えてしまうラプラス。
そして何より、種族の限界を突破したとしか思えないスピードとパワーで何倍もの大きさの相手を一方的に屠るピカチュウ。
一匹一匹が戦いの中で宝石のような輝きを放つその姿に、トレーナーとしての夢を諦めていた僕も思わず熱くなってテレビの前で叫んでしまったほどだった。
しかし彼は数ヶ月前に突如として姿を消し、カントーリーグ委員会はてんやわんやの大騒ぎに。結局彼は見つからず、前チャンピオンの『グリーン』もジムリーダーとしての仕事から離れる気はなく、更に前のチャンピオンである『ワタル』が代理としてリーグの頂点に経つことになった。
「彼ほどのトレーナーになれるとは思ってません。でも、彼のようなトレーナーになりたいです」
「ある意味トレーナーとしての理想像じゃからな………ま、対人関係には少々問題があるようじゃが」
「あれぐらいまで行けばあばたもえくぼですよ」
電撃ゲートにも飽きたのか、サメまるがよちよちと歩み寄ってくる。僕は寄ってきたサメまるを抱き上げて立ち上がった。
「さて、大体の予想はついたから、行ってみるかのぅ?」
「はい、行きましょう! サメまる、お前も良いか?」
「フカフカ」
サメまるは腕の中でその丸っこい身体を上下に動かし、肯定の意を示す。テッセンさんの方を見ると、いつの間にか『ゴーゴーゴーグル』を二つ持ってきていた。既に一つはバッチリ装着済みで、白い歯を見せてニカニカと笑っている。
「ワシもあの砂漠に行くのは久々じゃ。ワクワクして来るのぅ!」
僕の方は色々と手伝わせてしまって申し訳なく感じていたのだが、案外彼が一番この状況を楽しんでいるみたいだ。
時系列的には赤青緑主人公が殿堂入りを果たして、これから金銀主人公とルビサファエメラルド主人公が旅を始めるぐらいに考えてます。(そもそも公式でも時系列なんてぐちゃぐちゃでわかんないけど……)
ヒロインって要る?
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カガリ
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ヒガナ
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ルチア
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ダ イ ゴ さ ん
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(いら)ないです