サメハダー(?) を つりあげた!   作:青蛙

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サメまるとトレーナーカード

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

「アサナン、戦闘不能! 勝者『サメまる』!」

 

 キンセツジムのバトルフィールドにて、一つの勝負に決着が付けられた。

 

「アサナンっ!」

 

 サメまるのアイアンヘッドをモロに受けて気絶したアサナンに、オレンジのスポーツウェアを身に付けた少女が駆け寄る。

 

「サメまる!」

 

 一方のサメまるもアサナンの『はっけい』を幾度も受けてしまった事により無事とはいかず、アサナンが倒れた事を見届けるとすぐに倒れてしまった。

 カナタもバトルフィールドの中へと駆け込み、倒れたサメまるを抱き上げてモンスターボールの中へと戻す。

 

「あーあ、負けちゃった。今まではずっと私が勝ってたのに」

「マコトさん」

 

 サメまるをボールへと戻したカナタに、バトルガールの少女『マコト』が歩み寄り、手を伸ばす。カナタはその手を握り、立ち上がった。

 マコトは去年ポケモントレーナーとしてデビューしたばかりの、若手のトレーナーだ。出身はキンセツシティとも近い町『シダケタウン』で、今はキンセツジムでジムトレーナーとして働きながらテッセンにポケモンバトルを教わっている。持っているジムバッジは二つ。一年かけて二つのバッジを手に入れた彼女はトレーナーの中でも成功した部類であり、更にバッジを手に入れてポケモンリーグへの出場権を手に入れる為に日々他のジムトレーナー達と切磋琢磨している。

 カナタからすれば彼女は職場の後輩であり、トレーナーとしては先輩であるという複雑な関係だったが、同じくトレーナーとしてテッセンに師事する者として尊敬する相手だった。

 

「テッセンさんが注目するだけあって、カナタはホント成長するの早いね。嫉妬しちゃう」

「そんな事無いですよ。強いのはサメまるであって、僕はサメまるの長所を生かしきれてない。それにマコトさんとアサナンに勝ったのは今日が始めてじゃないですか」

「全くぅ~、自己評価低いなぁ。ま、カナタとのバトルはアタシも学ぶところ多いからさ、明日も宜しくね」

「はい、宜しくお願いします」

 

 カナタはそう言ってマコトに深く頭を下げた。そんなカナタにマコトは少し寂しそうな顔を向ける。

 カナタも成人して暫くすれば、きっとジムバッジを集める旅に出るだろう。キンセツジムに勤めてまだ間もない彼女とすぐに仲良くなれたのは、年齢の近いカナタだけだった。更にトレーナーとしても互いに高め合うことの出来る相手だっただけに、早い別れになってしまうのは寂しいところがあるのだろう。

 

 

 

 そんな二人を観客席から見守っていたテッセンだったが、カナタの様子に少しばかり不安を覚えていた。

 

「良く言えば『堅実』。悪く言えば『弱腰』かのぅ」

 

 二人で砂漠に行き、サメまるの住処を作ったあの日から、元より慎重だった彼の性格が輪をかけてひどくなったように感じる。

 

 まず、『げきりん』と言った決め手となる大技は使わなくなった。原因はサメまるの暴走にあるのだろうが、それにしても頑なに使わせようとしない。

 彼等の成長を見ている限り、現在のサメまるならば10秒間程度ならば『げきりん』をコントロール出来るぐらいには強くなっている。あとは彼自身がサメまるの力を信じて技を命じるだけで良いのだが、その一歩があまりにも大きい。

 近い世代のジムトレーナーと競わせれば何か変わるかと思ったが、そんな事は無かった。喜ぶべきなのかはわからないが、安定してコントロール出来る技を駆使して着実に相手を追い詰め行くバトルスタイルには、ポケモンリーグに挑戦するトレーナーにすら匹敵する才能を感じた。

 だが、ここぞと言う時の思い切りに欠けるようでは、ジムリーダーや四天王、チャンピオンに勝つことなど到底不可能。いや、一部のジムリーダーであればこの戦い方でも勝てるかもしれないが、限界が来るのは早くなるだろう。

 

「何処かで良い切っ掛けでもあれば良いのじゃが……」

 

 やはり旅をさせる事が必要だろうか。しかしキンセツからとなると中々に難しい。一番最初に挑戦するジムならば、やはりカナズミジムだろう。ジムリーダーの『ツツジ』の意向でトレーナーズスクールとも提携しているカナズミジムは、挑戦するだけでも勉強になる。万が一カナタが負けたとしても、新人トレーナーの育成をモットーとしている彼女ならば、負けた理由についても丁寧に説明してくれるだろう。何だかんだで向上心の強いカナタならば、そうした言葉も素直に受け入れて次に生かせるはず。

 しかしカナズミシティに行くにはシダケからのトンネルも開通していないし、カイナからでは『なみのり』が使えないカナタではムロを経由する事も出来ない。

 ハジツゲを経由して『りゅうせいの滝』を通り抜けるルートも有るには有るが、出現するポケモンの強さも相まって勧められるルートでは無い。キンセツのカナタと同世代のトレーナー達は既に何人かがハジツゲからのルートでカナズミへと向かったようだが、それは幼い頃からポケモンを鍛え続けた彼等だからこそ出来る芸当だ。カナタも短期間で彼等に匹敵する腕を身に付けたが、慣れないバトルからその不安定さは無視できない。行ったとしても、精々ハジツゲ前で旅のトレーナーの腕試しをしているホウエントレーナー協会所属のエリートトレーナーが居る地点まで。

 

「ふむ……ちと協力を頼むとするかの」

 

 自身もトレーナーとして駆け出しだった若い頃は、こうして多くの大人の世話になりながら旅をしたものだ。

 ポケナビを取り出し、古い友人の連絡先を呼び出す。度々連絡を取っているとはいえ、彼も既に引退した身。協力してくれるかはわからないが、将来ホウエンを引っ張っていくトレーナーの一人になるかもしれない少年の旅を少しでも助けられたらと、目を閉じて願った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カナタ、例の物が届いたぞ」

「テッセンさん!」

 

 マコト先輩と二人でバトル内容の反省をしていた所に、テッセンさんが茶色い封筒とダンボールを持って現れた。

 ダンボールにプリントされたロゴは、ホウエンのトレーナー協会のもの。つまり、

 

「前にトレーナー申請を出したじゃろ。アレの荷物が届いとった」

「トレーナーカードですね! でも、カードだけにしてはダンボールって大きくないですか……?」

「それは開けてからのお楽しみじゃよ。ホレ」

 

 渡されたダンボール箱をベンチの上に置き、ガムテープを剥がして開封する。箱を開くと、中から丁寧にトレーナーカードが入れられたクリアケースと、如何にも手作りといったような赤い箱が出てきた。

 

「トレーナーカードだ! おめでとうカナタ!これでカナタも大人の仲間入りだね」

「えへへ、ありがとうマコトさん。僕も、ついに大人かぁ」

 

 トレーナーカードには僕の顔写真がしっかりと印刷されており、トレーナーカードが入っていたクリアケースには、更にジムバッジを入れておくためのバッジケースも入っていた。

 

「凄い……! これにジムバッジが」

「ジムリーダーに勝てるかなぁ~?」

「か、勝てますよ! 勝ちます!」

「アハハ、その意気だよ。結構負けたりもするかもだけど、めげないで挑戦し続けるのが大事だからね」

 

 そう言って僕の背中をべしべしと叩いてくる彼女に思わず目頭が熱くなるのを感じる。本当にポケモントレーナーになれたのだと実感した。

 テッセンさんからサメまるを飼うのにあたってポケモンフードや巣作り、ヒーターなどと多くの支援を受けながらトレーナーになるための準備をしてきた。トレーナーとして出遅れた僕が同世代のトレーナー達に追い付く為にジムトレーナーの先輩方も協力してくれて、強い技を持っていながら野生のポケモンにまともにダメージを与えられてすらいなかったサメまるも強く成長してきている。

 

「それで、この赤い箱じゃが……」

「これは……」

 

 箱を開くと、赤く彩られた真新しい機械が入っていた。見た目は少しポケナビに似ているようにも見える。機械だらけのテッセンさんのジムでも、こんなものは見たことが無い。

 

「何だコレ?」

「何ですか、これ?」

 

 マコト先輩も知らないようで、二人揃って首をかしげていると、テッセンさんが説明してくれた。

 

「こいつは『ポケモン図鑑』じゃよ」

「『ポケモン図鑑』? でも、ポケナビからインターネットに繋げばいつでもホウエンのポケモン図鑑が見れるじゃないですか」

「いやいや、コイツはそんなものじゃ無い。コイツのカメラをポケモンに向けるだけでポケモンの生態や特徴について自動で記録してくれる、画期的なものなんじゃ。まあ、今のところは一匹もポケモンは登録されとらんし、登録出来るポケモンもホウエンのポケモンに限るそうじゃがな」

「へぇ。でも、そんなものいったい誰が? トレーナー協会から送られてくる物の中にはこんな物無かったと思うのですが」

「お前さんがワシの弟子だと聞いて、ミシロタウンのオダマキ博士が送ってきたんじゃよ。ポケモン図鑑の完成に協力して欲しいとな」

 

 それを聞いて、手のひらにすっぽりと収まっていたポケモン図鑑を見る。

 ポケモン図鑑の完成。そんな大役を僕のような半人前のポケモントレーナーに任せて良いものなのだろうか。

 

「まあそう気負わん方がいい。何もお前さんだけに頼んどる訳でも無かろう」

「そ、そうですよね。一人でホウエンのポケモン全てと出会うなんて、それこそチャンピオンぐらいのトレーナーじゃないと」

「むしろ本題はこれからじゃ」

「えっ?」

 

 テッセンさんから茶色い封筒を渡される。中のものを見るように促され、恐る恐る封を切って中の紙を取り出した。

 紙にはサメまると同じ見た目をしたポケモンの写真がプリントされており、その種族名、生態や進化後の姿が記述されている。そしてもう一枚。『緊急時の連絡先』と書かれた紙が入っており、そこにはトレーナー協会傘下のポケモンレンジャーへの連絡番号が書かれていた。

 

「『フカマル』、りくざめポケモン。シンオウ、カロス、アローラでの生息が確認されている。非常に強力かつ狂暴性の高いポケモン『ガブリアス』の幼体である為に全国ポケモン協会の『特定危険ポケモン』に登録されており、生息地域外にて発見された場合はただちに国際警察及びレンジャーの派遣が要請される………」

「ワシがサメまるの写真を送った事で向こうはとんでもない騒ぎになったようじゃ。お陰でサメまる達を海に捨てた犯人の捜索が始まったのは良かったんじゃが、どうも国際警察の方がお前さんと一度会いたいらしい」

 

 強いとは思っていたが、まさかそんなに危険なポケモンだとは思ってもいなかった。凶暴なサメハダーと見た目が似ているとは思っていたが、サメまるは野生のサメハダーとは似ても似つかない程に優しく、素直だ。そんなサメまるが、まさか将来エリートトレーナーでさえ手が付けられなくなるような狂暴なポケモンへと進化するとは思えなかった。

 

「ガブリアス……何処かで見たことがあるとは思っておったが、まさかシンオウチャンピオンのエースの進化前だとは思わんかったわい」

「………僕に、サメまるのトレーナーが務まるでしょうか」

 

 今は、僕はサメまるの事を信頼しているし、サメまるも僕を信じて従ってくれている。しかし、いずれサメまるが進化して、僕をトレーナーとして認めなくなったとしたら。

 サメまるの入ったモンスターボールを取り出してジッと見つめる僕に、テッセンさんは柔らかな表情で語りかけてくる。

 

「カナタ。不安はあるじゃろう。じゃが、まずはいつも通り自分のポケモンを信頼する事じゃ。強力なポケモンを従えるチャンピオンとて人間。ポケモンとは肉体的な強さで大きく劣るじゃろう。じゃがな、強さよりも互いを信じ合える『友』である事が何よりも重要なのじゃよ」

 

 強いポケモントレーナーの中には『精神論なんて馬鹿馬鹿しい。ポケモンとの信頼よりも兎に角厳しく、鍛え続ける事が重要だ』と説く者も多い。昔は、強くなるためには信頼関係を築くのでは不十分なのかとその話を真に受けた事もあったが、実際に強いトレーナーというものを目にするとポケモンとの信頼関係がどれほど強いものなのか思い知らされる。

 故に歴戦のトレーナーであるテッセンさんの言葉は、砂場に落とされた『くろいてっきゅう』のようにストンと、真っ直ぐに僕の心に落ちてきて、自然と収まった。

 

 焦るよりも、不安になるよりも、今の僕とサメまるの良い関係を続けて行く事がサメまるにとっても良いことなのだ。危険なポケモンだからってそれがどうした。ピカチュウだって野生のものは警戒心が強く、縄張りに入った人間を襲うことはよく有ると言うのだから。ガブなんたらもピカチュウも、きっと大して変わりはしない。

 

「でも、『サメまる』って名前はまずかったかな」

 

 再び紙に目を落とすと、流線的な姿をした二体のポケモンが目に入る。

 フカマルの進化後のポケモン、『ガバイト』と『ガブリアス』。どちらも僕が想像していたような『丸い』ポケモンでは無かった。

 『サメまる』という名前でこの『ガブリアス』が出てきたら、相手から見たらちょっとしたギャグみたいになるんじゃないかと、少しだけ後悔した。

 

 

 

 




今回出てきた『特定危険ポケモン』というのは、やっぱりボーマンダとかバンギラスみたいなポケモンが本来の生息地の外に出てきたら危険だなっていう考えからのオリジナル設定です。

あとジムトレーナーのマコトは実際にゲーム内で登場するモブトレです。キンセツジムの中でバトルになり、電気タイプのジムなのに何故か『アサナン』一体だけを繰り出してきます。


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