罅割れた夢   作:島ハブ

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第11話

 

 

 

 

 

 取り調べに手間取っていた。というより、タカギにその役を回すことに手間取っているのだ。

 二度の化石強奪事件で、ニビ警察がまともに出動すらできなかったことが先日の朝刊に大々的に載った。即日の記者会見では、警官の命を守るための慎重さを強調したことで一時追及は治まったが、結果として年端もいかぬ少年が矢面に立たされたことが報道されると、批判は益々の勢いをもって再燃した。

 レッドのことを新聞社に密告(タレコ)んだのはタカギだった。具体的な特徴など伝えなくとも、少年というだけで新聞社は沸き立ったようだ。裏取りも、ニビ自警団で簡単に取れる。

 あとは、課長がどれだけ圧力を掛けられるかだった。管轄内で逮捕された犯人への取り調べを自分達の手で行いたいのは、当然のことだ。多少の圧力ならなんとしてでも抗うだろうが、これだけ世論を敵に回した状態で圧力をはねのけ続けるのは苦しい筈だ。

 毎日、ニビ警察署へ顔を出した。名目としては、自ら逮捕した容疑者の経過が気になる、という訳だ。どれだけ苦々しい視線を向けられても、タカギは平然とベンチに腰を降ろした。今のところ、他にやることはなかった。

 一度だけ、トキワに行った。サカキという男に会うためだ。

 明るい男だった。小難しい講釈を聴かせて、若い警察官を揶揄ったりもする。それでも、ふと暗い影を纏う瞬間がタカギには感じられた。そして、影を背負ったサカキの姿は、明るく弁舌を振るう姿よりもずっと強く印象に残った。

 惹き付けてくるものがある。それは、全く正反対の筈のレッドにどこか似ていた。

 憂鬱な気分になった。好ましい人物に手錠を掛けたことが、何度かある。いつも、隣人を絞首台に送るような、胃の裏返るような不快感があったものだ。

 階段から刑事が降りてきた。憔悴していて、タカギを見つけると露骨に顔を背けた。取り調べの機会はそう遠くなさそうだ。

 ニビ警察署を出て、町を歩いた。昼食時をいくらか過ぎている。町は閑散としていて、草葉から照り返す日差しが瑞々しかった。ここ数日通っていた定食屋の前で、タカギは顔をしかめた。定休など気にもしていなかったのだ。特別旨い訳でもないが、夜まで続けて営業していて、そのまま喫茶店のように使える店だった。

 当てもなく歩き出した。人通りが段々と増え、建造物には背の高いビルもちらほらと見えてきた。ニビの繁華街で、余所者のタカギでもあまり目立たなくなる。

 尾行(つけ)られていると確信したのは、飲食店の集まった区画を二周した時だった。それも、敢えて知らせてきた、という感じだった。

 ロケット団なのか。しかし、今ここでタカギを消すことに大きな意味はない筈だ。

 通りを逸れて右へ曲がった。路地裏。さりげなく、腰元のモンスターボールを確認する。開閉スイッチの向きだけははっきりさせておかなければならない。

 五歩。それから前方に跳びつつ、タカギは振り向き様にボールを構えた。男。臨戦態勢のタカギを見ても、悠然と笑みを浮かべている。その顔を確認してから、タカギはボールを腰に戻した。ポケモンで勝負をして勝てる相手ではなかったのだ。

 

「クチバジムは社会活動を免除されているというのは本当らしいな。ジムリーダーが、こんなところにいるようでは」

 

「どのジムだってあくまで目標を課せられているだけさ。馬鹿正直に取り組む連中の気が知れねえぜ。そっちこそ、警察ってのは税金貰って散歩する組織なのかい?老いぼれ犬さんよ」

 

 マチスは、皮肉げな笑みを浮かべて言った。

 

「テレビなんかじゃ片言だった気がするがね」

 

「ちょっとしたサービスさ。臆病者が多くてな。もっとも、軍人上がりをその程度の愛嬌で受け入れちまう危機感のなさは笑えるがな」

 

「終戦は遥か昔だ」

 

「俺はそうじゃねえ。世界ってのはいつだって戦争をやっている。勝ち目もねえ戦をしたがる馬鹿はうようよしているさ」

 

 マチスは一度言葉を切って、タカギの顔を伺った。

 

「この国にも、そんな馬鹿がいる。わかるか、老いぼれ犬?」

 

「何が言いたいのかよくわからんな」

 

「わかってる筈さ」

 

「言い直そう。私に何を言わせたいのかが、よくわからんよ」

 

「目星は付けてるんだろう?ロケット団の正体ってやつによ。それを教えろってことさ」

 

 タカギは腕を組んで、それからゴロワーズを取り出した。オイル式ライター。ニビに来てからは一度も手入れしておらず、着火には時間がかかる。

 ロケット団の捜査命令については、どこから出たものなのかある程度予測はしていた。マチスが来たことで、それはますますはっきりとした。しかし、軍籍を離れたマチスがやってくるというところは、どこか引っ掛かった。

 現役と比べても実力では頭抜けているだろう。それでも、あくまで退役した身であり、ジムリーダーという歴とした立場を得ている人間でもある。公に動かすことは同盟軍も避けたい筈だ。

 ロケット団は、それほどの危機感を同盟軍に抱かせているのか。山吹組を一晩で押し潰したのは秀逸な出来事だったが、それもあくまでヤクザ同士の抗争という形だった。軍隊の前では子供の喧嘩のようなものだ。

 火が点いた。ゴロワーズを咥え、一度煙を吐き出した。

 

「精強な武力を持った窃盗集団。そんなところかな」

 

「本気で言ってる訳じゃあねえだろ」

 

「反同盟軍的な意味を持っているかもしれない、と思っているよ。お陰様でね」

 

「そんなことはどうでもいい。ボスは誰なのか、ってことさ」

 

 消すつもりなのかもしれない、とタカギは咄嗟に思った。反同盟軍の気運が、国内で潰えている訳ではないのだ。事を荒立てて糾合されるぐらいなら、首領を消す方が手間は少ないだろう。

 

「連中の手口は巧妙でね。確かなことは何も言えん」

 

「推測でもいいぜ」

 

「私の主義に反するな」

 

「どうも、履き違えているようだな。俺は言えと言ったんだぜ、老いぼれ犬」

 

「言えん、と言ったよ、私は」

 

言葉が途切れた。日は、いつの間にか傾き始めている。それがちょうどビルとビルの間に来て、タカギとマチスの影をずんぐりと揺らめかせた。表情を消していたマチスが、にやりと笑った。

 

「骨無しではないみたいだな。大したもんさ」

 

「やり口が随分荒いようだな、マチス」

 

「南方の戦線じゃこんなもの挨拶代わりだったぜ。俺は、二十歳から従軍していた。退役前には、勲章をいくつもぶら下げていた」

 

「英雄という訳だ」

 

「人殺し、と言っているように聞こえたぜ。気に食わねえな、その言い方」

 

「私も、老いぼれ犬と呼ばれることが好きではなくてね」

 

「ま、いいさ。ボスが判明したらいつでも連絡してくれ。特別に、深夜でも受け付けてやるよ」

 

「言えることはなにもない」

 

「そう言うな。明日には、取り調べの許可も下りるさ」

 

 事も無げにそう言って、マチスは路地裏を出て行った。タカギはゴロワーズが燃え尽きるのを待ってから、その場を後にした。

 マチスの発言については、深く考えなかった。同盟軍がその気になれば、取り調べの許可ぐらいは簡単なものだろう。同盟軍が直接行うのは難しいだろうが、逮捕の当事者であるタカギならば、ニビ警察も面目が立つ。

 同盟軍がなぜそれほどにロケット団を警戒しているのか。

 歩きながらいくら考えても、答えはでなかった。ホテルの自動ドアを潜る。受付が一礼して、鍵を差し出した。

 

「タカギ様に、お電話がありました。不在をお伝えしたところ、タカギ様の方から折り返して欲しいと」

 

「誰だね?」

 

「キョウ様と名乗っておられました」

 

 キョウからの電話。不意に、タカギの頭の中に思考が走った。なにかが、繋がりかけている。

 部屋に戻ると、コートも脱がずに受話器を取った。外線をダイヤルする。キョウがどこを拠点に動いているのか、タカギは知らなかった。電話番号だけを教えられていて、そこにかければ必ずキョウに繋がるのだ。

 待った。その間も、思考はもどかしげに揺れている。

 

「戻ったか。報告がある。良いとも悪いとも、私には見えないがね」

 

 キョウの声。頭の中で、はっきりと物事が繋がった。

 

「恐らく、資金ルートだろうと思える道を見つけた。表面上の額は小さいが、途中で別の資金が合流している節がある。様々な資金の動きは撹乱だと思っていたが、違うな。罅から水が零れるように、少しずつ逸れて本命のルートと合流しているんだ。行き先は」

 

「クチバ、かね」

 

「わかっていたのか?」

 

「いや。そうかも知れない、という気がした」

 

「大した嗅覚だ。しかし、問題はそれだけではないんだ」

 

「わかっている。同盟軍だな」

 

「そこまでわかっているなら、私の説明は必要ないかな?」

 

「推測でしかないさ。聞かせてくれ」

 

「港湾に出入りしている業者のいずれか、だろうな。それも、同盟軍と関わりのある業者だ」

 

「どこまで潜り込んでいると思う?」

 

「下士官程度で転がせる金額じゃない。かといって、あまり上を抱き込むのはいくらなんでも無茶だ。参謀部のどこか、といったところか」

 

「他国のマフィア組織の資金洗浄に使われていた。それも、参謀クラスが。スキャンダルどころの騒ぎではないな。本国の方では海外派兵に反対する派閥も根強いらしい」

 

「平静を装っているが、同盟軍内部はぶち切れているだろう。しかし事が事だ。大手を振って内部捜査をする訳にもいくまい」

 

「資金ルートの絞り込みはできるか?」

 

「ふたご島で寒中水泳するようなものだ、それは。飛び込んだ瞬間に身動きも取れなくなるさ。今のクチバで動き回るのは遠慮したい」

 

「出口は?」

 

「それこそ無理だ。一度基地内に入ってしまえば、どれがどの金かなど見分けられる筈もない」

 

 タカギは、電話機を持ち上げてベッドに置き、自身も腰を降ろした。

 資金ルートは行き詰まった、とみるしかなかった。同盟軍の中に入り込んでいる以上、この国の役人で手を出せる訳はない。

 

「明日、取り調べをする。こちらまで来れないかね?」

 

「ほう、許可が下りたのか。もう少しかかると見ていたのだが」

 

「事情がある。それについては来てから話そう」

 

「一室、取っておいてくれ。夜には着く」

 

 通話を切る。疲労していた。横にもならないまま、タカギは目蓋を閉じた。どれほどそうしていたのか、よくわからなかった。眠ってはいない。しかし、再び目を開いた時には、窓から夕焼けが射し込んでいた。

 ボールが揺れている。草タイプのポケモンの多くが、日光浴を好むのだ。

 苦笑して、窓際にウツボットを出した。葉をうんと広げる姿を見ながら、タカギはフロントに電話をかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 それなりに勾留されている筈だが、クリードの表情に堪えたような色はなかった。タカギを見上げてくる視線には、ふてぶてしさが隠れもせずに出ている。

 

「前口上は要るかね?」

 

「いいのかよ、おい。隣室にはニビの警官が控えてんだろう?」

 

「あいにく、身内だ」

 

「老いぼれ犬の身内っていうと、タマムシの警察ってことか」

 

「私のことは知っているようだな」

 

「昨日まで取り調べしてたおっさんが教えてくれたぜ。お前を逮捕した陰気なジジイが老いぼれ犬だってな」

 

 昨日、タカギから目を逸らした刑事だろう。良く思われている訳もなかったが、随分な言い草をされたものだ。

 

「煙草、やるかね?」

 

 タカギが市販の煙草を差し出すと、流石に怪訝そうな表情をした。

 

「喫わないなら構わんが」

 

「高くつきそうだな」

 

「煙草屋をやろうとは思わんよ」

 

「なら、一本貰うか」

 

 クリードが箱から煙草を抜き出す。タカギはライターを差し出した。昨日手入れをしたばかりで、着火の調子はいい。

 タカギもゴロワーズに火を点けた。

 威圧したり、長時間拘束することで口を緩めるようなタイプではなかった。仲間を庇ってレッドに立ち向かってきた男だ。

 ニビ警察は、あと少しで口を割らせられたと言っていた。クリードが、会話に応じるからだろう。黙秘していないというだけで手応えを感じる刑事も、少なくはない。ただ、タカギの見る限り、何日にも及んだニビ警察の取り調べは何の痛痒も与えていなそうだった。

 

「名前の由来は、何かね?」

 

「あん?」

 

「君の、クリードという名前だ」

 

「なんだよそりゃ」

 

「お袋さんとも、ホウエンにいる親父さんとも似てない名前じゃないか」

 

 クリードの表情が一瞬強張った。ただ、すぐにふてぶてしさを取り戻している。

 

「流石に老いぼれ犬、って訳か。ニビの田舎警察どもは、化石をどこに運んだかってがなりたてるだけだったが」

 

「私はタマムシの人間でね。化石の行方には、正直なところ興味がない」

 

「親子の縁は切ってあるぜ。由来なんざ、訊いたことがねえな」

 

「切ろうと思って切れるものでもないだろう。書類を出したところで、情は残る」

 

「書類の上だろうがなんだろうが、切れちまってるんだからしょうがねえ。情ってほどもねえな」

 

「大切にした方がいいぞ。私の父は随分前に死んだよ」

 

「勘弁しろよ。お涙頂戴なんて聞きたくねえぜ」

 

「言いたくもないさ。ただ、人は死ぬ」

 

「何の脅しだよそりゃあ」

 

「ロケット団のボスは、殺されるぞ」

 

 クリードは、反射的になにか言い返そうとしたようだった。その前に、タカギが言葉を被せた。

 

「同盟軍が動いてる。連中は、ボスを暗殺することで全てを消し去っちまうつもりだ」

 

「何を言ってる」

 

「ただ、事実を言っているのさ。お前らのボスは大したタマだよ。同盟軍をコケにするようなやり方で金を洗っていた。それがそのまま、同盟軍の弱味を掴むことにもなった。だから消される。それだけの話だ。そして、同盟軍に顎先で使われているのが私という訳だ」

 

「意味がわからねえな」

 

 素っ気なく言いながらも、クリードは考えているようだった。ふてぶてしさは消えている。

 

「わからない筈はない」

 

「俺をどうしたいんだ、あんた」

 

「私がやりたいのは、ロケット団のボスを捕まえることさ。それがそのまま、同盟軍に対する意趣返しにもなる」

 

「俺に得はねえな」

 

「ボスの命が助かる。証言が欲しいという人間がいくらでもいるだろう。全力で守ってくれるさ」

 

「そういうことか」

 

「ロケット団の拠点はどこにある?」

 

 クリードが腕を組んだ。しばらくして、くつくつと笑い始める。

 

「笑えるところがあったかね」

 

「いや、いい話さ。筋も通ってる。嘘じゃないという気がするぜ」

 

「なら、なぜ笑う?」

 

「前提が違うのさ。ボスは殺せねえよ」

 

「同盟軍だぞ」

 

「なんでもさ。腕っぷしでボスをどうにかなんてできねえ。できる訳がねえ」

 

 虚勢を張っているようではなかった。当然のこととして、クリードはそう思っているのだろう。

 

「それほどかね」

 

「わかるまいよ。会ったこともねえ奴にはな」

 

「ボスは誰だ?」

 

「知らねえ。嘘じゃねえぜ」

 

 嘘ではない、とタカギは判断した。本当に素性も知らないまま、信頼を置いているのだ。

 タカギはちょっと窓を見た。憂鬱というほどのことはない。そう思いながら、意識して口を閉じた。鼻唄をやってしまうような気がしたのだ。

 

「ズバットというポケモンは、随分と神経質らしいね。明かりの点いた部屋に放置されたりするとすぐ参ってしまうらしい」

 

 クリードは一瞬、何を言われているのか理解できないようだった。それから、眼を怒らせながら顔を真っ赤にした。

 

「どういう意味だ、おい?」

 

「言葉の通りだ。それ以上でも、それ以下でもない」

 

「ふざけるなよ」

 

「何日かすると拒食が始まるそうだ。それから飛べなくなる。一度飛べなくなると、本来の環境に戻しても元通り飛べる個体の方が少ないらしい。そのまま衰弱して、死んでしまう例も少なくない」

 

 クリードが机に拳を打ち付けた。手錠がじゃらじゃらと音を立てる。しかし、殴りかかってくるような真似はせず、ただ俯いていた。タカギは立ち上がって、飛び散った煙草の吸殻を拾いあげると、灰皿に捨てた。再び、パイプ椅子に腰を降ろして腕を組んだ。目を閉じる。

 待った。互いに、微動だにしなかった。クリードの拳だけが、時折強く震える。無音の時間が、長く続いた。

 

「許されるのかよ、こんなやり方が」

 

 やっと絞り出したような声で、クリードが言った。

 

「わからんよ。わかった時には、全て手遅れになっているだろう」

 

「仲間は、売れねえ」

 

「調書は録らん」

 

 クリードが顔を挙げた。

 

「隣室に控えているのは、信用できる者だよ」

 

「どういうことだ?」

 

「言ったろう、意趣返しをすると。下手に報告をあげると、同盟軍に漏れてしまいかねんからな」

 

「本気で、ボスを逮捕する気なのか?」

 

「そう言っている。方法はわからんがね。少なくとも、お前の証言で令状が出ることはない」

 

 落とし所は、この辺りだろう。調書にサインさせるには、死にかけたズバットを連れて来るぐらいはしなければならない。できることではなかった。

 

「他の団員のことも訊かない。拠点の場所だけでいいぞ」

 

 クリードが再び俯いた。今度の沈黙は、長くは続かなかった。

 

「タマムシだ」

 

 消え入りそうな声だった。タカギは目を見開いた。

 

「なんだって?」

 

「アジトは、タマムシにある」

 

「お前達は、三年前に山吹組とやりあっただろう?縄張りを争っていたんじゃないのか?」

 

「なぜ山吹組と抗争になったのかは、知らねえ」

 

 警察では、ヤマブキに拠点があるという見方が強かった。しかし、具体的な証拠はない。当然の帰結として、ヤマブキにあるだろうと思われていたのだ。組対も三課も、その認識は一致していた。

 資金源と思われるゲームコーナーから、金が流れていく。つまり、タマムシからだ。それがまた、タマムシに戻ってくるということがあるのか。

 ない、とはいえなかった。同盟軍の中を使って資金洗浄をしようという組織だ。しかし、それならば山吹組は、ただ警察や世間の目を眩ますためだけに潰されたことになる。

 カントー最大の暴力団は伊達ではない。それを撹乱のためだけに潰すなど想像できるものではなかった。

 タカギはいくつか質問を続けた。クリードは言葉少なに、拠点の場所に関することだけ答えた。

 タカギが腰をあげた時、ようやくクリードも顔を持ち上げた。口元には、自嘲的な笑みが浮かんでいる。

 

「やっぱ、駄目だな俺は。学がねえし気が短けえ。真っ当な世界じゃやっていけねえと思ってこっちに来たが、やっぱ駄目だ」

 

 言葉はかけなかった。扉を出ると、一人の警官がいた。見覚えのない顔だ。連れだって、タカギは歩き出した。

 

「先に言っておくが、軽蔑したりはしていない」

 

 警官が言った。姿がまるっきり違っても、声はキョウのままだった。

 

「ポケモンを盾に脅す。非人道的なやり方だ。取り繕おうとは思わんよ」

 

 キョウは答えなかった。取り調べを終えたことを告げ、ニビ警察署を出た。キョウは、いつの間にか普段通りの姿に戻っていた。

 

「ジョウトのウツギという博士が発見をしてね」

 

 唐突に、キョウが切り出した。

 

「クロバットというポケモンは、ゴルバットの進化形だと思われていた。しかし、条件がわからなかったんだ。レベルとも、進化の石とも違った」

 

 タカギは、キョウのゴルバットを思い出した。レベルという点では、極まっているポケモンだろう。

 

「なつき度、だと言うのさ。ゴルバットが真にトレーナーに心を許せば、進化するのだと。まだあまり知られていないが、そのうち世間にも広まっていくだろう」

 

 キョウは、飄々とそう言った。

 残酷な発見をするものだ。タカギは素直にそう思った。人とポケモンの信頼を、そこまで白日に晒してしまうのか。

 

「密猟者との戦いを、私は悔いていない。それだけ苦しい戦いだった。卑怯なことをいくらでもしたし、されたさ」

 

 にやりとキョウが笑って、一軒の屋台を指差した。

 

「飯でも食おう」

 

 頷いて、タカギは暖簾を潜った。

 

 

 

 

 

 






もう少し早く投稿したかったのですが遅れてしまいました。待っていてくださった方に申し訳ない気持ちです
また、1月から3月にかけて職場が繁忙期に入るので再びペースが遅れるかもしれません。できる限り頑張ります
話自体は折り返しも過ぎているので、エタることはないと思います。気長にお付き合いくだされば幸いです
今年一年ありがとうございました。来年もよろしくお願いします。よいお年を
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