罅割れた夢   作:島ハブ

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第19話

 

 

 

 

 

 それらしきものが、どこにもなかった。

 下の階を探索していた団員達は、見落としを疑って二周目に入っている。ネットワーク上のことはフミツキにはわからなかったが、行き交う団員の顔を見るにそちらも芳しくはないようだ。

 

「隊長、駄目です。上階も見つかってはいません」

 

「手がかりは?」

 

「研究室や開発メンバーについてはデータがあったようなのですが、設計図はどこにも」

 

「わかりました。警戒に当たっている人員も半数を探索に割いてください」

 

「まさかとは思いますが」

 

 言いかけた団員が、周囲を窺って口をつぐんだ。

 何を言おうとしたのかはよくわかった。マスターボールの情報が誤りであった可能性を考えたのだろう。

 フミツキの知る限り、サカキとゲームコーナーの店長は図抜けた切れ者だった。この二人が揃って存在を信じたのだから、マスターボールの実在についてフミツキは疑っていなかった。それに厳重なセキュリティが掛けられ、強引に奪えば自壊するだろうという予測についてもだ。

 そして、開発に成功した以上設計図も存在する筈だ。商業的な話ではなく、研究者の性がそうさせるだろう。研究者という人種が持つ情熱が半ば狂気的なものであることを、フミツキはオツキミ山で嫌というほど思い知った。

 

「私達にできることは探索を続けることと、外部からの横槍を跳ね除けることだけですよ」

 

 フミツキの言葉に団員がはっきりと表情を固くした。

 オツキミ山でフミツキが率いていたうちの一人だ。レッドに敗北したフミツキを、安全な場所まで退避させてくれた団員の一人でもある。

 ゲートを担当していた班がなぜか子供を一人通したこと、その子供が赤い帽子の少年だったことは既に連絡を受けていた。なぜ、ということは考えなかった。そういう縁だった、と思うだけだ。

 トレーナー同士の才能だけを比べれば勝負にもならないだろう。それだけのものを、フミツキはオツキミ山で見た。絶望したといってもいい。

 立ち向かうべき相手が悪い。サカキはそう言っていた。逃げて当然だ、とも言った。逃げろとは言わなかった。それがフミツキを思ってのことなのか、サンドパンのためなのかはわからない。それでもこの、否定されて当然の戦いを肯定してくれたのだ。

 

「隊長、俺達にできることは?」

 

「できることと言っても」

 

「なんでもいいんです。囮になれって言われりゃなります。ピッピ人形でも投げながら」

 

 ちょっと冗談めかしながら団員が笑って、それからフミツキを見つめた。退きそうな気配はない。

 

「それでは、相手を誘導して貰って構いませんか?できれば五階の広い通路で戦いたいのですが」

 

「命に代えても」

 

「そこまでは頼みません。とにかく、探索班を避けながら誘導してもらえれば充分です」

 

「わかりました。二階辺りで待機します」

 

 団員が駆け出していく。その背を見送ってから、フミツキはサンドパンを出した。

 爪の先、頭、背の棘、お腹、脚と順番に観察し、それから触診していく。表面上の傷だけでなく疲労などまで考慮しながらだ。メディカルマシーンは傷を癒すが、傷付いた時の感触や違和感まで拭いさってくれるような万能機器ではない。

 爪の内側に凝りがあったのでピーピーエイドを塗った。同じ技を使い続ければ当然その箇所に疲労が溜まり、凝り固まっていく。それを解す薬品だ。トキワジムでは、ジムトレーナー全員がこういった回復薬を複数常備していた。そういった環境で特訓を積めたことは、フミツキにとって幸せなことだった。

 一通り終えてから、サンドパンを仕舞い階段を降った。七階である。一段一段、ゆっくりと降りていった。静まり返った中で壁に足音が反響した。

 捜索を担当している団員がフミツキを見て軽く会釈した。五階だった。行き交っていく団員達を見送りながら、フミツキは大きい通路の真ん中を歩いていった。外は真夏日といってよかったが、シルフ内には冷房が効いていた。サンドパンを出し、躰を小刻みに擦る。寒さに強い種族ではないのだ。

 されるがままのサンドパンの爪を握り、フミツキは自身の頬へと当てた。最初の数秒には冷気が漂ったが、その後からサンドパンの体温がじんわりと広がってきた。サンドパンが目を閉じている。フミツキは額を合わせた。

 階下が騒がしかった。叫びと、技の余波が壁を押し拡げる音。ポケモンが自由に過ごせるように作られたシルフカンパニーの建物をもってしてなお、その音は低い唸りを響かせながら近付いて来ていた。フミツキはまだ目を閉じ、サンドパンと額を合わせていた。

 行き交う足音が激しくなった。目を開き、立ち上がった。

 

「隊長さん、こんなところに。今、下が大変なことになってて」

 

「わかっています。私の」

 

 言葉が途切れた。重い言葉だ。しかし、背負ってしまったものだった。

 

「私の部下が、こちらに誘導してくる手筈になっています。五階にいる他の団員達は退避をお願いします」

 

「わかりましたっ」

 

 団員が大声で退避を叫びながら走っていく。人の気配が段々と遠ざかっていく。入れ替わるようにして、数人の男達が近付いてきた。

 

「隊長」

 

「みなさん」

 

 フミツキの隊の団員だった。服はところどころ破れ、壁にでも擦ったのか白く汚れていた。ポケモン達も瀕死に陥っているようだ。疲労困憊なのか、壁に躰を預ける者もいる。

 

「あの少年は?」

 

「もうすぐ来ると思います。二階で暴れまくってましたよ。横からバトルを吹っ掛けて逃げながらなんとかここまで来ようと思ってたんですが、四階で捕捉されちまって。階段手前までは来てたんでそのまま上がってくる筈です」

 

「ありがとうございます。みなさんは上階に退避を」

 

「冗談よしてくださいよ。ここにいます。何のお役にも立てませんがね」

 

 一人がそう言って笑った。他の団員も同調するように頷いた。フミツキはわざとらしく肩を竦め頷きを返すと、後方を指した。流石に団員達も従い、大人しく後方に待機した。

 フミツキは団服の上着を脱ぎ、ベルトのモンスターボールや躰の可動を確認してから、黒いフェイクレザーのジャケットの首元までファスナーを閉めた。長袖が手首までを覆っている。手袋は着けなかった。ボールを投げる時の感覚が狂うのだ。

 不燃性の上着だった。しっかりとした想定の元で買った訳ではない。偶然見つけ、衝動的に購入したのだ。

 こうなることをわかっていたのかも知れない。自分の躰を見下ろしながら、フミツキはそう思った。緩やかな団服と違い躰にフィットする形状で、女性的な体型が見てわかるようになっている。

 今まではロケット団として活動する時、頑なに性別のわからないような服を選んでいた。そんなことを言っていられない相手に、自分は挑むのだ。

 まともに戦えば勝負にならない。覚悟は決めていた。

 

「来ましたか」

 

 影が伸びていた。子供と、翼を持った巨体の影。巨体の尻尾が揺れる度に、影も左右に揺れた。一人と一匹が壁に突き当たり、こちらに向き直った。レッドとリザードン。目が合った。

 最初に動いたのがサンドパンだった。火を噴こうとしたリザードンを止めて、レッドが前に出た。防火シャッターの位置が微妙だったのだ。

 レッドの側に一枚目が、僅かにフミツキ寄りの位置に二枚目がある。初撃は楽に凌げる、とフミツキは計算していた。事前に計算していたフミツキと同等の判断を、レッドは瞬時に下したのだろう。

 走る。レッドとリザードンが一枚目を潜り抜けた。二枚目のシャッターが、フミツキにはまだ遠い。

 

「サンドパンっ、『スピードスター』」

 

 サンドパンが跳び上がり独楽のように回転し、そこから星形の光線が飛び出して行った。レッドが下がると同時に前に出たリザードンが、尻尾の一振りで星を凪ぎ払う。効いた様子はないが、出足は奪えた。フミツキはシャッターの陰へ飛び込んだ。僅かに遅れてサンドパンがやってくる。その向こうを巨大な炎の綱が過ぎていった。

 膠着した。二度サンドパンが飛び出し『スピードスター』を撃ったが、まともなダメージにはならなかった。お返しとばかりに撃たれる『かえんほうしゃ』は防火シャッターが遮っている。シャッターの上げ下げはサカキが指示したのだろう、とフミツキは確信した。適度に遮り適度に逃がし、それでいて視界は確保できている。競技としてのバトルが主流の現代らしからぬ、実戦的な配慮だ。

 『かえんほうしゃ』が通り過ぎる。フミツキは躰を低くしてから息を吸った。腰より上は熱気で覆われている。

 力は圧倒的に向こうが上だった。それで膠着に持ち込めているのだから、フミツキにとって悪くはない。この応酬がいつまでも続くならばだ。

 汗が額から鼻、そして首筋へと伝ってきた。前髪が張りついている。

 膠着が続く筈がない。それはわかっていた。フミツキはただ、相手が状況を動かすその瞬間を待っていた。

 『スピードスター』を撃ったサンドパンがシャッターの陰へ飛び込んでくる。しかし、反撃はこなかった。

 異様な音が、通路の向こうから響いてきた。フミツキはシャッターから僅かに顔を出した。

 火の粉。それもただの火の粉ではない。無数の火の粉が、風もない筈の室内で渦を巻きながら通路を埋め尽くすようにゆっくりと迫ってきていた。『ほのおのうず』。

 『かえんほうしゃ』のような直線の動きではない。あれならば、防火シャッターを越えてサンドパンを捉えることも可能だろう。

 フミツキは膝を付いてサンドパンと目を合わせた。どこか鉱石を思わせる瞳が、フミツキを見上げている。

 

「最後まで、見続けるから」

 

 渦の先端が、防火シャッターを叩いている。飛び越えてきた小さな火の粉が、フミツキのジャケットに付着して、消えた。

 

「最後まで、戦い続けて。ただ、あなたらしく」

 

 言ってから、フミツキは小さく笑った。サンドパンが抗議するように爪を打ち鳴らした。

 

「私達らしく、にしておこうかな」

 

 サンドパンが頷いた。もう一度笑ってから、フミツキはサンドパンをモンスターボールに戻した。それを、右手にしっかりと握った。

 できるかどうかは考えなかった。やれなければ、ただ無抵抗に負けるだけなのだ。

 シャッターを乗り越えてきた『ほのおのうず』の中に、フミツキは迷わず右手を突っ込んだ。左腕で目鼻を覆い、口は固く結んでそのまま右半身まで躰を突き出す。

 熱いとは感じなかった。全身に鳥肌が立ち、強烈な吐き気が胃と肺腑を駆け巡った。目蓋の裏に閃光が走り、酷い頭痛がした。皮膚の上を不快ななにかが這っている気がした。その全てを無視して、フミツキは力一杯振りかぶった。

 不意に渦が散り、視界が開けた。視線の先。フミツキははっきりと見た。リザードンの足下に落ちたモンスターボールから、サンドパンが踊り出る。リザードンは応戦しようとしていたが、間に合わなかった。サンドパンの『ころがる』がまともに胴体を捉え、リザードンがたたらを踏んだ。再度の『ころがる』。飛んで距離を取ろうとしたリザードンを再び捉え、地面へと引き摺り落とした。オツキミ山で傷一つ付けることのできなかった相手を、サンドパンが圧していた。全てを、フミツキは見ていた。

 右手の感覚がなかった。足が痙攣を起こしている。喉は耳障りな音を立てていた。世界が、ぐるりと横に回転した。自分が倒れたのだと、しばらくして気付いた。躰を起こしたかったが、どちらが上でどちらが下なのかもよくわからなかった。

 サンドパンはフミツキを顧みることなく、懸命に食らいついていた。複数の足音がフミツキへと駆け寄ってきた。

 オツキミ山の時と同じだ、と思った。違うのは、サンドパンがまともに戦っていること。そしてそれを、フミツキが見続けていることだった。

 『えんまく』を張られたサンドパンが『ころがる』を外した。壁にぶつかり、無防備に回転を解いたサンドパンを『かえんほうしゃ』が飲み込んだ。炎から飛び出してきたサンドパンはまだ立っていたが、震える両脚は明らかに限界だった。

 近寄ってきた団員達が、フミツキの手を脱いだ上着で叩いていた。まだ火が残っているのかもしれない。

 最後の力を振り絞るようにして、サンドパンが飛び掛かった。レッドの指示は素早く、リザードンもよく反応した。尻尾に弾き飛ばされたサンドパンが、壁にぶつかり床へ落ちた。うつ伏せでピクリともしないまま、やがて瀕死状態の収縮を始めた。

 最後の最後まで、勝負を見続けなさい。それがサカキに掛けられた言葉だった。

 最後まで、サンドパンは戦った。そんなサンドパンを、自分は最後まで見続けたのだ。そう思った。

 不意に、全ての感覚が曖昧になった。最後まで見続けた。もう一度そう思い、それからフミツキは目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 マスターボールの設計図が、見つからなかった。

 連れてきた団員は勿論、唾を付けていた研究者達も総出で捜索していた。数十億の価値があるであろう研究成果も、シルフカンパニーを揺るがしかねないような契約内容も、厳重に鍵を掛けられた顧客情報も、その全てを今ロケット団が掌握していた。マスターボールを造り上げたというM計画についての資料も見つかった。その成果だけが、どこにも見当たらなかった。

 

「もう良いだろう、ロケット団。君達が手に入れられるものは全て手に入れた筈だ。これ以上何を望む?奪った金を手に、同盟軍に突撃するといい」

 

「玉砕する、と思われていますね」

 

「むしろ、君がそう思わないのが不思議だよ。話していてわかったが、君はずいぶんと理性的な人間だ。知性もある。それでなぜ、同盟軍と武力衝突することの無意味さを理解できないのだ」

 

「無意味ではないからですよ。少なくとも、私にとっては」

 

 会長が眉間に皺を寄せた。サカキは顎を引いて、なんとはなしに机を見詰めた。

 

「自由とはそれほど尊いものかね。敗北のための戦いに、賭ける価値があるかね?」

 

「敗北のためではない、と言っておきましょう。自由が尊いものかどうかは、各人が判断すればいい」

 

「傲慢だ、君は」

 

 その通りだ、とサカキは思った。自分はとんでもなく傲慢なことを考え、実行しようとしている。

 戦いたかった。力の限り、戦いたかった。

 無謀なだけの勝負は、戦いではない。この国の全てを巻き込んでの、一筋の光明を握り締めるような、そんな戦いの場に身を投げ出したかった。誰もが吼え声をあげるような戦場を、おのがポケモン達とともに這いずり回りたかった。

 そんな戦いなどどこにもないことは、ポケモンリーグを勝ち抜いたまだ若かりし頃で既にわかっていた。

 夢だと思った。それを、夢ではないものにしてしまいたかった。

 

「ボス、隊長が」

 

 飛び込んできた団員はすっかり憔悴していた。フミツキの指揮下の団員だ。

 

「敗れたか」

 

「はい。それから、酷い火傷を負って意識が戻りません」

 

「火傷だと」

 

「『ほのおのうず』に躰ごと突っ込んだんです。右腕を中心に酷い状態で」

 

「服は無理に脱がせるな。生地と肌とが癒着している可能性がある。服の上から冷やせるだけ冷やせ。それから抗生物質を」

 

「もう退け、ロケット団」

 

 低く、会長が言った。俯きがちで、独り言のようだった。

 

「重度の火傷を治療するような設備や技術はシルフカンパニーにはない。気管支に損傷がある可能性も捨てきれんだろう。命に関わるぞ」

 

 フミツキ指揮下の団員が一瞬言葉を失い、それから壁を拳で叩いた。

 

「マスターボールの設計図はどこに。それさえ、それさえあればいつでも」

 

「マスターボール?まて、マスターボールの設計図と言ったか?」

 

 別の団員が抑えようとしたが遅かった。マスターボールという単語に反応した会長が立ち上がり、見開いた眼でサカキを見詰めた。

 サカキは頷きを返すことで肯定した。放心したように会長が虚空を見詰め、それから椅子へと腰を落とした。

 

「なんということだ。あんな、あんな神の気紛れがこんな事態を」

 

 会長が蹲るようにしながら頭を掻き毟り、それから顔をあげた。ふと、不吉な予感にサカキは襲われた。会長の表情にあったのは深い憐れみと、見通せぬほどの後悔だった。

 

「よく聞け、ロケット団。マスターボールの設計図などという物は、この世に存在しない」

 

「馬鹿な。マスターボールは実在する」

 

「そうだ。マスターボールは間違いなく実在する。キャプチャーネットの強靭性、ポケモンの収縮機能を喚起する能力、外殻硬度。その全てが従来のモンスターボールを圧倒的に凌駕した。既存の捕獲指数に間違いがなければ、どんなポケモンでも捕獲できるボールと言っていいだろう」

 

「それならば」

 

「なかったのだよ。あのボールには、再現性が一切なかった。同じ素材、同じ技術者、同じ設備、同じ環境。果ては月の満ち欠けまで揃えたが、マスターボールが再び完成することは終ぞなかった。あれは神の気紛れ以外の何物でもないのだ」

 

「マスターボールの製法は存在しない?」

 

「そうだ。そして唯一のマスターボールもここにはない。厳重なセキュリティとセーフティの元に眠っている」

 

 会長が真っ直ぐにサカキを見据えた。相変わらず、瞳には憐れみと後悔が鈍く漂っている。そこに嘘の一欠片さえも、サカキは見つけることができなかった。

 

「本当、なのでしょうね」

 

「誓って、嘘は言わん。私にとっても無念なことだった」

 

 沈黙が降りた。団員達が固唾を飲んでいるのを、サカキは感じた。壁に備え付けられた時計の針音が、やけに大きく響いた。

 ミュウツーのデータを集め復活を待つ。技マシンを収集しながら資金を集め、組織を成長させていく。マスターボールによってミュウツーを捕獲、対同盟軍の切り札としつつハナダの洞窟のポケモンを捕獲し団員に配給する。ジムバッジと技マシンを同時に配ることで戦う態勢を整える。

 それから同盟軍との戦端を開く。誰もが己の力を磨き続ける、戦いの時代。

 ロケット団の戦略に、欠けていい要素は一つもなかった。

 天井を見上げた。柔らかく光る蛍光灯の中に、光の中に全てが吸い込まれていった。

 

「夢か」

 

 呟いた。声は罅割れ、乾燥して、空間へとほどけていった。

 

「全ては、夢だったか」

 

 ぼんやりと、光の輪郭が霞んでいた。それは全ての色を飲み込んでしまったように、色とりどりの残映を目蓋の裏に焼き付けた。

 振り向いた。団員達が顔を伏せる。

 

「撤退する。各階の団員達を階段付近に集め、点呼を取らせろ。揃った階から順に下っていく。一階で合流後ヤマブキを脱出し、ロケット団を解散する」

 

 告げて、サカキは声を和らげた。

 

「済まなかったな。どうやら、幻影を追うのに付き合わせてしまったようだ」

 

「ボス、俺は。いや、俺達は」

 

「いいんだ」

 

 誰かが堪えきれないように嗚咽を漏らした。やがてそれは部屋中の団員達に伝播した。恥もなにもない、男泣きだった。それをみっともないとは、サカキには思えなかった。

 会長が机の上で腕を組み、空を睨んだ。

 

「私は神を恨もう。私と君達に偽りの夢を見せた神を」

 

「つまらないことですよ、会長。夢は人が見るものです」

 

「どこへ行く、ロケット団。まだ、夢を見るのか?」

 

「さて、どうでしょうね。いくらか現金を頂戴していきますよ。その方が都合がよろしいでしょう」

 

「好きに持っていけ。黒い交際や自作自演などと書かれてもつまらん」

 

「だそうだ。お言葉に甘えるとしよう」

 

 サカキは団員達を促し、金を持たせた。差し出されたそれを、サカキは受け取らなかった。

 

「ボス」

 

「君達が持つといい。行くぞ」

 

 会長室を出る。既に八階までは集合が完了し、下を目指して下っているらしい。エレベーターは止めてあった。階段へ向かう途中、一人と一匹の影が道を遮った。フミツキ指揮下だった団員が悲鳴をあげた。

 赤い帽子とジャケット。背後にリザードンを控えさせた少年が、レッドがそこにいた。

 

 

 

 

 

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