異世界転生のチートって、もう少しなんというかチョイス考えろや 作:madamu
牛の大きさを超える獣として、この周辺には地霊と牛の混血であるベヒモスが放牧されている。
野生化すると、古の暴獣と同じような名前暴れまわるが去勢すると野性より一回り大きくなり食用としては非常に有用な生き物であった。
王国首都を取り囲む城壁の外では遊牧を糧とする者たちが日差しを遮る用のつばの広い帽子をかぶり、強い日差しを避けながら仕事をしていた。
西と東の衝突となった戦争も収まり、剣と魔法と血の時代から剣と魔法と銭の時代になりつつあった。
戦費の支払いに長年苦しむ貴族はその体面を保つため、商人への借金で工面することが常識になっている。
◆
(っても、殺し屋仕事は面倒なんだよな)
黒笠こと東方武士団の一人、鵜堂刃衛は気に入りの娼館fで馴染みの娼婦を膝に乗せながら目の前の男の話を聞いていた。
一晩で金貨を払うような高級娼婦館では客の話は外には出ない。
というよりも、黒笠が膝に乗せ、胸やら尻やらを撫でまわす娼婦は昔の出来事で声を失っている。
左の指先が娼婦の身体を這い進むと胸に膨らんだ時にあたり、黒笠はその場所を少し擦るように弄る。
娼婦は少し感じたのか「声が出せないなら感じたら噛め」の約定通り、黒笠に顔を近づけ、黒笠の耳を甘噛みをする。
話せないことが「不具」物として忌避されている娼婦だが、それにもまして健康的な容姿をしており、黒笠のお気に入りの一人である。
「お聞きいただけますでしょうか」
商人と武士団、特に戦人たちの間をつなぐ人物。
30は越えている。ふくよかと肥満の間程度の体格。
身なりは汚くない。麻の服は清潔で腕には下品にならない程度に装飾品が付いている。
表向きは酒の卸しを生業としているが、どちらかというと人と人の間に立つのが主な収入源だ。
黒笠は男の話を今一度思い返した。娼婦の股に右手を差し入れながら。
ある晩にある場所を通るある人物を殺してほしい。
完結に言えばそれだけだが、ある晩は明日、ある場所は貴族の屋敷がある区画近くの人通りの少ない小道、ある人物とは借財伯爵と異名をとる伯の息子”この親にしてこの子あり”の道楽息子である。
原因は借財の取り立て、そのあたりのトラブルだろうと予想は付いた。
黒笠の右手が少し生暖かいところを触る。
黒毛に娼婦がまた耳を噛んでくる。
「お断りだね」
「おや、血が見れますが」
黒笠のことわりに言葉の割に驚いた様子はない。
「問題は道楽息子を斬っても楽しくないところよ。昨日も一緒に呑んだが護衛もナマクラ間抜けぞろい。楽しみがないね」
肩すくめると娼婦はもう一度耳を噛む。
「明晩ですが、道楽息子が行くのは剣闘大会、それも貴族屋敷でです。道楽息子の性格なら一人二人は剣闘士を自分の屋敷に案内するかと思いますが」
(いい釣り文句だな)と黒笠は思いつつ、右手の指先を柔らかいところから抜きつつ出口当たりの突起を軽く撫でる。
黒毛の娼婦は突然のことに耳を噛めずにその愉楽に身を震わせた。
そして娼婦は黒笠の耳を舐める。
ベッドに連れて行けという催促の取り決めである。
「気が向いたら遊んでおこう。ただし遊び賃は高いと承知しておけよ」
黒笠は娼婦を抱え上げベッドのある隣室へと向かって歩き出した。
「あい、承知いたしました」
依頼人はそれだけ返事し部屋を辞した。
◆
「残りはアンタと俺だがどうするね?」
二人の剣闘士の腕を切り落とし最後の一人に切っ先を向ける。
一番の腕っこきである。
黒笠の足元には腕を落とされた剣闘士が自分の腕を抱え、しりもちをついたまま後ずさる。
金はかかるが腕は付く。明日の太陽が沈むまでに寺院に走れ込めば、神秘魔術でくっつく。
「黒笠に挑まれれば引くわけにはいかないな」
剣闘士は一度両手を腰の後ろに回し、二本の短刀を両手に持つ。
「いいね~、剣闘士らしいよ。あんたゲンコツでも有名だ。それでその獲物なら最高だ」
剣闘士である拳闘士。
二刀はゆっくりと黒笠の周りを円を描くように歩き出す。
間合いは5歩。黒笠の腕なら一足、相手の技量でも二足か三足で似たようなもの。
徐々に間合いを詰めながら円は狭まっていく。
1周、2周とそのころには正眼に構える黒笠の切っ先に剣闘士の鼻先が付くほどに接近している。
黒笠はにやりと笑う。緊張感が高まるのを楽しむ笑いであり、瞬く間の後に刀に肉が振れる感触を待つ笑いでもある。
さらに円が狭まり刀の切っ先が鼻に触れた瞬間。
剣闘士は二刀を一呼吸で面前の黒笠に投擲する。
手首のスナップを効かせた鋭い投擲だ。
必殺の間合い。これほど投擲に向かない間合いだかそこに心理的活路を見出した。
だが反応と思い切りにおいては黒笠は数段上を行った。
剣闘士の手から二刀が離れた瞬間に前に詰め、切っ先を剣闘士の鼻の下にある人中という急所目がけて突き出した。
首のけ反らせ、直撃は避けたものの刀の切っ先を上唇から鼻先、眉間をぱっくりと思いの外深く切り裂いた。
剣闘士は痛みに耐えながら倒れることなくバックステップをした。
自分の投擲で黒笠の胴には二本の短刀が刺さっている(勝負はついた!)と思った。
しかし
「ん~、結構深くいったな~」
心の一方【痛覚麻痺】
黒笠が気まぐれに自分にかける自己暗示の一つだ。
別段相手が強敵だからということではなく遊びとして「痛覚麻痺」や「痛覚鋭敏」「聴覚封鎖」そういった珍妙な自己暗示で遊ぶのだ。
それが今日は良い方に転んだだけだ。
胴に深々刺さった二本の短刀を抜くのではなく、その柄を弄って刺さっている個所を確認する。
「拳闘できると離すのも躊躇いがない、いいね~」
拳闘士へとなった剣闘士は背中に酷く汗をかきながらも黒笠に話しかける。
「こっちの意地は果たした。他の奴らを連れて逃げたいんだが?口は堅いぞ」
「そうだね、生かした方が今後も楽しめそうだ。切った張ったで負けたとあれば・・・信用しても?」
黒笠の視線は拳闘士ではなく、しりもちをつきながら己の切れた腕を抱える二人の剣闘士に向いていた。
ひげ面の一人が痛みに耐えながら答える。
「俺たちだって、馬鹿じゃねぇ。叩けば埃も出る。衛兵の類には告げ口できる身分はない」
剣闘士と響きは良いが結局はごろつきの別名でもあるし、剣闘士と名乗るまではそれこそ辻斬りで実戦の間合いを掴む輩も少なくない。
「よし、じゃあ恨みたかったら武士団屯所においでな。あそこなら好き放題だ」
快く回答を受け取った黒笠は再度笑みを浮かべる。
三人の剣闘士は切断面の出血を抑えながら、夜の小道へと逃げていく。
「じゃあだ」
黒笠が振り向くと腰を抜かし失禁している道楽息子。
黒笠は道楽息子の指を3本落とすだけで終わらした。それを恨みに刺客の5人か10人を送りつけることを期待して。
◆
借財伯爵は、道楽息子が借金踏み倒しの報復でひどい手傷を負ったこと、それを癒すのに踏み倒した相手に再度頭を下げて金を借りたこと、借財のかたが踏み倒し前の倍になったこと、犯人が黒笠だが恐ろしくて報復できないこと、心労が重なり2年後に病で没する。
領地、貴族株は借金のかたに商人たちが競売で競り落としていた。
とってんぱらりんのぷう