異世界転生のチートって、もう少しなんというかチョイス考えろや 作:madamu
「あ、旦那。すいません、殿様はまだ」
「女連れ込んで腰振ってるのか」
屋敷の勝手口から文字通り勝手に入ってきたのは黒笠だ。
異名の黒笠を小脇に抱えつつ、着流し姿と寒さ避けの首元迄ある黒い肌着を身に着けている。
腰から刀を抜き、台所上りに座り込む。
応対している老僕はいつものこととして、そそくさとお茶と沢庵を数切れだした。
この帝国では本国大和の国の物はそれほど出回っていない。
大戦によって得た東方武士団の慰留地は狭くは無いが、住宅街や練兵地を除くとそれほど畑に避ける地面は多くない。
本国から続く転移門は神社の脇にあり管理は大社であり、輸出入についてはあまり好き勝手できない。
ただ武士団の武力があってこその帝国側から与えられた慰留地なので、本国との流通についての交渉駆け引きはこの数年武士団と大社で綱を引き合っている。
久しぶりに食べた沢庵に満足げな、この東方武士団の慰留地では時折見せる、普通の笑顔を黒笠は見せた。
「腰振ってからどのくらいになる」
「へぇ、一刻(2時間)前ですんで、半刻後には終わるかと」
「そうかい。じゃあ碁盤でも持ってきてもらおうか」
そう言って黒笠は懐から碁の指南書を取りだした。
意外とこの男は遊びに勤勉でもある。碁も打つし将棋も指す。
和歌や蹴鞠、茶の湯も嫌いでは無い。ただ客を呼ぶなどの外交的な形で行うのが嫌で、出来れば気心知れた者同士で嗜むのが好きだった。
◆
「刃衛兄上」
優しく呼びかける声とともに少し裾が乱れだ着物姿で現れたのはこの屋敷の主。
五百石取りの旗本であり、東方武士団きっての神速剣士、赤毛の美青年、通称“赤様”である。
神速を誇る剣、飛天御剣流の伝承剣士であり、東方武士団女狂い三人衆の一角であり、転生者でもある。
「緋村剣心!ただし、晩年でも飛天御剣流を放てる身体の頑丈さ付き!」というチートリクエストを神が叶えたことで、原作における短身痩躯ではなく、長身の部類に入る黒笠より気持ち背が低い程度で、決してその肉体は見劣りするモノではない。
緋村剣心の実力に左之助の身体、と他の転生者は評している。
「お前、自分から稽古の話しておいて、まあお盛んで」
一つ嫌味を言う黒笠だが、台所の棚から少ししけった煎餅を何枚かみつけて齧りだす赤様は事もなげに返す。
「兄上も混ざればよかったのに」
「弟分とナニ比べなんぞ御免被る」
東方武士団の女狂い三人衆の女狂いは各人ちょっと違う。
1人は上流階級の優雅な女ばかりを口説く風流人気取りである。
もう一人である赤様は、美女であれば素人であれ玄人であれお構いなし、玄人も呼び寄せ娼婦でも館待ちの娼婦、素人では辻夜鷹や人妻、生娘なんでもござれ。
黒笠は娼婦館通い一筋である。ただ美女もいれば醜女もいる。
ことの仕方も三者三様である。
「どうするんだ。お前の腰振っている時間で稽古なんぞしてられんぞ」
「じゃあ、先に受け取りに行ってから稽古して娼婦館なんてどうです?」
赤様の提案に黒笠は首を縦に振った。
「玄関に回ってる間に身だしなみ整えろ」と言って勝手口からひょいと黒笠は外に出る。
しけた煎餅を加えたまま赤様は着替えにもどった。
◆
東方武士団の慰留地、通称【大和街】には武士だけでなく商人や職人、もっと単純な労働をする人々がひしめき合っている。
というのも大和の国での78年続いた戦乱期が終わり、負けた側に着いた人々や勝ち側に付ききれなかった多くの人々がこの地に流れてきている。
勝った側、現幕府からは負けた側に対して遠征団として名目が与えられ監視役は付くものの大和より遥か彼方で新しく勢力範囲を作るべく活動しているのだ。
黒笠も赤様も負けた側の一族であったが少年期に活躍しきれぬまま長い戦乱は終わった。
勝ち負けにも参加できなかった年代の者たちはその猛りを西方で発散し確固たる地位を築いたのだ。
遠征団にいる職人に刀の研師も複数人いる。
数百名の武士にその倍以上にいる足軽雑兵、そして流れの浪人者。
西方の刃物よりやや扱いが難しい刀の研ぎについては、東方武士は国元から連れてきた研師に任すのが通例だ。
赤様の屋敷より歩いて少し。
「虎眼流」の看板が掲げられている小さな道場。
その横にある工房。
そこに黒笠の目当ての人間がいる。
工房前では道場の師範である源之助が掃き掃除をしている。
年齢は黒笠より二つ三つ下で、顔を合わせるようになってから10年は立つ。
剣の腕は師匠には及ばぬ者の西方騎士との決闘で三人を瞬く間に切り殺したこともある。
口数の少ない性格で、虎というより猟犬のような精悍さを持つ。
「源之助、先生は工房か」
黒笠は日頃の行いに似合わぬ丁寧な口調で源之助に声をかける。
「はい」
掃除の手を止め黒笠に正対すると頭を下げ答える。
元は双子の孤児で、兄と共に幼少期に虎眼に引き取られ名前を与えられた。
兄である清玄は大和の国元で「虎眼流」の道場経営を引継、源之助は師匠の身の回りを世話するため西方に同道している。
剣の腕はほぼ五分。ただ口が立つことから道場は清玄が引継、師匠と共に剣を極める栄誉は源之助が受けた。
清玄は虎眼の娘である三重と婚姻したが、三国一のヤンデレ妻(大和訛り)で死ぬまで浮気が出来なかったことを記載しておく。
源之助は黒笠の前に立ち案内をする。
その背に黒笠は一太刀、二太刀と剣気を飛ばす。
「御戯れを」
「一太刀目、横に避けるの良いが二太刀目で額が割れたぞ」
「額の血では死にませぬ」
黒笠は丁寧だが負けん気の強いこの男が気に入っていた。
以前に虎眼流に入り浸っていたときは日がな一日、源之助と木剣で切り結んでいた。
「兄上、遊ぶのは後にしてください。源之助さん、あとで道場でどうです?」
「お相手つかまつります」
赤様の問いかけに源之助はそれだけ言うとあとは黙して、工房へと案内した。
「おや、いらっしゃったか」
岩本虎眼 50歳。
身の丈は刃衛と変わらない。非常に体格の良い壮年男性である。
転生者「岩本虎眼」としてこの地に生をうけるとともにチート「曖昧・痴呆症無し」を得たことにより、この歳でも曖昧にならずに過ごしていた。
虎眼流を起こし、10人近い孤児たちを引き取り育て上げ戦場でも比類なき働きをした人物である。
この西方では研師として移り住んでいるが、剣客としての名声と実力は東方武士団でも鳴り響いている。
「先生、受け取りにまいりました」
黒笠は頭を下げて先日頼んだか刀の引き取りに来たことを告げた。
「ええ、出来ておりますよ」
好々爺の笑みを浮かべながら工房の奥へと戻っていく。
奥からは「中に入って待ってておくれ」と声がしてくる。
黒笠と赤様は一礼して工房入って行き、源之助は道場へと戻っていった。
「爺様~、次の月には稽古あるけどどうします?」
赤様は近所の翁に話す様に雑然と話が嫌味は無い。
こういった天真爛漫さは赤様特有のものであるが、転生者の多くは個々人特有の豪放磊落さ、寛容さ、偉大さといった「人たらし」の属性を持つものが多い。
そうでなければ凶刃と呼ばれる黒笠が好き勝手出来ないのだ。
黒笠と赤のいる玄関脇の上りにある客待ちの空間に虎眼が奥から一本の刀を持って戻ってくる。
「そうですな、源之助は八雲殿と立会いを約束しておりますし、私もたまには高槻殿と将棋でも指しますかね」
黒鞘の刀。両手で丁寧にそっと黒笠の前に差し出す。
黒笠は受け取ると鯉口を切り、二寸ほど刃を露出させる。
「うむ」
納得すると鞘に納めた。
「先生、毎度ながらありがとうございます」
深々と頭を下げる。
黒笠が頭を下げる人間はこの西方には5人。
岩本虎眼はその一人である。
虎眼は頷く。
慰留地の外のうわさは聞いているが、目の前にいるのは可愛い教え子。
虎眼自身も戦乱時期は太刀片手に戦場を剣豪狩りに勤しみ無駄な血を意図的に流していたので、黒笠の動向は見て見ぬふりをし(あの頃のわしよりかは幾分は大人しい)と言い聞かせている。
その後、黒笠と赤は四半刻(30分)ほど世間話をし、源之助の待つ道場へと足を運んだ。
◆
「この世界には山田風太郎はいない!ならばパクっても問題なし!」
陣羽織というには派手、娼婦館でもひと際派手で歌舞いている。
大柄、黒笠と比較しても頭一つは近く大きい。
茶筅髷に快活な男ぶり。
前田慶次という名前である。
高級娼婦や貴婦人目当ての女狂い。
そして「封魔忍法帖」を執筆し、忍びの恐ろしさを西方地方に知らしめた「大作家」でもある。
岩本虎眼の道場で一刻汗を流し、歓楽街の高級娼婦館に足を踏み入れたところ大柄の女狂いがいたので「おい、似非作家」と声をかけたところ返ってきたのが先ほどの声だ。
娼婦館は小部屋ごとに娼婦がいるわけではなく、酒が出るラウンジに娼婦はおり酌をしながら客の誘いを待つのだ。
慶次のいるテーブルには、慶次の右に一人、膝の上に一人と美女が座っている。
「盗作宣言を爽やかに言ってもね~」
「クズOFクズOFクズ。肥だめの糞でさえ立派に見えるな」
赤は冷たい目、黒笠は前世が出版社の著作権関係の業務に関わっていたこともあり、慶次の振る舞いは気に食わなかった。
「妬くな妬くな、はっはっはっ!」
慶次は文筆だけではない。
ドラゴンボールも「絵想紙」としてパクっている。
ドラゴンボール、この国では「竜撃玉」という作品は売れに売れ、巨万の富が慶次の懐に入った。
しかし即座に慶次の上役であり東方武士団の副頭領である陸奥鬼一老の一喝で富の大半を武士団の運営費用に寄付したのだ。
「貴様は鳥山明先生を愚弄するか!」と鬼一老は激怒した。
ドラゴンボールをパクったこと以上に「パフパフ」シーンを露骨に書いた慶次への怒声で武士団の屯所の屋根瓦が20枚は落ちた。
さすがの慶次も二刻(4時間)正座をさせられたうえに、レッドリボン軍編におけるブルマの水着姿がいかにお色気要素と少年漫画の海洋冒険イメージに寄与したかを説教され心が折れた。
その後も鬼一老はレッドリボン軍編から鶴仙流との天下一武道会の一連の流れをトクトクと説明、そこに虎眼が合流し「わしはドラゴンボールも好きだが鳥山明〇劇場が好きだった」と言えば鬼一老は虎眼とがっちり握手をし、さらに〇劇場の良さを慶次に説明し、範馬勇次郎が「ふん、それならウイングマンも読んでいないとな」と絡むと鬼一老は慶次に対して、アラレちゃんにおける桂正和の重要性をさらに一刻かけて慶次に説明した。
「それなら俺の出た花の慶次は・・・」と少しだけ口答えをすると原作となる隆慶一郎の小説の話を夜が明けるまで鬼一老はした。
それ以来慶次は武士団の屯所は必要最低限に顔を出すことにして、娼婦館や自分の懇意の騎士団で稽古を積んでいた。
漫画と遜色ない実力はやはり武士団でも群を抜いていたが、前世からの引き継いだ性格が多少のトラブルを生んでいた。
それが前述のパクリ騒動であった。
「で、俺に用事か」
「貴様ではなく女の尻に用がある」
ふと真面目な慶次の言葉をバッサリ切ったのは黒笠の一言である。
◆
「おい!」
高級な娼婦館と言ってもガラの悪い客はいる。
ひと際ラウンジで大きな声を出したのは賓客テーブルに陣取る貴族の次男坊グループであった。
戦争が続いて、それが終わり暇を持て余した軍人崩れ、騎士崩れの中年たちだ。
武力も高く、実家の地位もある。
下手に騒ぎを大きくすると、騎士崩れの愚連隊が店に押しかけ暴れる。
国に訴えても拘束しようとしても騎士崩れでは衛兵も命懸けであまり手を出したがらない。
「新しい女と酒だ!」
店中に聞こえる声で要求を伝える。
騎士崩れの一人のそばには顔を抑えてすすり泣く女が二人。
ラウンジではマナー違反とされる乳房をもろ出しにしている。
いや、正しくはもろ出しにさせられたといったところだ。
騎士崩れは8人。
みな決して店の品にあった服装とは言い難い。
野戦を意識した華美のない服に、実戦向けの肉厚の片手剣。
上品なごろつき、と言って不足は無い。
「ディナーノ様」
店の人間が酒を運びながら注意の声を騎士崩れのディナーノ準男爵にかける。
「なんだ!貴様は我らの働ぎを知らぬわけではなかろう!」
ディナーノと呼ばれた騎士崩れは、酒によった赤ら顔をさらに激高で赤くして立ち上がり店の人間の襟首をつかむ。
「おやめください」
少し離れたテーブルから別の声で店の人間の心の声を当てる人間がいる。
赤様だ。
「およよよ、騎士崩れのディナーノ様は女の扱いも知らぬ童貞豚。個室に誘う程の金も無ければ度胸も無い、およよよ」
口元を隠し、困り果てた娼婦の真似をするのは慶次であった。
その姿を見て黒笠と赤様は爆笑をする。
黒笠などは「豚!豚に例えると豚に申し訳がたたんな」と爆笑している。
ディナーノと呼ばれた騎士崩れは腰から剣を引き抜くと大股で黒笠たちのテーブルへ近づく。
「きさ・・・・・」
酔った足で近づくとその声の存在を改めて視認した。
「おいやめろ、ディナーノ」と騎士崩れの仲間から恐怖におののく声がかかる。
ディナーノもテーブルにいる三人の武士が誰なのかわかった。
「おい、豚。ブーと鳴くか裏口から退散するか選ばしてやろうか。出なければ三枚におろして豚ではなく魚の刺身だ」
凶笑、というのを初めてディナーノは見た。
黒笠の笑みは反抗することを求めていた。
黒笠はふらりと立つと、受付に歩いてい行く。
ディナーノたちのように受付を脅して無理やり帯剣していたのとは違う。
受付から刀を受け取ると腰に差す。
「よっ!兄上、チャンバラ馬鹿!」
「馬鹿チャンバラ!」
赤と慶次が囃し立てる。
周りの娼婦は血を見るのを恐れ、皆部屋の隅へと集まって成り行きを見る。
ディナーノは恐怖に喋れず、抜いた剣を鞘に納めることも出来ず固まっている。
騎士崩れの仲間は各々、剣を持って裏口へ走る者、ディナーノに「謝れ!」と小声でささやくものと逃げ腰だ。
「おい、そこのそうだそうだ」
慶次は近くにいた男性店員を捕まえ、耳打ちをする。
「前田慶次様のご提案でございます。そちらの皆様が酒代を全て持つなら不問とする。ただし酒代も持たずにここにいるなら…黒笠の玩具とのことです」
その言葉を聞いてディナーノは剣を手から離すと大急ぎで懐の財布を出し床に落として裏口へ走る。
仲間の騎士崩れも財布を投げ捨てるようにテーブルに置くと逃げていく。
「腰抜けか・・・腰か」
黒笠は騎士崩れの姿が消えるともう一度受付に刀を預けると、置いていった財布を集めて慶次に投げ渡す。
「興が覚めたな」
「興が覚めたなら、もう一度盛り上げればよい!さて、酒だ!女だ!豚殿の財布が空になるまで遊ぶぞ!」
と言って、店員へ中身を確認せず、置いて行かれた財布を全て投げ渡す。
明け方まで三人は飲み明かした。
拾った財布も何とか底は付かずに済んだ。
これがこの三人の日常茶飯事である。