ガーリー・エアフォース ~三本線の異邦人~   作:南十字星

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 自らの居場所を見つける為、自らの任務を邪魔させない為に激しい空戦を繰り広げるトリガーとジュラーヴリク。激戦の末トリガーが主導権を握ることに成功するが、ジュラーヴリクの怒りのカウンターマニューバによりヘッドオンの状態へともつれ込む。互いが機関砲の射程内。その一瞬の睨み合いを妨げたのはまたもやザイの襲来。そしてジュラーヴリクの一言によりアーセナルバードがこの世界にいるかもしれないという事実をトリガーは知るのだった。


MISSION 09 one pair

 ロシア リャザン州上空

 5月27日 12時47分

 

 (アーセナルバード・・・!?)

 

 トリガーは因縁深いその単語に狼狽を隠せない。

 アーセナルバード。ハーリング元大統領が提案し、ガンター湾に建造した軌道エレベーター。その防衛の為にオーシア軍が中心となり製造した、全長1.1㎞のメインプロペラ2基、サブプロペラ6基の計8基のプロペラによって飛行する超大型無人航空母艦だ。2機製造されており、初号機を「リバティ」、2号機を「ジャスティス」と呼称する。

 どちらも両翼下に80機ものUAVを搭載可能であり、また高誘導対空ミサイル、レーザー兵器も豊富に搭載している。そしてAPS(アクティブプロテクションシステム)という電磁バリアによって、攻守隙が無い超兵器へと仕上がっている、これまでの技術の集大成といえるものだ。サプライシップによる空中補給と軌道エレベーターからの電力供給によって、着陸することなく半永久的な航空優勢を確立するという構想により、テロリズム等に絶対的な防衛力を約束する・・・筈だった。

 エルジアが宣戦布告の奇襲攻撃に並行し、アーセナルバード奪取の為のハッキング及び工作を行い成功させたのである。IFFの書き換えという手段まで用いて。無人機だからこその夢の24時間防空体制を実現させたのだが、エルジアがその能力を欲しがらない筈もなく、無人機故の電子的工作への弱さも同時に露呈させてしまったという皮肉な結果に陥ってしまった。

 結果として、リバティはオーシア軍がエルジアより極秘裏に接収した超大型レールガン、『120cm対地対空両用磁気火薬複合加速方式半自動固定砲』通称「ストーンヘンジ」による直接照準砲撃を受け撃墜。ジャスティスはケスラーシンドロームによりIFFを失った結果、軌道エレベーターに近付くもの全てを敵とみなし、戦争続行を望むエルジアの過激派によって運用された。そして反対に戦争終結を望むオーシアとエルジアの連合軍の攻撃、そしてトリガーの奮闘により中核を破壊され、ガンター湾へと沈んだ。

 それで最後だった筈だ。二機とも確かに撃墜したのをトリガーはその目で見てきている。秘密裏に3号機が製造されていたのか?だとしてもなぜこの世界にいる?「プチーツァ・アーセナル」という言語こそ違うが同じ意味を持つあの機体が、どうして。トリガーの脳内は疑問で埋め尽くされパンクしそうだった。とにかくザイが攻め込んできているという状況。アーセナルバードらしきその機体の情報も仕入れつつ、現状の戦況確認もしなければならない。トリガーは基地へと針路を取りつつ、ジュラーヴリクに再び話しかけた。

 

 ≪ジュラーヴリク、「プチーツァ・アーセナル」と言ったか?つまり今攻め込んできているザイはそいつから?≫

 ≪・・・ああ。奴から飛んできている。先遣隊みたいなもんだ。カザフスタンとロシアの国境に陣取ってこっちの戦力をじわじわと削りに来てやがるクソッたれだ。しかも近付こうとすりゃ、青く爆発する変な巡航ミサイルを飛ばしてきやがる。あいつのせいで国境近くの防空体制はズタボロだ≫

 (青い爆発の巡航ミサイル・・・ヘリオスか)

 

 ジュラーヴリクの言葉の端々から隠し切れない憎悪が滲み出ている。余程気に食わない存在のようだ。しかし発進という言葉と搭載機による先遣隊。母艦機能も搭載されているということだろう。そして何よりヘリオスの存在。ほぼ確定と考えていい。なぜアーセナルバードからザイが?もっと聞き出したい気持ちもあったが、先ほどのこともあり空気が重く、そして今は何よりザイへの対応を優先するべきだとトリガーの脳内は告げる。ジュラーヴリクとの話を切り上げようとしたところで、カナレイカからの通信が入る。

 

 ≪繰り返す。二機とも基地へと戻り燃料と武装を補給せよ。ラーストチュカがスクランブルの用意を進めている。補給が済み次第ラーストチュカと合流、ザイへの対処に向かえ≫

 ≪了解・・・カナレイカ、ザイの目的地は?どこを目指して飛んでいるんだ?≫

 ≪奴らはウラリスク*1方面から侵入しているとカザフスタンのレーダー基地から報告が入っている。方位270へ向かってマッハ0.8で飛行中だ。針路上には・・・サラトフ州がある!≫

 ≪サラトフ・・・奴らの狙いはエンゲリス飛行場だな、嗅ぎつかれたか≫

 ≪エンゲリス飛行場・・・?≫

 

 聞きなれない基地名にトリガーはジュラーヴリクにオウム返しで聞き返す。そしてジュラーヴリクは苦々しげに吐き捨てた。

 

 ≪・・・あそこには遠距離航空コマンド部隊、言ってしまえば核打撃部隊が編成されてる。プロペラ野郎が一ヶ月前から国境に陣取り始めて一時は撤退したみたいだが、二週間前の撃墜作戦の失敗で再配備の風が上層部の間で起き始めてやがる。航空攻撃で駄目なら最終手段。カザフスタン内で奴を核で吹き飛ばして短期決着を狙おうって腹なんだろう。モスクワが奴の射程圏内だってことを知ってこのザマだ≫

 ≪核・・・!?そのことはカザフスタンや国境近くのロシアには≫

 ≪言ってるわけねえだろ?反発されるのは見え見えだからな。今の上層部は保身の事しか考えてねえ。モスクワにあたしたちまで呼び寄せて万全の防空体制だ。プロペラ野郎の脅威がなくなれば一先ず首都は安心だ。とにかく戦術核で脅威を吹き飛ばして、後から申し訳ないがこの方法しかなかった、ってな≫

 ≪ジュラーヴリク、口を慎め。黙って基地へと戻れ≫

 ≪チッ・・・≫

 

 上層部批判と捉えられかねない言葉をカナレイカが窘め、ジュラーヴリクは舌打ちと共に沈黙する。強く怒らないあたり、カナレイカにも思うところはあるということだろうか。一方トリガーは核という単語が頭から離れなくなっていた。

 

 (核・・・)

 

 思えばトリガーは核にすらいい思い出がない。オーシアの首都、オーレッドを核砲弾によって焼き尽くそうとした相手とも交戦したことがあるからだ。ユークトバニアによるプロイェクト・アリコーン計画により建造され、エルジアが秘密裏に運用しようとした超大型原子力潜水艦、アリコーン。そしてその乗組員300名と共にエルジアより離反し、救済という殺戮を繰り広げようとした艦長、マティアス・トーレス。アリコーンのスペックは圧倒的だった。潜水機能はさることながら、浮上したとしても二基のレールガンをはじめ、多数のCIWSやSAMを搭載し、発着機能・ロックオンジャミング・果てには電磁バリアUAVと、まさに空母打撃軍を一つに凝縮したような性能でロングレンジ部隊を苦しめた。

 この元となったシンファクシ級潜水艦と交戦したパイロット曰く「浮上しても強い潜水艦なんて詐欺だな」とのことだ。全くその通りだとトリガーがその場にいれば全力で首肯しただろう。最終的には艦中心部のレールキャノンで核砲弾を発射しようとしたが、トリガーの決死の攻撃により破壊。その衝撃による浸水により艦内に敷き詰められたリチウム電池が漏電、大爆発とともにスプリング海PX80443という海域に沈み、彼らの野望は文字通り泡と消えた。首都への核攻撃を止めることは出来たが、今でもトリガーは止められなかった時のことを思うと寒気がする。しかしアーセナルバードらしきものに核と来たか。とことん自分のトラウマを抉ってくれる。そして今度は自分が飛ばされてきた国で、核爆発が起きる危険性が目の前にあるという状況だ。こちらの世界に来てからとことんよくない縁に絡まれている気がする。本来であれば向こうの機に任せるべきなのだろう。困ったら核という考えが、この事態を引き起こしたという自業自得なのかもしれない。それでも、トリガーの答えは変わらないだろう。

 ・・・あんな経験をした後でそんなものを見過ごせるほど、ヤワな空は飛んできていない。

 トリガーは急激に機首を基地の方角から反対の方向へ向け、速度を上げた。勿論そのような行動をAWACSが見過ごすはずもない。すぐさま警告が飛んできた。

 

 ≪プレストプニック01、何をやっている!基地へと戻るんだ!≫

 ≪・・・エンゲリス飛行場の援護に向かう≫

 ≪兄さん!?≫

 ≪なんだと・・!?≫

 

 二人の驚愕する声を受けながらもトリガーは続ける。

 

 ≪幸いこちらの武装は一発も消費しておらず、燃料もまだ余裕がある。着陸せずとも充分持つはずだ≫

 ≪だとしてもだ!通常兵装しか載せていないその機体で戦闘空域への飛行は許可できない!基地へと戻り対EPCM弾頭へと換装するんだ!≫

 ≪それだと時間がない。それに、通常弾頭だとしても時間稼ぎにはなる。・・・一度やってのけたことはある、大丈夫だ≫

 ≪おい、待て!プレストプニック01!≫

 

 カナレイカの制止も聞かずにエンジンを吹かして飛び去ろうとするトリガー。その様子を見ていたジュラーヴリクは呆気に取られていた。無謀どころか自殺願望持ちと思われてもしょうがない行為だ。ザイ10機に対し、単機で足止めをしようとするなど、ザイの機動を少しでも知っている者であればまずそんなことはしない。

 エンゲリス飛行場には核ミサイルを運ぶ爆撃機の護衛機も多数配備されている。あたしらが到着するまでは持つであろう数だ。護衛機がザイの足止めをし、そして補給を終えた自分達が万全の状態でザイを叩き墜とす。彼らの犠牲と引き換えにして。今までもそうだった。それでいいはずだ。犠牲と引き換えに基地と国を守れるならそうするべきだと思う。それが戦略だ。世界で初めてアニマとして実戦投入され、味方もザイも平等に火の玉になっていくという非日常。それをずっと間近で見て来たジュラーヴリクだからこその帰結だった。

 しかしあいつはそうは思っていない。本気で顔も見知らぬロシアの兵士を単機で助けようとしている。戦術もセオリーもへったくれもない馬鹿のような行動だ。百人中百人のパイロットが気が狂ったと判断するだろう。そうだとしても、あいつはあたし達にとっては本来邪魔な存在だ。自ら散りに行ってくれるならこちらにとっても都合がいい。いい筈なのに。ジュラーヴリクは目を閉じて大きくため息を吐く。全くの大馬鹿野郎だ。エイスクの時もこういうことをしてたのか?全くーーーー

 

 

 

 トリガーはMFD(多機能ディスプレイ)にデジタルマップを出現させ、燃料計と合わせてサラトフへの航路を割り出していた。ここリャザン州からエンゲリスまでは方位1-2-0、距離は約550㎞。燃料は・・・まだ2000㎞分は残されている。アフターバーナーを少し使っても空戦分の燃料はあるな。フランカー故の長い航続距離に感謝しなければ。ザイと自分達、どちらが先に着くかの競争だ。兎にも角にも急がなければ。トリガーが航路を決め、スロットルを上げようとしたその時、突如右後方から轟音が鳴り響いてきた。サイレンサーが故障した?いや、これは自分の航空機の音じゃない。キャノピー越しに振り返ると、あの眩しいほどのオレンジ色の輝きとハニカム模様の主翼が目に飛び込んできた。見間違える方が難しいこの機体はーーー

 

 ≪・・・お人好しは早死にするって誰かに言われなかったか?兄さん≫

 ≪ジュラーヴリク!?どうして・・・≫

 

 本来なら武装を消耗し、基地に帰投するはずのジュラーヴリクが、基地とはほぼ反対方向であるこちらの方位に追随してきていた。

 

 ≪ジュラーヴリクまで何をやっている!貴機は武装を消耗しているんだぞ!命令だ、アニマを撃墜されるリスクのある戦場へは飛ばせられない!基地へ戻れ!≫

 ≪何言ってんだ。武装ならあるぜ・・・使っていなかったミサイルが五発な。ラーストチュカにはとっととこっちに来るように伝えてくれ≫

 ≪ジュラーヴリク、君は・・・≫

 

 トリガーは追随してくるジュラーヴリクを見据える。

 

 ≪まさかどさくさに紛れて後ろから撃とうって腹じゃ・・・≫

 

 トリガーは警戒した。早死にというワードとミサイルがあることの宣言。あれだけ死合いをしておいていきなり後ろに付かれたのだ。警戒するなという方が無理があるだろう。

 当のジュラーヴリクは一瞬呆けたような表情をしたが、すぐさま心外だとばかりにインカムに怒鳴りつける。

 

 ≪ちげぇよ馬鹿!少なくともザイを目の前にしてあんたを撃つメリットなんて皆無だろうが!あたしは兄さんみたいに単機特攻する命知らずじゃねえよ≫

 ≪じゃあ、どうして≫

 

 武装を消耗したまま、命令に背いてまで付いてくるメリットなど向こうには無い筈だ。トリガーがそう思案し疑問をぶつけると、ジュラーヴリクは改まって無線越しに話し出す。

 

 ≪ザイは馬鹿が一人突っ込んだところでどうにかなる相手じゃねえ。だが馬鹿が二人ならどうにかなるかもな。Ворон ворону глаз не выклюет.(カラスはカラスの目を突っつかない。)ザイの撃墜という目的がお互いにある以上、裏切る理由もないって話だ≫

 ≪・・・・・・≫

 ≪それにだ。このザイは本来あたしらが相手取らなきゃいけない奴らなんだ。それを自分達の都合で弾をばら撒いておいて、再補給してくるからそれまでザイの相手を押し付けるだと?祖国の守護者として、そんなふざけた真似が出来るか!≫

 

 少女の姿から発せられているとは思えない力強い言葉が無線越しに響き渡る。広大な領空、そのすべてを守り通すという重責に耐え抜いてきた誇り。ジュラーヴリクの言葉からまっすぐな覚悟が伝わってきた。

 

 ≪・・・ありがとう、ジュラーヴリク≫

 ≪別にあんたに絆された訳じゃねえ。これはけじめだ。兄さんを軽んじていた自分。心のどこかで驕っていた自分に対してのな。だからその贖罪はきっちり果たす。基地を守り通すまで、あんたの援護を請け負ってやるよ≫

 

 だがな、とジュラーヴリクの言葉に冷気が混じる。

 

 ≪信用しきっていないのはこっちも同じだ。そっちがどさくさ紛れに撃とうとするなら、ザイと交戦してる最中だろうがあんたを墜とす。刺し違えてでもな≫

 ≪・・・了解した。生徒をわざわざ墜とす教官なんて存在しないさ。一つお願いだが、堕ちるなら自分の見えないところで頼む≫

 ≪もう教官気取りかよ・・・そっちこそ、あたしに墜とされなかったんだ。ザイにあっけなく墜とされたら承知しないからな≫

 

 ジャブのような軽口の応酬。しかしその軽い空気は、お互いが目的地の方角を見据えることで終わりを告げる。

 

 ≪行くぞ≫

 ≪ああ≫

 

 どっちが先か競うようにお互いのエンジンが咆哮を上げ、音速を遥かに超えるスピードで一組の鶴はザイが侵入した空域へと向かっていく。

 

 目的地は、ウラリスクとサラトフ州の中間。ザイの侵攻ルートだ。

 

*1
カザフスタン共和国の都市、オラルのロシア語表記




 長らくお待たせいたしました。
 この小説を書き始めてから少しロシアの地理に詳しくなったような気がします。意外と方位を調べつつ地図とにらめっこするの楽しいかもしれません。
 プチーツァ・アーセナルというアーセナルバードらしきものの存在。エンゲリス飛行場を攻撃せんとするザイへの迎撃に、ジュラーヴリクの援護を取り付けることに成功したトリガーですが、果たして成功するのか。空戦シーンに四苦八苦する未来しか見えませんがガンバリマス…!

 評価をしてくださった35628様、abc2148様、眼鏡ラビット様、桐月ダイ様、梅矢様、土塊501様、スカイキッド21様、mig21様、あかいあいつ様、ウツナ様、X兵隊元帥(曹長)様、ありがとうございます!この場を借りてお礼申し上げます!
 感想、評価、批判等々、お待ちしております。

 次回「Mayhem」
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