基地への攻勢に対応すべく、トリガーは戦場に駆り出される。トリガーは基地とパイロットを守りつつザイの連携攻撃をいなし、どうにかザイを一機撃墜することに成功する。しかし気を抜いてしまったトリガーに対し、ザイが再び攻撃を加えようとする。絶体絶命の窮地に陥ったトリガーを救ったのは、謎のオレンジとマリンブルーに発光する謎の戦闘機だった。
ロシア, クビンカ空軍基地
2017年5月26日 午後3時12分
≪では基地の被害はなく、ザイは撃滅できたのですね≫
≪全機破片にしてやったよ、中佐。当然だ。その前に向こうの部隊が一機墜としていたみてぇだけどな≫
≪向こう?基地の部隊が、ですか?≫
≪?・・・ああ。不自然に一機離れてたSu-30が撃墜したらしい。その後あっけなくケツに付かれてやがったけどな。≫
≪・・・ほう、Su-30、ですか≫
エイスク空軍基地
2017年5月26日 午後2時57分
バーバチカ部隊が作戦空域に到達後、数分も経たずザイの全滅の報告がカナレイカより伝えられた。パイロット救助用のヘリが慌ただしく救難ポイントに飛んでいくのを見ながら、アルチョム整備班長は深いため息を吐く。今回は何機墜ちただろう。いくらあいつが凄腕らしき片鱗を見せたとはいえ、ザイ相手に単機送り込んだところでどうにかなるわけじゃない。恐らく自分の身を守るので精一杯だっただろう。三日前もかなりの損害だったが、2週間前の作戦は酷かった。中国を超えて、カザフスタン方面を根城とするザイへの攻勢ミッション。この基地からも30機以上が上がったが、戻ってきたのはわずか五機だけだった。戻ってきたパイロットの虚ろな目からも、戦闘がどれほどの激戦、かつ圧倒的な戦いかが窺い知れた。パイロットの話では、自分たちの行く手を阻むかのように新型の空中空母らしきものを出してきたらしく、それは1㎞ほどの巨体と、底部からいくつもの制空型ザイを送り出し、本体はレーザーとCIWSのハリネズミ状態だったらしい。先遣部隊はことごとく壊滅し、あのバーバチカ部隊でさえも損傷を与えるのがやっとだったという。その新型はカザフスタン地域を守るかのようにその場を遊覧しており、攻めてくる気配は今のところないらしいが、いつそれがロシアに向けて針路を取るか分からない。そんな強大な戦力に比べこっちはどうだ。
そんな風に憂鬱な気分に浸っていると、帰ってきたであろう戦闘機の轟音が響いてきた。帰ってきたか。まず全滅はしなかったかと安心し、ハンガーから出た時、ふと違和感に気付く。数えきれないほど戦闘機のエンジン音を聞いてきたものにしか分からないこのやかましさ。エンジン音が1,2,3…いや、もっと多い。たまらず滑走路の方に駆け出したアルチョム整備班長は、信じられないものを見た。そこには、次々と着陸し、タキシングしてくるSu-35達。いくつかの機体に機銃が掠った跡こそあるものの、12機中9機が健在。ザイ五機を相手に30分耐え凌いだ上で、キルレシオが上回ったなど今まで聞いたこともない。アルチョムが呆然としていると、後からもう一機エンジンの轟音が聞こえてきた。まさか。その方向を見ると、あの時最後に送り出した淡いブルー塗装のSu-30が降りてくるのが見えた。まさか、やったのか。あのザイ達を相手に。基地のパイロットを守り通した上で、自らも生きて帰ってくるなんて。一体どんな魔法を使ったというんだ。アルチョムは暫く呆然としていたが、帰ってきた機体の整備を思い出し、ハンガーへと走っていった。
≪プレストプニック01、着陸を許可する。最後で滑走路を潰すなんてヘマはするなよ≫
≪プレストプニック01、着陸態勢に入る≫
管制塔からの指示を聞きながらフラップ、ギアのグリーンライトを確認し着陸態勢に移行。危なげなくタッチダウンする。あの輝く機体、途中で針路を左に向けて飛んで行ったな。向こうに元の基地があったのだろうか。お礼を言いたかったが自分は領空侵犯の犯罪者とされている。その時はいいが、後に知ったらどんな顔をされるか分かったものじゃないと無線も自重していたのだ。ふぅ、と溜め息を付きながらもトリガーは元のハンガーへと誘導される。その最中にふと視線を感じる。誘導員からも、ハンガー内の整備員とコックピット越しのパイロット達からも。まぁ、捕えているパイロットがいきなり自国の戦闘機に乗っているのはそれは驚くだろうが。しかし整備員まで見ているのはどういう訳だ?どことなくむずがゆい感覚を感じながら、トリガーは機体を目の前の待機しているトーイングカーに軸を合わせ、エンジンをカット。接続され、プッシュバックされながらハンガー内に機体ごと駐機した。
どっと疲れがあふれ出る。トリガーの入ったハンガーの脇には待機していた整備員、そして基地の兵士が二人立っていた。自分を拘束する為だろうか。警戒心が強いのも仕方はないが、せめて最初の時のような手荒な真似だけはして欲しくないが。トリガーはそう願いながら疲れた体に鞭を打ち、ハーネスを外すと、用意されたタラップを降りる。整備班が慌ただしく機体のチェックをする中、それを確認した二人の兵士が近付いてくる。どうせ独房行きだろう。分かってるよ。そう不貞腐れながら頭を機体に打たないようにSu-30から離れつつ、手荒にされないよう自分から両手を差し出すと、兵士たちは少し面食らった様子で、手錠を嵌める気はないとかぶりを振った。目を白黒させるトリガーに一人の兵士が前に出てこう言い放った。
「基地司令がお呼びだ。案内してやる。ついてこい」
エイスク空軍基地 基地司令室
2017年5月26日 午後3時25分
トリガーが案内された場所は、基地の司令室だった。奥には高級そうな黒張りの椅子と、仕事用のデスクとパソコンがあり、両脇にはロシアの旗が飾られている。手前には軍の偉い方の来客用なのか、広い机とその両脇にソファーが置かれていた。兵士たちにここで待て、と言われ、兵士たちは部屋の外で待機。トリガーはやることもなく、ソファーに座らせてもらうこと20分が経っただろうか。基地司令らしき人物が護衛と共に現れた。年齢は50代程だろうか。慌てて立とうとするトリガーを手で制し、もう一方のソファーに座る。護衛が両脇で待機したのを見計らい、司令は話を切り出した。
「君が・・・そうだな。プレストプニック01、いや、領空侵犯機のパイロット。私はペトロフ司令。ここの基地を任されている者だ」
思ったより丁寧な自己紹介に、トリガーは少し恐縮してしまう。
「・・・初めまして、ペトロフ司令。私は「オーシア国防空軍124戦闘戦術飛行隊、通称「ストライダー隊」隊長、TACネームはトリガー、だそうだな。」
「・・・そうです」
「ここへは裂け目に飲み込まれてきたと尋問官には話したそうだが?」
「その通りです。あのザイと呼ばれる機体と交戦した後、いきなり空間に亀裂が走ったような黒い裂け目に飲み込まれて」
何度も尋問官たちに説明した言葉。尋問官はこのことを一蹴したが、ペトロフ司令は目をゆっくりと閉じて、またゆっくりと話し始めた。
「尋問官が疑うのも無理はない。向こうでもザイを撃墜したという話だけでも荒唐無稽だというのに、そんな裂け目、オーシア連邦など作り話のような話、私も嘘だと切り捨てるだろう」
やっぱりか、トリガーは無表情ながらも顔に影を落とし、それを察知したのかペトロフ司令は続ける。
「しかし、そもそもザイという存在。そして君と君が乗ってきた機体の存在。そんな常識を覆されることが立て続けに起きれば、そんな現象もあり得ない話とは思えないように思えてくる。それに、君は嘘をついているようには見えないし、基地を曲がりなりにも救ってくれた君の言葉を信じたいと思っている。君の飛行は見事だった。この基地を代表して、感謝する。そして半ば鉄砲玉の如く出撃させたことを詫びよう」
「・・・いえ、そんな」
謙遜するトリガーに対し、しかし、とペトロフ司令は表情を険しくする。
「かと言って、我が祖国の空域に無断で踏み入り、領空を犯した罪は変わらない。このまま領空侵犯のことがロシア国防省に通達されれば、君の飛行に対し全責任を負った私は基地司令を辞任。君はよくて首都モスクワへ飛ばされ裁判、最悪スパイ容疑で銃殺刑となるだろう。ロシアの機密を知ったものに、国外に出る術はない」
「・・・ッ」
銃殺刑、その言葉にトリガーは小さく肩を震わす。その時、ペトロフ司令はこう切り出した。
「しかし、君のことにいち早く気付いたある特殊部隊の副官が君のザイ撃墜記録を評価し、君が望むならばザイの撃墜スコアを現エイスク空軍基地のパイロットの戦果とし、君をこの基地に初めからいなかった様に取り計らうと進言した。彼の指揮する部隊に所属することが条件だが」
副官?部隊に所属?いきなりの言葉に困惑を隠せないトリガーだったが、銃殺刑という最悪のパターンよりはよっぽどマシな申し出の筈だ。話だけでも聞いてみよう。そうトリガーは決心し、ペトロフ司令に尋ねた。
「・・・その部隊の名前は?」
ペトロフ司令は言おうが言うまいか迷った素振りを見せたが、やがて、その部隊の名前を口にした。
「トリガー、君にロシア航空宇宙軍第972親衛航空戦隊「バーバチカ」の飛行教導機の誘いが来ている」
執筆最中にお気に入りを30件以上も頂いて、驚くと同時に、とても感謝しています。期待に沿える文章を書かなきゃ、書かなきゃ・・・(目ぐるぐる)
最高評価を入れてくださった茂庭綱元さん、みつ味パンツさん、BOFさんも本当にありがとうございます!この場を借りて感謝申し上げます!
一気に話がきな臭くなってまいりました。いつの間にやらトリガーの情報を手に入れていた謎の副官。そして名前が登場したロシアの特殊部隊「バーバチカ」。トリガーを引き入れようとするバーバチカの目的や如何に。
小説の評価、感想、批判等々、お待ちしております。
次回「蝶との出会い ③」