私は、貴方になるんだ。君のために
幸せな時を切り裂いた不愉快な自動車の音。
それは僕と彼女の時を鋭敏に裂いた。
辺り一面を真っ赤に変える
その水溜まりの中心に横たわる1人の高校生くらいの女。
そこから少し離れた所に呆気に取られ、目の前の事が把握しきれてない様子の男。
少し先にもその赤は続いていて、もう助からないであろう量。
男は、その鮮血に染まるもう二度と息をする事が無い女の子に歩み寄り、抱き上げる。
また太陽の様な笑みを浮かべて、優しい声で、『翔君』と呼んでくれることは無い。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
声にならない寂しい叫び声。
その声は何処までも響き、悲しく空に溶けていく。
手にべっとりと付く赤黒い液体が、受け入れられない現実を突きつける。
僕の彼女は死んでしまったのだと。
* * *
「うわぁぁぁ!」
虫も静まる夜に僕は飛び起きた。
身体にはびっしょりと脂汗をかいていた。
変な夢を見た。
僕の彼女、
そんな事はあるはずがない。
だって、望は生きている。
明日になればきっと、僕の家に来るはずだ。
明るい笑顔と共に。
そして、僕は最近、2人で撮った写真を眺めて落ち着きもう一度眠りについた。
最近は良くこの夢を見る。
そんなことはあるはずでは無いのに。
***
朝、起きると美味しそうな香りがした。
目を擦りながら下に下りると、望が朝ごはんを作ってくれていた。
毎日、親が居ない僕の為にご飯を作って一緒に食べる。
キッチンで、鼻歌を歌いながら灰色のショートカットの髪を揺らしながら味噌汁をかき混ぜている。
「おはよう。
「……おはよう、翔君。ご飯出来たよ。」
「いつもありがとうな。」
「翔君の為なら大丈夫だよ。」
ニコリと彼女は微笑んだ。
やっぱり、望は生きているんだ。あれは夢なんだ。
「今日、飛び込み……じゃなくて、部活あるから帰るの遅くなるね。」
「おう、頑張って。」
その後は、彼女はカバンを持ってそそくさと学校へ出かけて言った。
僕は学校へは行っていない。
休学中になっている。
本当は望と浦の星女学院に通いたいのだが、あまり気が進まない。
テスト生と言うこともあってある程度の融通は聞いたので学校は休ませてもらっている。
学校は女子がいっぱいで気が落ち着かない。
***
「曜ちゃんおはよう。」
「あ、梨子ちゃん!おはヨーソロー!」
私はバスに揺られ、千歌ちゃんと合流する為に十千万近くのバス停にいつの間にか着いていた。
千歌ちゃんは眠そうな目を擦りながらいて、クスリと笑みが零れた。
千歌ちゃんの朝弱いのは昔から変わらないね。
"昔"から。
その言葉に私の胸にひとつの陰りが出来た。
「曜ちゃんだいじょうぶ?」
「千歌ちゃん、大丈夫だよ。元気いっぱいであります!」
バシッと敬礼を決める。
ちゃんと決まると気持ちいいね!
***
暫く色んな事で話で盛り上がっていると浦女行きのバスが到着したので乗り込んだ。
眠いのか千歌ちゃんは乗って直ぐに寝てしまった。他に乗客はおらず、私と梨子ちゃんと寝ている千歌ちゃんだけ。
前は4人で行ってたのになぁ………
私は一抹の寂しさを覚えた。
「まだ翔君ダメなんだ………」
「うん……まだ、"私を望ちゃんだと思ってるみたい"」
梨子ちゃんが顔を俯かせた。
「いいや、私を望ちゃんだと思い込んで精神を保ってるって言った方がいいかもね。」
私達にはもう1人幼なじみと言うか昔から遊んでいた女の子がいた。
最初は翔君が女の子を連れていたから少し嫉妬したけど、遊んで行くうちに仲良くなっていった。
そんな彼女と翔君が付き合った。
私には素直には祝福し難い出来事だった。
私も翔君が好きだったから。
でもそんな彼女は事故で、トラックに轢かれて死んでしまった。
その時の彼の悲しみはどのくらいだろうか。
私も、もちろん悲しかったけど、彼の悲しみの方が深いはずだ。
その出来事から1週間経っても彼は家から出てこなかった。
心配になって私は家に行った。
そしたら彼は……
「のぞみ………?のぞみ!」
痩せてしまった彼が縋り付くように私に抱きついてきた。
私ではない名前を呼びながら。
もう死んでしまった彼女の名を………
そんな彼を見ていられなくて、私は涙を堪え、笑顔でこういった。
「そうだよ、私は望ちゃんだよ。」
偽る事があなたの傍にいられるのなら。
キミがもし、気づいたら、思い出したら。
次は私があなたの隣に立ちたいな