【悲報】俺氏、セミファイナルまでで消えることが確定   作:Mamama

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今更ながら剣盾を買って、プレイしている最中に思いついたネタ




「う、うぅ……ひっぐ……!」

 

 ポケモン世界で言えばもう良い歳した大人―――つまり俺が道路の端っこでしくしくと泣いている。エンジンシティは巨大な都市故に人通りも盛んなのだが、皆一様に俺の事を無視するか、視線を逸らしてそそくさと離れるかのどちらかだ。

大人がこんなに泣いていれば一人くらいは俺に声を掛けてくれたっていいものなのに、都会というのは余りにも残酷だ。俺が生まれた田舎であれば『どうしたの?』と優しいお姉さんが声を掛けてくれることは間違いないというのに。いや都会とか以前にこの世界が残酷なんだ。物語は主人公に対しては優しいかもしれないが、名無しのモブには兎に角厳しい。

 

泣いているとガラルに来る前のホウエン地方の嫌な記憶の数々が思い出される。ホウエン地方ではマグマ団達には徹底的に出くわさないし、俺がルネシティに辿り着いた時にはもう全てが終わっていた。チャンピオンロードでは主人公のハルカと思わしき少女にバトルを挑んでコテンパンに伸されるやらで、俺は大変な屈辱を味わった。

……いや、別にゲームの主人公にマウントを取りたいとかそういうわけじゃないのだが。ただ、俺も一トレーナーである以上は圧倒的に負けたことが悔しいのだ。

 

俺とてホウエンではジムバッジを8つ集め、チャンピオンロードに挑んだ身だ。それなりの修羅場を潜ったという自負はあるし、手持ちの練度だってあったはずだ。なのにハルカには鎧袖一触に片付けられた。例えばそれが良く分からない原作補正だとかであればまだ良かった。そういった不確定要素の多くがハルカに優位に働いたというのは確かにあったが、それを抜きにしても俺が負けた理由は単純で明確な実力差だった。つまり俺が弱かっただけ。それが俺を更に惨めにさせていた。

 

才能というのは必ずある。心のどこかで薄々感じていたことだが、それは確信に変わる。だってそうだろう。俺が負けたのは良いさ。俺が単純に弱かっただけの一言で片が付く。

でもチャンピオンは違うだろう? 仮にもホウエンのトップに君臨するチャンピオンがトレーナー歴一年程度の少女に負けるのか?そんなことは許されてもいいのか?

ハルカには圧倒的な才能があるということが分かってしまった。チャンピオンすら凌駕する才能の塊は恐ろしいほどの暴力としか言いようがない。

チャンピオンのダイゴ相手に堂々と立ち回って勝利を収めるハルカを見て、俺は心が軋む音を聞いた。

 

そんなこんなで傷心状態の俺は暫く実家で引きこもった挙句、ホウエンを離れる決心をした。逃げたと言われたらそれは否定できない。暫く世間との接触を遮断していたお蔭か、俺の脆くなった精神は大分マシになった。そうしてガラルに乗り込み、『流石に時間軸が違うやろ』と高を括って意気揚々と慣れないユニフォームに着替えて開幕式に挑み、何気なく隣を見て、次の瞬間に俺は崩れ落ちた。

 

『え? だ、大丈夫ですか?』

『……つかぬ事をお伺いしますが』

『は、はい。あ、でも体調が悪いなら救護班の人を呼ばないと……』

 

 美少女が俺の背中を擦ってくれるのは役得なのかもしれないが、俺はそれどころでなかった。心臓の鼓動が早鐘を打つ。狭心症にでもなってしまったのかと思うほどで、それだけ俺はパニックに陥っていた。

 

『貴方の名前をお聞かせいただいてもいいでしょうか?』

 

 馬鹿丁寧な口調で俺は聞く。

 

『この状況で!? え、と。ユウリです』

 

 ……なんで此処にいるんですかねぇ、ユウリさん。

 

ガラル地方ではチャンピオンに挑むためにトーナメント方式を取っている。まずはセミファイナル。全てのバッヂを集めた者達によるトーナメントを行う。そこに参加していたのはユウリ、ホップ、マリィ、そして名も知らぬモブトレーナーだ。そのモブトレーナーの描写といえばホップが圧倒する―――要するにボコボコにされるだけ、という余りにも哀れなものだった。

 

ユウリがいるということは当然他の二人もいるわけで、つまり俺がどれだけ勝ち進んでも最終的にはホップにボコられるだけという悲惨な未来が待ち受けている。俺が脳内に描いていた華やかな未来は硝子のようにあっさり砕け散った。

 

【悲報】俺氏、確実にセミファイナルトーナメントで消える

 

ついそんなスレ立てをしてしまうほどには俺も現実逃避をしていた。ちなみにスレ自体はそこそこ伸びたのだが、その殆どが懐疑的というか妄想扱いされて最終的には哀れまれた。

 

「酷えよ、酷えよなぁ、クチート」

 

 俺は相棒であるオスのクチートを掻き抱きながら泣いた。クチートの方は実に面倒臭そうな表情を浮かべているような気がしたが、長年相棒である俺のクチートがそんな薄情なわけがない。内心ではコイツも義憤しているはずだ。俺には分かる。

 

……このままジムチャレンジをしないでどこかに消えちまおうか。

そんな弱音も出てくる。ただ俺のちっぽけなトレーナーとしての意地がそれを邪魔していた。この世界に生まれ落ちて結構な時間が経って、俺もすっかりこの世界で生きる一人のトレーナーになった。此処で逃げたら、俺は一生逃げるだけじゃないのか?それは俺に付き従ってくれるポケモン達に対する裏切りではないのか?いや、でもしかし―――

 

よくわからない感情の渦に叩きこまれ、極度の混乱にあった俺はホテルに戻る気力すら湧いてこず、こんなところで泣いているのだった。

 

「……どうしたの?」

「んあ?」

 

 しくしく泣いている俺に声を掛ける一つの声。顔を上げるが涙が溢れすぎてまともに相手の顔すら見えない。年若い少女とだけ分かった。

 

「こんなところで泣いてるから心配になって声をかけたの。なにかあったの?」

「……それは」

 

 誰かは知らないが、正直に話すわけにはいかない。さっきのスレみたいに妄想扱いされるのがオチだ。ただ、折角声を掛けてきてくれた少女を邪険にするのも憚れた。俺は話を抽象的にまとめて話すことにした。

 

「俺は……自分で言うのもなんだけどそこそこのトレーナーなんだよ。チャンピオンロードにも挑んだし、そこでだって戦えてた。でも……いや、だから分かっちまうんだよな。なまじ強くなったからこそ、相手との差ってやつが」

 

 ユウリは今のところ、ただの新人トレーナーだ。しかしすぐに頭角を現してくるだろう。今ならば勝てるかもしれないが、いずれ俺はあっという間に追い越されて俺が追う者へと立場は逆転する。何よりも俺はそれが怖い。お前なんて何の価値も無いトレーナーなんだと、指を差されている気分になる。

 

「……それってチャンピオンのこと?」

 

 ダンデの事ではないが、それを否定するのもまた話が拗れるので俺は頷いておいた。

 

「絶対に勝てない。それが分かっちまって足が竦むんだ。ただ、俺も積み上げてきたものがあるからプライドが邪魔して逃げることも出来ないんだ。俺は一体どうすればいいんだろうな、ってそう思ってたらなんか泣いてた」

 

 なんかこうやって言葉にすると更に自分が情けなくなる。年下であろう少女に話を聞いてもらっているという今の状況を含めて。

 

「なら諦めるの? ダンデと戦ったこともないのに?」

「……」

「あたしには分かんないよ。チャレンジもしないで挫折するなんて」

 

 それはお前が挫折を味わったことがないからだ、なんて事は言えない。それを言ってしまえば本当に俺はクソ野郎に成り下がってしまう。少女はため息を吐いた。そして、

 

「シャキっとせんね!」

 

 唐突に少女から放たれる叱咤の言葉。俺はビビったこともあってその言葉に反射的に従う。

 

「もう、こんなに泣いて。はいハンカチ」

「お、おう。助かる」

 

 あれ、今の喋り方……と疑問を挟む間もなくハンカチが俺に差し出される。なんとなくその声に逆らいづらいものを感じて俺は素直に受け取る。女物のハンカチを野郎の涙で汚していいものかという若干の逡巡があったが、好意に甘えて顔を拭く。

 

「……うん。ちょっとはマシな顔になった」

「……」

 

 薄い表情に少しだけ笑みを作る少女が目に入って俺は固まった。特徴的な髪型にパンクファッション。ついでににめんポケモンのモルペコも控えている。

 

「泣きよーばっかりじゃ何も変わらんでしょ。 全部やってみて、それでも駄目だったら泣けば良い。だから今は泣かんで行動すること! 分かった!?」

「はい……」

 

 街中で年下の女の子に説教されるという公開処刑を味わった俺だが、全面的に少女の言うことが正しいため俺は羞恥に耐えながら返答した。街中でしくしく泣いている段階で恥もクソもあったもんじゃないが、少女に叱られて多少自分を取り戻すと如何に自分がアホな真似をしていたのか改めて気づかされた。少女―――ああもうマリィでいいや。マリィの方もどこか恥ずかしそうだ。思いっきり注目されているし、それも致し方無い。

 

「……ねぇ、お兄さん強いんでしょ? チャンピオンロードに行ったって、他の地方?」

「ホウエンだ。そこそこには自信があるつもりだったよ。今となっちゃそんな自負は脆いもんだけどな」

「ふーん。強いならあたしとバトルしてよ。あたしもチャンピオンになるつもりだからさ!」

 

 言うなりマリィは俺の手を引いて走り出す。

 

「おいちょっと! いきなり走りだすと危ないだろ!」

 

 突然の事に慌てて胸の中にいるクチートを落としそうになって、クチートは抗議の声を上げた。

 

「乙女心が分かっとらんね! あんな注目されて恥ずかしかと!」

「痛い痛い! 手ぇ強く握るな!」

「直ぐ近くがワイルドエリアだから! そこで一本勝負ね!」

「分かった! 分かったから!」

 

 先ほどよりも余程騒がしく俺達は街中を走り抜けた。恥ずかしいというなら手を放せよ、と思わなくもないがマリィの方もあれでいっぱいいっぱいなのだろう。

 

―――これが俺とマリィの出会いであり、この先も腐れ縁のような形で続いていくなんて、当時の俺は思いもしなかった。街中でマリィと出会うことが多くなり、しばしば行動を共にしていくのだが―――ジュンサーさんに声を掛けられた時、俺とマリィの関係性を尋ねられて、俺の事を堂々と『弟です』と宣ったことは今でも大変遺憾に思っていると付け加えておく。

 

 




マリィかわいいよマリィ

肝心のお姉ちゃんプレイが全然書けてないとか些末な問題。
導入で力つきたので、後は誰か書いて下さい。
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