【悲報】俺氏、セミファイナルまでで消えることが確定   作:Mamama

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決戦!マリィよりも戦闘!マリィの方が好きなんだけど、あんまり分かってくれる人がいないこの頃


ジグザグマな貴方へⅢ

「アンタ、ジムリーダーに興味とかないですか?」

 

 誤解は解け、彼もようやく泣き止んだ。そして兄貴がそんな言葉を口にした時、彼の表情はどこか固く、鋭利なものになった。普段の彼とは違う、進化直前のマッスグマのような、荒ぶるような気配をあたしは感じた。

 

「まさかとは思いますが、俺をジムリーダーに推薦しようとか思ってます?」

「アンタが良ければの話ですけどね」

「……自分で言うのもなんですけど、俺ってばこれでもホウエンでもジムバッヂを8つ集めましたしね。そこそこ強いっていう自負はありますけど、強けりゃいいってもんでもないでしょ? そこのところはどうです?」

「……ああ、その通り。おれとアンタは今日ここで初めて言葉を交えたんだ。だから話半分に聞いてくれて良い。第一おれの独断だけでジムリーダーを任命なんてできないですしね」

「でしょうね。そもそも、なんで俺を?」

 

 あたしには彼をジムリーダーに推薦したい兄貴の考えが理解出来た。彼はダイマックスをこれまで一度も使ったことがなかった。スパイクタウンではダイマックスが使えないから、それを使わずに戦えるトレーナーをジムリーダーとして据えたいんだろう。

予想通り、兄貴は彼に向かってそんな説明をした。

 

「……確かに俺はダイマックスを使いませんから、ネズさんの言う条件に合致してますね。ただ、俺じゃジムリーダーにとって一番大事な仕事をこなせないんで」

「一番大事な仕事?」

「ほら、ジムリーダーって負けるのも仕事じゃないですか。そりゃこれまで幾らでも負けてきましたけどね、だからって負けたいわけじゃないんですよ。俺、根本的に子供なんですよ」

 

 彼の言葉にあたしは最初のジムリーダーであるヤローさんのことを思い出した。当時のあたしにとってはとんでもない強敵だった。しかし今であればあれだけ苦戦したワタシラガと戦ってもそんなに苦労はしないと思う。

それはヤローさんが弱いからとかそういったわけではなく、あたしに合わせて手加減をしていたからだ。実際、あたしと戦っていた時の手持ちと、去年のファイナルトーナメントでは手持ちがまるで違っている。

 

……手加減、というのは少し違うかもしれない。ヤローさんに限らず他のジムリーダー全員が手持ちを制限したうえで全力で戦っていた。全力で戦っているからこそ、彼らも負けるのは悔しいのだ。

しかしそれはある意味敗北を強要されている、という見方も出来るかもしれない。

なんの制限もないヤローさんと戦っていたらあたしは間違いなく負けている。

ジムリーダーは負けるのも仕事。確かに言われてみればその通りだ。

その仕事は彼に取って受け入れられないものらしい。

 

「ポケモン達も連戦すれば疲労も蓄積しますし、俺も人間なんで指示ミスやら運が悪かったとかで負けることって普通にあります。でも負けたら後で改めて叩き潰してますからね。そんな俺がジムリーダーなんて務まらないでしょう。ネズさんの気持ちはありがたいんですけどね」

「……そうか。まあ気が変わったら声を掛けてくれると嬉しいね」

「ええ。……その時が来れば、俺も嬉しいですね」

 

 どこか寂しそうに言って、彼は兄貴から距離を取る。

言うべきことは言った、ということだろうか。後ろを向いて再び兄貴の方を振り向いた時は普段の弱々しさは完全に消えていた。

進化直前のマッスグマはタチフサグマに進化して、戦意の高まった瞳で兄貴を射抜く。

 

「ふぅ……」

 

 兄貴はそれを受けて一つため息を吐いただけだった。普通のトレーナーなら怖気づいてしまうほどの戦意を叩きつけられても表情を変えないあたり、やっぱり兄貴も凄腕のトレーナーだ。

 

「今日はもう二人も勝たせてしまってね。それにマリィも見てる手前、おれも無様な勝負をしないように努力しますよ」

「ハハ、心にもないこと言わないでくださいよ。そんな殊勝なこと、欠片も思ってないくせに」

 

 犬歯を剥きだしにして彼は攻撃的に笑って研ぎ澄まされた目付きのまま、腰のボールに手を伸ばす。こなれた手つきでボールを弄びながら軽く真上に放りなげ、それをキャッチする。そして腕を伸ばし、ボールを構える。

それを受けて兄貴もボールを取り出し、マイクスタンドを手繰り寄せる。シンガーソングライターでもある兄貴のマイクパフォーマンスだ。すぅ、と息を深く吸い込み兄貴の目にも力が入った。

だん!と力強く地面をマイクスタンドで突く。

 

「おれは! スパイクタウンジムリーダー! あくタイプポケモンの天才、人呼んで哀愁のネズ!! 負けるとわかっていても挑む愚かなおまえのためにウキウキな仲間とともに! 行くぜー! スパイクタウン!! まずはメンバー紹介から!」

 

 そして同時にボールが放たれる。

 

「行け! タチフサグマ!」

「出番だ! ドラピオン!」

 

 飛び出た二匹のポケモンは戦意が十二分に昂っている様子で、次の瞬間には激しくぶつかった。

 

 

 

 

 

 

 彼という生き物の生態がどうにも分からない。知り合ってそれなりの時間が過ぎた。彼のちょっとした特徴、例えば好きな食べ物とか苦手なものとか、そういったものは諳んじられるようになった。

でもそれは表面上のものであって、内面に深く根差すものではない。

 

『俺、今も十分大人なんだけど昔はもっと大人だったんだよ。でもさ、チャンピオンロードで色々あってそれがトラウマみたいになって、駄目になっちゃったんだ』

 

 前にふと彼が漏らしたそんな言葉を思い出す。彼に何かあったのはあたしにだって分かる。普段は情緒不安定のくせに、バトルの時では苛烈になる。あたしのモルペコのように二面性を持っていて、自然にそうなったと考えるのは不自然だ。

ちらり、と横目で彼を見る。彼は具合が悪そうに呻いている。今あたし達はエンジンシティの一角のレストランで食事を採っている。兄貴に無事勝利した、ということで祝勝会を行っている最中だ。

カレーが絶品ということで頼んだはいいものの、中辛を注文したあたしに対抗した彼は一番辛いものを注文して、予想通り悶絶した。なんとか食べ終えたが、お腹がしくしく痛むそうでしきりにお腹を擦っている。

 

「……お腹、大丈夫?」

「……うん。大分良くなった」

 

 あたしは店員さん呼んで水を持ってきてもらうように頼む。ありがとうねぇ、と彼は老人のような声を上げた。

 

「まったく、そんなに無理して食べるから」

「いや、だって残すのはもったいないし。俺なら余裕だと思ったんだもん……」

 

弱々しい様子からは先ほどの激闘を制したトレーナーの姿は欠片も見えない。

 

「……ねぇ、そういえば最近日焼けした? というかちょっと太った?」

 

 彼の顔を見ていると、ふとそんな感想が出てきた。出会った当初は病的なまでの白さだったが、今は少し違う。白いことには間違いないけど、なんというか健康的な白さだ。体格についても元々が病人のように痩せていたから、まだ細く感じる。けれど全体的に多少はマシになったように感じる。

 

「あ、分かる? 大分戻ってきたんだ」

「戻ってきたって、前はもっと焼けてたし、体重もあったと?」

「……あー、まあそんな感じ」

 

 そこで少し彼は言葉を濁す。

 

「……それって、例のトラウマが関係してるの?」

 

 彼の言うトラウマとはなんなのだろう。あそこまで強い彼の心を叩き折った出来事とは、どれほどのものだろう。ずっとそれは気がかりだった。でもそれを問いただすということは彼のトラウマをほじくり返すということで、軽く聞くのも憚れる。今のジグザグマな彼のことが嫌いなわけじゃないし、変わって欲しいなんて思ってるわけでもない。

ただ、そのトラウマとやらに未だに苦しんでいるというのなら、あたしが手を差し伸べてあげたいのだ。

その思いは彼の事情を察した時から持ち続けていたものだったが、その欲求は時が経過する度に大きくなっていった。

そして今、あたしは明確にその件について切り込んだ。

 

「いや、それは……」

「何? 言えんと?」

「いや、言えないっていうか」

 

 もしかすると、あたしは焦っているのかもしれない。

あたしと彼は7つのジムバッヂを集めた。最後のジムリーダーであるキバナさんに勝つことが出来ればジムチャレンジの旅は終わりだ。

それが終われば―――彼は、どうなってしまうのだろう。

元々彼はここの出身ではない。ホウエンという場所から来たという。

このジムチャレンジがどう終わるにせよ、終わってしまえばガラルに残る用事はない。きっと彼はホウエンに帰ってしまうのだろう。

 

だから実を言うと、あたしは彼がジムリーダーになる兄貴の案には賛成だった。

あたしはチャンピオンで彼はスパイクタウンのジムリーダー。そうなれば今みたいな関係はずっと続く。けれど彼が望まない以上、それは夢物語だ。

きっと今のような距離感ではなくなる。近くに居て、手を伸ばせば触れられる距離ではなくずっとずっと遠くなる。ロトムフォンがあるから電話は掛けられる。偶に長い休みの時に会えたりも出来るかもしれない。けれど、今よりずっと遠くなることは間違いない。

あたしには、それがどうしても怖いことだった。

 

ただ、あたしの我儘の為にずっとガラルに残って欲しいなんてことは言えない。彼には彼の生活があるし、向こうでやらなくちゃいけないことだってあるかもしれない。

向こうに帰ると言われて、それを止める権利なんてあたしにはない。

それが分かるくらいにはあたしだって分別はある。だからこそ、だ。

 

別れの時が近いというのなら、それが避けられないというのなら、せめて納得のいく終わりにしたい。もやもやとした感情が燻ったまま終わってしまうのではなく、最後には泣きながらも晴れやかに終わりたいと思ったのだ。そのために、心残りなんて残すべきじゃない。

 

「……ちょっと恥ずかしいんだけどさ、その、引きこもってた時期があって。半年くらいだったかな。外にもあんまり出なくなったし光も浴びてなかったから。俺も病人みたいになって」

 

 あたしの真剣な顔を見て、何かを感じ取ったのか彼は時折言葉を濁しながらも話してくれた。

けど、そうじゃない。あたしが知りたいのはもっともっと深い根っこの部分。

 

「そもそも何でそんな風になったの?」

「いや、それは……」

「あんだけ情けないところを見せておいて、言いづらいとか無しだから。そもそも、あたしと初めてあった時にかいつまんで話してくれたでしょ」

「いや、あれは行き摺りの関係で終わると思ってたから逆に言えたんだよ。まさか、こんなに関係が続くなんて思ってなかったし……。っていうか大体のことは知ってるんだからそれでいいじゃん」

「駄目」

 

 彼はあたしの顔をじぃっと見て一つため息を零した。

 

「……分かんないな。俺の過去なんて知ったってどうしようもないじゃん。なんで俺のことなんて知りたいの? 興味本位だったら止めて欲しいんだけど」

「興味本位なんかじゃない」

「じゃあなんでだよ」

 

 ちょっと不機嫌そうに彼はそう言った。

 

なんで、と聞かれると返答は難しい。いや、別に難しいわけじゃないけどそれを口に出すのには大分勇気がいる。嫌がる彼に過去を語らせようとしている癖にあたしは正直に言わない、なんてのは卑怯かもしれないけど。

でも、そういうのって男が気を利かせてくれるものじゃないのか。

 

「だって、あたしはあんたのお姉ちゃんだから」

 

 その言葉は半分本当で半分嘘。そんな風に誤魔化してしまった言葉の真意を汲み取ってくれ、なんて虫がいいかもしれないけど。 

 

あたしの想いは、貴方にちゃんと伝わっているでしょうか。

 

 

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