【悲報】俺氏、セミファイナルまでで消えることが確定   作:Mamama

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一話じゃ終わらなかったので、もう一話使います。


砕ける世界の前と後Ⅱ

 「チャンピオンロードを抜けようと思うんだ」

 

 プリムに連行された少し後のことだ。話があると呼ばれて来た俺にリョウタロウは開口一番にそう言った。リョウタロウは俺と同世代のトレーナーで、共にキンセツシティのポケモンスクールに通って親友とも呼べる間柄だ。厳しい環境故に心を折られて去るトレーナーの数は多い。慣れたとはいえなくても割り切ったはずだったが、親しい仲でもあるリョウタロウの言葉は俺に深く突き刺さった。

 

「……何故?」

「何故って、お前だって分かるだろう。俺は未だカゲツさんを一度すら突破出来てないんだ。……もう、限界なんだよ」

 

 俺は一瞬視界が真っ赤に染まるのを感じた。胸倉を掴もうと伸ばした手はすんでのところで止められた。燃え滾る感情に強引に蓋をして、何度か深呼吸を繰り返す。

そうすると話を聞ける程度の余裕が戻った。

 

「……悪い、ちょっとカッとなった」

「いや、俺が悪いんだ。……お前との約束、果たせなくなっちまったからな」

 

 ポケモンスクール時代に俺とリョウタロウは一つの約束をした。他愛のない、子供の約束だ。

どっちかがチャンピオンになって、どっちかがチャレンジャー。そしてデカい舞台で盛大に戦おう。

……そんな淡い、かつての記憶が俺の脳裏に蘇った。

俺は適当な岩にどっかりと腰を下ろした。そうやってリョウタロウと距離を取らなければ思いっきりぶん殴ってしまいそうだった。

リョウタロウを視界にいれたくなくて目を伏せる。そうしていると昔のことばかりを思い出す。

本当に、本当に楽しい日々だったのだ。

 

「……なんで今なんだ」

 

 掠れた声で問う。

 

「この間、カゲツさんのグラエナとノクタスは倒せたじゃねえか。エースのアブソルを引き出せたじゃねえか。……前よりいい勝負が出来るようになっただろ? 勝ち筋だって見えてきたんじゃないか? もっと前に諦めるなら分かる。どうして、今になって諦めるんだ?」

 

 僅かでも進歩はあったはずだ。それなのに、どうして今になって。

 

「どうして、か……。なんつうか、分かっちまったからかな」

 

 俺はリョウタロウの顔を見る。心折れた絶望しきった顔ではない。諦観の表情でありながらも、どこか朗らかな表情だった。

それは此処を去るトレーナーにはありえない表情だった。

彼らは大抵失意の果てに絶望してこの場所を去る。……あの顔は、何度見ても慣れないものだ。

その中の何人かは俺が再起不能に追い込んでしまったのだから猶更だ。

 

「分かったって。そういえば、昨日からお前の様子はなんか変だった。何かあったのか?」

「ああ。まあ、一人のトレーナーに遭ったんだ。そんで負けた」

「……それだけか? お前はそれだけで此処から出ていくのか? 俺もお前も数えきれないほど負けてきただろうが」

 

 一度の敗北も味わわないトレーナーなど居はしない。敗北に敗北を重ね、そしてだからこそ強いトレーナーへと錬磨されていくのだ。次こそは負けない、その強い決意と共に。

だから俺は負けたとしても必ず再戦を挑んで勝ちを捥ぎ取ってきた。四天王だって同じだ。確かに今の俺ではまだ力が足りないかもしれない。そこは認める。だが、いずれ勝つ。

俺は、勝たなければいけないのだから。

 

「そうだよな。俺達は何度も何度も負けてきた」

 

 俺の熱の籠った言葉とは裏腹に、リョウタロウの言葉は澄み切っていて柔らかい。それは明らかに不自然で気持ちが悪い。

 

「何度負けたって最終的に勝てばいい。そうして俺達は自分の価値を示し続けるんだってな。……これは俺がセンリさんに負けた時にお前が言ってくれた言葉だったか」

「……ああ」

「お前の言葉に嘘はないし、一つの真理でもあるんだろう。でもさ、絶対に勝てない相手が出てきたらどうする?」

 

 まるで哲学のような問いかけだ。俺はこれまでそんなことを考えたことすらなかった。四天王やチャンピオンは確かに強い。ただ、付け入る隙がまったく無いわけではない。

現に俺はカゲツとフヨウを突破しているし、プリムとだって戦えている。

今はプリムの方が格上だとしても、絶望するまでの差はないと思っている。三度目の挑戦でエースのトドゼルガを引っぱりだしたのだ。後は戦いの流れを掴み、主導権を握れれば不細工な形かもしれないが勝ちだって拾えるだろう。

リョウタロウの言葉通り、俺は数えきれない程負けてきた。しかしそうあがいても勝ちようがない無敵の存在なんて出会ったことがない。

 

「それは……勝つまで挑むしか無いだろ」

「何度挑んだとしても絶対に勝てないんだ。何度繰り返してもどれだけ鍛錬を重ねても、どう足掻いても」

「哲学の話は嫌いじゃないが、この期に及んで煙に巻くような言動は止めろ。そんな空想の存在を仮定してどうなる」

「俺が負けたトレーナーの話さ。あれはトレーナーの理想だ。全てのトレーナーが目指す頂だ」

 

 打って変わって力強く語るリョウタロウ。リョウタロウは間違いなく強いトレーナーだ。全てのジムバッジを集め、長くチャンピオンロードに居続けている。カゲツだけとはいえ、四天王の一角と戦ってもいる。そのリョウタロウがそこまで熱弁するトレーナーとは確かに尋常の存在ではない。

 

「……本当に、そんなヤツがいたのか」

 

 半信半疑だ。リョウタロウほどのトレーナーが見誤るとは思えないが、そんな存在は御伽話の中でしか許されない存在だろう。

 

「ああ、いたんだ。……あれは、俺の理想だ。俺がこれまでずっと追いかけ続けていたものだ」

「そのトレーナーがお前の理想だって言うなら、そのトレーナーを追いかければいいじゃねえか」

「理想って届かないから理想なんだ」

 

 一変して、寂しそうにリョウタロウは呟く。

 

「戦っているうちに分かったんだ。……いや、思い知らされたっていう方が正しいのかな。俺の人生をこれから全てポケモンバトルに捧げたとしても、あの領域には届かない。……それにさ、そいつのトレーナー歴どれぐらいだと思う? 旅を始めて一年だとさ」

「ハァ!?」

 

 流石に俺も声を荒げた。リョウタロウが此処まで言うヤツのトレーナー歴が一年なんて、俄かには信じられない。

 

「まさか騙られたか?」

「いや、俺よりも年下の女の子だったし嘘じゃないだろう。少なくともトレーナー歴は俺達よりずっと短い。それは動かない」

 

リョウタロウは話し続ける。その言葉の中にはこれまで聞いたことのない、熱っぽさがあった。

 

「見た目は普通の女の子だったんだ。なんかの間違いで迷い込んだかと思ったぐらいでさ。でも本当に戦いは素晴らしかった。俺は、殆ど何も出来ずに負けちまったよ。それぐらい圧倒的だった。……負けたらさ、思ったんだ。俺のこれまではなんだったんだろうなって」

 

 自画自賛になるが俺達はキンセツで神童と言われるほどセンスがあった。俺は特に知識面で優れていることもあり、ポケモンスクールでの成績は筆記もバトルも卒業まで一位を保持し続けてきた。リョウタロウは万年二位だったが、俺のような存在はそもそもイレギュラーだ。リョウタロウも周りからも才能があると言われ続けて来たし、実際に勝利を重ねてきた。勿論、その中には苦しい敗北だってあっただろう。だがそれだって乗り越えてきた。そしてチャンピオンロードにまでたどり着いて―――トレーナー歴一年の少女に圧倒された。

 

「……」

 

 その時のリョウタロウの想いはどれだけのものだったのだろう。それはリョウタロウにしか分からない。そしてもう一つ、分からないことがある

 

「……悔しくないのかよ。お前のこれまでが否定されたってんなら、そういう感情だって出てくるだろうが」

 

 それが一番不可解なことだ。何故負けてそんな穏やかな表情を浮かべられるのか。

 

「本当はさ、俺も薄々気づいてはいたんだ。俺はチャンピオンにはなれないって。けど、踏ん切りがつかなくてなんとなく此処に残ってた。でもあの女の子に負けて……納得したんだよ。俺がチャンピオンの器じゃないって、これ以上明確に。あの子になら負けていいなと思ってしまった。……だから、俺は諦めるよ」

 

 そしてリョウタロウはこれからの展望を語り始める。実家に戻って暫くゆっくりした後はポケモンレンジャーの試験を受けるとか、そんな事を優し気な顔で喋り始める。正直、聞いていられなかった。

 

「そいつの名前は?」

 

 話を遮って俺は聞く。

 

「名前は……聞いてなかったな。でも特徴なら覚えてるよ。スパッツに、赤いバンダナを巻いてた。……噂、聞いたことあるだろ? マグマ団をほぼ単独で潰してルネに出てきた馬鹿でかいポケモンを倒したって。多分その子だ」

「……そうかよ」

 

 薄々と予感はあった。出来れば外れて欲しいと思っていたが、やはりそうは問屋が卸さないらしい。

俺は岩から立ち上がった。そしてリョウタロウに背を向けて奥に歩き始める。

 

「どこにいくんだ?」

「決まってるだろ。俺もバトルを仕掛けるんだよ、そのトレーナーにな」

「……止めといた方が良いんじゃないか」

 

 その言葉に俺は振り返ってリョウタロウを睨んだ。

 

「俺が負けると?」

「お前が俺より強いことは知ってるさ。でもあの女の子が負ける姿を俺は想像できない。それに、お前は負けるだけじゃ済まないかもしれない」

 

 それがどういう意味か聞くまでもない。俺はリョウタロウを無視して奥に急いだ。

 

 

 

 

 

 

 リョウタロウがおかしかったのは昨日からの話だ。時間を考えればまだチャンピオンロードにいるはずだ。俺の第二の故郷とも呼べるようになったチャンピオンロードは険しいが、抜け道なんていくらでも知っている。出口付近に繋がるショートカットをすれば先回りも可能なはずだ。

 

「ふざけるな、ふざけるなよ……!」

 

 道中、俺の心は荒れに荒れていた。後先考えず、思い切り岩肌を殴りつける。痛みと共に血が滲んでくるが、痛みは感じなかった。

認められないのだ、そんな存在は。此処はれっきとした現実で、画面越しに眺めていた虚構の世界ではない。たった一年でジムバッジを集める傍らマグマ団を潰して、ついでに伝説のポケモンも倒したって? 舐めるのも大概にしろ。

確かに俺もミーハーな気分で主人公を探したりする時期はあった。しかしいくら探しても出会えないし、この世界に身をおいている間に浮ついた感情はとっくの昔に消え失せていた。だから最近はそもそも主人公なんていないんじゃないか、と思っていた。

マグマ団が壊滅したという噂だって、何かの間違いか誇張されたものだと思っていた。

だってそんなことは現実的に不可能だ。たった一人で悪の結社目掛けて突撃する少女がいるとしたら、それはただの自殺としか言いようがない。

詰まらない噂話だと思っていたが、もしもそんなトレーナーが実在するとしたら才能があるとか、天才とかそんな生ぬるい言葉では片づけられない。

まるで世界そのものが味方をしているような―――。

馬鹿げた妄想を振り払う。今はそんなことを考えている場合ではない。

 

出口付近に辿り着き、暫く待つ。待った時間はそれほど長くはなかった。眩しいライトが点滅したと思えば、続いて響く地面をタイヤで擦る音。

そうして眼前には少女がいた。リョウタロウの証言と一致する、自転車に乗った見た目は極々普通の少女だ。

 

「よぉ」

 

 俺は至って気安く少女に声を掛けた。少女は俺の声に反応して、頭を軽く下げる。

 

「君がマグマ団を潰してルネに出現したデカいポケモンを鎮めたっていう噂のトレーナーか?」

 

 ここまで来ればほぼ確定なのだが、念のために質問を投げかける。俺の質問に少女は困ったような顔を浮かべた。

 

「……はい。でも、私一人だけの力じゃないです。ダイゴさん……チャンピオンも力を貸してくれましたし。私は大したこと―――」

「そういうの、やめてくれないか」

 

 俺は少女の言葉を遮った。たとえその言葉に悪意がなかったとしても、その言葉だけは許容していいものではない。

 

「謙虚は美徳かもしれない。けど過ぎればそれは嫌味だ。チャンピオンロードで君は沢山のトレーナーと戦ってきたんだろう? 此処に来たってことはそいつ等全員に勝ってきたということ。……君が大したことないなら他の連中は塵か何かか?」

 

 俺はこれまで多くのトレーナーと戦ってきた。中には俺に負けて挫折し、トレーナーを諦めたヤツだっている。俺の背後には数えきれないほどの躯が横たわっていて、俺はただ一人その先で立っている。振り返ると俺が壊してしまった彼らが倒れ伏したまま無数の目で俺をじっと見るのだ。

だから俺は諦められない。だって、俺が諦めてしまったらそんな彼らになんの意味も無くなってしまうじゃないか。そしてだからこそ俺は、自らの才能を誇る。それが折れてしまった彼らに対する手向けであると信じている。

 

「……すいません」

「いや、これは俺の思想で君に押し付けるのは間違いだ。ただ覚えてくれ。君にとっては雑魚同然のトレーナーでも彼らは生きている人間でプライドだってある。だから俺は君に誇って欲しい。負けてしまった彼らを無価値にしてほしくないんだ」

「……はい」

「長々と話して悪かった。……まあ、こうしてトレーナー同士の目が遭ったんだ。やることは一つ。天才共の巣窟をあっさり突破した君の価値を、俺にも見せてくれよ」

 

 俺はボールを構える。そして少女は少し迷うような素振りを見せた。

 

「……どうした? 回復したいなら待つが」

「いえ、私のポケモンは先ほど全快させています。……勝負を挑まれた以上は私も受けないわけにはいきませんね」

 

 自転車を降りて、少女はボールを構える。

一瞬の間があり、指し示したように同時のボールを投げる。

 

「行って! バシャーモ!」

「出てこい! サクラビス!」

 

 一目見ればバシャーモが異様なまでに鍛え上げられていることは分かる。これまで見てきたポケモン達が霞む程の堂々とした威容は、間違いなく難敵だ。

まるで目の前に佇んでいるかのような圧倒的な感覚に身震いしそうになるが、俺は自らを鼓舞するように笑ってやった。

 

「どうする。相性の面じゃそっちが不利なようだが、交代するか?」

「問題ありません。この子は私が最も信頼するポケモンです」

「……ああ、そうかい」

 

 本当に少女が全幅の信頼を置いている故なのか、少女はポケモンを替えようとしない。確かにタイプ相性だけで勝負が決するほどポケモンバトルは甘いものではない。相性はバトルを有利にする条件の一つというだけであって、勝敗を決定づける絶対的なものではない。相性を覆して勝ちを拾ったことは俺にだってある。

ただ、それは他に有利を取れるポケモンがいなかったとか、何かしらの理由によるものだ。

苦しい勝利を敢えて狙う必要はどこにもないし、意味がない。

そして炎タイプで挑まなければならない理由なんて今ここにはない。ここまで来れるトレーナーがタイプ相性を理解していないはずがない。炎は水に弱い。こんなのはトレーナーでなくても分かることだ。

ならば行きつく結論はただ一つ。

 

「舐めてんじゃ―――」

 

 歯が軋む。噛み切った唇からは生暖かい雫が垂れた。

 

「―――ねえよ! 『ハイドロポンプ』!」

「『ブレイズキック』」

 

 言葉の直後、紅蓮と紺碧が衝突した。

 

 




イメージとしてはハルカさん→ゲームの世界 その他→割とリアルな世界

ちなみにそのせいでハルカさんの精神状態が結構やばいことになっている設定ですが、多分深く描かないと思います。


感想に対する返信は今基本的に行っていませんが、全て読ませてもらっています。
これからも応援のほど、よろしくお願いします。
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