【悲報】俺氏、セミファイナルまでで消えることが確定   作:Mamama

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ハルカさん「敗北を知りたい」


砕ける世界の前と後Ⅲ

「―――じゃあついでだ。ポケモン勝負してやろうか?トレーナーってどんなものかオレがおしえてやるよ!」

 

 生まれて初めてのトレーナー戦はユウキ君とだった。相手はミズゴロウで私のアチャモでは相性が悪い。つい先ほど博士からポケモンを貰ったばかりの新米トレーナーだけど、それくらいは私でも分かる。それにユウキ君は私よりもトレーナー歴だって長い。どれぐらいの差があるか分からないけど、私が勝つのはかなり厳しいはずだった。

けれど、勝った。ミズゴロウは水タイプの技がまだ使えないようで、それが幸いした。

 

「……ふうん、ハルカって強いんだね。父さんがハルカのことを注目する理由も分かったきがする」

「え? えへへ、そうかな?」

 

 単純に勝てたことが嬉しかった。最初のバトルなんだから、やっぱり気持ちよく勝ちたかった。

その時の私はただ浮かれているばかりで、深くは考えなかった。

 

「ふうん……かなり育ててるんだな。ちょっとくやしいな。トレーナーとしてはオレのほうがセンパイだったのに……」

 

 けれどミナモデパートの前で聞いたユウキ君の言葉に、私は考えてしまったのだ。

―――なんで、私が勝てたの? 

ミナモデパート前の勝負の件はまだ良い。けれど、一番最初にユウキ君と勝負をした時に私が勝てたのは何故だろう。

 

私のバトル経験なんて博士を襲っていたポチエナだけで、素人丸出しだったはず。

あの時のバトルはお互いノーマル技しか使っていなかったし、ポケモンの能力も多分大体同じくらいだった。なら、勝負を決定づけたのはトレーナーの腕の差なのか。いやそうなるとやっぱり素人の私が勝てたことはおかしい。それが才能なんだ、なんて言われても納得できない。

 

そもそも、ユウキ君は私よりもトレーナー歴が長いのに、どうしてミズゴロウを鍛えなかったんだろう。

もらったばかりのアチャモと競り合えるレベルだったんだから、ミズゴロウも大して鍛えられていなかったはずだ。今までは深く考えてなかったけど、一度思考の沼に嵌るとどんどん深みに沈んでいく。

なんで皆、私に勝てないんだろう。マグマ団リーダーのマツブサだって弱かった。

ルネシティに出現したグラードンだって普通に倒せた。

 

世界は私の都合の良いように作られている。次繰り出してくるポケモンは大体分かるし、技は絶対にあたる。それを鬼才だ、と皆私を褒め称える。それが私にはいまいちわからなかった。凄い人に師事しているわけではない。特別なことなんて何もやっていない。私はただ普通に旅をして普通にバトルをしているだけなのに。

チャンピオンロード。8つのジムバッジを集めたトレーナー達も、やっぱり大したことなかった。

ミツル君も初めてキンセツシティで戦った時と比べるととても強くなっていたけど、私には及ばない。

そしてチャンピオンロードの出口を通せんぼうするように背の高い青年が私の前に立ちふさがった。

 

「謙虚は美徳かもしれない。けど過ぎればそれは嫌味だ。チャンピオンロードで君は沢山のトレーナーと戦ってきたんだろう? 此処に来たってことはそいつ等全員に勝ってきたということ。……君が大したことないなら他の連中は塵か何かか?」

 

 彼らにだって此処まで来るだけの実力があって、それを容易く捻じ伏せた私は客観的に見れば凄いトレーナーなんだろう。でも私はそれを殊更に主張する気分にはなれない。

だって私は自分がごく普通の女の子だと知っている。

 

青年は私に誇れと言った。青年が言う言葉の内容は理解できる。ただ、私なんかがそんなものを誇っていいものではないと思う。寧ろそれは私に負けたトレーナーにこそ言うべきことだ。

私との勝負に膝を折って、それでも尚立ち上がる気概を見せる彼らこそが誇り高い。

懸命に堪え、それでもと私を睨む姿。例え敗北でも、それはきっと輝くような眩しいものだと私は思うのだ。

 

だから私は敗北を知りたい。そうすれば、きっと私は救われると思う。この歪んだ世界に亀裂が入って、私は普通の女の子に戻れるのだ。

もしかすると眼前の青年がそうなのかもしれない、と思った。私を打ち伏せ、真っ平な暗闇から引きずりだしてくれる夢のような存在なのかもしれない。

青年からにじみ出る覇気は強者のそれ。きっとこのトレーナーは今まで私が戦ってきたトレーナーの誰よりも強い。だから、少しだけ期待してしまった。

 

「……俺の、負けだ……!」

 

 ―――そんなこと、あるはずがないのにね。

 

 膝をついて打ちひしがれる青年の脇を通り抜ける。ミツル君よりかは強かった。きっと強いトレーナーなんだろうと思う。でもそれだけだ。

一体どこにいるんだろう。私を救って(壊して)くれる存在は。此処までやってきたからにはもう四天王とチャンピオンに期待するしかない。

眩い出口に足を踏み出そうとすると後ろで物音がした。振り返ると、先ほどの青年が固い地面を素手で殴り付けていた。肩が震えている。声を押し殺して泣いている。

これまで私が何回も見てきた光景だ。

 

……あーあ。

また壊れちゃった。

 

 

 

 

 

 

 ハイドロポンプの一撃を強引に押し返し、ブレイズキックがサクラビスを直撃した。それだけでもうサクラビスは戦闘が出来る状態ではなくなった。

技の相性で劣っており、尚且つハイドロポンプで多少なりとも勢いが減衰しているにも関わらずだ。

全身が寒気立つ。化け物とは思っていたが、まさかあそこまでとは俺も思っていなかった。

 

「ッ、オオスバメ!」

 

 次に選んだポケモンはオオスバメ。天井が洞窟の内部はオオスバメの強みを潰すことになるが、それでも素早さは俺の手持ちの中でも随一であり、格闘に有効な飛行技だって豊富だ。

 

「『ツバメがえし』!」

 

 この世界には必中技なんてものは存在しない。しかし速度に振り切ったその技はオオスバメが持つ高い素早さも相まって正確にバシャーモを捉えた。そしてバシャーモは異様な速度でオオスバメを雁字搦めに固定した。

 

「! オオス―――」

「『ばかぢから』」

 

 本当に一瞬だ。一瞬で俺のオオスバメは倒れた。

地面に落下するオオスバメを労りながらボールに戻す。ボールを持つ俺の手は震えていた。強いとかそんなレベルの話ではない。俺だって素人じゃない。ポケモン達も全員鍛え上げている。

そんな彼らが殆どなにも出来ず、戦闘不能になった。

強すぎる。弱音を強引にねじ伏せ、ペルシアンを繰り出す。またしても瞬殺だ。

 

……俺が今やっているものは本当にポケモンバトルなのか?

いや、こんなものはポケモンバトルではない。ただの虐殺だ。自分から勝負を挑んだ癖に俺は叫びそうになった。それほどまでに俺がこれまでしてきたポケモンバトルと乖離している。技と技との競いなどではなく、一方的な虐殺。バシャーモが技を繰り出せば一瞬で俺のポケモンは墜ちる。それは虐殺であると同時に、作業のようでもあった。

 

キレイハナもブレイズキックに倒された。残る一体は俺の長年の相棒であるクチート。

ボールを取り出し、投げようとした。けれどボールは俺の手に残ったままだ。

頭が思いっきり命じても、身体はそれに反して言う事を聞いてくれない。

小刻みに震える指は固く閉ざされて、ボールを離すまいと抵抗している。

 

諦めろ、と本能が語りかけてくるのだ。

うるせえよ。俺はまだ負けてない。俺が信頼するクチートは多くの強敵に打ち勝ってきた。だから今度だって。

―――諦めろよ、俺。

黙れ。頼むから黙ってくれ。勝てないなんて俺が一番分かってるんだ。でも勝てないことと諦めることは同義じゃない。一度くらいの敗北なんて受け入れる。でも諦めたら本当に駄目なんだ。

絶対に勝てないんだと思ってしまったら、生涯コイツに敵わないと思ってしまったら。

俺がこれまで積み上げてきたもの、切り捨ててきたものが全部無駄になるじゃないか。

だから諦めるのは駄目だ。そんなことは分かっているのに。

 

「……どうしましたか?」

 

 静かに声を掛けられて俺は少女の顔を見る。無感動な瞳が俺の見ていた。

 

「次のポケモンがいるなら出してください。無ければ私の勝ちです」

 

 少女はこの戦いに何の価値も見出していないようだった。だってそうでなかったらあんな顔はしない。感情が乗せられていない顔は、見ようによっては心底詰まらなそうでもある。

 

嗚呼。俺はこんなにも必死で藻掻いているのに、お前にはなんの価値もない戦いなのか。

俺のポケモン達は作業のように事務的に片づけられるだけの存在だったのか。

そんな顔をしないでくれ。無感動に睥睨しないでくれ。『お前にはなんの価値もないんだ』と言わないでくれ。俺のこれまでを、頼むから否定しないでくれ。

そんなのは嫌だろう。だから動いてくれよ、俺。

 

「……俺、は」

 

 みしみしと軋む音。継ぎ接ぎだらけの硝子が軋んでいる。その言葉を言ってしまったら本当に終わってしまうと分かっている。けれど怯えた本能は勝手に俺の口を動かしていく。

 

「……俺の、負けだ……!」

 

 クチートが入ったボールを握りしめた腕が力なく下がる。降伏宣言だ。戦えるポケモンはまだいるのに、俺は諦めた。

足腰が砕け、俺は無様に膝を折る。少女は俺を一瞥し、脇を通りぬけていった。

最後の最後まで、俺を見ながらも俺という存在が眼中にない、そんな態度を貫き通して。

歯を食いしばって地面を殴る。俺は情けなさのあまり声を押し殺して泣いた。

少女は確かに異様なまでに強かった。しかし、それは俺が諦める理由にはなんらならない。

 

挫折なんてものは結局自分との勝負だ。俺が弱かったから折れてしまったのだ。

これまで築き上げてきたもの、誇りやプライドや実績。それらが音を立てて崩壊する。

残ってしまったのはちっぽけな自分という存在だ。

嗚咽が抑えられなくなってきた。ここまで大泣きするのは物心ついてからは初めてで、俺はリョウタロウが来るまで身体を丸めて小さい子供のように泣きじゃくった。

……ごめん。おれ、まけちゃったよ。

それは一体誰に向けて謝っているのか、謝罪している俺本人ですらわからなかった。

 

 

 

 

 

 

 チャンピオン防衛戦はテレビ放映がされる。ホウエンのトップを決める戦いであるが故に注目度は高く、観客席も満員だ。その中に俺とリョウタロウもいた。

リョウタロウがチケットの抽選で当選して、俺を誘ったのだ。俺は正直来たくはなかった。

だが廃人同様でホテルに籠っていた俺をリョウタロウが強引に引っ張りだしてきたのだ。

 

「始まるみたいだな」

「……ああ」

 

 俺は無気力な身体を酷使してバトルフィールドを見る。

……俺達が夢見た場所。もう、俺達では届かない場所。観客の熱気に包まれて戦ったらどんなに盛り上がるだろうか。もう、叶わない思いがここに来ても噴出する。

チャンピオンのダイゴと少女は握手を交わし、勝負が始まる。

俺とリョウタロウにとっては驚くべくことではないが、周りの観客達は驚愕のあまりどよめきが起きていた。チャンピオンが少女に押されている姿は俄かには信じられない光景だろう。

 

「……おい」

「ん?」

「お前、泣いてるぞ」

 

 目に触れる。確かにそこからは大量の涙が流れでていた。

 

「大丈夫かよ、お前。あの子に負けてから凄い涙脆くなってるぞ。……そんなにあの子に負けたのがトラウマなのか? 今からでもホテルに―――」

「いや、違うんだ」

 

 確かにあの少女に負けてから俺はこれまでにない無力感に苛まれている。あの一戦は間違いなくトラウマになっているし、涙脆くなっていることも否定しない。

ただこの涙はそうではない。悲しいから、恐ろしいから流しているものではない。

 

「なぁ、リョウタロウ。……綺麗だよなぁ、あれ」

「……ああ。そうだな」

 

 俺が言わんとしていることをリョウタロウも分かったのか、神妙な顔をして頷いた。

少女の操るバシャーモは本当に美しかった。その姿ではなく、躍動する動きそのものが。

エアームドの攻撃を避ける姿は華麗で演舞のよう。動作一つ一つも洗練され、周囲に舞う焔がその美しさを際立たせている。合理的でありながら明媚で、それでいて荒々しく。

一体どれほどの鍛錬を重ねればあれだけの動きが出来るようになるのだろう。あんなもの、今の俺はおろかこれから何十年と研鑽を重ねても無理だろう。

これは感動だ。涙を流すに足る芸術を俺は今眺めている。戦っている最中ではなく、観客席から見るとそれが良く分かる。バトルを見て美しいと思ったのは、きっと生まれて初めてだ。

 

「見ろよ、チャンピオンロードに居る奴は全員、重苦しい顔をしてる」

「ああ。……そいつらの気持ち、分かるよ」

 

 彼らはたとえ少女に瞬殺されたとはいえ、一握りの高位のトレーナーだ。バシャーモの演舞がどれほど凄まじいものか、その価値を分かっている。

そして一様に皆こう思っていることだろう。『あれには勝てない』と。

俺もそうだ。僅かに残っていたプライドの残骸はたった今、粉微塵に踏みつぶされた。

あれには勝てないと納得してしまったのだ。そして認めてしまった以上は、俺も此処に残ることは出来ない。

 

決着がつく。チャンピオンは防衛に失敗し、チャレンジャーが新しいチャンピオンの座に君臨することになる。その結果はチャンピオンロードを根城にする連中に重く受け止められた。多くの者が去っていき、俺もまたその一人だった。

 

 

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