【悲報】俺氏、セミファイナルまでで消えることが確定   作:Mamama

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ようやく過去編終わり
※本日2話目です


砕ける世界の前と後Ⅴ

「どんなに連絡しても全然出ないから、様子を見にきたのよ」

 

 優雅に湯飲みを傾けながらプリムはそう言った。四天王って暇なのだろうか、と俺は思った。キンセツキッチンでも思ったことだが、気品のある佇まいだけでも様になる。なんの変哲もないテーブルが豪奢な造りに見えてきた。

親父とお袋はこの場に居ない。大事な話だから、という理由で席を外してもらっている。

 

「ごめんなさいね。家に押し掛けた挙句、ご両親には席を外してもらって」

「いや、それはいいですよ。うちの両親、そんな狭量じゃないです」

「……そう。そう言ってもらうと助かるわ」

 

 とん、とプリムは湯飲みを置いて俺をじっと見た。

 

「……なんというか、その……そういう趣味だったのかしら? いえ、ケチをつけるわけじゃないのだけれど」

「誤解です」

「……まあ良いわ。話の本題じゃないし」

「そうですよ。なんでプリムさんが態々家に来てるんですか?」

「言ったでしょ、様子を見に来たって」

 

 プリムは視線をずらしながら俺を見る。そしてため息を吐いた。

 

「……衰えたわね。いえ、一般トレーナーと比べるとずっと力はあるんでしょうけど、わたくしと対峙した時と比べると随分見劣りするわ」

「……今、トレーナーとして全然活動してませんからね」

 

 この半年、俺はポケモンバトルから離れていた。最初の数か月はそれが出来るほどの精神状態ではなかったし、そもそも今の俺はトレーナーを名乗れない。

 

「そんなにチャンピオンに負けたことが響いたのかしら?」

「……知ってるんですか?」

 

 野良試合故にプリムが知っているとは思えないが、プリムは確信したような口ぶりだった。

 

「分かるわよ。貴方が心を折られるとしたら、絶対に勝てない相手と対峙した時だろうから」

「……そうですよ。プリムさんにあれだけ生意気なこと言っておいて、こんなザマです。笑えるでしょ?」

「笑わないわ。貴方の気持ち、わたくしも少しは分かるもの」

 

 プリムはどこか憂いを帯びた目で言った。そして目を細める。四天王であるプリムは当然、あの少女とも戦っている。当時の戦いを反芻でもしていのだろうか。

 

「『あれにはどうやったって敵わない』そう思ってしまったら、チャレンジャーは終わりよ。そしてあの女の子はどんなトレーナーであろうともそう思わせるだけの力がある。貴方には折れて欲しくはなかったのだけれどね。……それで、どう? 貴方はそのままでいいのかしら」

 

 挑発するようなプリムの物言いに俺の中にある灰が一瞬燃え上がるが、それはすぐに力尽きる。

このままでいい訳がない。ただ、俺には起き上がる気力がない。どうしても、あの時の恐ろしさの方が勝ってしまう。

 

「……そもそもプリムさんは、今日何をしに来たんですか? 四天王が態々乗り込んでくるなんて普通じゃないです」

 

 俺は話を逸らした。ただ、俺は本当にプリムが此処にきた理由が分からなかった。

 

「貴方にちょっと話を持ってきたのよ。ただ、そのためには前提として貴方がポケモントレーナーである必要があるわ」

「……じゃあ、無理ですよ。俺は今トレーナーじゃないですから」

「今はトレーナーじゃない? じゃあ貴方がいうトレーナーの定義ってなに? 何をすればトレーナーなのかしら」

「……それはポケモンとの信頼関係を築き、勝負に勝つことでしょう。だから俺はトレーナーではないんですよ。クチートとの信頼関係を壊してしまいましたし、折れちゃいましたから」

「初めから信頼関係が築けるトレーナーなんていないわ。それはゆっくり時間を掛けて作っていくものだし、喧嘩をしたら仲直りをすればいいでしょ? 勝負にしてもそう。勝者がいれば敗者がいるのだから、負けたっていいのよ」

「……わかんないですよ。だったらトレーナーとしてのプリムさんが考える義務ってなんですか」

「そんなものはないわ」

 

 あまりに堂々とした答えで俺は自分の耳を疑った。

 

「だって関係なんて考えなんて人それぞれだもの。ビジネスライクと割り切っていることが絶対に悪とは言い切れないし、バトルを遊びの一環として捉えることが悪いわけでもない。少し関係が悪くなったからトレーナーの資格を失うわけじゃないわ。貴方は今でもトレーナーなのよ」

「いや、その言葉の通りだと俺はトレーナー失格ですよ。俺達はチャンピオンを目指してた。そのためにアイツらも付いてきたわけですし、それに応えられなかったら駄目じゃないですか」

 

 だからクチートも俺と目を合わせてくれないのだ。俺がどんなに呼びかけても視線を逸らしてしまうのだ。俺が弱いから。俺が諦めてしまったから。

 

「……俺は怖いんですよ。今でもあの光景が夢に出るくらいです。あれが本当に怖くて、俺は諦めてしまって―――」

「貴方、ちょっとポケモン達を見くびり過ぎじゃないかしら。それに諦めることと立ち上がらないことは同義ではないわ」

 

 俺の言葉を遮ってプリムが強く言った。

 

「チャンピオンを諦めたっていいじゃない。怯えながらも立ち上がれば良いのよ。長年連れ添ったポケモン達は諦めたら離れるほど薄情ではないし、そもそも貴方は本当にチャンピオンを目指していたの?」

「……どういう意味ですか」

「勝負の時の貴方は獰猛でいて勝つために効率を突き詰めて、極力無駄を排除していた。でもね、そうするとおかしいのよ」

「……何が、ですか」

「もっと別のポケモンを使っても良かったんじゃない? そのためにポケモンセンターにボックス機能があるわけなんだし、手持ちを変えるトレーナーなんていくらでもいるわ。なのにどうして貴方は手持ちの五体に拘ったのかしら」

「……それは、だって連携も大事ですし」

「ポケモンとの連携は大事よ。実際貴方はその部分だけで言えばダイゴに近かったと言ってもいいでしょう。でもそれって他のポケモンを捕まえて、訓練すればいい話でしょ?」

 

 バトルにおいて強いポケモンを使えば良いというわけではない。例えばドラゴンタイプは強力だが、それを扱えるトレーナーは一握りだ。強いポケモンを使うにはトレーナー自身も強くなくてはいけないからだ。

 

「戦って分かったけど、貴方は勝負においてはストイックだし勝つために非情な決断も出来るタイプよね。だったら戦い以前の段階でそういう非情な決断が出来なかったのは何故? ご丁寧に手持ちを一体も変えず、三度に渡って私に挑んだのは何故? ……いいえ、そうでなくても新しい手持ちを加えなかったのは何故?」

 

 熱が入ったように語るプリム。怒涛の質問に俺は答えを返せないでいた。

 

「それは……その、俺にとって縁があったポケモンだったから。そいつらで勝ちたいと思ったからですよ」

 

 しどろもどろになりつつもようやく俺は返事を返す。俺のポケモン達は全員俺と縁が合って出会った奴らだ。そいつ等と一緒に勝ちたいと思う事は別におかしくはない。

 

「そうよね。思い出のあるポケモンと一緒に戦いたいと思う事は別に不思議なことではないわ。でもそれって、彼らと一緒に戦うことが大事だったってことよね?」

 

 考えたことが無かった。俺は自分のポケモン達と一緒にどうやって勝つのかを考えるばかりで、草むらを探してポケモンを捕まえようなんて思ったことがなかった。

 

「そうかもしれませんが……」

 

 俺は渋々肯定した。

 

「だったら矛盾が生じるのよ。貴方は勝たなくていけない、という思想の一方で勝つための努力を放棄しているんだから」

 

 最初のうちは純粋に旅が楽しかった。相棒達と色んな場所を見ることは新鮮だった。バトルでは大体勝っていたが勿論負けることもあって、次こそは勝つとリベンジに燃えていた。それは単純に負けたことが悔しかったからだ。

……一体いつからだろう。勝ちたいという考えから勝たなければいけないという思考に陥ったのは。

でもプリムの言う通りだ。負けてしまった彼らのためにも勝たなければいけないというのなら、手持ちを替えるという選択をしても良かったはずだ。

 

「その矛盾、或いは歪みがどこで生じたのかなんて聞く気はないけどね。貴方はチャンピオンに絶対勝てないと思ったからチャレンジャーとして折れてしまったのでしょう? でももしチャンピオンになることが一番大事じゃなかったとしたら、そもそも折れる理由なんてないじゃない。そうじゃなかったとしても、さっき言った通りゆっくり歩けばいいのよ」

 

 勝たなければいけないと思った。絶対に勝てないと思ってしまったから、俺は諦めるしかなかった。でも俺だってポケモンが好きでトレーナーになったんだ。トレーナーを辞めたいわけじゃない。

……俺は、またトレーナーに戻れるのだろうか。

 

「……随分と喋ったわね。まあこのプリムがここまで言うのだから素直に受け取っておきなさい。後はこれ」

 

 プリムは俺に便箋を手渡す。ポケモンリーグ協会公式の封筒だった。

 

「ガラル地方って知ってる? 今回一般トレーナーの招待枠があったのよ。わたくしは貴方を推薦しておいたから、興味があるならポケモンリーグを尋ねなさい。旅をしていればトラウマも薄まるだろうから、悪い話じゃないと思うわ」

 

 そう言い残し、プリムは颯爽と去っていく。

何故俺を推薦したのだろうか、なんて聞く暇もなかった。言いたいことだけを言ってプリムは行ってしまった。

 

「俺は……」

 

 未だに恐怖が蘇る。このトラウマを克服できる日がやってくる日がいつになるのかもわからない。それでもいいのだろうか。諦めながらも俺はもう一度、トレーナーを名乗ってもいいのだろうか。四天王のプリムがそこまで言ったのだから、俺はもう一度やり直せるんじゃないか?

……いいや、それよりも以前に確認しなければならないことがある。

 

「なぁクチート」

 

 俺は独り言のように誰もいないリビングで聞かせるように呟いた。

 

「俺はまだ諦めたまんまだ。半年間で大分腕も鈍ったし、不自由させちまうかもしれない。それでも……カッコ悪いけど、諦めたままだけど、前を向いて立つって言ったら。俺がもう一回トレーナーをやっていくっていったら、お前は俺を信じてくれるか?」

 

 ごそり、と物音がした。玄関に繋がる扉は開けっ放しで、そこから小さい影がひょっこり現れた。視線が合って、クチートは小さく鳴いた。半年間、ずっと逸らされた視線はようやく合った。

 

「……そっか。ありがとう」

 

 俺は久しぶりに笑って、封筒を手に取った。

 

 

 

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