【悲報】俺氏、セミファイナルまでで消えることが確定   作:Mamama

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 マリィの真剣な顔に押され、俺はマリィにこれまでの経緯を話した。思い出したくない記憶のはずなのに俺の口からは思いのほか言葉が出てきて、結構な長丁場になっていた。

俺の拙い話をマリィは黙って聞いていた。話がようやく終わると昼食を取る時間はとっくに過ぎて、店内に人の影は少なくなってきている。

 

「―――まあ、ガラルに来たのはそういう経緯があったからだ」

 

 こんなにも長々と喋るのは初めてかもしれない。喉が渇いていて、ミネラルウォーターを口に含む。

元々腹の痛みがあって持ってきてもらったものなのだが、腹よりも喉の方が痛くなっていた。温くなったそれを飲み込むと、喉の痛みに僅かに染みた。

 

「……」

 

 俺の話を聞いて、マリィは始終難しそうな顔だった。まあ、そうだろう。俺が聞き手だったとしてこんな話を聞いてどんな反応をすれば分からない。それに俺としても別に同情してほしいわけでもない。

こんな話は幾らでもある。

 

「……まだ、やっぱり苦しいと?」

「そりゃそうよ。未だに夢見るくらいだし、そんな簡単にはあの過去を振り切れないさ」

 

 前と比べるとずっとよくなってきたとは思う。しかし克服出来たかと言うと、それは違う。俺はまだチャンピオンロードの悪夢に囚われたままだ。

 

「なんていうか、初めてあった時は情けない人だなっていう風に感じとったけど、そんなことがあったなんて」

「別に誰にでもホイホイ話すことでもないからなぁ。……今も昔も俺は情けない男だよ」

 

 あの少女に心を折られたのは俺だけじゃないだろう。しかし、少女に負けた全員が折れてしまったかと言われればそれも違う。中には奮起し、再び立ち上がったやつだっているはずだ。

……諦めたまま、それも先人から背中を押されて辛うじて立ちあがれた俺とは違って。

俺は弱い人間だ。バトルの実力などではなくて、精神的に脆い。

 

「それでも、頑張って立ったんでしょ? なら―――」

「頑張ったよ。今でも頑張ってるさ。でも、でもそんなもんは当然だろ?」

 

 勝ちたいと思うなら、自分を貫き通したいと思うなら、それだけの実績を残さないといけない。そのために頑張る、つまり努力なんてのはそのための前提に過ぎない。どんなに才能があったとしても、努力はしないといけない。そしてその努力が報われる保証なんてのはどこにもない。

こんなものは別にポケモントレーナーに限った話じゃない。

ジムバッヂを8つ集めて四天王に挑戦した俺はまだ報われてる方だ。

 

「誰だって努力してるよ。お前だってそうだろ?」

「ん、まあ」

 

 俺がマリィの相談に乗ったのも一度や二度ではない。ポケモン関連でいえば俺に一日の長があるから良く俺に相談を持ち掛けてきたものだった。マリィも7つのバッジを集めてきたトレーナーだが、その道は生半可なものではなかった。それを、俺は知っている。

 

「……あたしはまだ、そんな風に折れたことがないから分からんけど、それでも這い上がっていく人を情けないとか思えない。多分、それって本当に大変なことだと思うから。だから、」

 

 対面に座るマリィは少し腰を上げて、俺の方に手を伸ばす。そして小さな手は俺の頭に乗せられた。

 

「―――本当に、頑張った」

 

 マリィの手が前後に揺れ、俺の頭を撫でる。

……もう、これまで何度も頭を撫でられてきて、多少は慣れたつもりだった。

でも俺は猛烈な気恥ずかしさに襲われて、首を振ってそれを拒否する。

 

「だぁー! だから俺の方が年上だって!」

「たとえ年上でもあたしがお姉ちゃんだから、弟が頑張ってるなら褒めてあげるのが当然でしょ」

 

 相も変わらず、その理屈は良く分からない。だが、まあそんな言葉に悪い気持ちを抱かなくなっているあたり、俺も随分とマリィに絆されているようだ。ただそれも真正面から認めるというのも気恥ずかしい。

 

「……それはもういいや。そろそろ出ようぜ。キバナの対策を考えなきゃいけねえし」

 

 俺がキバナを絶対に突破出来る保証なんてない。もしかすると、別の誰かがセミファイナルに出場する四人目になるかもしれない。

ましてやキバナはガラルにおいて最強と名高いジムリーダーだ。これまでもそうだったが、より一層気の抜けない勝負になることは間違いない。

ガラルのジムリーダーは公開情報が多い。手持ちのポケモン、使用する技、本人の癖に至るまで研究出来る。挑戦する側にとっては大きなアドバンテージだが、キバナに関してはダブルバトルという変則的な勝負を仕掛けてくる。対策は必須といえよう。

 

「あ、じゃあそれあたしも付き合っていい?」

「ああ、ナックルシティに行って、適当な店で作戦会議だな」

 

 俺は立ち上がって伝票を取った。

 

「今日は俺が奢ってやるよ」

「え? でも……」

「ほら、あれだよ。マリィが俺を褒めてくれたから、そのお返しだよ。お前だって頑張ってるんだから、このぐらいはあってもいいだろ?」

「……うん、じゃあお願いしようかな」

 

 マリィはそう言って軽く笑った。そして会計で、店員に伝票を差し出し、俺はポケットから財布を―――

 

「……あれ?」

 

 財布がない。嫌な汗が流れた。

 

「ちょっと、ちょっと待って」

 

 俺はバッグの中を漁る。大抵はパーカーのポケットに財布を入れているが、バッグの方かもしれない。バッグの中に入っている荷物の中に手を突っ込んで探す。しかしやはりない。

どこかで落としたのだろうか。先ほどのネズ戦で金銭の遣り取りをしていたので、財布を弄った記憶がある。ホテルに忘れている、というわけではないはずだ。

それに今回は俺の財布を二度に渡って奪ったクスネに遭遇しているわけでもない。

となると、スパイクタウンから出る道中で落としたのか。

 

いやいや、どこで落としたのかはどうでも―――良くはないが、今は良い。問題は俺では支払いが出来ないということだ。俺は恐る恐る背後を向く。

もしかしてまた?というマリィの視線が痛い。しかしないものはないのだ。仕方ない。

俺のプライドがまたしても盛大に傷ついてしまうが、流石に食い逃げなんて出来ない。

俺は断腸の思いでマリィに頭を下げることにした。

 

「あの、マリィさん?」

「……何?」

「その、絶対にお金は返すんでここの支払い任せても……いいっスかね?」

 

 年下の少女に飲食店の支払いをする情けない男がいた。俺だ。

俺の言葉にマリィは惚けた顔をして、右手を耳に当てる。

 

「ごめん、何? 良く聞こえなかった」

 

 嘘だろ。マリィのヤツ、俺がこんなにも困っているというのに聞こえないフリをしてやがった。

 

「いや、だからお金を……」

「なんか言葉が足りてないと違う?」

「……」

 

 此処まで言われればマリィが何を要求しているのか俺にも分かる。だが、まさかここでもそれを要求してくるのか。俺だって恥を掻くけど言われるお前だって恥ずかしいだろ。

そのどうでも良い情熱は何処から来るんだよ。マリィは頑なな態度を変えようとしない。レジにいる店員の不審げな視線もそろそろ痛くなってきた。このままでは平行線だ。

……良いだろう。俺がお前を何回そう呼んだと思ってる。最早数えきれないほど呼んできたんだ。今更一回がなんだというんだ。

俺は一度深く息を吸い込む。

 

「お願いしますお姉ちゃん!」

「よし来た」

「……」

 

 まじかよコイツ、という店員の視線が痛い。俺がこんなに恥ずかしい思いをしているというのに、マリィは何も堪えていないようにいそいそと財布を取り出す。

 

「……あ、もしかしてエンジンシティで有名な凸凹姉弟の……」

「え?」

 

 認知されてるのかよ。なんで知ってるんだよ。エンジンシティの飲食店ならまだしもおかしいでしょ。

 

「いえ、そちらのマリィさんのSNSで」

 

 俺はマリィの方を見る。マリィの方は知らん顔をしているが、まさかそんなことをしてたのか。

 

「許可は取っとったでしょ?」

「あー……いや、そうだけどさぁ」

 

 確かに俺の写真を偶に取ることはあったし、俺だって許可はしたけどまさかそんな使われ方をしていたのか。俺自身は全然そういったものを使っていなかったので、まったく知らなかった。

 

「こちらに寄っていただいた、ということはスパイクタウンのジムも攻略した、ということですか?」

「……ええ、まあ。俺もマリィも勝ちましたが……」

「うわー! スパイクタウンも攻略したんですか! 凄いですね! 例年キバナさんに挑めるのは極僅かなんですよ! あ、ちょっと失礼ですが、サインとか貰っても……」

 

 どこからともなく色紙とサインペンを取り出して渡してくる店員。マリィはノリノリでサインを書いて、俺は屈辱を味わいながらもサインペンを色紙に走らせる。

俺は今日、また大事なものを失ったような気がした。

 

 

 

 

 

 外に出る。またしてもマリィに頭を下げて俺の財布を一緒に探してもらう羽目になった。

ネズに連絡を取ってもらって、スパイクタウンを探してもらう。俺とマリィは店からスパイクタウンに逆走だ。ホウエンでは一度も無くさなかったのに、メンタルが脆くなると注意力も散漫になるのだろうか。

半泣きになる俺をマリィに慰められ、最終的に尋ねた交番で俺の財布は見つかった。

それは本当に喜ばしいことだったのだが、ジュンサーさんの言葉が俺に深く突き刺さった。

 

「良かったですね、でもこれからはちゃんとお姉さんの言う事を聞かなきゃ駄目ですよ?」

「……はい」

 

 何故ジュンサーさんにまでマリィが俺の姉だと認知されているのか。またしてもSNSの力なのか。そうであれば、マリィには安易にインターネットに手を出さないように言いくるめないといけない。

 

 

「ガラルではジムチャンジって本当に大きな催し事ですからね。推しのトレーナーがいたりとか、ファンがついたりとかするんですよ。それにここまで残っているチャレンジャーはどうしても注目されてしまうんです。お二人の場合は良く行動も共にしていますし……その、色々な意味で知られていますから」

「あー、そういう……」

 

 その色々の意味を聞こうと思ったが、俺だけが致命傷を負う気がしたのでやめた。

そういえば、確かに最近は注目されているような気がするし、周囲からの視線で薄々感じてきたことだ。ホウエンから出てきた俺にとってはカルチャーショックといえるものかもしれない。ホウエンが力を入れていないというわけではないが、ガラルの場合はダイマックスを使っての派手なバトルで観客も入ることからより注目されてしまう。

 

「では、最後のジム戦も頑張って下さいね」

「ええ、まあなんとかやりますよ」

 

 交番を出てようやく一息つく。時間ロスはあったが、まだ日中だ。これからナックルシティに移動して、ようやく作戦会議だ。ジュンサーさんに言われた最後、という言葉が脳裏にチラつく。

作戦会議も、これできっと最後だ。セミファイナルに挑むことになったら勝ち抜けてきたトレーナーと戦うことになる。ジムリーダーのような情報は期待できない。後は本番までにどれだけ俺とポケモン達が互いを高められるか、という話になってくる。

旅の終わりは近い。俺はきっと、ホウエンに帰るだろう。

 

「……」

「ん? どうしたと?」

「いや、なんでもない」

 

 俺はマリィの言葉を誤魔化してナックルシティに歩を進める。一抹の寂しさを胸の中に隠しながら。

 

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