【悲報】俺氏、セミファイナルまでで消えることが確定 作:Mamama
キバナの人気は他と隔絶している、というのが俺の推測だ。ガラルにおいて最強と名高い実力で現チャンピオンのダンデのライバルと称されるほどの男である、というのが一つ。単純な実力の高さからくる人気は汗苦しい野郎共は勿論のこと、腐っている貴婦人達にも大人気だ。電子の海ではダンデとキバナが抱き合うようなイラストが大量に転がっていたりする。その手のものに耐性がない俺は一目で卒倒しそうになった。
そしてもう一つがSNSの配信だ。元々バトルに負けた時に悔しい気持ちを忘れないように、という名目の下始めたらしいが今では単純にSNS配信を楽しんでいるようだ。
自撮り画像も多く、ちょっと調べればキバナの写真なんてものは腐るほど出てくる。
情報収集の一環として、ナックルシティの一角にある喫茶店でマリィと一緒にスマホロトムを弄っているのだが、なんだかキバナの画像を見ていると腹が立ってきた。
「……コイツ、イケメンだな」
キバナは同性の俺から見ても際立った顔立ちをしている。野性味溢れる顔はカッコイイし、普段のたれ目も愛嬌がある。成程、女性人気が高いワケだ。それでいてバトルの実力も高いと来たら、それはもうモテモテだろう。
「キバナさんはガラルで一番強いジムリーダーって言われとるけん、人気も高かみたい」
「おかしくない? 俺だって結構強いんだけど? 顔だって負けてねーし。そうだろ、マリィ」
「え? うん……まあ、うん」
「もっと頑張ってくれよ……」
がっくりと項垂れる俺。そりゃ俺だって本気でキバナよりイケメンだとは思ってないけど、そんな微妙な反応をされると傷つく。
「大丈夫やって。お姉ちゃんは良い所いっぱい知ってるけん」
「とってつけたように慰めんなよ……」
俺だって男だ。モテたいという願望がないわけじゃない。しかしガラルに来て俺がまともに話してきた相手なんてのはマリィぐらいしかいない。後はジュンサーさんとか。
「俺だってもうちょっとちやほやされても良いじゃん……。強いし、顔も……悪くないし」
「モテたいんやったら、その為の努力をせんといかんと思う。何もせんでモテたいなんて言っても誰も見てくれんよ」
「て、手厳しいな……」
確かに俺はモテるための努力なんてしてこなかった。服装や髪型に気を遣っているわけでもないし、話術が優れているわけでもない。そりゃポケモンバトルだったら多少の自信はあるが、それだけで俺のことを好いてくれる異性なんてものも希少だろう。
「ほら見て、キバナさんのSNS。こん人はお洒落にもちゃんと気を遣ってると」
差し出されたロトムフォンをスライドさせていくと、確かに異なるコーディネートの服装が幾つも目に入る。中には良く分からないぬいぐるみ姿なんてものもあるが、そういったユニークさも含めて受けているのだろう。フォロワー数はとんでもない数で、キバナの一言に大勢が反応を示している。
「前から言おうと思っとったけど、身だしなみにはなんで気を遣わんと?」
「いや、だって俺の本分は旅なんだし……」
俺は大抵、簡素な服を着ることが多い。今だって着ているのは黒いズボンに白いパーカーといった出で立ちだ。俺の本分とは旅で、時には険しい自然に挑むこともある。そうなってくると自然と機能を重視するようになったのだ。髪だってそうだ。最低限見苦しくないようには整えているが、地毛はくせ毛だし、風や汗なんかでどうせ乱れるから適当だ。
「んー、理屈は分からんでもないけど……」
マリィは俺の説明に理解を示しながらも納得がいっていないようだ。
「ガラルではスタジアムに大勢の人が来るし、特にキバナさんに挑めるトレーナーなんて本当に一握りで注目度は段違い。それにトーナメントになったらテレビ中継もされるし、そういうお洒落にも気を遣わんといかんといけんでしょ」
「う……まぁ、一理あるかな」
俺は一応、ホウエンの代表ということでガラルに来ているのだ。ならばホウエン代表に相応しい立ち振る舞いが要求される。もう既に手遅れなような気がするが、身だしなみに気を遣わなければいけない時が来たのかもしれない。
毎年ネズに勝ち、キバナに挑めるのは両手で足りるくらいだという。であれば俺が注目されてしまう、という事態もあり得る。ただ俺にはイマイチ実感がなかった。ホウエンでは多少名は売れていたが、それでも四天王に足止めを食らっていた一トレーナーだ。俺の情報が出回るなんてことはなかったはずだ。
俺は気になって手持ちのスマホロトムに自分の名前を打ち込んで検索してみる。かなりの件数がヒットした。適当なリンクを踏んでみると俺の情報も相当数出てくる。どこで知ったのか詳細な情報もあれば、出どころ不明な誹謗中傷に似たものもある。
そして画像。そこには俺が大泣きしながらマリィに手を引かれている画像やらが大量に―――
「……」
俺は見なかったことにして画面を閉じた。知らない方が幸せなこともある。それを確かな実感を伴って俺は知った。
そんなわけで作戦会議を一旦中断し、俺は服を買いに来た。今日ネズを撃破したばかりでキバナに挑むにはもう少し対策を練る必要があるだろう。ポケモン達も疲労が溜まっているし、どうせ今日と明日は情報収集でもしながらのんびり過ごそうと思っていたのだ。
俺はお洒落に関しては素人もいいところなので、マリィについてきてもらっている。というかやけに張り切ったマリィが勝手に着いてきた。ブティックなんて場所はこれまで縁が無く、正直入るだけでも緊張した。
「次、これ着てみて」
「……おう」
しかし俺はマリィを連れてきたことを直ぐに後悔することになる。怒涛の勢いで手渡される服を試着室で着るだけのマシーンと化した俺は機械的に手渡されたジャケットに袖を通す。何度もその作業をやっていると肩が凝ってきた。
「……うーん、細身だからやっぱりこういう系統が……下との組み合わせが……でもそうなると暖色系が……」
素人の俺にはマリィが何を言ってるのかわからない。マリィが真面目にコーディネートしているのは分かるが、着せ替え人形である俺の方は疲れてきた。
「なぁ、もう良いんじゃないか? 俺も疲れてきたしマリィも大変だろ? 適当にもう見繕ってくれてるやつで良いからさ」
疲れている、という理由もあるが出費も問題だ。既にマリィが何着か選んだ服を買うことが確定している。どれもこれも結構な値段なもので、それを何着も買うとなると結構な痛手になる。
「次がラストで良いから、ラストで」
「えー? じゃあどうしようかなぁ……」
「お客様、お困りですか?」
先ほどまで他の客を対応していた女性の店員がにこやかな顔で近寄ってくる。そして俺とマリィの顔を見た瞬間に何かに気づいたかのように目を瞬かせる。今日のレストランでも似たような光景を見た。
「あ、もしかしてマリィお姉さんと弟さんですか?」
「いや、弟じゃないんですけど……」
「弟です」
「弟さんですよね?」
「……ええ、まあそういう意見もありますね」
頭が痛くなってくる。なんだか俺が間違っているような気がしてきた。
「それで、お洋服をお探しなんですよね? ……これなんてどうでしょう?」
「いや、それ女性ものじゃないですか」
店員が引っ張りだしてきたものはどう考えても女性が着るスカートだ。店員なりのおふざけだろうが、流石にそこは突っ込ませてもらう。
「え?」
「何で驚くんですか? 着ませんからね」
「いや、これはこれでありかも……」
「マリィ!?」
恐ろしいことを言い始めたマリィに俺は慄く。確かに俺はホウエン地方で一度女装の経験があるが、あれは色々と精神的におかしかった頃の奇行だ。俺にそんな趣味はない。
「いや、足も細いしムダ毛も少ないから映えるんじゃないかなーって」
「お客様! ストッキングもございますよ!」
「なんでアンタそんなテンション上がってんの? とにかく着ませんから」
「そんな殺生な! 一回だけ! ちょっとだけですから! ファンサービスだと思って!」
「ファンサービスに女装を求めんな」
「今日お買い上げのものは全部半額にしますから!」
「……それ本当?」
討論の余地すらなかったが、洋服が全部半額になるとしたら一考の余地はある。金銭的に逼迫しているわけではないが、余裕があるわけでもない。俺は積み上げられた値札のタグを一つ一つ確認していく。優秀な頭脳を以って金勘定をしていくと、かなりの減額だ。ちょっと我慢するだけでこれだけの恩恵が得られる、と思うと揺らぐものがある。
俺はチラリ、とマリィの方を見る。マリィは期待するような目で俺を見ていた。
「……。……まぁ、半額にしてくれるなら」
「おっしゃあ! じゃあこちらへどうぞ!」
店員に試着室に押し込められ、俺は渋々押し付けられたスカートを手に取るのだった。テンションが上がり切った店員に釣られたのか、マリィもエキサイトし俺はまたしても大事なものを失った気がした。
「……酷い目にあった」
「よう似合いおったよ」
「ええ、やはり身体の線が細いと女装も映えますね!」
スカートだけかと思ったらストッキングも履かせられるわ、カーディガンも着せられるわ、ウィッグも装着させられるわで大変な目に遭った。半額になるという明確なメリットが無ければ俺は絶対に拒否していた。
「そもそも俺になんで女性ものの服を勧めてきたんですか?」
会計をしつつ、俺は店員にそう聞いた。女装させるというのが店員の趣味であったとしても、流石にぶっこみ過ぎだ。俺はまだしも、そういったものに不愉快になる相手もいるだろう。一応職務中の店員がそれはどうなのだろうか、と微かな嫌味を込めての言葉だ。
「……女装、趣味じゃないんですか?」
「趣味なわけないでしょう。そりゃそういうのが趣味な人だっているでしょうけど、俺は違いますよ」
「え? そうなんですか? いや、でも……」
もしかして店員にとって俺はそう見えたのか、と訝しむが店員はスマホロトムを取りだして何やら操作をして俺に手渡す。
「こういった画像があったので」
「……」
そこにはスカート姿で涙ぐむ俺の姿があった。なんだろう、とても見覚えのある恰好をしている。俺が一度だけ袖を通した女性もののユニフォームだ。熱さとは違う意味で汗が噴き出る。間違いなく、ホウエンで俺が半錯乱状態の時に着たやつだ。しかし当然、俺がこんなものを自撮りしたわけではないし、SNSに上げたわけでもない。
しかし写真は結構な近距離で撮影されているもののようで、盗撮のようにも思えない。
俺は店員からスマホロトムを半ば強奪する勢いで取り、画面をスライドさせていく。この写真はSNSに投稿された一枚のようだ。
不慣れな俺は適当に弄っていき、ある部分をタップすると投稿者のページに飛んだ。ユーザー名は偽名のようだが、ページ画面には俺の良く知る人物が実に良い笑顔で映っていた。
「すみません。ありがとうございます」
「ええ。……あ、ちょっとまだ会計が終わってませんが」
「すみません、直ぐに戻るんで」
俺はダッシュで店の外に出る。そして自分のスマホロトムを取り出して電話帳を選択し、電話を掛ける。
「親父ィ! なんとことしてくれたんだ!」
『え? だってお前の女装した姿がネットに大量に転がってたから、ようやく目覚めたのかと……』
「そんなわけねえだろ!」
慌てて検索をしてみると出るわ出るわ俺のコラ画像。一部の有志が作ったその中には俺の女装姿なんてものも混じっていて、それを見た親父は勘違いしてしまったらしい。一度ネットに公開したものはたとえ一度非公開にしたところで意味はない。画像をコピーされたらどうにでもなってしまう。さめざめと泣く俺に流石にマリィも同情したようで、よしよしされながら俺達は帰路に着いた。
この日、俺に女装野郎という極めて不名誉な渾名が追加されることになった。