【悲報】俺氏、セミファイナルまでで消えることが確定   作:Mamama

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 ドラゴンタイプとは最強の種族である、と何かの論文で見たことがある。相性による弱点もあるが平均的な能力という一面で見ればドラゴンタイプが最強である、という意見は強ち間違いというわけでもない。しかし一方でドラゴンタイプのポケモンは同時に育成が最も困難なポケモン群として知られている。

生半可なトレーナーではまともに指示を聞いてくれるかも怪しいものだ。だからこそドラゴンタイプを持つトレーナーの数は少なく、育成すればそれだけで優秀なトレーナーといえるだろう。

 

そしてジムリーダーとは一つのタイプを極めたトレーナーであり、つまりドラゴンタイプを極めたキバナは戦うまでもなく、凄まじい技量を持ったトレーナーだということは分かる。ドラゴンタイプを使うから強いのではない。ドラゴンタイプを使いこなせるから強いのだ。

 

最後のジムリーダーだから強いことは当然分かっていたが、キバナの実力は他のそれと一線を画していた。少し歯車が狂えば俺が敗北していてもおかしくない戦いだった。

二対二という変則的なバトルではあったが、俺は単体の強さよりもコンビネーションを組み合わせて戦う方が性に合っていることもあり、どちらかといえばそのバトル方式は俺の方が有利なはずだった。しかしバトルは最後に一匹になるまでもつれこみ、最後はジュラルドンのダイマックスが切れた瞬間に放ったクチートの『じゃれつく』が決定打となって勝負は決した。

 

ガラルチャンピオンであるダンデのライバルを自称するキバナ。それは単なるポーズなどではなく、それに見合うだけの実力があった。

此処に至るまでで、俺の実力はホウエンのチャンピオンロードを彷徨っていた時期と同じくらいには戻ったはずだ。身体は軽く、判断は迅速に行える。無論、今の現状が俺の限界ではない。しかし今この瞬間が全盛期と言えるくらいには俺の調子はいい。

だからこそ言い訳は使えない。使用ポケモン、運等の要素を排除した純粋なトレーナーとしての実力はキバナの方が上だ。

 

「……ありがとうございました」

「おいおい、怖い顔すんじゃねえよ。折角勝負に勝ったんだから、もっと喜んだらどうだ? アンタがジム踏破の第一号なんだぜ?」

 

 勝負が終わり、俺とキバナはスタジアムの中央で握手を交わした。しかし俺の顔はきっと硬いままだっただろう。その光景だけ見れば恐らく誰もがキバナの方が勝者だと思うはずだ。

 

「ええ。この勝負は俺の勝ちです。しかし純粋なトレーナーとしての実力は……俺と戦った貴方なら分かるでしょ?」

 

 キバナほどのトレーナーであれば俺の言いたいことも分かるだろう。そしてだからこそ、キバナの方には未だ余裕がある。そう思うのは俺の劣等感が生み出した幻想だろうか。

 

「……そうだな。アンタが何を言いたいかはオレも分かるぜ。だがそれでも敢えて言おう。勝者はアンタで敗者はオレだ。そこは覆らねえ」

「キバナさん、アンタが全力を出せていたらその結果も違ったはずだ」

「そんな仮定はここじゃ意味ないぜ。少なくとも今の勝負ではアンタの方が上だった。だからオレは負けたんだ。誇れよ、オレサマが勝者を称えるなんて、中々ないことなんだからよ」

「いや、だから―――」

「今だけは悔しい思いを俺にさせてくれ。それは敗者の特権だ。そうだろ?」

「……負けたことを勲章のように言わないでくださいよ」

「ハハ、勲章か。良い表現をするな。そうだな、俺にとっちゃ敗北も立派な勲章だ。そしてこの勲章はファイナルリーグで熨斗を付けて返してやるよ」

「ファイナルリーグ?」

 

 予想外の言葉に俺はついオウム返ししてしまった。キバナの言葉は俺がセミファイナルを勝ち抜ける前提で話している。まずはセミファイナルリーグあるというのに。

 

「なんだ? ホウエンからの刺客は謙虚だな。自信がないのか?」

「いや、自信がないっていうか……」

 

 俺はとても残酷な世界の法則を知っている。俺は、セミファイナルトーナメントを勝ち抜けない。この世界は遊戯のように簡略化されたものではなく、れっきとした現実だ。しかし絶対的に覆しようのない法則も必ずあることを知っている。

 

「ま、確かにアンタがセミファイナルを勝ち抜ける保障はねえよ。意外とアンタはあっさり負けるかもしれない」

「でしょう?」

「でも勝つかもしれない。そればっかりは蓋を開けてみないと分かんねえからな」

「……どうでしょうかね?」

「アンタはちょっとばかり自身を過小評価し過ぎだな」

 

 それは以前プリムにも言われたことだ、と俺はふと思い出した。長々とした握手を終え、俺とキバナはお互いに控室に戻っていく。その間もキバナの口が閉じることはなかった。

 

「アンタとオレの実力差なんて、あったとしてもごく僅かだ」

「たとえごく僅かでも俺が劣っているなら負けるのは俺でしょうよ。精神論で勝てるほど勝負は甘くないんですから」

「……ま、確かにそうだわな。オレの熱意は誰にも負けてねぇ。精神論で勝てるんだったらオレだってダンデに勝ってるだろう。ただ、オレはその精神論を否定しない」

 

 俺は横を見た。キバナはただ前だけを見ていた。

 

「オレはダンデに勝ちたい。それだけで此処まで来たんだ。ダンデがいなかったら、オレはきっとここまで強くなれなかった。負けそうになったらダンデのヤツの顔がチラつくのさ。その顔を見てると負けてる自分に腹が立って普段以上の実力を出せるような気がしてくる」

「……ライバルですもんね」

「ライバルなぁ。オレは心の底から自分がダンデのライバルだと思ったことは一度もない。でも、だからこそライバルを自称しているんだ」

 

 自身を追い込むことで実力を出し切るタイプのトレーナーはいる。だが、それを一度間違えればそれはただの大言壮語に成り下がる。キバナがそうではないのは高い実力は元より、心の底からダンデに勝利することを渇望していることを誰もが知っているからだろう。

 

「今回こそ勝つ。ダンデとのバトルでその気持ちを忘れたことはただの一度たりともねえ。コイツは勝つっていう執念だけじゃなくて……なんつうか言葉にするのは難しいんだけど、案外とアンタに足りてないピースはそういうもんじゃないか?……っと」

 

 キバナは不意にスマホロトムを取り出す。何かの通知を受け取ったようだ。目を細めて画面を眺める。

 

「……へぇ、今日二度目のチャレンジャーか。しかも、だ」

 

 キバナは俺を見て悪戯小僧のような笑みを浮かべた。

 

「喜べよ。アンタの『お姉ちゃん』もジムチャレンジを突破したみたいだぜ?」

 

 

 

 

 

 

「勝った!」

 

 ジムスタジアムの入口付近でぼけっと待っていた俺の前でマリィは胸を張って言った。

 

「……知ってるって。俺も観客席で見てたんだから」

「こういうのはちゃんと言葉に出すのが大事なの! それともあたしが勝って嬉しくないと?」

「声が張り裂けるくらい応援したよ。勝った時は周りのエール団と抱き合うくらい喜んださ。叫び過ぎて喉が痛い」

「そ、それならいいけど!」

「取り敢えず、場所を移して良いか? この場所は結構辛い……」

 

 俺が少し此処で待っているだけでも勝手に写真を撮られるし、声を掛けられるしそういったものに耐性のない俺は残り少ない体力を更に消耗して疲れていた。今ですらちょっとした人だかりが出来ているほどだから、やはりガラルとホウエンは文化が違うと思い知らされる。

マリィの手を引いて、声を掛けてくる連中を躱して通りに出るとやっと一息つけた。

 

「ふぅ……」

「て、手を引くときは一声かけんね。びっくりするでしょ」

「ん? ああ、悪い悪い」

 

 俺がアホな理由で泣く度にマリィに手を引かれていたような気がするが、そういえば逆は今回が初めてだったのかもしれない。

しかし、それにしても疲れた。これまでの中で一番神経を集中させた勝負でもあったし、その後のマリィの応援でエール団達と一緒にはしゃぎ過ぎた。それはマリィも同じようで、今日のところはホテルに戻るという意見が一致した。

そしてホテルに戻る道中、話の種としてはやはりセミファイナルのことだった。

 

「……いよいよ、セミファイナル。一応言っておくけど、今度こそは負けないから」

「今度こそって、そんな俺達ガチなバトルはやってきてないだろ」

 

 俺とマリィはこれまで何度も勝負をしている。とはいってもお互いに全力を出す真剣勝負というのは殆どやってこなかった。どちらかというと実戦ではなく、トレーニング形式であったり仮想敵を想定したシミュレーションだ。

 

「一番最初。あたしのモルペコはクチートに手も足も出んかった」

「あー、あれな」

 

 もうずっと遠い昔のような気がする。なんというか、ガラルではそう感じてしまうほどに結構濃い時間を過ごしたように思えるのだ。

 

「一応言っておくけど、セミファイナルで当たっても手加減なんか無しだから」

「そんな器用な真似できねえし、出来たとしてもやらねえよ。後が怖いし」

「……なら良いけど。あ、絶対にあたしが勝つんだけど、アンタが負けたら罰ゲームだから」

「ええ? またかよ。衆人環視の中でお姉ちゃん呼びを強要するのはマジで勘弁してくれよ。これは本当にフリじゃないからな」

 

 俺とマリィは多分セミファイナルで当たることはないだろう。マリィはユウリに負け、俺はホップに負ける。それがこの世界の、謂わば正史であり曲げられない歴史であるからだ。だが、何かの間違いでその罰ゲームが有効になってしまったら本当に不味い。テレビ中継がされてる中でそんなことを強要されたら俺は冗談抜きで憤死する。

 

「今回は舞台も大きいから、罰ゲームも大きくしなくちゃね」

「そんなルールはねえよ。それで、マリィが勝ったら俺は何をされるの?」

「……兄貴はさ、あたしにスパイクタウンのジムリーダーになって欲しいみたいだけど、あたしはチャンピオンになる。だからジムリーダーは出来ん」

「オイオイ。まさか、俺が代わりにそれをやれと?」

 

 確かにネズも少し乗り気であったようだが、それは流石に罰ゲームの範疇を越えたものだ。どんなに控えめに言っても俺のこれからの人生を左右するような内容だ。とても許容できるものじゃない。何かの冗談かと思ったが、マリィは至って真剣な表情で俺を見た。

 

「別に絶対じゃなくても良いと。でも、真面目に考えて欲しい。考えて、やっぱり無理だったら強制もしないし」

「いや、だったら俺の返事は決まってるよ。言っただろ、俺は負けることを良しと出来ない狭量なトレーナーだって。ジムリーダーなんて柄じゃないし務まらないだろ」

「それでも良い。兄貴とか他のジムリーダーのことを知って、それでも結論が変わらんなら、それでも良いから。駄目?」

 

 ジムリーダーが高潔な存在だと俺も分かっている。しかし理屈として理解出来ることと感情で納得出来るかはまったく別の種類の問題だ。俺はジムリーダーなんて器じゃない。一番俺が良く分かってる。だから、マリィにそんなことを言われても俺の結論は変わらないだろう。

 

「……結論、変わらないかもしれないぞ。それでも良いなら……」

 

 俺とマリィはきっとセミファイナルで戦うことはない。しかしそんな事は言えないし、言っていいものでもない。何故マリィが俺にジムリーダーになって欲しいのか、その真意は良くわからないけど、真摯な態度を蔑ろに扱うことは出来ない。

悩んだ末に出した答え。俺は結局マリィの言葉を拒絶できなかった。

……俺がジムリーダーになってもいいかな、なんて言える日はきっと来ないだろうけど、少しだけ真面目に考えてみようと思った。結論はどうあれ、俺はマリィを裏切りたくない。そう思えるくらいにはマリィは大事な存在になった。

 

「じゃあ俺が勝った時の罰ゲームはどうしようかな」

 

 ちょっと重苦しくなった空気を払拭するべく、俺は明るい声で言った。しかしいきなり罰ゲームと言われても何も思いつかない。暫く俺は頭を回転させ、ふと思いついたことを思ったまま口に出した。

 

「なぁマリィ。トーナメントが終わった後で良いんだけどさ」

「うん」

「俺と一緒にちょっとホウエンに来てくれない?」

 

 マリィは思いっきり咽た。

 

 

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