【悲報】俺氏、セミファイナルまでで消えることが確定   作:Mamama

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 俺はあの少女が、未だに怖い。表情が薄いまま、何の価値もないような顔で蹂躙された記憶は今でも脳裏に焼き付いて俺を離してくれない。

このままでは駄目だ、という意識はずっとある。俺がこれからもトレーナーとしてやっていくなら、どこかで決着を着けるべきだ。或いは禊とでもいうのか、いずれにせよ俺はもう一度あの少女に立ち向かわなければならない。

 

敗北後の半年間、そしてガラルの旅で俺の摩耗した精神は大分回復した。しかし俺は未だにあの少女の前に立つほどの度胸はない。きっと俺の足は竦んでしまって、また失意に打ちのめされてしまうだろう。予感ではなく、それは確信だ。

俺は弱い人間だ。大いなる脅威にたった一人で立ち向かうほどの胆力はない。

では俺だけでなかったらどうだろう。逃げ出してしまいたくなるような時でも、俺の背中を押しとどめてくれる人がいれば、俺はもう一度立ち向かえるんじゃないか?

足りないならば補えばいい。それを考えると、やはりぱっと浮かぶ顔はマリィだった。

 

そそそそういうのはまだ早かでしょ!?と 壊れた機械のような声を出したマリィは一体何を勘違いしているのか。

懇切丁寧に説明してやると百面相のようになって最後にはポチエナのように唸った。

 

「……はぁ。なんか馬鹿らしくなった」

「おい、俺は割とマジで言ってんだぞ」

「そこじゃなくて。ああ、もうあたしの一人相撲じゃん!」

 

 マリィは不機嫌そうな顔をして俺に小指を差し出す。

 

「じゃあ指切りげんまんね。嘘ついたら『オーラぐるま』を1万回食らわせるから」

「あいよ」

 

 マリィの指と俺の指が絡まる。先ほど手を握った時にも思ったことだが、マリィの手は小さい。いつもは俺が手を握られる立場だったから、気づかなかった。

 

「でも、あれだな。俺とマリィがセミファイナルで当たらない可能性もあるんだぜ。その時は無効か?」

「え? うーん……」

 

 気持ちばかりが先行してその可能性を考えていなかったようだ。

 

「そん時はそん時!」

「……ま、そうだな。今からそんな後ろ向きな事は考えなくていいか」

「そうそう! っていうかあたし達が勝っていけばいずれは当たるんだし。それまでは絶対負けないでよ!」

「ああ。肝に銘じておくよ」

 

 大きな舞台で、ファイナルトーナメントを掛けた決勝で俺とマリィが鎬を削る。もし実現すればそれはきっと本当に楽しいものになる。

誰が勝者になるのか。誰が敗者になるのか。そんなことは結果を見てからでないと分からないと誰もが口を揃えて言うだろう。

……だから、俺だって夢くらいは見てもいいはずだ。

例え叶わなかったとしても、その想いだけは本当に、本物なのだから。

 

心のどこかで俺はホップに勝てないという粘り気のある暗い声に苛まれていた。しかし同時に勝ちたいという意欲も生まれていた。

勝たなければいけないのではなく、勝ちたい。可能性がどれだけ低くても、ゼロに限りなく近いとしても。運命に翻弄され続けるとしても。

俺は足掻きたい。あんな苦しい思いをもうしたくない、というのもある。

けれどもっと大事なものにようやく気付いた。

俺はマリィの為に勝ってやりたいのだ。俺を導き、俺を信じてくれたマリィの為に。

一度折れてもなお俺に付いてきてくれたクチート達の為にも。

信頼に応えるために俺は戦いたい。

 

それに俺のトラウマはあの少女であり、特段ホップに何かされたわけでもない。

ならば、俺は次に進むための試金石にすればいい。

そう考えると多少は気分も楽になる。

 

「―――で、ちょっと話を前に戻すけど、マリィは何であんなに取り乱してたわけ? ちょっとお兄ちゃんに教えてくれない?」

 

 それはそれとして俺がマリィに対して優位に立つ場面なんて滅多にないので、俺はにやにや笑って言ってやった。

 

「だぁー! なんで話を戻すと!?」

「え? だって僕、よく意味が分からなくって……」

「だったらそん意地汚か笑いば止めんね! あーもう!」

 

 最近の子供は早熟というがマリィも例に漏れずそうだったようだ。マリィの言う通り、それは早すぎる。今は、まだ。

 

 

 

 

 

 

 まだ試合が始まっていないというのにスタジアムには観客が押し寄せていた。それほどトーナメントの注目度は高い。セミファイナルトーナメントの勝者はファイナルトーナメント出場の切符を手にし、同時に一つの称号を手に入れることになる。

『一般トレーナー最強』という称号だ。

 

控室には既にセミファイナルトーナメントに出場する四人が集まっていた。

ユウリとホップ、マリィに俺だ。そしてようやく抽選が終わった。マリィの最初の相手はユウリであり、俺の最初の相手はホップだった。

 

最初はユウリ対マリィのバトルが行われ、その後に俺とホップのバトルだ。

マリィ達のバトルが始まり、観客席から離れた控室にも大きな歓声が響く。俺はバトルの様子を控室のモニターで観察していた。控室に居るのは俺とホップ、そして数人のスタッフだけだ。

 

「……よう、そういえば会うのも話すのも初めてだな」

 

 俺はモニター越しの激戦を見ながらホップに話しかけていた。そこに深い意味はない。

ちょっと話してみたかった、という単純な興味本位だ。

 

「おう。……やっぱり強そうだな! でも勝つのはオレだ! 勝って、オレがユウリと戦うからな!」

「おいおい気が早いな。まだバトルは序盤。この状況でマリィが負けるって決めつけるのは良くないと思うぞ?」

「む、確かにそれは良くないな。でもオレはユウリと約束したんだ! だから勝つのは絶対にユウリだ!」

 

 眩しいな、と俺は思った。無垢な信頼は色々あった俺にとっては眩しすぎる。だが俺にもそういう時期があった。チャンピオンの弟というのは当人たちの考えはどうあれ、周囲の人間からは邪推されてしまうものだ。ここまで真っすぐ在れるという、ただそれだけでも大したものだと思う。

 

「俺にだって譲れないものはあるから負けてやるつもりはないね」

「いーや、オレが絶対に勝つ!」

「……そんな闘気を控室で出すなって。こんなところで言い合いしたってどうしようもないんだ。本番に残しとこう」

「それもそうだな! そういえばこれまで一度もダイマックスを使わなかったって聞いたけど、もしかして今回も使わないつもりなのか?」

「さぁどうだろうな。使うかもしれないし、使わないかもしれない。そういうのも含めて戦いだろ?」

 

 言葉は軽快に弾む。別にホップが憎いとか、そういったわけではないから言葉は気安い。言葉を交わしながらも俺とホップはモニターに釘付けだった。マリィのズルズキンはユウリのアーマーガアに落とされ、また一つ戦況が進む。

 

「……まぁ、あれだ。折角の大舞台なんだ楽しく行こう。憎い相手ってわけでもないんだからさ」

「おう!」

 

 会話はそこで終わった。それまでゆっくりと進行してきた試合が一気に動いて話している場合ではなくなってしまったからだ。難易度の高い大技の連発、互いのポケモン達は激しく動き、また倒れる。歓声に飲まれてマリィの声は聞こえない。けれど、その表情を見れば分かる。一進一退の攻防を繰り広げて苦しい顔を見せながらも、どこか楽しさが見え隠れするような、そんな顔。

直に見れないのが口惜しい。それくらいにいい勝負だ。

 

そして決着の時は訪れる。状況はマリィの劣勢だった。最後のポケモンであるオーロンゲがユウリのストリンダーを強引に戦闘不能に追い込むが、その代償として毒を貰ってしまった。まだ瀕死には遠いが、この状況でエースバーンの無償降臨を許してしまうのはかなりの痛手だ。

これでお互いが最後の一匹を切ったことになる。ダイマックスはまだ両者とも使っていない。

 

マリィはエースバーンを見た途端、直ぐにダイマックスを選択する。普通に正面から戦っても勝つことは難しいと判断したのだろう。毒状態も合わせて考えると残された時間は少ない。持久戦よりかは短期決戦の方が勝ちの目がある。そしてそれに合わせてユウリもダイマックスを選択する。

巨大になった二体が放つエネルギーは凄まじく、モニター画面が一瞬何も見えなくなる。

光が収まり、立っていたのはエースバーンだった。マリィの敗北で、勝ったのはユウリだ。

 

「よっしゃあ!」

 

 ホップが拳を突き上げて喜ぶ。その間も俺はモニターから視線を外さなかった。マリィの顔が映し出される。悔しさはあるだろう。それでも、その顔は全て出し切ったようでどこか朗らかでもあった。

 

 

 

 

 

 

「……ごめん、負けちゃった」

 

 下手に慰めるのはマリィを侮辱することにもなる。俺はマリィの言葉をただ受け止めた。

 

「負けたけど、楽しかった。全部、出し切ったから。悔しいけど、みんなを熱狂させたからかな……」

「ああ。きっとな」

「……あたしは観客席に戻って、兄貴と一緒に応援するから」

「おう。……マリィ、ちょっとグー握ってくれない?」

「? うん」

 

 俺も拳を握り、マリィのそれと合わせる。こつ、と一瞬だけ拳が触れて直ぐに離した。

 

「行ってくる」

「……頑張って」

 

 マリィと別れてホップと一緒に廊下を進む。一歩フィールドに足を踏み入れた瞬間、大きな歓声が響いた。

 

「うぉ! 凄い歓声だな!」

「多分、もっと凄いことになるぞ」

「へへ、それぐらい俺達に期待しているって事だよな! よーし、気合入った!」

 

 中央に駆けだすホップ。飲まれてしまうほどの歓声も、ホップにとっては起爆剤にしかならなかったようだ。無論、俺もこのぐらいで動じるほど柔ではない。

俺もバトルフィールドの中央に辿り着く。ホップは待ちきれないようで身体をうずうずさせていた。

 

「なぁ、ホップ。運命って信じるか?」

 

 アナウンスで簡単な選手紹介を行っている間、俺はふと気になってホップに聞いていた。

 

「それも逃れられない運命。どんなに頑張ったとしても、見えない糸で縛られちまうような、そんな運命だ」

「……それってあんまりよくない運命じゃないか? そういうのはちょっと嫌だな」

「そりゃ嫌だよなぁ。じゃあ、もしもそういうものがあったとして、その糸を断ち切るにはどうすれば良い?」

「うーん……頑張るしかない!」

 

 悩む素振りをして、ホップが出した答えはそんなものだった。ホップの答えは予想通り過ぎて俺はつい噴き出した。

 

「まあ、そうだよなぁ。結局、頑張るしかないんだよ。言い訳だのなんだの並べて何もしないってのが一番カッコ悪いよな。だから諦めて足を止めた俺はカッコ悪かったのさ」

「……良く分かんないけど、今は大丈夫なのか?」

 

 観客からの声はうねりとなって野太い大きな流れを作りだしている。そこに微かな少女の声を感じ取って、俺はそこを向いた。

 

「ああ、きっと。そうなる予定だ」

「予定? ……むぅ、何が言いたいのかわからないぞ!」

「悪い悪い。君にとっちゃワケ分かんないよな。……そうだな。一つ言うとしたら今日の俺はいつもより手強いってことかな」

 

 選手の紹介が終わった。俺とホップは中央から少し下がり、そして振り向く。

俺の視線の先には強い眼差しのトレーナーが居た。高く、分厚い壁だ。

それを見て、怖くないといえば嘘になる。また俺はズタボロに負けてしまうんじゃないか、と弱い気持ちが表に出てくる。それを俺は笑って嚥下した。

 

ガラルに来る前、クチートに言った言葉を思い出す。

―――カッコ悪いけど、諦めたままだけど、前を向いて立つって言ったら。

まだ、俺は諦めたままだ。でもカッコ悪いのはもう止めだ。

そして今度は諦めることを卒業するために俺は運命に挑む。

どんなに劣勢でもどんなに負けそうでも、俺は今度こそクチート達を信じると言ったのだから。マリィが俺を信じて応援してくれているのだから。

 

「―――勝負だ」

 

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