【悲報】俺氏、セミファイナルまでで消えることが確定 作:Mamama
割りとしっかり色々考えてた他の作品が日の目を出ない悲しみ。
ターフタウンの長閑な光景は郷愁を感じさせる。それは俺が育った場所と良く似ているからだろうか。至るところに畑が広がり、郊外には幾つかの石碑が立っている街並みは人を穏やかにさせる。都会の排ガスに塗れた現代人は一度は此処に来て癒されるべきだろう。街の中央に鎮座しているスタジアムの方に違和感があるくらいだ。文句を言うわけじゃないんだが、如何せん浮いてしまっている。今も数人、スタジアムの中に入っていく少年の姿が見えた。少し緊張しているような後ろ姿に微笑ましいものを感じるあたり、俺も歳を取ってしまったということだろうか。
……もう旅だった日のような新鮮な気持ちは味わえない。けれど、きっと幾ら歳を経ても変わらないものもあるだろう。例えば―――
「……腹減ったな、クチート」
「クチ―……」
空腹とか。
まず言っておくと俺は小金持ちだ。決して一文無しのロクデナシではない。しかしホウエンからガラルに来るまでかなりの散財をしてしまったというのは事実。旅には金が掛かる。諸々の道具だってそれなりのいいものを揃えたし、船舶代も結構かかった。それに港に停留中に何も考えず飲み食いしたのも悪かった。しかし、ただそれだけで俺の貯蓄が全部吹き飛んだわけではない。
「……クソ、財布を盗まれちまうなんて」
初めて生で見る野生のウールーを興奮しながら見ている最中、他の野生のウール―に背中からたいあたりをぶちかまされた俺は緩やかな傾斜を無様に転げまわるハメになり、その間に財布を落とした。次いでタイミングよく現れたクスネが俺の財布を口に咥え、逃げてしまった。何とも運がない事件の被害者である俺はまたしても涙を流すことになった。
幸いトレーナーカードはカードパスに入れていて無事だったし、現金もそれほど多く持っていたわけではない。しかし、クレジットカードがお釈迦になってしまったのは最悪だ。
直ぐにカードをストップしてもらったが、再発行には時間が掛かる。それまでの間、俺は非常に懐が寂しいことになる。
道中、ヨクバリスときのみの取り合いになって死闘を演じた事は記憶に新しい。自分のポケモンに指示を出して戦うという選択肢が思い浮かばなかったあたり、俺も大分精神的に追い込まれていたらしい。ちなみに俺とヨクバリスの勝負の行方だが、俺が負けた上に手持ちのクチート達は呑気にきのみを漁っていた。どうにかクチートに懇願してオレンの実を分けてもらっていなかったら、割と冗談抜きで危なかったかもしれない。多少腹が満たされ、余裕も出来た俺はこの状況を打破するために頭をフル回転させた。
「そうか! 俺トレーナーだからポケモン勝負をすればいいんだ!」
「……」
クチートが呆れた表情をしているような気がしたが、気のせいだ。しかしこれは意外と盲点だったと思う。勝負によって金銭を得る、というのはどちらかといえばポケモン勝負の副次的なものであり、金稼ぎのために積極的に勝負を行う、という発想は意外と無い。大体、余程の実力差が無い限り勝ち続けるというのは難しい。ゲームと違って例え無傷で勝とうともポケモンも疲弊するし、それできずぐすりを使うのは結局堂々巡りなようなもので意味がない。
ターフタウンの近郊にいるトレーナー達のレベルは正直言って大したものじゃない。俺であれば全勝するのも難しくはない―――。
そう判断した俺はリスクヘッジなんて言葉はどこかにぶん投げて、僅かに残った全財産の小銭を握りしめて、狂ったように目に付いた片っ端から勝負を仕掛けていくのだった。痩せぎすで長身の男が血走った目で勝負を挑んでくる様子は、それはそれは恐ろしかったことだろう。特にスクールガールと思わしき女の子は悲鳴を上げていたが、俺も生活が懸かっているので許して欲しい。
まあ、最終的な収支ではプラスになったが雀の涙だ。そもそもこの付近のトレーナー達は高額な金銭の遣り取りが出来るレベルではなかったし、最後の最後で俺も負けてしまった。
「あー、最後に負けたのが余計だったな……。いや違うぞ、クチート。お前を責めてるわけじゃないからな」
むくれるクチートを必死に宥める。これに関しては本当はクチートが悪くはなく、寧ろ俺が悪い。頼りにしているが故に引き時の判断を誤ってしまった俺のミスだ。
「今日はカレーを作ってやるからな。マトマのみに、そうだなお前が好きな肉も入れてやろう」
喜ぶクチートの頭を撫でてやる。ターフタウンがいくら田舎といえでもスーパーぐらいはある。俺はその辺に落ちていたスーパーのチラシを拾い、設置されたベンチに座って特売の野菜やらの欄を暫く眺めていたが―――
「……金が足りない」
手持ちの料金だけでは絶妙に足りない。やはり肉が高い。野菜とスパイスセットだけなら足りる。しかしどんなに安い肉でも僅かに足が出る。
「しょうがない、クチート。今日のカレー、肉入りは諦めて……痛って!」
クチートは大層不服のようで俺の腕に噛みついた。勿論俺が怪我をしないように最大限の手加減をしているのだろうが、痛いものは痛い。
「しょうがないじゃん。俺だって肉食いたいよ、肉。たんぱく質を思いっきり摂取したいよ。でもお金が無いんだから、どうしようもないじゃん……」
ただでさえ痩せぎすで不健康そうに見えるのがコンプレックスなのに、これ以上は俺だって嫌だ。しかし無い袖は振れないという言葉の通り、金が無ければどうしようもない。
はぁ、とため息を吐いて項垂れる。
「ハァ。またこんなところで……」
つい最近、聞いたような気がする声だ。顔を上げる。
「……マリィ」
「まったく。今度はどうしたの?」
手が掛かる弟を見るように、マリィはそう言った。
「あんね、クスネの手癖が悪いのは常識ばい。危機意識が足りとらんのやなかと?」
「……はい」
俺はベンチの隣に座るマリィにこんこんと説教されていた。年下に叱られるというのは相当にくるものがあるが、実際俺の不手際のため反論できないという悲しみ。
「トレーナーだけが苦しむならよかかもしれんけど、それで手持ちのポケモンに迷惑かけたらいけんでしょ?」
「……」
「返事は?」
「はい、僕が間違っていました。ごめんなさい……」
「よろしい」
一通り説教を終えて満足したようだ。特徴的な博多弁の頻度も少なくなる。
「それで、どうするの?」
「どうするって……まあ、しょうがないだろ。大人しく他の具材とスパイスセットだけ買うさ」
「ふーん。……お肉ならあたしが融通してあげようか?」
魅力的な提案だ。一瞬それに頷きそうになるが、俺にも一応プライドというものがある。こんな無様を晒しておいてなんだが、流石にマリィにこれ以上情けないところを見せたくない。
「いや、それは良いよ。提案自体はありがたいんだけどな。……ほら、年下の女の子に集るような真似はしたくないし、男ってのは情けないところを見せたくないもんだからな」
「年下の女の子に二度も説教されとる時点で……」
「それは言うなよ。俺だって分かってるから……」
容赦ない言葉の刃で深く傷つけられるが、それは甘んじて受ける。そしてだからこそ、これ以上情けない姿を見せたくないのだ。単純にそれは年上の男としての意地のようなものだ。だからクチートが俺を噛んできて死ぬほど痛いがそれも我慢する。
「……男の人って面倒くさい。別にあたしだってタダで上げようとか思ってないから。ギブアンドテイクって言えばどう? あたしはお肉を提供する。その代わりにあんたはあたしの分のカレーを奢る。これなら対等でしょ?」
「……それは」
俺の手持ちにカビゴンのような大食漢はいない。マリィの分くらいなら余裕もあるだろうし、何よりクチートの噛み方が甘噛みの域を通り越してきた。我慢とか以前に腕が折れそう。大分ぐらついてしまうがまだ頷くことは出来なかった。そもそもマリィが俺と食事を折半する必要性はどこにもない。つまりこれはマリィの好意であり、それを安易に受け取るという事そのものに抵抗がある。一応、年上だし。
「うーん、じゃああたしのお願いを一つ聞くっていうのはどう?」
条件を追加される。俺は迷った末に、最終的にはマリィの提案を呑んだ。俺のなけなしのプライドも保てるし、今日頑張ってくれたクチ―ト達にも報いることが出来る。
マリィのお願いというのも気になるが、まさかそんな大それたことを頼んでくることもないだろう。
話は纏まった。俺は腹の音を退治するべく、早速スーパーに向かおうと立ち上がる。しかしそこにマリィが待ったを掛けた。
「その前にさっきのお願い、聞いてくれる?」
「今ここでか? ……いや、俺に出来ることならなんでもしよう」
本音は一刻も早く腹を膨れさせたいのだが、俺を助けてくれたマリィを蔑ろには出来ない。俺の返事を聞いたマリィは薄く笑った。
「あたしには兄貴がおるけど、それは知っとぉ?」
まったく関係なさそうな事を話し始めたマリィに俺は不審なものを感じた。
「……スパイクタウンのジムリーダーだろ? それは知ってる」
「そ。兄貴は強くて、あたしの誇り。……でも、そんな兄貴がいるから兄妹以外の他の関係に憧れた事も結構あって」
「お、おう。それで?」
俺は実に嫌な予感がして知らずのうちに一歩下がった。
「手が掛かる駄目な弟に憧れてたと。だから―――」
マリィが俺の目を見る。その目付きは決して年上の男性に向けるようなものでなく、どこか慈愛のようなものを感じた。
「―――あたしの事、『お姉ちゃん』って呼んでくれん?」
この後、具体的にどのような事があったのかは俺の名誉のために伏せさせていただきたい。ただマリィはこの後、大変ご満悦であった事から察して欲しい。どういうわけかマリィはその事に味を占めたようで、一日だけでは飽き足らず。ことあるごとに俺に姉呼びを強要してくることになる。そしてスーパーのレジ係のお姉さんの絶対零度により、まさしく俺は一撃必殺された事もここに付け加えておく。
評価を頂いたのは本当にとてもありがたいのですが、いかんせん何も考えていないため着地点がまったくわからない状況です。
鉄は熱いうちになんとやらの精神で書き上げてしまいましたが、正直続きを書くのは難しいと思いますので、次回投稿は……上げるかもしれませんが、その場合しっかり構成なんかも考える必要があるので、期待せずお待ちください。