【悲報】俺氏、セミファイナルまでで消えることが確定   作:Mamama

21 / 23
ⅩⅢ

 ポケモンバトルにおいてトレーナーの能力も重要になる。バトルの勝敗を握っているのは無論戦っているポケモンであるが、同時にトレーナー同士の優劣も大きい。

ポケモンが戦場で鎬を削っているのと同様に、トレーナー同士でも戦っているのだ。トレーナーの仕事はポケモン達に指示を出すことであり、同時にそれは相手トレーナーを出し抜くということでもある。そしてそれを行う判断というのは身体能力、経験、勝負勘だ。

俺は此処に光明を見出していた。ホップのポケモン達は強力である。ホップ自身も素人ではなく、ここまで勝ち上がってきた間違いなく優秀なトレーナーだ。トレーナーの才能という点で言えばホップは間違いなく俺の上を行く。

それを認めた上で俺が勝っている点はどこか。それはトレーナーとしての経験しかない。

 

これは俺の基本的な戦術にもなるのだが、まず自分の手札を多く用意する。それを使うか使わないかはさて置き、豊富な手段を用意する。ちょっとした小細工でもなんでもいい。極論相手に手札がある、と思わせるだけで良い。そしてその上で相手に難しい選択を迫る。バトルとは一つのリズムであり、俺の勝負はまず相手のリズムを崩壊させてからが始まりだ。

 

自身を高めるのではなく相手を落とし、その隙間をこじ開けて一気に勝負を持っていく。

今でも十分すぎるほど強く、更に伸びしろもあるホップだが今の段階で言うと判断にまだ甘い部分がある。そこを突く。

……裏を返せばそうでもしない限り俺が勝つことは難しいということでもある。

相手の判断ミスを誘うというのは容易なことではなく、奇策を用いる必要もあるだろう。

ベテラン揃いの俺のポケモン達はそれが出来る程熟達しているが、それでも尚危険な橋を渡らなければならないことに変わりはない。

 

「キレイハナ、『ちょうのまい』!」

「食い止めてくれ!『アームハンマー』!」

 

 カビゴンも大概遅いポケモンであるが、俺のキレイハナもカビゴンには勝るものの鈍足だ。『ちょうのまい』を奏でる間にカビゴンが迫る。振り上げた『アームハンマー』はキレイハナに直撃―――しなかった。

それまでのゆったりとした素早さから一気に加速し、カビゴンの拳を掻い潜る。

 

「……『ようりょくそ』か!」

「勉強熱心だな! 正解だよ! 『フラフラダンス』!」

 

 先ほどの舞とは違い怪しげなダンス。それを見たカビゴンは混乱状態になった。

さぁ、ここでも一つの選択だ。ホップはカビゴンを代えるのかこのまま突っ張ってくるのか。

『なんでもなおし』はもう使えない。これはルールブックに記載されており、トレーナーが使える道具には制限があるのだ。『げんきのかたまり』を死ぬほど持っていけば格段にバトルが楽になるが、そんな道具合戦の応酬を観客も見に来たわけではないし、純粋なポケモンバトルといえなくなるからその為の措置だろう。ポケモンの持ち物に関しては大きな制限がなく、この部分には大いに助かっている。

 

「……落ち着けカビゴン! もう一度『アームハンマー』だ!」

 

 後続にいるであろうアーマーガアに交代しなかったのは何故か。それも相手を攻略する手がかりになる。それほどこのカビゴンを信頼しているのか、或いは温存したかったからか。いや、考えはもっと単純で当たりさえすれば倒せるというものなのかもしれない。

ホップの判断が間違いだとは俺も思わない。実際俺のキレイハナは脆く、カビゴンの攻撃が当たれば一気に体力を奪えるだろう。

それに日差しが強い状態とはいえ、カビゴンの特殊耐久は高い。『ソーラービーム』の一発くらいは耐えるだろう。耐えて、混乱状態が解除されれば十分にカビゴンに勝ち目がある戦いだ。

 

混乱状態は早くも解けつつある。悠長に時間を掛けてはいられない。今のところキレイハナはかなり速くなっているが、先ほどのペルシアンで目は慣れているだろうし混乱状態から抜け出せば正確無比な『アームハンマー』が降ってくる。

 

「一旦戻ってくれ! カビゴン!」

 

 二度目の『アームハンマー』は不発に終わる。ホップは今度こそカビゴンを引っ込める決断をした。その隙にもう一度『ちょうのまい』を使えたのは僥倖だ。

次に出てきたポケモンは俺の予想通りアーマーガア。

……さて、ここだ。

カビゴンは強力かつ攻略が難しいポケモンだ。しかし出てきたアーマーガアも相当に厄介なポケモンといえる。特段珍しくはないし、それどころかガラルにおいてはタクシーとして運用されている面もあり良く知られているポケモンだ。

ただ飛行と鋼の複合タイプであるというのがキレイハナに見事にぶっ刺さる。

草タイプの技の威力は大きく減衰し、加えて向こうは草タイプに有効な飛行技を使ってくるのだからタイプ相性は最悪だ。

 

キレイハナを早めに処理したいという考えは分かる。『ソーラービーム』をノータイムでぶっ放すキレイハナに強く出れるアーマーガアを出すことはごく自然なことだし、俺がホップの立場だったら俺だってそうする。

いくらダメージを軽減させるとはいってもそれには限度がある。当然一発二発で削り切ることは出来ないだろうが、手痛いダメージを負う事になるだろう。

調子付いたポケモンを野放しにしていい理由なんてどこにもない。だから迅速に処理すべくアーマーガアを選出した。

 

『にほんばれ』と『ソーラービーム』のコンボは良く知られたものであり、草タイプを専門に扱うトレーナーの中にはそれを主軸に使うトレーナーも多い。俺のペルシアンとキレイハナがやってきたことは教科書にでも載っていそうなことで、ホップがその流れを断ち切るために攻勢に出るというのは簡単に予想がつく。

 

「アーマーガア! 『ドリルくちばし』だ!」

 

『こわいかお』を使って様子を見るという選択もあるにはある。しかし草タイプは状態異常を引き起こす技を豊富に覚える。現に『フラフラダンス』を見せているし、状態異常にでもされたら状況はまた一変する。それにドラピオンが『どくびし』を使ったことから俺が状態異常を使ってくるトレーナーという印象は付けられた。だから何かされる前に一気に決着に出る。

 

「『バトンタッチ』!」

 

 それは即ち、ホップがどのような行動に出るのか俺も予想が出来るということ。

ホップのアーマーガアが最も得意とするのは高威力である『ドリルくちばし』であるのはリサーチ済みだ。次に相手がどのような行動に出るか分かっている。どの技を打ってくるか予想が付く。そしてアーマーガアは野生にも出てくる普遍的なポケモンで、練習には事欠かない。おかげで迎撃の準備はここに整った。

 

「受け止めろ! クチート!」

 

 キレイハナに代わって出たクチートが小さな身体を駆使して錐揉み回転して突っ込んでくるアーマーガアを受け止める。

 

「アーマーガア! 脱出するんだ!」

 

 ホップの指示でアーマーガアが抵抗する前に片を付ける。いや、一撃で片を付けなければいけないのだ。その為の下準備は既に終えている。

 

「この距離なら外さねえだろ! 『かみなりパンチ』!」

 

 至近距離から放たれた『かみなりパンチ』にアーマーガアは一撃で沈んだ。

 

「……もしかして、キレイハナが使っていたのは『ちょうのまい』じゃなくて『つるぎのまい』だったのか?」

 

 アーマーガアを労りながらボールに戻し、ホップはそう疑問を零す。

 

「キレイハナの『ようりょくそ』で速くなっていたから気づかなかったけど……いや、そうなるように見せていたのか。『にほんばれ』状態で草タイプを出してきたら、誰だって『ソーラービーム』を使うと思うよな」

「……さあ、どうだろうな」

 

 正解である。奇襲に特化した今日のキレイハナは『ソーラービーム』どころか、草タイプの攻撃技がない。しかし馬鹿正直に答えるのは下策だから俺は適当にしらばっくれた。

『かみなりパンチ』はアーマーガアに有効な技だが、それが実際に当たるかどうかは別の問題だ。小柄なクチートの攻撃レンジは狭く、相手に近づいてもらう必要がある上にタイミングは相当シビアなものになる。

 

それにクチートに『かみなりパンチ』があるとホップが知れば遠方からの攪乱作戦に出てくるだろう。ホップのトレーナーとしてのレベルは高い。一撃で沈めなければあっさり対応してくる。だからこそ一撃に拘ったのだ。

 

「へへ、すっごいな! アーマーガアが倒れるまで全然気づかなかった! あんな戦い方もあるんだな! よーし!」

 

 気合を入れたホップであるが、その目は油断なく俺のクチートに向けられている。

次に出すポケモンは誰にするか、吟味をしているのだ。

……キバナ戦から手持ちを替えていないとすると、残りのポケモンはバチンウニ、カビゴン、ゴリランダーの三匹だ。

 

ここでバチンウニを出してくることは考えにくい。タイプ相性が悪く速さでも劣る。攻撃力が上がったクチートの一撃で十分に刈り取ることが出来る。

であればカビゴンかゴリランダーか。ここでダイマックスを切って力で押してくる、という選択もある。しかしそれはそれでリスクが付きまとう。まだホップには俺のクチートの持ち物が割れていない。『きあいのタスキ』の可能性を考えればカウンターによってダイマックスしたポケモンでも容赦なく一撃で沈む可能性がある。この持ち物は体力が満タン時にしか効果がないが、俺にはまだ道具の使用権が残されている。ゴリランダーは鈍足ではないが、かといって素早さがウリなポケモンではない。『すごいきずぐすり』を使い、持ちこたえた上で強烈な一撃を見舞うことも出来るだろう。

 

ホップは手持ちが三体残された状態、俺の方も三体残っているがペルシアンが結構なダメージを負っている。ポケモンのスペックを考えない優劣でいえばホップの方がまだ優位といえる。勝負は中盤であり、ここで一気呵成に畳みかけるというのは勝負を決定づける一手に成り得ると同時に、それを破られた時には敗色濃厚になってしまうという危険性も孕んでいる。それを天秤に掛けて攻勢に出てくるかどうか。

 

「……」

 

 俺は脳内にこれからの道筋を立てていく。ホップが悩んだ時間は僅かだった。

 

「もう一度頑張ってくれ! カビゴン!」

 

 選出されたのはカビゴンだった。

 

「『バトンタッチ』」

 

 再度の交代で俺が選んだのはキレイハナ。逃げることは選択しない。次第に日差しも弱まってきた。今回もキレイハナが華麗に避けてくれるだろう、なんて楽観的に考えることは出来ない。

 

「キレイハナ、相手は強い。……酷なことを言ってる自覚はあるが、逃げずに立ち向かってくれ」

 

 躱すと逃げるは似ているようで根本的に思想が異なる。逃げとは一度退却をして態勢を整えるということで、躱すというのは回避を念頭に入れながらも戦う意思を見せるもの。

……俺は、もう逃げてはいけない。

ガラルに来ずに逃げて安穏と過ごすことは出来た。トレーナーを辞めたって、道は別にあった。

でも俺はそれが嫌だったんだ。

俺は諦めたけど諦めたかったわけじゃない。逃げたくて逃げたわけじゃない。

ガラルに来て、もう一度やり直すって、そう決めたんだ。

本音を言うと今だってバトルが怖い。昔の性格を引っ張りだして見得を張っているだけで、いつだってネガティブな思考がどこかにこびり付いている。

そんな自分が、俺は本当に嫌いだ。

 

だから俺は今日、運命に抗う。

勝たなくったってもいいのかもしれない。圧倒的に惨敗するという未来はこの時点で避けられた。

だから、もう頑張らなくていいんじゃないか?いい勝負をすればいいのであって勝たなければならない理由はない。

―――嗚呼、なんて見当違い。

勝つんだ。俺が俺であるために。何より相棒達に誇れるようになるために。

その為の一歩として、俺は勝ちたいんだ。

これまでガラルで戦ってきた誰よりも強いホップというポケモントレーナーに―――!

 

「『ドレインパンチ』!」 

「『アームハンマー』!」

 

 小さな影と大きな影。その二つが交差し、衝撃の轟音がバトルフィールドに響いた。

 

 

 

 

 

 観客達の盛り上がりは絶頂を迎えていた。それは明確な熱となって俺のところまで届いていた。

 

「……お疲れ、ペルシアン」

「よく頑張ってくれたな、バチンウニ」

 

 互いに戦闘不能となったポケモンをボールに戻す。残すポケモンは互いに一体のみ。『すごいきずぐすり』を使ったことにより、俺のクチートの体力は全快している。お互いに万全のエースを残し、ダイマックスも使っていない。

ホップの予想を越えた抵抗によって頼みの綱にしていた『つるぎのまい』の効果は切れてしまった。

このことがエース対決にどう響くか。

 

「まったく、自信無くすな。そりゃ強いことは分かってたけどさ」

「オレだってびっくりしたぞ! まさかこんなに強い人がいるなんてな!」

 

 話しながらも戦意が高まってきていくのを感じる。燃えるような感情に身体を支配されていく。

それはきっとホップも同じだろう。笑いながらもその身体から猛りが昇っている。

 

「ハ、だがな――」

「へへ! でもまあ―――」

 

 合図なんていらない。ここまで戦ってきて、ホップのことを少しわかった。とんでもなく負けず嫌いで、何よりも勝ちたがっていること。

少し、俺と似ていると思った。

 

「「勝つのは俺だ!」」

 

 指し示したように同時にボールが投げられた。

 

「さぁ! 華々しく終わらせようぜ! クチート!」

「オレ達の全てをぶつけるんだ! 任せたぞ! ゴリランダー!」

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。