【悲報】俺氏、セミファイナルまでで消えることが確定 作:Mamama
最近俺は自分が舐められているような気がしてならない。
俺は(ポケモンの世界観においては)れっきとした大人であり、それもそれなりに経験を積んだトレーナーだ。寧ろ俺は尊敬を向けられる側の人間であり、少なくとも年下に舐められるような存在ではない。違う地方とはいえジムバッヂを8つ集めることがどれほどの苦行であり偉業であるのか懇切丁寧に解説したいくらいだ。
これまでにイーブイのコスプレをした女の子にいちご味の飴を恵まれたとか、たんぱんこぞう達から鬼ごっこに誘われたりとか、そういう出来事があったりしたがそれはまだいい。飴は美味しかったし、無邪気に走っていると童心に戻って気分も良い。ケンタ率いるたんぱんこぞう連合軍の姑息な集団戦法によって執拗に追い回されたのは今でも根に持っているが。
幼い子供というのは純粋な生き物であり、本能的に俺が目付きの悪い不審者ではなく、心優しい穏やかな気風の人間だということを見抜いているのだろう。そう解釈すれば俺も気分が良いし、多少の事は許してやれる気分になる。
ただ俺を弟のように扱うマリィの行いは到底許容できるものではない。年上のプライドをへし折る、まさに悪鬼羅刹が如き所業には誰であれ怒ること間違いない。俺がそこに怒りの声を上げないということは俺自身が仏のような性格をしていることと、子供の微笑ましい遊びに付き合っているという認識を持っているからであり、即ち俺が余裕のある大人である証左に他ならない。
しかしマリィはそんな事に気づいていないのか、俺に対して実に気安い。
……いや、気安いのは別にいいのだ。別に俺に対して敬語を使えだとか敬えだとか、そんな事を言うつもりはない。しかし最低限、年上に払う敬意というのは持つべきである。お姉ちゃんぶりたい年齢なのは分かるが、それでも弟扱いは論外だ。
年上には敬意を払う。これは社会を生き抜くための当然の能力であり、それが出来ない者は社会に居場所はない。故にそれを正すということは厳しい世界を知った年上としての義務である。俺個人の私怨などではなく、道を誤りつつある若人を導くという崇高な使命だ。
しかしマリィは俺の言葉を基本的には聞いてくれない。正しく言えば聞いてはくれるのだが、なんというか対応が雑である。言葉で尽くそうにもその言葉が届かない。
……古来より、教育というものは難しいものだ。
特に多感な子供に対しての教育は難しく、相応の苦労があるというのは良く聞く話だ。
言葉では子供は動かない。ならばどうするか。行動で示すしかあるまい。
逞しい俺の背中を見せるのだ。そうすればマリィとて心を入れ替えて、俺への態度も変わるだろう。そのように結論づけたのまでは良いが、しかしそうなるとまた別の疑問が浮上してくる。
「……大人らしい行動ってなんだ?」
傍らのクチートにそう問うが、クチートは俺が買い与えた上等なモモンのみを咀嚼するばかりで、俺の話なんか欠片も聞いちゃいない様子だ。マリィよりも俺の手持ちのポケモンの方が余程俺の事を蔑ろにしているような気がしたが、それは気のせいだろう。そうであってほしい。
実際、クチートは俺の指示に従ってよく戦ってくれた。昨日のカブ戦では先発ではなかったが、俺のペルシアンが力尽きた後、不利な相手であるマルヤクデを倒してくれたのだから。モモンのみはそのご褒美として買ったものだ。当然、ペルシアンにも同じく与えているが彼女は既に食べ終え、俺の腰のボールの中で柔らかな寝息を立てている。
多くのトレーナーにとっての鬼門であるカブ戦を一度の挑戦で乗り越えたことは俺にとって多少の自信になっていた。やっぱりなんだかんだ俺ってば優秀なトレーナーだよな、という考えが浮かんでくるくらいには。そしてその自信は良く分からない使命感となってマリィの態度を治すべきだ、と俺を動かすのだ。
「取り敢えずマリィを探すか」
キャンプの中から俺はもそもそと這い出る。エンジンシティからほど近いワイルドエリアで俺はキャンプを張っている。街に近いから大抵は此処を拠点にしているのだ。まあそれもこれから挑むラテラルジムに行くまでだろう。
サイトウを攻略した後、次のジムがあるアラベスクタウンに向かうにはルミナスメイズの森を抜ける必要があるから、流石に拠点を移す必要がある。
マリィもカブに挑んでいる頃のはずだ。であれば、エンジンシティをうろついていれば出くわすだろう。いつも用があるわけでもないのに俺に絡んでくるし、当てはないがどうにでもなる。そんな軽い気持ちで俺はエンジンシティに乗り込んでいったのだった。
「……はっ!?」
「どうしたの、兄ちゃん?」
「い、いやちょっと本来の目的を見失ってて……」
不思議そうな顔で俺を見るたんぱんこぞうのケンタ。俺は遠くに特徴的なパンクファッションの後ろ姿を見て、なんのためにエンジンシティに乗り込んだのかを思い出した。しばらくうろついてもマリィの姿が見えないから、エンジンシティに住むケンタと遊びに興じてしまっていた。ちょっとした時間潰しのつもりだったが、カードゲームとはいえ勝負事であるから俺も負けることが出来ず、我を忘れて熱中していた。
「悪いなケンタ、今日はここまでな」
「えー! 今日は夕方まで付き合うって言ったじゃんか!」
いそいそとデッキを片付ける俺にケンタは不満げな声を上げた。
「男と男の約束を破るのかよー!」
「うっ……。俺が悪いのは認める。でもここは行かせてくれ。俺には使命があるからな」
「はぁ? 使命ってなんだよー! もう鬼ごっこに入れてやらないからな!」
「こら、ケンタ。あんまり人を困らせるものじゃないよ?」
俺とケンタの真剣勝負を温かく見守っていた、ケンタの祖母が優しくケンタを叱る。
「約束守れないでごめんな? 明日また付き合ってやるからさ」
「ちぇー……」
むくれていたケンタだが、ケンタの祖母が大粒の飴玉を与えると、途端に上機嫌になる。飴玉一つで機嫌が良くなるあたりケンタも子供だなと思っていると、ケンタの祖母は俺の手にも飴玉の袋を一つ落とした。
「ケンタと遊んでくれてありがとうねぇ。これはお礼」
「あ、どうも。ありがとうございます」
年上の好意は素直に受け取るものだ。俺は早速飴玉の包みを剥がす。袋からイメージは出来ていたが、飴玉はソーダ味のようだ。口に放ると、しゅわしゅわとした不思議な感覚と甘味が舌に広がる。やっぱり飴はソーダ味に限る。飴玉を口の中で転がす俺を見て、ケンタの祖母はにこにこと笑っていた。
ケンタに別れを告げ、俺は遠くに消えそうになる背中を追う。そして背中が近づき、声を掛けようとした瞬間、俺はちょっとした悪戯心が湧いた。今マリィは俺の事を認識していない。であれば背後からいきなり驚かすことも出来るはずだ。
「……いや待て、それは年上として正しい姿とはいえないような」
何せ今から俺はマリィを真人間に戻すべく教育を行うのだ。俺が先生―――実に良い響きだ―――でありマリィは生徒。つまりは俺が上である。しかし子供のように他人を驚かして、それは大人として正しいものだろうか。
「いや、でも待てよ……」
腹立たしいことに俺とマリィの関係においてマリィが圧倒的に主導権を握っているというのが現状だ。教育云々の前にそのおかしな現状を打破することが必要ではないか。驚かしてマリィのペースを乱し、俺の土俵へ引っ張りあげる。それも悪くない。
俺が迷っているうちにまた距離が離れてしまった。どうするにせよ、見失っては意味がない。俺はまたしても小走りで追いかける。
しかし未だ心が固まらず、そんな事を二度三度繰り返す羽目になった。
「……もう普通に声掛けよう」
いい加減足も疲れてきた。意を決して俺がマリィに近づき声を掛けようとしたところ、俺の右肩に手が置かれ、阻まれる。
誰だと思いながら振り返る。そこにいたのは男女一組のエール団だった。俺の右肩に手を置いているのは男性の方で、その後ろには女性がいて険しい表情を俺に向けながらもスマホロトムを耳に当てている。
「君、少し良いかい?」
「あ、すみません。ジュンサーさんですか? はい、不審者が……はい」
フェイスペイントを施した二人はエール団の特徴的なしゃべり方を投げ捨てて、真剣味のある顔で俺にそう言った。
結論から言うとジュンサーさんを呼ぶのは勘弁してもらった。その代わり、俺はまたしても説教を喰らう羽目になった。マリィを追っては離れてを繰り返す俺の姿は不審者にしか見えなかったらしい。エール団は俺の事を認知していたようだが、いつもとは明らかに違う様子に流石に黙っていられなかったらしく、俺を呼び止めたそうだ。最終的に誤解は解けたが、幼気な少女の誘拐を企てる人攫いと表現されたあたりで俺は泣いた。
精神に多大なダメージを受けて、俺は解放された。当然マリィを追いかけるなんてことは先ほどの件がある以上は出来ないし、そんな気力もない。俺はとぼとぼと重い足取りでテントに戻ろうと帰路に着くが、その途中でばったりマリィに出くわした。
正直に言うと、今一番会いたくない人物だ。
「また泣いて、どうしたと?」
「なんでもない……」
「もしかして誰かに苛められたりした? だったらお姉ちゃんが―――」
「怒られただけだから。俺が悪いから……」
気遣う言葉が最早年上に対するものではないが、それに反発出来るほどの元気は俺に残されていない。
「……またおかしなことしたと? 悪かことしたら反省しぇなだめよ?」
「ごめんなさい……」
「いや、あたしに謝られても。……そうだ! あたし、カブさんに勝ってこれから祝勝会するから来る? 美味しいカレーもあるから。ね?」
「行く……」
今日はまともに昼も食っていない。泣くという行為によってエネルギーを消費しているせいなのか、こんな時でも腹は減っている。俺は深く考えずにマリィの提案を受け入れた。マリィに手を引かれ、俺は夕方のエンジンシティの街を歩く。それが周りにどのように見られているか考えられるほどの余裕は俺にはなかった。
取り敢えず書ける分まで書きました。
まだ私もダンデを倒していないので、今後更新するかどうかも含めてもうちょい時間をください。