【悲報】俺氏、セミファイナルまでで消えることが確定   作:Mamama

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※マリィ視点です。
あれだけ感想欄で主人公の容姿やら年齢やらで突っ込みが入った以上、こういった話を書くしかありませんでした。


ジグザグマな貴方へⅠ

 エンジンシティの路上でしくしくと泣いている姿を見たとき、あたしは昔に兄貴と一緒にワイルドエリアに行った時のことを思い出した。

偶然傷ついたジグザグマを見つけて、あたしと兄貴で手当てをした思い出だ。

野生のポケモンだったから、ジグザグマはあたしと兄貴が近づくと威嚇をした。けれど体力がなくなっているせいか唸り声はとても弱弱しかったから、小さかったあたしでも全然怖いとは思わなかった。知識のある兄貴は治療に専念して、あたしは観念して治療を受けるジグザグマの頭を撫でて落ちつかせていた。

 

傷自体は大したものじゃなかった。治療はすぐに終わって、兄貴の腕からジグザグマは飛び出した。すぐに草むらに逃げ込むかと思ったけど、ジグザグマはじぃっとあたしと兄貴の顔を見た。そして躊躇するような素振りを見せながらも、ゆっくりと草むらに消えてやがて見えなくなった。

……なんてことはない、そんな思い出。

 

その人の灰色がかった髪の毛がジグザグマの体毛のように見えてしまった。服装も白と黒を基調としたもので、あたしの幼い記憶にあるジグザグマとどうにもダブってしまう。

どう見ても人なのに、傷ついて無言で助けを求めているポケモンのように見えてしまって、気が付いたらあたしはその人に声を掛けていた。

 

「……どうしたの?」

「んあ?」

 

 間の抜けた声を上げて、その人はあたしを見た。

その顔は酷いものだった。顔の造形が醜いとかそういう意味じゃなくて、目に一杯の涙を溜めて大泣きしているわ、鼻水が垂れているわでぐちゃぐちゃになっていた。

ちょっと引きながらもあたしが事情を聞くと、時折嗚咽は交じりながらもゆっくりと話してくれた。

 

「俺は……自分で言うのもなんだけどそこそこのトレーナーなんだよ。チャンピオンロードにも挑んだし、そこでだって戦えてた」

 

 絶対に嘘だと思った。チャンピオンロードのことはあたしでも知っている。

他の地方では8つのバッヂを集めた後、最後の関門であるチャンピオンロードに挑むのが習わしだという。つまりこの人は8つのバッヂを集めたということになるのだが、兄貴のような強い人特有の気配がまったくない。しかもそんな凄い人がこんな路上が号泣しているはずがない。泣いている理由も……なんというか、年上の男の人とは思えない情けないものだったし。

ただそんなことを指摘するとこの人はもっと泣くだろうから、流石にこの場では言えなかった。

 

それでも挫折した、という言葉を聞いて物申したくなった。

 

「シャキっとせんね!」

 

 情けないことばかりを言うその人にあたしもちょっとイライラしたのかもしれない。口から出た言葉は自分の想像以上に強いもので驚いた。そしてその人の背筋が伸びる速さにも驚いた。

あたしがハンカチを貸して顔を綺麗にすると、多少はマシな状態になる。

 

ぐちゃぐちゃな顔面のせいで、その人がどれぐらいの年齢なのかはわからなかった。上背があるせいであたしよりも結構年上かと思ったけど、綺麗になった顔を見ると思ったよりも随分幼い。

 

勿論あたしよりは年上だろうけど兄貴よりは若い。男の子と男の人の丁度中間くらい。

いや、もしかしたらあたしよりも年下なのかな?という疑問も同時に抱く。そんなことはないんだろうけど、漂う雰囲気とかちょっとした仕草とかそういったのを見ると顔以上に幼く見える。

身長に対して身体がひょろりとしていて、もしかしたらカイリキーに首根っこを掴まれて強引に引き延ばされたんじゃないか、なんて馬鹿な事を考えてしまった。

 

そして紆余曲折―――といえるほどのものではないけど、ワイルドエリアでバトルをすることになった。道中、『挑むにはまだ早い』とか『俺に触ると火傷する』とか、そんなことを言っていたけどあたしはまだ実力を疑っていた。本当に8つのジムバッヂを集めた凄腕のトレーナーならあたしが勝つのは難しいと思うけど、そんな雰囲気は微塵もないし。

この人の言葉は近所に住むたんぱんこぞうの強がりのようにしか聞こえなかった。

 

そんなこんなでワイルドエリアに到着した。その頃には完全に涙も止まっていたけど、幼いという印象は消えない。

兄貴も身体の線が細いがこの人はもっと痩せていて、普通の人よりも色白な肌も相まって病人のようだ。癖なのか歩いていると身体が少しだけ左右に揺れて、あたしはこの人が今にも倒れてしまうのではないか、と気が気でなかった。

 

「ねえ、チャンピオンロードに挑んだって本当?」

「う、疑ってんのかよ。本当だって。……なんか毎回疑われるんだよな」

 

 ほら、とあたしにパーカーの裏地を見せる。そこには確かにジムバッジが8つ付けられていた。

一瞬偽造を疑うが、直ぐにそれを心の中で否定する。ジムバッジの偽造は重罪だと聞いたことがある。この人にそんな度胸は絶対ない。

 

「……本当なんだ」

「だから本当だって言ってるだろ。……もう一回言うけど、俺ってそこそこ強いから。負けても泣くなよ?」

「はいはい」

 

 適当な返事をしながらも、あたしは思いもよらない幸運にちょっと興奮していた。この人は本当に強いトレーナーだ。チャンピオンを目指すあたしにとって、強い相手と戦えるのはまたとない好機。

 

 簡易的なバトルフィールドを作って距離を取る。そしてお互いにボールを構えた。

 

「準備は良い? ルールは一対一で、道具の使用は駄目だから」

「ああ。―――往くぞ」

 

 そのたった一言で雰囲気はありえないほど一変する。鋭いながらちょっと垂れて微妙な脱力感を漂わせていた目に力が籠り、あたしを突き刺す。圧迫感があたしの前に突然現れた。重苦しい空気があたしに纏わりついて軽いはずのボールが重くなったような錯覚を受ける。

危なっかしい小さい子供はどこにもいなくなった。あたしと対峙しているのは人生の多くをポケモンバトルに捧げたであろう、一人の勝負師だ。

息を飲む。気が付いたら一歩下がってしまっていた。

傷ついたジグザグマはいつの間にか屈強なタチフサグマになっていて、その急激な変化にあたしは戸惑った。

……いや、圧倒されたという表現が正しいのかもしれない。

本気を出した兄貴の前にしたかのような感覚に、あたしは恐れてしまったのだ。

そんな事を思った時点で勝負の行方なんて決まっていた。

 

「行って、モルペコ!」

「暴れてこい、クチート」

 

 震える手を押さえつけてボールを投げる。本当に悔しいことに、決着はすぐに着いた。

 

 

 

 

 

 

 

 「―――ホント、トレーナーの腕だけなら素直に尊敬できるんだけど」

 

 あたしはそう言いつつ、寝息を立てて無防備になった彼の頬をぷにぷにと触る。一緒にカレーを食べていたところで睡魔に襲われたようで、彼はスプーンを握りしめたままテーブルに突っ伏した。涎を垂らしてすやすやと眠る彼に、勝負の時の獰猛さは無い。そこにいるのは安心しきった顔で眠る、あたしよりも年下の少年だ。

 

バトル以外の彼は本当にあたしよりも幼く、特に誰かに叱られたりするとしゅんとなって言動が更に子供っぽくなる。自身が大人であるとアピールを繰り返すが、それだって小さな男の子の背伸びとしか見えない。

あたしの主観も入っているけど、たんぱんこぞうとかスクールボーイとかと一緒に無邪気に遊べることを考えると精神年齢は彼らと同じくらいであることは間違いない。

 

「……やっぱり、ジグザグマみたい」

 

 昔会ったジグザグマと彼がまたダブる。ちょっと悪そうな見た目で、強がりな態度で、それでいて弱々しい様子とか。そんなことを思っているから、あたしもつい構ってしまう。強気な言葉を遣いたがるくせに、妙におどおどとした態度を見せるし。遠目から見ると目付きも鋭く見えるから、周りを伺う様子が怪しく見えてジュンサーさんに呼び止められたりするのだ。

 

それらのことを抜きにしても普段のしでかす行動の一つ一つもどこか危なっかしくて、目が離せない。お菓子に釣られて知らない人についていってしまいそうな危うさがあるから、あたしが極力見張っていないといけないのだ。実際にホウエン地方では様々なトラブルに見舞われたというし、大きな怪我もなく旅を終えたのは奇跡だと思う。彼曰く、とある事がトラウマになってしまって、そのせいで精神が幼くなったというが―――。

 

『俺、今も十分大人なんだけど昔はもっと大人だったんだよ』

 

 いつか彼はそんな意味の分からない主張をした。何をやったかジュンサーさんに怒られて、あたしが彼を引き取りに行った帰りのことだった。何もない遠くを見ていて、その時の彼はジグザグマではなかった。かといってタチフサグマでもない。きっとマッスグマくらいだ。

 

『でもさ、チャンピオンロードで色々あってそれがトラウマみたいになって、駄目になっちゃったんだ』

 

 寂しそうに笑う、そんな顔をあたしは知らない。いつもの強がりからくる嘘じゃなくて、きっと本当のことなんだろうとあたしは思った。

自分の言葉を失言とでも思ったのだろうか。彼は口を噤んで、それ以上を話してはくれなかった。それがちょっともやもやした。

 

「……」

 

 あたしは手を伸ばして彼のくしゃくしゃの髪の毛を撫でてみる。ろくに手入れをしていないだろう髪はごわごわとしていて、あまり触っていて気持ちのいいものじゃない。けれど、ちょっとちくちくする感触はやっぱりジグザグマの体毛に似ている。

 

もっと頼って欲しいと思うのは贅沢なのだろうか。彼が何かに対して苦しんでいるのはあたしも知っている。それは挫折とかトラウマに関係するものだというのもなんとなく気づいている。

ならあたしにそれを話してくれたっていいじゃないか。情けない姿なんてもう数えきれないほど見てきて、幻滅することもないんだから。

 

それになんといったってあたしは―――。

 

「お姉ちゃん。……ふふふ」

 

 小さな笑いが零れる。始まりはちょっとした悪戯心からだった。ターフタウンの郊外で再会した時の彼はベンチで項垂れており、しょぼくれた様子はやっぱりジグザグマだった。

 




元々一発ネタのつもりで投稿した作品なため、主人公の容姿や年齢どころか名前すらも決めておらず、何故主人公の言動が幼いのかとか、行動理念やらマリィとの関係性やらも何も考えずⅢまで更新していました。

ありがたいことにたくさんの方に見ていただいており、更新を続けようかなと思っています。しかし更新をしていく以上は細かいところを考えていく必要があり、それを主人公視点で描くのが難しかったためマリィ視点の話となりました。

大分中途半端に終わっていますが、後日後編を投稿すると思います。
またマリィとジグザグマのくだりは完全にオリジナル設定ですので、ご承知おきください。

たくさん感想を頂いており励みになっています。ただ返信が大変になってきたため誤字脱字等のご指摘以外は基本的に返信を行わないようにします。

これからも応援よろしくお願いします。
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