【悲報】俺氏、セミファイナルまでで消えることが確定   作:Mamama

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ジグザグマな貴方へⅡ

 クスネに財布を盗まれたと聞かされたあたりであたしは呆れてしまった。

クスネは珍しいポケモンじゃない。進化先のフォクスライも含めてガラルではかなり広範囲に渡って分布しているポケモンだ。

農作物を荒らしたりして毎年のように注意喚起されているが、大抵被害に遭うのはきちんと対策が出来ていない新米トレーナーか拠点を移せない農家だ。他の地方から来たばっかりとはいえ、まさかこんなに抜けているなんて。

 

……どうにも調子が狂ってしまう。彼が見せたトレーナーの一面はもしかして幻だったのかと疑いたくなる。バトルではあんなに強かったのに、どうして普段はこうなんだろう。年上の、しかも自分よりもずっと強いトレーナーなのに全然尊敬が出来ない。

別に下に見るというわけでもない。ただ尊敬よりもこの人は大丈夫なんだろうか、と心配の感情が前面に出てきてしまう。

 

あたしはため息を吐いた。子供っぽいところがあるとは思っていたけど、まさかここまでだとは思わなかった。あたしとしては再び彼にバトルを挑むつもりで声を掛けたけど、どうもそういう空気でも気分でもなくなっていた。

 

かといって困っているジグザグマをそのまま放置することもしづらいもので、しょうがなくあたしはお肉を融通することを提案した。あたしの言うことを一つ聞くという条件を取り付けて。

この条件は彼の年上としてのプライドとやらを守るために条件を上乗せしただけで、はっきりいってあたしには不要なものだった。

 

しかし弱った様子の彼を見ていると、あたしの中にふと意地悪な心が芽生えてきた。

もうちょっと困った表情が見たいなと思って、『お姉ちゃんと呼んで欲しい』なんてことを口走ってしまった。

 

優秀な兄貴がいるから、弟や妹という存在に憧れた。それは間違いじゃない。でも熱望していたかと言われればそういうわけでもない。

ふとした日常の瞬間に、あたしにも弟か妹がいればなぁと思うくらいが精々で。

だからあたしのお願いに大きな意味はない。彼を困らせたいという結果が欲しくて言ったものであって、あたしのことをお姉ちゃんと呼ばせることが目的ではなかった。

 

彼を困らせるという面において、あたしのお願いの効果は覿面だった。

彼は弱弱しく唸り、困ったように眉が下がった。しかしクチートにがしがしと噛まれている腕が痛いせいか、最後には涙目になって降参した。あたしから顔を背けて、ちょっと顔を赤らめて『お姉ちゃん』と小さく呟いた。

 

その様子が不覚にも可愛いと思ってしまった。ぞくぞくとしたおかしな感覚が背筋を抜け、同時にほわほわとした温かいものがあたしの心に満ちる。その不思議な感じは初めて経験するもので、病みつきになってしまいそうだ。

 

そこで過程と目的は入れ替わった。もっとお姉ちゃんと呼んでほしい欲求が大きくなってしまった。

あたしの中で彼に対する評価が変わったのはその時だ。情けない年上の男の人は、あたしが庇護する対象に変わった。

 

『……さぁ、言ったぞ。これでいいんだろ』

『うんうん、ちゃんと言えて偉い』

『君よりも俺の方が年上だって。この間も言っただろ』

『こぉら、あたしを呼ぶ時はお姉ちゃん、でしょ?』

『一回だけじゃないの!? っていうか君の方が年下なのに姉っておかしいだろ! 俺をお兄ちゃんって呼ぶならまだしもさ』

『いや兄貴は間に合ってるから。それに一回だけなんか言ってないし。……うーん、今後あたしを呼ぶ時はお姉ちゃん固定ね』

『それは本当に勘弁して。……おい、頭を撫でようとすんな! 俺の方が年上だからな! ねぇちょっと聞いてる!?』

 

……あの日、あたしから離れてしまったジグザグマ。あのジグザグマはちゃんと群れに戻れたのだろうか。元気でいるのだろうか。誰かに苛められていないだろうか。

それを確認する方法なんてもうない。きっと元気でやっているのだろうなんて希望的に思うしかない。

彼とジグザグマを重ねて見ることは良くないことだと分かっている。彼に対してもジグザグマに対しても失礼だって知っている。

それでも、誰にも言わないから少しだけ妄想するのは許して欲しい。

あの日のジグザグマが姿を変えて、今度こそあたしの胸の中に飛び込んでくれた―――。

そんなくだらない妄想を。

 

「……いい加減起きんね」

 

 あたしは指先で彼の頭を突っつく。まだ食事の途中だし、こんなところで寝たら風邪を引く。

 

「んぅ……。あー、悪い寝てた」

 

 何回か突っついたら彼はようやく起きた。くぁ、と小さく口を開けて欠伸をする。しょぼしょぼとした瞼を擦るのはいいが、スプーンを持ったままなのはいただけない。目に入ったらどうするのだ。

 

「こぉら。スプーン握ったままじゃ危かろ」

「これくらいで怪我しないって……」

「そんなこと言って。知っとるとよ。お姉ちゃんの言いつけを守らんでワイルドエリアに行ってキテルグマに追いかけまわされて泣いたって。キテルグマが出現するところは危ないって前も言ったのに」

「なんで知ってんの!?」

「たんぱんこぞうのケンタが教えてくれた」

「け、ケンタのヤツ! 絶対他の誰にも言わないって約束したのに!」

 

 残念ながらエンジンシティに住む彼の友人達は懐柔済みだ。といっても別に変なことをしたわけじゃない。単純に彼がおかしなことをしようとしたら連絡して、とお願いしただけだ。

 

「それで、分かった?」

「わ、分かったよ。俺が悪かったです……」

 

 ちょっとむくれた様子でカレーを掻きこむ。まぁ、あたしも説教をしたいわけじゃない。彼がちゃんと反省してくれたら別に言うこともない。

 

「……寝る前の話、覚えとる?」

「ん? ルミナズメイズの森を一緒に抜けるって話だっけ? どうしてもっていうなら、俺は別に良いけど」

 

 俺は一人でも余裕だしー、という彼に意地悪をしたくなった。

 

「ルミナズメイズの森が自殺の名所だって知ってる? それにあそこは本物の幽霊が出るって、よく噂になってる」

「そうなの!?」

「本当本当。有名な話だから」

 

 普通に嘘だが彼は顔を引き攣らせてあっさり信じた。幽霊が出るという噂自体はあるが、悪戯好きなベロバーか何かを見間違えただけだろう。

 

「で、どうする? あたしも無理強いはしないけど」

「……いや、心配だから着いていくよ。うん、そうした方が安全だ」

「あたしは幽霊とか信じとらんし、別に気を遣わんでも良いよ。お姉ちゃんに着いてきたいって言うならあたしも止めんけど」

「……」

「どうする?」

「……ちょっと怖いから着いていって良い?」

「誰に着いていくと? 言葉を抜かして喋ったらいけないって前も言ったでしょ」

「いや、マリィに……」

「マリィ? おかしかね、カードゲームで勝負する時罰ゲームを決めたでしょ? あたしの事はなんて呼ぶんだっけ?」

「……お姉ちゃんと一緒に行きたいです……!」

「よろしい。……まあ、自殺の名所っていうのは嘘なんだけど」

 

 彼はがっくりと項垂れた。

 

「だ、騙したな! 俺、マジかと思って信じたのに……!」

「ごめんごめん。本当はあたしが着いてきて欲しいと。ちょっと頼みたいことがあって」

「初めからそういえばいいじゃん。そういうことなら俺だって断らないのに……。それで、頼みたいって、どんなこと?」

「うん。ベロバーを捕まえるのに協力して欲しくて」

 

 かくとうタイプの使い手であるサイトウさんは本当に強かった。特にあたしはあくタイプを好んで使っているから相性も悪く、一時は負けも覚悟した。

なんとか勝てはしたものの、あたしはかくとうタイプに対して強く出れないということを再度認識した。

かくとうタイプのわざに対して弱点を突かれないのは、あたしの手持ちの中ではグレッグルだけだ。そのグレッグルもかくとうタイプに有効であるひこう技やエスパー技を覚えているわけではない。

チャンピオンを目指すあたしにとって、かくとうタイプに弱いという弱点は早めに克服しなければいけないものだ。

そんな中、浮かんできたのがあくタイプでありながら、フェアリーの側面も合わせ持つベロバーというポケモンだった。

 

「あー、そういうこと。……俺もなんか捕まえようかな」

 

 あたしの説明に理解を示しながらも、彼は考えこむように腕を組んだ。

 

「ガラルって他の地方よりポケモンの持ち込みが厳しいんだよな。既存のポケモンの生態系を壊さないようにっていう配慮らしいけど」

「……こっちに持ってこれなかった手持ちがいるの?」

 

 彼はホウエン地方出身だ。ガラルでは生息していないポケモンも沢山いるから、連れてこれなかった手持ちがいてもおかしくない。

 

「ああ、サクラビスとオオスバメは実家で休んでもらってる。こればっかりはしょうがないんだけど、戦力ダウンが痛くてな。俺も手持ちを増やそうと思ってる。……少なくとも一匹はな」

「クチートとペルシアンと……サイトウさんの時はキレイハナを出しとったけど、後の手持ちは?」

 

 彼の実力は普段の態度とはかけ離れて高い。サイトウさんの時ですらクチートとキレイハナの二匹だけで攻略したくらいだ。それを考えるとあたしが知らない手持ちがいてもおかしくない。

 

「この三体だけだよ。流石にこの面子だけじゃ心もとなくてな、せめて後一体は手持ちに入れておきたいんだ」

「四体って少なくない? 五体ぐらいの方が安心出来るんじゃなかと?」

「育成のこととか考えたら後一体くらいが限界かなって。それに―――」

「それに?」

「……いや、ほら。手持ちって六匹までじゃん? そりゃ今の手持ちは少ないけど、いつかはオオスバメ達も迎えにいくわけで」

「うんうん」

「俺ぐらいのトレーナーなら全部のポケモンに愛情を注ぐとか余裕なんだけど、それでも七匹になって一匹だけボックスに預けたらやっぱりかわいそうだろ」

「……」

「なんで無言で俺の頭を撫でるの? ねえ、おかしくない?」

「ん? お姉ちゃんが撫でたくなっただけだから。別にいいでしょ? 減るもんじゃないし」

「……まあ」

 

 おかしな行動が目立つ彼だけど、本質的には優しい人だ。

単に情けない人だけだったら、きっとあたしだってそこまで深く関わっていないだろう。

年上なのに年下のようで、弱そうに見えてとても強くて。ちょっと偉そうな態度で本当は優しくて。そのチグハグさにあたしはやられてしまったんだと思う。

 

 

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