【悲報】俺氏、セミファイナルまでで消えることが確定   作:Mamama

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 フランス革命を知っているだろうか。

いや別にフランス革命でなくてもいい。南北戦争でもいいし、十月革命でもいい。

歴史書を紐解けばわかることだが、歴史においての大きな分岐点では革命という二文字が踊っていることが多い。革命という行為の是非は置いておくとして、此処では革命という言葉そのものについて理解を深めたい。

 

革命―――つまりは排斥されていた弱者が強者を打ち倒すなんてことは過去にいくらでもあったことだ。先ほどのフランス革命でいえば当時絶対王政を敷いていたルイ16世らを市民達が排し、ギロチン送りにしたということで有名だ。

弱々しい市民達は飼いならされるだけの羊ではなかった。貴族たちの圧政に耐えながらも見えないところで牙を磨き続けていたのだ。最も、フランス革命後のフランスは国力が低下してしまうのだが、これは本筋から離れてしまうので割愛する。

 

そう、本筋だ。

俺がそれらの行いに対して政治的な主張を行うとか、そういったワケではない。専門家ぶって解説したいわけでもない。ただ一つ、客観的な事実を此処に示したいだけだ。

即ち、革命とは時が来れば自然と起こり得るものであるということ。

革命が起こるのは百年後かもしれない。十年後かもしれない。一年後かもしれない。

或いは、今日だってそれは起こりうるかもしれない。

そう。俺は……いや俺達は今日、革命を起こすのだ。

……確かに、一人では長く苦しい戦いになってしまっていただろう。

 

一人一人では力が弱い。だからこそ革命とは民衆達が団結するのだ。孤独な闘いを強いられていた俺では聊か荷が重い。

だから俺はマリィという絶対的な権力を誇る皇帝に一人で抗っていたのだが、人間とは弱い葦でありこれまでの俺は懸命に耐え忍ぶしかなかった。屈辱に悶え、プライドをへし折られながらも、きっと明日は良い日が訪れると、微かな希望を持って。

しかし今は違う。俺は強力な同盟者を手に入れた。苦しみを分かち合い、互いの心に触れた俺達に最早敵などいない。

革命だ。俺達は革命を起こす。いや、起こさなければいけないのだ。

強きを挫き、俺達は安寧なる明日を手に入れる。その為の力を、俺は手に入れた。

嗚呼。苦しみを共に出来る友がいることのなんの頼もしいことか。

 

「―――それで、準備は良いですか?」

「愚問だな。お前こそ良いのか? スタジアムの扉を潜れば俺達はもう後戻り出来ないんだぜ?」

「貴方こそ誰にものを言ってるんです? 僕は既にジムチャレンジの資格すら剥奪された身。今更怖いものなんてありませんよ」

「……そうか。だが、厳しい戦いになるぞ」

「そんなことは分かっていますよ。……欲しいものは手を伸ばすだけじゃ届かないんです。なら戦うしかないでしょう。例え、どんなに凄惨な戦場になろうとも……!」

 

 そこにいるのは覚悟の目をした男だ。戦地に赴くことを良しとした男だ。ならばこれ以上言葉を重ねるのは無粋というものだ。

 

「ヘマすんなよ、ビート」

「貴方こそ無様な姿を見せないでくださいよ。いつでも僕が助けられるわけでもないんですから」

「……へへ」

「……ふん」

 

 俺達は互いの拳を軽く合わせ、スタジアムに乗り込んだ。

 

 

 

 

 

 

 事は数時間前に巻き戻る。

俺はアラベスクタウンのポケモンセンターにやってきていた。アラベスクタウンのジムリーダーであるポプラはフェアリータイプの使い手であるから、ルミナズメイズの森に出現する野生のポケモン達は絶好の仮想敵だ。

マリィはさっさとジムに挑戦しにいったが、俺は入念に準備を重ねるタイプだ。

俺が幾ら優秀なトレーナーといっても想定外の事なんてのは幾らでも起こりうる。特に俺は現状として三匹の手持ちしかいないから、慎重にならざるを得ないのだ。

 

そろそろ俺もジムに挑むかな、と思いながらポケモンを回復させるためにポケモンセンターを訪れたわけなのだが―――。

 

「……おう」

 

 ロビーの一角に設置されたソファーでピンク色の服が特徴な少年が一人で俯いてなにやらぶつぶつ呟いていた。どう考えてもヤバイ奴だ。

真っ先にそれが目にはいるほどの違和感と存在感があるというのに、中にいる人達は慣れたというか、そもそも目に入っていないかのようだ。

少年の周囲だけが切り離されたかのようにぽっかりと浮いている。

 

「……あの人、どうしたんですか?」

 

 ポケモンを預ける傍ら、俺は受付のジョーイさんにそう聞いてみた。

 

「あー……」

 

 ちょっと言葉を濁しながら、ジョーイさんは話してくれた。

 

「その、あの方はポプラさんのお弟子さんなんですよ。修行が大分厳しいものらしくて、

良くあそこで項垂れているんです」

「……そうなんですか」

 

 ポプラさんのお弟子、と聞いて俺には一人思い浮かぶ人物がいた。あの特徴的な格好と髪型から考えて十中八九間違いないだろう。

 

「……」

 

 もう此処の住民達は慣れてしまったということなんだろう。俺はそれが寂しく見える。彼が行きつく結末を俺は知っている。だから俺が気に掛けるというのは無駄な行為だ。

しかし今の状況に苦しんでいる。それは確かなことだ。

―――迎える結末を知っているなら、お前は苦しんでいる人を見過ごして良いのか?

良い訳がない。例え俺の知識があるとしても、見過ごして良い理由になんてならない。

 

それに―――。

俺の脳裏にはマリィの顔が浮かんだ。

エンジンシティで号泣する俺に声を掛けてきてくれた少女。

姉呼びを強要するなど俺が思った以上にエキセントリックな性格だったが、俺はマリィに少なからず救われた。

そう。俺は彼女に救われてしまったのだ。

口ではどうこう言いながらも、俺はマリィとの会話を楽しんでいた。そしてそれは俺のささくれ立った心を緩やかに修復してくれているのだ。

……姉呼びは本当に恥ずかしいから勘弁してほしいのだが。

 

「……なぁ、おい。大丈夫かよ」

 

 慣れないことをしているという自覚はある。けれど声を掛けないという選択肢は俺にはなかった。

 

 

 

 

 

 

「朝起きてもピンク。昼でもピンク。夜もピンク。……やめてくださいよ。僕の中でピンクがゲシュタルト崩壊しそうだ……!」

 

 俺が思ったよりも大分ビートは重症だ。出るわ出るわ愚痴の数々。

 

「分かりますか? 朝起きたと同時にあの婆さんの顔が視界一杯に広がって、いきなりクイズが始まるんですよ? しかもそのクイズの問題だって意味が分からないですし。なんで年齢88歳じゃなくて16歳が正解なんですか。それはもうクイズじゃないですから!」

 

 俺は無言でビートの肩を撫でてやった。

 

「もういやだ……。食事も全部ピンク尽くしだし。桜でんぶはおかずじゃないんです。それでご飯食べられないんですよ! ビーツ入りのピンクカレーなんて奇天烈なものを出してくるし……!」

「分かる、分かるよ。辛いよな……」

「そりゃ、僕を拾ってもらったことは感謝しますよ。でもですよ! だからといって人としての尊厳を踏みにじられる謂れはない……!」

 

 その後も言葉を吐き出し続け、ビートはようやっと落ち着いた。

 

「ふぅ。すみませんね。僕としたことがつい取り乱してしまって」

「いや、いいさ。行きずりの関係だからこそ、言えることもあるだろうからな。……それに、俺もアンタの精神的にキツイ気持ちはちょっと分かるよ」

「どういうことですか?」

 

 ハイライトの消えた目でビートは俺を見る。ビートが此処まで赤裸々に語ってくれたのだ。俺が一方的に聞くだけというのは無作法というもの。

 

「俺もさ、マリィ……年下の女の子に弟扱いされてるんだ。酷いんだぜ? 俺に姉呼びを強要してくるし」

「……僕には縁の無い世界ですが、そういった特殊なプレイですか?」

「違えよ! ……でもやっぱりそういう風に思うよな。そりゃマリィには世話になってるけどさ、俺の方が年上なんだぜ? 最近はエンジンシティのガキ共にもマリィの弟だって認知され始めてるし」

「……それは、かなり恥ずかしいのでは?」

「恥ずかしいよ。百歩譲って二人きりとかならまだいいぜ? でも思いっきり街中でそうなんだ。まいっちまうよな。……っと悪いな。なんか俺の方が愚痴を聞いて貰ってさ」

「いえ、なんか僕以外の人だって大変だと思ったらちょっと楽になりました。……もう僕も戻ります。ポプラさんに桜餅を持っていかなくちゃいけないですから」

 

 そう言ってビートは立ち上がる。少しふらつきながらも入口に向かう背中。そこには言いようのない哀愁が漂っていた。

 

「……なぁ。アンタはそのままで良いのか?」

 

 俺の言葉にビートは立ち止まった。

ビートの事を俺は他人事とは思えなかった。最近はちょっと抵抗がなくなってきているとはいえ、年下の少女を姉呼ばわりするのは精神的にくるものがある。

俺の扱いについて、そろそろマリィにガツンと言ってやらねばならないのだ。

というかそろそろやめてもらわないと、俺はスパイクタウンで本当に殺されてしまうかもしれない。

 

「アンタはきっとなんだかんだでポプラさんに感謝してるんだろう。だからそんな目に遭っても唯々諾々と従ってるんだ。でもそれで良いのか? 不当な扱いをされてるんだ。声を上げたって良いんじゃないか? 待遇の改善を要求するとか、そのぐらいの事は主張しても良いんじゃないのか?」

「……無駄ですよ。ジムトレーナー達は皆ポプラさんに逆らえないし、そもそもポプラさんの思想に同調する人ばかりなんです。……あんなことをした手前、ローズ委員長に助けを求めるわけにもいきません。僕に味方なんていないんです」

 

 俺は立ち上がって立ち止まるビートの肩を組む。

 

「俺がいる」

「え?」

 

 驚いた表情のビートの顔が至近距離に映る。

 

「今からアラベスクスタジアムに戻るんだろ? だったら俺も着いていってやる。そして俺がアンタの味方になってやる。……俺が、アンタと一緒に戦ってやるよ。その代わり、アンタも俺と戦ってくれ。丁度マリィが挑んでる頃だろうからさ。あの聞かん坊にガツンと言ってやってくれよ」

「……どうして、僕に優しくするんですか。今日、僕と貴方は会ったばっかりですよね? 僕にこんなに良くしてくれる理由なんてないはずです」

「おいおい。アンタと俺は苦しみを共有した仲だろ? お前の為に俺は身体を張る理由なんて、それで十分だ」

「……僕は」

「別に無理強いをするつもりはない。お前が決めるんだ」

「……僕は……!」

「聞かせてくれ。お前の心はなんて言ってるんだ?」

「僕は―――!」

 

 がし、と俺の腕を強く掴む。

 

「僕は、戦います! 戦って! 僕の待遇を改善してもらいます! そしてピンクとは永劫おさらばするんだ!」

「……良く言ってくれた。俺はそのために力を貸そう。そしてアンタも俺に力を貸してくれ。俺達は搾取されるだけのプロレタリアじゃない! 革命だ! 俺達だって牙を持った獣だということを知らしめてやるんだ!」

 

 ジョーイさんの生暖かい目を後目に、俺達はスタジアムに向かうのだった。

 

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