【悲報】俺氏、セミファイナルまでで消えることが確定   作:Mamama

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「邪魔するぞコラァ!」

 

 自動扉を抜け、内部に乗り込む。此処は敵の本拠地だ。一切の油断も許されない。

しかし敵勢力の他に事情を知らぬ中立勢力もいるというのも事実。

俺達は二人になり、戦力は二倍どころか十倍に引き上げられたといっても過言ではない。

しかし無駄な事に体力は割いている余裕はない。速やかに本丸に攻め込み事を為す。

そんな中、進む俺達の行く手を阻む大柄な影が一つ。

 

「アラベスクジムにようこそ! ボールガイだボルよ~」

「邪魔ですよボールガイ! ジュンサーさんに通報してほしくなかったら速やかにどきなさい!」

「いきなり敵意剥きだしだボル!?」

 

 ビートの言葉にショックを受けた様子のボールガイだが、俺の方を見ると速やかに立ち直り、口調だけは爽やかに俺に喋りかけてくる。

 

「あ、君はチャレンジャーボルか? そんな君にはいいものを―――」

「いらねえよ。不審者がくれたものなんて危なくて使えるか」

「ボルッ!?」

 

 俺の言葉にボールガイは傷ついたように後ろに一歩下がった。ボールガイ自体はマスコットキャラクターとして認知されているが、この着ぐるみは非公認だ。つまりこの着ぐるみは勝手にジムの中に潜り込んでさも『僕は公式の存在だよ!』という風に装っているだけなのだ。

……よくよく考えると、コイツよく通報されてないな。

中身も得体が知れないことを考えると、コイツからもらったボールなんて怪しくて早々使えない。

 

「ひ、酷いボル~! 僕は皆の為を思ってボールを配ってるだけなのに~!」

「見え透いた嘘は止せ。自分の認知度を上げるための広報活動だろうが。それなのに皆のためにとか偽善的な言葉で誤魔化しやがって。あわよくば公認マスコットに、なんて汚い下心しかないくせによ」

「ボール配ってるだけでそこまで言うボルか!?」

「ええい! 兎に角邪魔です! 今日は貴方にかかずらってる暇はないんです!」

「あッ! ちょっと待―――!」

 

 ボールガイを押しのけて俺達は先に進む。ボールガイという余計な存在に時間を食ってしまった。

しかし天は俺達に味方した。丁度スタジアム入口からジムリーダーのポプラとマリィが一緒に出てきたのだ。なんという好機。

 

「なんだい、騒がしいねぇ」

「……こんな場所で騒いで。まったく、これはお説教しないと」

「なんだい、お嬢ちゃんの連れかい?」

「弟です」

「弟? ……ああ、そういう。最近の子供は進んでるねぇ」

「ちょっと!? そこは納得しないで欲しいんですけど!」

「ポプラさん! 今日という今日は僕も堪忍袋の緒が切れました! 僕の待遇について改善を要求しますからね!」

「そ、そうだぜ! これは革命だ! やいマリィ! 俺だってなぁ! お前より年上なんだ! ちょっとは俺を尊重しろ! 姉呼びを強要すんな!」 

「……反発心を叩き直そうとしたんだけど、いい具合に壊れてしまったみたいだねぇ。或いは隣の馬鹿に何か吹き込まれたか」

「ポプラさん。弟が馬鹿を言ってごめんなさい。後であたしが良く言っておきますので……」

「それはどちらかといえば母親の台詞だと思うけど。……まあ、お互い苦労するねぇ」

 

 ポプラさんとマリィの対応によって俺達の心の炎は更に燃え滾った。

二人はこの期に及んでも自らの絶対的な優位を確信しているらしい。なんという傲慢だ。

今日、足元を掬われることになるなど想像もしなかったに違いない。

 

「ハァ。……あんね、あたしは兎も角、ジムの人に迷惑掛けたらいけんでしょ? 前にも路上で鬼ごっこしてジュンサーさんに怒られとったのに、反省しとらんと?」

 

 静かな声に俺は身体が震えた。しかし今の俺は誇り高き革命戦士だ。そんな言葉一つで怯むなどあり得ない。

 

「そ、そんな声で凄んでも無駄ですよ! 僕達だって言う時は―――」

「あんたは黙りなさい」

 

 ビートの言葉は一瞬で切り捨てられた。マリィは俺の方に一歩寄る。ただそれだけなのに俺は一歩下がってしまった。

 

「それで、返事は?」

「……い、いや、今日は割とマジなやつで……」

「なんで返事せんと? お姉ちゃんが質問したらちゃんと答えるって、これも前に言ったやろう?」

「……あの、だから」

「人と喋る時は人の目ば見んしゃい」

「……今日はこれぐらいで勘弁してやらぁ!」

 

 踵を返す俺の腕をビートが掴んだ。

 

「ちょっと待ってくださいよ! まだなにも出来ていませんよ!?」

「だ、だってマリィ怒ってるんだもん! 超怖いんだよ!」

「男がもんとか言わないでくださいよ気色悪い! そんな事も織り込み済みで此処に来たんでしょう!? 一瞬で折れてどうするんですか!?」

 

 ぎゃあぎゃあ騒ぐ俺達を止めたのはポプラが持つ杖が地面を叩いた音だった。

 

「……ビート。あんたはあたしに逆らう。そういう認識でいいんだね?」

 

 長らくジムリーダーを務めたポプラには高齢ながら独特の力強さと迫力があり、俺とビートは動きを止めた。

 

「い、いや、違いますよ。ただ僕もこの待遇は大分辛いものがあるというか……。少なくとも、僕に日常をあんなピンクに染める必要はないでしょう?」

「つまり、あたしに物申したいってことだね?」

「物申すっていうか、僕だって一人の人間ですから、その……あんまり人権を無視するようなことはちょっとやめて欲しいというか……」

「そうかい。まぁ、細かい事は奥で聞いてあげるよ。あたしだって鬼じゃないんだ。話し合いの場くらい設けてあげるよ」

 

 ポプラはビートの腕を掴んで引き摺って行く。腕力勝負ならビートが負けるはずがないのだが、されるがままになっている。

 

「ちょっと待ってくださいよ! ほら、桜餅も買ってきましたから! ゆっくりお茶でもしましょう!」

「あたしゃ高血圧なんだ。そんな糖分たっぷりのもんが食べられるかね」

「じゃあなんで買いにいかせたんですか!? ちょ、ちょっと待ってくださいよ! ねえ! 僕知ってるんですよ! 話し合いとかいってまた僕をピンクの永劫地獄に叩き落とすつもりなんでしょう!?」

「なんだ、分かってるじゃないか。その通りだよ」

「い、嫌だァ! ポプラさん、自分の好みは他人に押し付けないって言ってるじゃないですか! なんで僕にだけこんな仕打ちを!」

「弟子は人間じゃないからねぇ。だから人権もない」

「そんなぁ……!」

 

 さらりととんでもない言葉の暴力をビートに叩きつけて、二人は去っていった。最後、ビートは俺を見た。それは助けを求める顔だった。ビートは必死に手を伸ばした。俺も手を伸ばせばきっと届く距離ではあった。けれど俺は動くことが出来なかった。

……その時の、ビートの絶望した表情を俺は暫く忘れることが出来ないだろう。

 

ビートの姿が消えた。彼がどのような目に遭うのか、俺には想像も出来ない。

革命とはある種華々しいものであるが、一つリスクとして考えておかなければならないことがある。革命とは常に成功するとは限らないということだ。

華々しいものには常に影が付きまとう。俺達は革命という言葉の鮮やかに惹かれてしまって、そればかりを追いかけていた。だから革命は失敗してしまった。そしてその結果、ビートという志を同じとする正しく同志を失ってしまったのだ。

 

「……ビート。良いヤツだったのにな」

 

 こうなった以上、俺に出来ることはない。俺に出来ることは彼の身を案じ、祈ることぐらいだ。後で教会にでも行ってみよう。信仰心溢れる信徒ではないが、神の門は誰にでも等しく開けられているという。ならば俺にも祈る権利くらいはあるだろう。

それが無力な俺に出来る唯一の行いだ。

そしてスタジアムを出ようとする俺を止めるように掴まれる小さな手。

 

「どこ行くと?」

 

 鷲掴みされたように心臓が跳ね上がった。

 

「……教会とか?」

「教会? まあ、行くのはいいけど後にして」

「あ、何か用事でもある? 俺でよければ付き合うけど? 買い物?」

「説教」

「……」

「……」

「……その、手心を加えていただくとか……」

 

 マリィは珍しく口角を上げて微笑んだ。俺にはそれが死刑宣告のように見えた。

 

 

 

 正座という禁じ手をあっさりと解禁し、俺はマリィの説教と共に足の痺れとも戦わなくてはならなかった。精魂果てた俺にマリィは追撃の手を緩めることなく、執拗に攻撃を続けた。説教は過去最長を記録する長丁場となり、マリィが時々おいしい水で喉を潤す場面もあったほどだ。

 

説教して話せば喉が渇く。そしてそれを聞いてしくしく泣いている俺だって喉が渇く。

しかしマリィは俺に水分補給すら許してくれなかった。こんなものは昭和時代の部活動と同じだ。精神論を振りかざしたところで何も変わらないというのに、やはり世界が変わろうとも時代が変わろうとも人の愚かさというのは変わらないということなのか。

そんな事を考えているとマリィから厳しい詰問が飛んできた。精神の自由すら最早保障されていない俺は身体竦めて、マリィの説教を聞くしかなかった。

 

「ねぇ、ちょっと聞きたいんだけど」

「……はい、なんでしょうか。お姉ちゃん」

「もう普通の喋り方に戻してもいいから。……やっぱり、お姉ちゃんって言いたくない? 嫌?」

 

 説教を終盤に差し掛かり、俺の方は流れる涙も流れ切ってしまい、寧ろフラットな状態になっていた。これまで眉根を寄せて懇々と説教していたマリィは急にしおらしくなって、そんな事を俺に聞いた。

 

「嫌っていうか……。正直もう俺も慣れちゃってるとこがあるけどさ。実際、別に俺達姉弟じゃないじゃん」

「それは、そうだけど……」

 

 ぶっちゃけた話、もう俺にはマリィを姉と呼ぶことに抵抗はあまり無くなっている。勿論恥ずかしい気持ちはあるし、出来れば呼びたくはないのだが。ただエンジンシティではマリィが俺の保護者として認知されつつある現状を鑑みると最早俺がいくら抵抗しても無意味な気がしないでもない。

 

しかし問題はこれからだ。俺が首尾よくこれからも勝ち進めたとして―――勿論、それは前提なのだが――、7つ目のジムがとんでもない鬼門になる。

ジムリーダーの使うポケモンのタイプ相性とかそういう話ではなく、ジムリーダーのネズはマリィの実の兄だ。兄妹仲も悪いものではなく、寧ろ良好なようだ。そのネズが俺のことを知ったらどう思うだろうか。スパイクタウンはエール団の本拠地であり、そこに一人ノコノコ俺がやってきたら袋叩きにされてもおかしくない。

そんな事を丁寧にマリィに説明してやると、マリィはきょとんとした顔を作った。

 

「え? そんなこと?」

「そんなことって……。良くないだろ。ネズさんにバレたら俺、殺されるんじゃないか?」

「大丈夫大丈夫。兄貴はそんな心の狭い男じゃなか。それに―――」

「それに?」

「もう兄貴、この事知ってるし」

 

 俺の周りの空気だけが凍り付いた気がした。

 

「え? え? なんで? いや、おかしくない? もしかしてエール団の誰かがチクったりした?」

「いや普通にあたしが。電話した時にちょっとそういう話になって。兄貴は別に怒ってるとか、そういう風じゃなかったし。『俺も早く会ってみたい』とか言っとったよ」

 

「そ、ソウデスカ……」

 

 俺はネズのマイクスタンドで撲殺されている自分の姿を幻視してしまって、身体が盛大に震えた。

 

それが妄想ではなく、割とあり得そうな未来であるあたりが最悪だ。

乾いた笑みを浮かべる俺に、マリィは不思議そうな表情を浮かべていた。

 

 




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初めて触るのでイマイチまだ使い方が分かっていない状況ですが、頑張ってこれから使いこなしていきます。
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