【悲報】俺氏、セミファイナルまでで消えることが確定   作:Mamama

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 このままじゃ駄目なんだろうな、という意識はずっと前からあった。

街は日に日に寂れていく。ナックルシティの方が交通網も発達しているし、利便性も良い。だから皆そちらの方に逃げてしまう。便利なところに移り住みたい気持ちは分かるし、出ていった彼らを責める権利なんておれにはない。

此処には大層な娯楽もない。この場所で出来る娯楽なんて他でも十分に出来るもので、この場所独自のものなんてないから観光客だって来ない。おれのライブであればファン達が来るが、まあそれだけだ。

ダイマックスも使えないから、他のジムと比べると見栄えだってよくない。

こうして考えてみると衰退の道を辿るなんて子供が考えたってわかる。

 

一人、また一人と人が消えていって代わりに増えるのはシャッターだ。

人が減れば活気が消え、代わりに生まれるのはぽっかりとした静寂だ。

永久に栄える場所などない。エンジンシティだって、いつかは寂れる時が来るだろう。しかしそれは今ではない。少なくとも、おれが生きている間は街の発展は約束されたものだろう。では、スパイクタウンはどうだ。

……もしかすると、おれが生きている間にこの街は地図から消えてしまうかもしれない。

長年住んできた俺だから分かる。年月を経る度にこの街は寂れていく。悲観的な妄想ではなく、それは実体を持った現実として、今まさにスパイクタウンを侵しているのだ。

 

今よりも若い時のおれは、それでもどうにかなると思っていた。

シンガーソングライターとしてはそれなりに評価を受けていたから、客寄せは出来る。なら、どうにかなるって思っていた。

けど、違うんだよな。おれにそこまでの求心力はなかった。中にはおれを慕ってくれて残ってくれる奴らだっているが、その数は大したものじゃない。

おれでは力が足りていなかった。そんなことはずっと分かっていたはずなのに、おれは現実から目を背けていた。

 

「なぁ、タチフサグマ。おれ、ジムリーダー向いてないな」

 

 トレーニング中になんとなくタチフサグマに話しかけていた。タチフサグマは困ったような表情で俺の言葉を聞いていた。

意外と、内面の想いを口に出してみると改めて実感することもある。仮にもシンガーソングライターであるおれが、一番知っていなくちゃいけないことなのに。

そうやって零してみると、それは運動後に飲むおいしい水のようにおれの心にしみわたった。

 

おれはなんでこうやって意地を張っていたんだろう。おれがこの街を変えてやるんだ、なんて青臭い想いを後生大事に持ち続けていたのか。勿論、その考えはまだ持っているが、おれだけの力で成し遂げなければいけないわけでもない。

意思は固まった。覚悟は出来た。元よりジムリーダーという肩書そのものに固執していたわけじゃない。これからやるべきことが劇的に変わるわけでもない。

 

「おれはジムリーダーを辞めるよ。シンガーソングライターで、ちょっとポケモンバトルが出来る一般人に戻るよ。……ああ、きっとそれが良い」

 

 問題は次のジムリーダーを誰にするのかということだ。ジムリーダーはただ強ければ良いというわけじゃない。おれがこれまでジムリーダーを務めていた理由はもっとスパイクタウンを盛り上げたいという思いがあったからだ。後進に譲ったといってその思いは変わらない。

 

しかし、スパイクタウンを拠点にしてジムを運営していくというのははっきり言って厳しいと言わざるを得ない。ダイマックスという要素はガラルのポケモンバトルにおいてかなり大きいウェイトを占めている。そのダイマックスが使えないとなると、ガラルの流儀に染まったトレーナーでは難しい。

おれはダイマックスを憎んでいるわけでも否定するわけでもない。しかし後を継ぐジムリーダーにはおれの理念を引き継いで欲しい、という贅沢な思いもあった。

 

第一候補は妹のマリィだ。おれよりも社交的な性格だし、トレーナーとしての素質も申し分ない。

身内びいきではなく、旅で経験を積めば十分ジムリーダーとしてやっていけるだろう。

しかしここに来て新たな候補が突然現れた。

ダイマックスをまったく使わないジムチャレンジャーがいて、エンジンシティのジムも突破した。そんな噂をおれは聞いた。

 

『ボクに連絡するとは珍しいこともあるものだね、ネズくん』

「ええ、まあ。あんまり親しい仲ってわけでもないですからね、おれ達」

 

 ロトムフォン越しにはエンジンシティのジムリーダーのカブの姿が映し出されている。おれは特別親しくもないカブに連絡をしていた。

 

『それでどうしたんだい? 普段は横の繋がりをあまり意識しない君だ。世間話というわけではないんだろう? ……何かあったのかい?』

「……確認したいことがあるんですよ。ダイマックスを使わないトレーナーについて」

 

 僅かにカブの表情が揺らいだ。

 

『……噂が流れるのは早いね。確かにダイマックスを使わない君にとっては興味を引かれる話だ』

「本当にそんなトレーナーがいたと?」

 

 三人目のジムリーダーであるカブは長い経験を積んだベテランだ。ホウエン出身であり、そちらの流儀も知るカブの方が、ヤローやルリナよりも話しやすい。

 

『いたよ。まだ若そうだったが、戦い方を良く熟知していた。相性で劣るクチートとノーマルタイプのペルシアン相手に落とされるとは思わなかったよ。……そうだね、彼ならば君にも挑むことになるだろう』

 

 カブは経験豊富なトレーナーであり、そのカブからタイプ相性を覆して勝ちを拾うことは相当な難易度だ。実際、カブも高く評価している。おれに挑む……つまりそれはジムバッヂを6つ集めるということで、例年おれに挑みに来るトレーナーの数は両手で足りるくらいだ。

 

「ちなみにそいつとのバトル映像はあったりしますか?」

『ああ、あるよ。後でファイルを添付して送ろう。ボクとしてもかなり刺激を受けた戦いでね、良く見返すのさ。……それに』

 

 カブは少し迷うような素振りを見せて口を開いた。

 

『彼は、ボクと同じ地方の出身だからね。ちょっとシンパシーを覚えているのも否定できない』

「ホウエン地方出身なんですか」

『ああ。それもただ、ホウエンから来ただけのトレーナーではない。……君は開会式に来ていなかったから知らないだろうけど、前々から彼のことはボク達の間では噂になってたのさ。何せ、ホウエン地方の四天王プリムからの推薦だったからね』

 

 カブとの連絡を終え、おれは次にマリィに連絡した。そこまでのトレーナーならジムチャンレジャー達の中でも噂になっているだろうから、話を聞いてみる価値はある。

数回のコールの後、速やかに電話は繋がった。

 

『もしもーし、兄貴? 連絡なんて珍しかね。どうしたと?』

「何、可愛い妹の様子が気になっただけですよ」

 

 暫く世間話を続ける。実際、マリィの様子が気になっていたというのは本当だ。軽く話を続け、おれは話を切り出す。

 

「そういえば、最近ジムチャレンジャーの中にはダイマックスを使わないトレーナーもいるようだね」

『ああ、知っとるよ。……それ以外でも色々有名になりつつあるみたいやけど』

「マリィはそのトレーナーを知っているのですか?」

『よぉ知ってるよ。知っとるというか、最近は良く会うし』

「会う? そのトレーナーと懇意にしていると?」

『どっちかというとあたしが世話をしている感じかな。あ、ちょっと待って。丁度おるから映すね』

 

 マリィはそう言うなり、画面が揺れ地面の方を向く。そこには項垂れた青年の姿があった。嗚咽を流してしくしく泣いていて、マリィがカメラを向けていることにも気づいていないようだ。その様子におれは引いた。

 

「……マリィ。兄貴には思いっきり号泣している男の姿が見えるんだけど」

『兄貴の目は正常だね。 この人、ほんと泣き虫なんだ。あたしが付いてないと危なっかしいし』

「そいつが、例のダイマックスを使わないトレーナーだと?」

 

 俄かに信じられない。マリィなりの下手くそなジョークだと思いたい。

 

「おれの目には情けない姿を晒しているアホにしか見えませんが……」

『あー。でもホント、バトルの時は目付きが変わるんだ。 あたしも全然歯が立たなかったし、この間カブさんと戦った時もダイマックス使わんかったみたいだし』

 

 そこまで来ると本物なのだろう。おれの頭で思い描いた姿とはあまりにもかけ離れ過ぎているが。

しかし、本物がそこにいるとすればこれはこれでチャンスだ。

 

「マリィ、そいつと電話代われますか?」

『え? うーん、ちょっと待って。……ほら、いい加減泣かないの。財布はお姉ちゃんが一緒に探してあげるから』

『……酷え、酷えよ。あの狐、また俺の財布盗みやがって……。カードも再発行したばっかりなのに……』

「……」

『ごめん兄貴、ちょっと無理そう』

「いやいや、マリィ。それよりも兄貴は問いただしたいことが出来ましたよ」

 

 さらっと言っていて聞き逃しそうになったが、何故マリィがお姉ちゃんと言っているのか。当然、おれには弟なんていない。そもそもそいつは姿恰好から判断するにマリィよりも年上だろう。

 

『え、何?』

「寧ろ何故疑問符が出るのか理解に苦しみますよ。マリィは何故、年上の他人の姉を自称しているですか? もしや、その男に言わされているとか?」

 

 マリィは歳の割にしっかりしているが、それでもまだ世間の厳しさを分かっていない少女だ。もしや悪い男に騙されているのではないか、とおれは懸念したがあっけらかんとしたマリィの声でそれは覆された。

 

『なんというか……成り行き?』

 

 どんな成り行きだ。とおれは言葉を荒げたくなった。

 

『ほら、こんなに情けない人だから、あたしがしっかりしとらんと駄目でしょ? そしたらあたしがお姉ちゃんになるのは当然でしょ?』

「理論が飛躍しすぎですよ」

 

 おれはマリィの将来が心配になった。

流石にそんなマリィの言葉で引き下がれるほど、おれも楽観主義じゃない。おれは問い詰めるも、最後はマリィの逆切れによって強制的に通話は打ち切られた。

おれはビジートーンを聞きながら暫く放心状態だった。ちょっと見ないうちに女は変わるというが、いくらなんでも変わりすぎだ。

 

この状況で何もせず放置するほどおれも冷静ではない。適当にジムトレーナーを呼びつけて、マリィの身辺状況を洗わせる。ちょっとでも怪しいところがあればおれが直接成敗してやる、という気持ちでいたが―――本当に何も怪しいところがなかった。

 

エンジンシティでは凸凹姉弟として有名なくらいで、時折マリィのことをお姉ちゃんと呼んでいるようだが、それもマリィが強引に言わせているだけのようだ。

長々とした報告を聞いて、おれの胸中には罪悪感があった。話を聞いてみれば寧ろ件のトレーナーは被害者のようだ。

……いや、情けない行動の数々を聞いておれもそれはどうかと思ってはいるが。

 

しかしホウエン地方のジムをコンプリ―トして、四天王のプリムから推薦を受けたほどのトレーナーだ。ガラルには四天王といえる存在はいないが、その名前は重い。素行に問題があるようなトレーナーに推薦状を書くわけがない。最初から取り越し苦労だったといえばその通りだ。

 

それに時折マリィから連絡があって楽しそうにこんなことがあったと報告してくるくらいだ。当事者ではないおれの独断で二人の仲を引き裂くということもしたくない。

やはりマリィもまだまだ子供ということか。きっと旅先で寂しくなったのだ。だから弟という存在を作りだした。きっと、そういうことだろう。

 

「……これは、まずは兄として謝罪するところからか」

 

 万が一のことがあれば即座に報告が入る手はずになっている。それでも何もないということは、本当にあのトレーナーは白だったということ。

ならば、彼が此処に来たときはマリィの兄として、迷惑をかけたことに対して謝罪を行うべきだろう。

 

―――そして、その時は来た。

ジムトレーナー達の実力を疑うわけじゃないが、流石に分が悪すぎる。今更ジムミッションなんてものも必要ないだろう。そう判断しておれはそのトレーナーを速やかにバトルフィールドに招いた。

 

「ようこそ、おれのジムへ。マリィが世話になっていると聞いてね。あんたには前々から会いたいと思って―――……ああいや、その前に筋を通すことが必要か」

 

 そう言っておれが頭を下げようとした瞬間、相手は何故か泣き始めた。それを見てマリィはため息を吐いてハンカチを取り出す。

 

「まったく、ホント泣きやすいんだから」

 

 マリィよ。その意見には兄貴も同意します。というかちょっと情緒不安定過ぎではないだろうか。

 

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