「あああああ……どうしたらいいんだ……」
――つい、そんな言葉が出てしまう。この呟きがいったい何度目になるのか、数える気にもならなかった。
え~、みなさん、はじめまして。兵藤一誠といいます。気軽にイッセーと呼んでください。
テンション低いな、と思われた方々へ。ええ、その通りです。実は俺、とある悩みがあって結構参っております。しかも、その悩みが普通の人に相談できるようなものじゃなくてですね――
『おい』
そうそう、この声の主が俺の悩みの種なんです。その名も赤龍帝ドライグ。『赤い龍』の通称を持つ伝説のドラゴンです。ええ、あのドラゴンです。実は俺の中にはとある物騒なモノと一緒にドラゴンが宿っているんです。あっ、言っておきますが俺の頭はいたって平常です。中二病でもありません。俺は中三の十五歳です。でも、いきなりこんな話しを聞かされたって意味がわかりませんよね。わかりました、一から説明します。
まず大前提として、この世界には俺たち一般人が幻想だと思っている存在が実在しています。悪魔とか天使とか、さっき言ったドラゴンとか。当然神様もいます。話しはここからです。
数いる神の内の一柱、いわゆる聖書の神がとあるモノを作りました。
ここまで言えばわかりますよね。なんと、その
ハイ、どう考えても厄介なことこの上ありません。こんなのを宿してることが知られれば俺の人生は終わりです。
誰に知られても困るなか、一番知られてはならない相手が悪魔です。ドライグから聞いた話しでは、悪魔は人間をはじめとする他の種族を転生悪魔にして連れ去っているそうです。しかも近年は俺のような
でも大丈夫、そう簡単に見つかりっこない。
――なんて思った日が俺にもありました。
実は悪魔という存在は俺たち一般人が考えている以上に身近なものでした。
例えば駒王学園。近所のマンモス校にして、高校デビューを目指す俺の志望校なのだが……あそこは悪魔の巣窟だった。ドライグ曰く職員の大半が悪魔だそうです。ちなみにこれは実際に駒王学園を見て教えられたことです。見学に行ったのが運の尽きですよ、ホント。
つまり何が言いたいかというと、俺は既に悪魔たちに目をつけられている可能性があるということです。ピンチです、超ピンチです。そこでみなさんの知恵をお借りしたいというわけです。何か良いアイデアのある方は兵藤家までどうぞ。
『……』
「――って、何やってんだ俺。妖精の声が聞こえるわけでもないのに」
そう言って現実逃避から戻って来る俺。ああほんとう、何やってんだろうな。
『その通りだ。いったいいつまでウジウジしている、見苦しいぞ』
「そうは言うけどな、そもそもおまえのせいだからな。俺がこうして悩んでるの」
ドライグの言葉にもこうして言い返す始末。
『俺とて己の意志で宿ったわけではない。気がついたら
「だからって、そう簡単に受け入れられたら苦労しねえっての」
ああ、ダメだ。これじゃあ単なる八つ当たりじゃないか。トゲのある言い方だけど、こいつはこいつなりに俺に歩み寄ろうとしてくれてるのに。
「はあ」
そうため息を吐いてベッドに突っ伏す。受験生の身だがいまは夏休み中だ、時間はたっぷりある。宿題や勉強なんて手につくはずもない。加えて
「ふたりとも、楽しんでくれてるかな……」
今回の旅行は俺からふたりへのお祝いだからだ。まあ、日頃の感謝ってヤツだ。
これは余談になるけれど、俺にはきょうだいがいたんだ。産まれてこれなかった家族が。父さんも母さんも未だにそのことを話しに来ないが、祖母ちゃんが聞かせてくれた。俺が産まれる前のことを。死んだ祖父ちゃんも生前に言ってたっけ。
詳細は省くが、そんなこんなで俺は両親への想いが強くなったわけだ。知らなかったらこんなことしなかっただろう。
「兄貴だったのかな、姉ちゃんだったのかな、それとも両方?」
会うことの叶わないきょうだいへと思いをはせる。いずれにしろ、あの優しい両親の子どもだ。きっと良い兄姉になってくれたはずだ。
「ふ、ぁ~……。一眠りするか」
あくびとともにやって来た睡魔に身を任せ、そのまま眠りについた。
***
夢を見た。
これは――そう、小さい頃に見た紙芝居だ。
「昔々、あるところにひとりのおじいさんが住んでいました」
「おじいさんは今日も自慢の作物のお世話をしていました。するとどこからか大きなドラゴンがやって来ました。それは最近、村で悪さをしているドラゴンでした。おじいさんの自慢の木の実を狙ってやって来たのです」
「おじいさんは何も言わず木の実を一つ差し出しました。それは、おっぱいでした。小ぶりながらも確かな存在感を主張する、おっぱいの実でした」
「ドラゴンは早速それを口にしようとします。しかし、そこにおじいさんが待ったをかけます。そのままではダメだ、食べる前に揉んでほしい――と。ドラゴンは言われた通りに一頻り揉みしだいた後、そのおっぱいを食べました。そのあまりのおいしさに感動したドラゴンはそれ以来悪さをやめ、おじいさんと一緒におっぱいを育てるようになりました。めでたしめでたし」
***
「夢、か……」
意識が目覚める。それにしてもなんだってあの時のことを夢に見るんだよ。他にないのか。
まあ、そんなことはどうでもいい。問題は今後の身の振り方だ。マジでどうしよう。
「あー、いっそのことあのおっちゃんみたいに開き直れたらなあ。でもそしたら俺の人生ジ・エンドだし」
思い出すのは最後に会った日、警察に連行される男性の姿。滅多に見られない光景だったため、よく覚えてる。あの出来事によって、世の中には公にしてはならないものがあることを俺は知った。おかげでそこそこの人間関係を築けてこれた。……未だに彼女ができたことはないけど。
「なあ、何かないか? 俺の身を守る方法」
ひとりで考えても何も思い浮かばないため、ドライグに訊ねることにした。素直に答えてくれるかはわからないが、他に頼れる存在もない。そもそも運命共同体なんだ、頼らない手はない。
『そうだな、どこかしらの組織に所属して後ろ盾を得るというのはどうだ?』
「……」
『なんだ、せっかく答えてやったのに無視か』
「あ、いや……こんなにあっさりと答えてくれるとは思わなくて」
『俺はそれほど器の小さなドラゴンではない、相談事ぐらい乗るさ』
「そっか」
なんだ、思ってたよりも取っ付きやすいやつじゃんか。
「それで、おすすめの組織はどこなんだ?」
『そのぐらいは自分で調べろと言いたいんだがな、こんなことで失敗して死なれても困る。いいか、今回だけだぞ』
素直じゃねえやつ。
『俺が知る限りで最も安全だと思われるのは
「グラウ・ツァオベラー?」
『いわゆる魔法使いの協会、その最大手だ。灰色の魔術師と書くんだがな。そこの理事長が魔王と同世代なんだそうだ。後ろ盾としては充分だろう』
「で、でも悪魔なんだろ。売られたりしないかな」
『恐らくだが大丈夫だ。なんでもその悪魔――メフィスト・フェレスは、正式な契約でしか同族には紹介しないらしい。それに現政権とは距離を取っているそうだからな。おまえが心配しているようなことにはならないはずだ』
「けっこう好条件じゃん。よし、そこにしよう」
――と、決めたはいいものの、ひとつ問題があった。
「ドライグ。どうやって協会に申し込めばいいんだ? 俺の知り合いに魔法使いなんていないし、協会の連絡先だって知らないぞ」
そう、入会しようにも連絡の手段がなかった。しかも、ここは日本だ、運営施設自体あるのか怪しい。
「くそ、初手から躓くなんて……」
嘆く俺に対して、ドライグは常識を教えるかのように告げる。
『ネットがあるだろう』
その言葉に思わず、「えっ」となる俺。
「ネットって、インターネットのことか?」
『そうだ、それ以外に何がある』
「まあ、そうだけど……」
ネットか、盲点だったな。確かにそれなら――いや、でも……。
「魔法使いって、パソコンとか使うのか? 機械とか科学技術全般毛嫌いしてそうなイメージがあるんだけど……」
『使うぞ。時代の流れには適応しなければならないからな。それにそういった分野の技術をメインに取り扱う者もいるしな』
「マジか。魔法使いも近代化してるんだな」
『そんなくだらんことを気にしてないでさっさとググれッ』
「はいはい」
『はいは一回でいい!』
「わかりました」
オトンかこいつは。それに伝説のドラゴンがググれって……。
内心そんなことを思いながらスマホでキーワードを打ち込む俺。検索すると目的のページはすぐにでてきた。
「へえ、日本にも支部があるのか」
『まずは電話相談からだ。もしかすると他に良い組織を紹介してもらえるかもしれん』
「わかった」
ドライグの指示通り早速電話をかける俺。すると電話はすぐにつながった。
『お電話ありがとうございます。
電話からは若そうな女性の声が聞こえてきた。まあ、定番だな。
その後、基本的なやり取りの中、質問に答える形で
ちなみに知る由もないことだが、別の世界線では俺は何も知らないまま駒王学園に進学し、その結果初めての彼女に騙され、憧れの先輩に一度は見殺しにされ、人生初の彼女に殺された後、たまたま召喚された悪魔な先輩に死体をリサイクルされるのだとか。
結論――この世界線の俺はついていた。
TSヴァーリ「私の出番は?」
作者「おまえは次回!」