某日、俺はとあるマンションの一室にてある男性と対面していた。相手は堕天使の首領、名はアザゼル。そう、今日は件の面談日だ。
「そうか、キミが今代の赤龍帝か」
「えっと、なんかそうらしいです」
男性――アザゼルさんは俺を興味深そうに見ている。いや、この場合は『観ている』か? どちらにしろ、なんだか落ち着かない。ソワソワしてしまう。いや、聖書に記された堕天使を前に落ち着くなんて無理なんだけどさ。
「メフィストから連絡をもらった時は驚いたぜ。まさか、あいつとのつながりがこんな出会いをもたらすとはな。――いや、今更か。これでもう三人目だしな」
「三人目?」
はて、なんのことだろう?
「言葉通りだよ。キミの前にも二人の
ああ、そういうことか。
……俺と同じ
「そう心配するな。俺の方で見つけた
「ほんとですかっ!?」
「ああ」
おお、これは良い知らせだ! 是非とも会ってお話ししたい!
俺と同じ境遇だった人の存在を知り、胸に希望が湧く。
「さて、前置きはこの辺にして本格的な話しを始めようか」
「――は、はい」
そうだ、舞い上がってる場合じゃない。まずはこのヒトとの話しを切り抜けて組織に所属しないとだ。
気を引き締める俺。アザゼルさんは真剣な表情で話しを始める。
「既に粗方のことは聞いているだろうが、俺からも改めて説明しておく。俺たち堕天使は――いや、俺を中心とした有志一同は世界のあらゆる超常現象の観測、研究を行っている。組織名を
「はい」
ここまでは大丈夫だ、電話で協会の人から受けた説明の通りだ。
だが、この後の一言に俺の思考は一瞬止められてしまう。
「しかしここでひとつ但し書きがつく。対象の人格や経歴に問題があった場合、これを拘束、最悪処分することもある」
「――え?」
「言っておくがこれは嘘や冗談じゃない。紛れもない事実だ」
「は、話しが違うじゃないですかっ! さっき保護するって、そう言ったじゃないですか!」
思わず声を荒げてしまう俺に対して、アザゼルさんはまっすぐにこちらを見て告げた。
「害があるなら話しは別だ。……こんな言い方は卑怯かもしれないが、人間だって『駆除』と称して他の生物を殺処分しているだろう?」
「――!」
その言葉を聞いた瞬間、この前ドライグから言われたとある言葉が頭の中に響き渡った。
――おまえは家畜の気持ちを考えたことがあるのか?
悪魔が他の種族を転生悪魔にしていることを知って憤ったときに言われた言葉だ。
そうだ、このヒトの言う通りだ。俺たち人間だって似たようなことをしてるんだ。責める権利なんてない、同じ穴の狢だ。
俯いて歯を食いしばる俺にアザゼルさんは続けて言う。
「俺たちも自分たちの行いが真っ当じゃないことはわかってるんだ。ただそれでも、これはキミたち能力者を、ひいては世界を守るために必要なことでな。キミたちの存在が公になれば迫害や魔女狩りの類が始まり、二極化が進めばいずれは戦争にも発展しかねない。……未知の力や存在というのはそれだけで世界の均衡を崩してしまうものなんだ」
そうだ、突き詰めればきっとそういうことになるんだろう。
「――なんてもっともらしいことを口にしたところで言い訳にしかならないけどな。所詮、根底にあるのは飛び火を避けたいっていう自分勝手な理屈でしかない。まったく、堕ちたとはいえ天使が聞いてあきれるぜ」
ああ、そうか。このヒトは言い訳をしないんだ。生きていくうえで誰もが目を背けているものとちゃんと向き合っているんだ。
それに比べて俺はどうだ。ドライグを厄介者扱いしながら都合のいいところだけ利用した。なんて恥ずかしい男だろうか。
「さて、今ここでの話しは終わりだ。百聞は一見に如かず、続きは実物を見ながらにしよう」
***
「あの」
「何かな」
「さっきの話しですけど、能力者の存在をあえて公表してそれに係る法律を作るとかじゃあダメなんでしょうか?」
施設に向かうエレベーターの中でそう訊ねた。
さっきの話し、理解はできた。でも、俺たちは獣じゃないんだ。言葉を交わせる、ちゃんと意思疎通ができるんだ。なら、話し合えば互いに納得のできる答えを見つけられると思うんだ。人間の中だけでもいろいろと問題はあるけど、でもだからって何も相談しないのはもっとダメだと思うんだ。
アザゼルさんは腕を組みながら答える。
「それは俺も考えた。実際各国首脳や諜報機関にはある程度の情報を渡してある。加えて北欧やギリシャといった異なる神話体系や妖怪勢力とも秘密裏に接触している。いまも人間と人外の完全なる共存社会を目指して活動中だ」
驚いた。アザゼルさんは既に行動を始めていたのか。まあ俺みたいなガキでも思いつくんだからそのくらい普通か。
「ただな、それで新たに生じる問題があるのも事実なんだ。そもそもそれ以前に外敵と認定されて戦争を仕掛けられる可能性だってある。現状維持に傾くやつがいても非難できん。かく言う俺もその一人だしな」
そうかもしれない。異能の解明を目的とした非人道的な研究とかは俺も考えてた。それに転生悪魔のこととか、解決しなきゃいけない問題はいろいろとあるんだろう。それはわかる。だけど――
「……それでも俺はみんなが幸せに暮らせる世界が欲しいです」
誰かが損をしたり不幸を背負ったりする世界なんて嫌だ。
俺の
「ハハッ、そりゃそうだ。どうせならみんなで幸せになりたいよな」
「現状維持派なんですよね? 甘いとか夢物語だとか言わないんですか?」
それにしては活動的だとも思うけど。
「個人的にはな。ただ、詳細は伏せるが諸事情でそれを実現したいって気持ちもあるんだよ」
「?」
この時はわからなかったが後でそれを知った時、アザゼルさんのことをお人好しで友達想いだと感じた。
***
「さて、こうして一通りの設備と生徒たちの姿を見てもらったわけだが、何か感想はあるかな?」
あれから俺はアザゼルさんの案内の下、
「そうですね、ラノベに出てくる特殊な養成学校もこんな感じなのかなって思いました」
「そいつはここに来たやつらの大半が思ってることだろう。事実その通りだしな」
「あと、意外と活気がありました。失礼ですけど、もっと暗いギスギスした感じだと思ってました」
「なるべく普通と変わらない環境を提供することを心掛けているからな。メンタルケアにも配慮している。とはいえそれでも落ち込むやつは落ち込むけどな」
それはそうだろう。俺だって落ち込んだ。ドライグが非協力的なやつだったらふさぎ込んでいたかもしれない。
「理由は二つ。
「……」
俺はまだ
アザゼルさんのことはなんとなく信用できそうだけど完全に信じるのはまだちょっと怖い。
だけど他に頼りになる場所がないのも事実だ。
「さてと、それじゃあ肝心なことを訊くとしよう。キミには二つの選択肢がある。まず一つは
「摘出? そんなことできるんですか?」
「ああ。一つ注意事項があるがな」
「?」
なんだろう? リスクやデメリットって言わないから直接的な害はないんだろうけど。
「
なるほど、そういうことか。なら、返事は決まってる。
「わかりました。摘出は必要ありません。俺を
俺は迷わずそう言った。
「確認するぞ。それでいいんだな?」
「はい。誰かに押し付けてまで解放されたいとは思いません」
そんなことしたら俺は家族に合わせる顔がないうえにみんなから叱られる。ここの生徒にも軽蔑されるだろう。
「ふっ、良い眼だ」
アザゼルさんが手を差し出す。
「ようこそ、
俺がその手を取ろうとした次の瞬間――
「アザゼル! 赤龍帝が見つかったって本当!?」
勢い良く扉が開かれるとそんな言葉とともにひとりの女の子が現れた。ちなみにかわいい。
アザゼルさんはその娘を見た途端にため息を吐いた。そしてそんなアザゼルさんに詰め寄る女の子。
「よくも私に黙っててくれたわねっ」
「たく、メフィストの野郎、黙っとけって言っただろうが……」
「それよりも赤龍帝! 早く紹介しなさいよ!」
なんなんだろうか、この女の子は。赤龍帝ってたぶん俺のことだよな?
「紹介もなにも隣にいるだろ……」
「えっ、本当!?」
アザゼルさんに言われてようやく俺の存在を認識したのだろう。輝かんばかりの笑顔を向けてくる女の子だが、その表情はみるみる陰っていく。なぜだ?
「こんなのがそうなの?」
こんなのとはなんだ、こんなのとは。
「そう言ってやるな。それにおまえに比べたらほとんどのやつがこんなのだからな」
否定してくださいよアザゼルさんっ。
女の子は膝をついて嘆く。
「うわーん、私のソウルメイトがぁ。なんで男なのにイケメンじゃないのよぉ。あんまりだー」
ぐっ、なぜかはわからないけど、がっかりされていることだけはすごくわかる。
くそぉ、俺だって三枚目なんだぞぉ、黙ってればイケメンなんだぞぉ。
そしてさらにカオスは深まる。
『このオーラ、もしやアルビオンおまえか!』
声の発生源は俺、だが俺の声ではないそれはつまりドライグの声だ。どうしたんだ急に?
『その通りだドライグ! 私だ!』
俺が不審に思っているとドライグに答えるようにまた別の声が発せられた。発生源は女の子だ。しかしその声はさっきのそれとは違う。誰の声だ?
俺の疑問をよそに二人? の会話は進む。
『『会いたかったぞ、我が友よ!』』
え、なに、ドライグの友達?
状況を理解できていない俺にアザゼルさんが説明してくれる。
「さっき言ったろ、キミの前にも
「ええっ!?」
この娘が俺と同じ
「こいつの名はリンスレット。キミの
「……」
あまりにピンポイント過ぎて何も言えなかった。ドライグに至ってはアルビオン、さん? とのお話しに夢中になっている。仲いいねキミたち。
「おいリンス、おまえしばらくこいつの家庭教師やれ」
「そ、それはつまりこの赤龍帝を私好みにプロデュースしろってことね!」
何を言ってるんだこの娘は。
「バカ、プロデューサーは俺だ。おまえは先輩役でいいんだよ」
アザゼルさんも乗らなくていいですから。
「先輩……先輩ね、うん、それはそれでいいかもしれないわ」
ちょっとキミ、何考えてるの? 怪しさ満点なんだけど。
そんな俺の心の声など聞こえないと言わんばかりに女の子――リンスレットは詰め寄って来た。う、近い……。
「あなた名前は?」
「……兵藤一誠」
「そう、じゃあイッセーね。私のことはリンスって呼びなさい。赤龍帝だから特別よ」
そう言うリンスレット改めリンスの表情は実にかわいらしかった。
そしてリンスはこの後、俺に指を突きつけてこう告げた。
「
ちなみに知る由もないことだが、別の世界線のこいつはヴァーリという名の男だそうだ。
結論、この世界線の俺は恵まれていた。
執筆速度が欲しくて仕方ない気分です。なんでみなさんあんなポンポン更新できるんですかね……。