長門は難しい表情で出港を見守る。
「そんな顔しないでください」
当然のように心境を読み取られて抗議される。それは素直に謝るが、心配なのは変わらない。彼女が最高戦力であることは間違いないが、それに見合った運用コストと万が一失ったリスクの大きさのため実戦での経験は少ない。
「提督に何を言われたのか分からないが、無理はするなよ」
「長門さんまで私を出撃させないつもりですか?」
口どもる長門に微笑んで敬礼をし、出撃していった。
提督は本来事なかれ主義の傾向がある。どう捉えるかは人によるが、使われる立場の長門としては手堅い指揮で、提督自身の優秀さもあり信用できる部類と言えた。ただ、今回は厳しい浸透作戦が多く、功を焦っているように見える。
…何を言われたのやら。
長門は巨大な艤装で隠れた背中を見ながら思わずぼやく。
慎重であることは戦果が少ないことでもある。先の大規模作戦会議でやり玉に挙がったのかもしれない。提督の苦労など分かるはずもないが、事情の異なる他鎮守府を気にする意味はないだろうに。
そこまで考えて、出撃の喜びを隠しきれない彼女を思い出し、気持ちを切り替える。
「なんにせよ、実戦経験は必要か」
これが、艦隊決戦の切り札、大和の大規模作戦初出撃だった。
その報告を聞いた提督の顔が青ざめた。おそらく長門自身も同じ表情だっただろうが。
「大和が、沈んだ…?」
提督が絶句から絞り出した声がどうしようもみじめに響いた。長門はかろうじて平静を装う。仲間の轟沈などほとんど経験したことのないこの鎮守府では皆を落ち着かせる時間が必要だ。
「提督、ここは戦線を下げて――」
「轟沈を確認したわけではないのだろう…」
確かに直接見たという報告があるわけではない。だが撤退中に追撃を受けた場合に確認できることはほとんどなく、それで実は無事だった、などもあったことはない。
「大和の救出作戦を行う。鎮守府の総力を投入する」
長門の反論を封じる形で提督は即断した。だが、急な作戦方針の変更はできるものでなく、そもそも大和の喪失地点は敵勢力圏深くだ。結局は今まで行っていた浸透作戦の強度を上げるだけの話になる。どれだけリスクが高いかは提督も分かっているだろうが
「ほかに方法などあるまい」
そう言われると返す言葉はない。救出を行おうとするならば敵地に突入するしかなく、救出を成し遂げるという奇跡を起こそうとするならば艦娘が危険にさらされるのは必要な覚悟だ。ならば救出作戦事態の是非だが
「すでに艦娘の疲労は大きい。そのうえでここまで危険な作戦は――」
「お前が何とかしろ」
投げやりな指示が返ってきた。思い返せば提督は冷静な反論をされる前に強硬に押し通すつもりだったのだろうが、みすみす大和を危険地帯に送ってしまった長門は受け入れてしまった。
なにより、仲間を救うことに異論があるはずもなかった。