「長門さん!」
朝潮が長門に駆け寄ってくる。壁際にいた長門は押されるままに壁に背中を付く。
「どういうつもりですか!」
朝潮は身長差を意に介さずにらみつけてきた。
かつてと同じ決断をした長門への詰問だ。かつてを繰り返さないと誓ったはずの長門への。朝潮も妹を見捨てることを是としているわけではない。これは彼女なりの決断だ。できるだけ霞を傷つけないための。長門はそれを無駄にした。分かっていなかったわけではない。悲しみも葛藤も教訓も、失った命でさえも捨て去る、傲慢な行いだ。
「…すまない」
だからただ謝るしかできなかった。歯を食いしばりうつむく長門を見て朝潮は力を緩める。
「長門さん…」
自分をなのか、提督をなのか、奇跡をなのか、分からないまま祈った。
「頼む。信じてくれ」
「夜戦!やっせん!」
飛び跳ねる川内を神通が押さえつける。
「姉さん、落ち着いてください。別に夜戦だけするわけではないんですから」
「だって、提督が夜戦させてくれるって言ったもん!」
神通の記憶では1か月前に1度聞いただけだったと思うが、これ以上暴れさせても面倒になるので適当に話を合わせておく。肩を掴んだまま鏡に向かい合う那珂を見る。
「うーん、髪型が決まらないなー。こんな感じかな」
頭のお団子をずっといじっている那珂だったが、だいぶまとまってきたようなので声をかける。
「那珂ちゃん、今回の作戦どう思います?」
「夜戦ができるぞー!」
跳ねる川内の答えは分かっているので袈裟固めで押さえつけて那珂の返答を待つ。
「んー?あいつらたくさんぶっ殺せるならそれでいいよー」
「那珂ちゃん」
目元のメイクに集中して無頓着に答える那珂を軽くたしなめると慌てて振り返る。
「みんなに那珂ちゃんのライブ見てもらえるんだから張り切っちゃうぞっ、きゃは☆」
ウインクしながら頭を軽く叩く那珂に神通はあからさまに溜息を漏らす。
どうであれ、いつも通りの返事が返ってきて安心する。それは神通も同じで、旗下の二水戦についても心配はしていない。命令とあらばただ戦うだけだ。
川内を縛り上げて、艤装の確認に入った。
「なんや、まだ呑んでんのか」
寝ころんで酒をあおっている隼鷹とその隣で巻物を広げる飛鷹を見比べて、龍驤はあきれた声を出す。
「そろそろ作戦始まるで」
「いやー、こんなのはいつも通りのほうが調子がでるってもんよ」
ついにコップに注ぐのも面倒になったのか、酒瓶から直接口に流し込んで笑う隼鷹にはなんの緊張感も見られず、謎の説得力があった。
「まあ、そうやな」
「普段呑んでることが問題よ」
無駄だと分かっていることがひしひしと感じられる飛鷹のぼやきを聞きながら軽空母寮を出ようとする。
「なんだあ、えらく張り切ってんじゃん」
「最近は駆逐艦のガキどものおもりばっかりやったからな。楽しいイベントの始まりや」