無数に動く点群を眺めながらも、白瀬は目頭を押さえた。深海棲艦の動きを予測するなんて芸当は大まかな構想こそ考えていたものの、具体的なことは考えていなかった。鎮守府へ着任してからはそんな時間も余裕もなかった。だからリアルタイムで過去のデータとすり合わせしながら即席で理論を構築していく。中盤も越し、なんとか分析はほぼ必要ない段階までにはなったが、疲労はかなり蓄積していた。これからは艦娘の入れ替えがさらに頻発する戦況になるため判断ミスは許されない。
少しずつ戦況は厳しくなってきている。想定外の損傷を受けた艦娘の数も増えてきた。
計算違いではない。そもそもギリギリの戦いになる作戦で最悪を考えると何もできなくなる。ならば最悪の可能性を排除して戦うしかない。そうして設定した閾値を下回る事態は当然発生する。ある意味で織り込み済みの想定外であるためごまかせているが、これ以上は最悪を引かないことを祈るしかない。
「…せめて増援があれば」
思わずつぶやいた言葉に我に返りかぶりを振る。
独力で戦うと決めたときから分かっていたことだ。ありえない希望にすがるのだけは指揮官として許されない愚行だ。
勝算があるから諦めなかったんじゃない。諦めたくないから諦めなかった。
ならば全力であがくしかない。ここまで来た自分のため、連れてきてくれたみんなのために。
腕を伸ばし飛行甲板に戦闘機を滑らせる。もう敵空母を撃沈し航空戦を終えた。制空権を完全に奪った空に戦闘機は必要ない。それでも加賀は表情を一層固くした。隣の赤城も同じ表情で前をにらむ。
「…むしろここからね」
敵空母の早急な排除は最優先の任務だった。攻撃範囲の広い空母の放置は戦況をかき乱す。だから同等の射程を持つ空母として赤城とともに航空戦を行った。だが、空母を落とすために費やした時間で同艦隊の戦艦の射程内に入ってしまった。
攻撃機、爆撃機によるロングレンジ攻撃ができないならば、航空戦と異なり砲撃への防御手段がない空母に有利はない。むしろ航空機へ思考リソースを割かなくてはいけない分、不利と言えた。普段ならば哨戒もかねて飛ばす戦闘機をすべて収容して攻撃に回すことがせめてもの対抗手段だった。
もともとは制空権を得て艦隊を守ることが一航戦の本領だが、これを含めて作戦範囲であるため泣き言は許されない。加賀と赤城は弓を引き構えた。
放った矢が航空機に姿を変え敵戦艦に襲い掛かるとき、耳なれないプロペラ音が聞こえて深海棲艦が爆ぜた。
「バッチリ間に合ったじゃない!ね、日向」
「まあ、そうなるな」
回線を合わせながらのとぎれとぎれの通信がそれでも場違いに明るい声を伝えた。応じる誰かの声もどこか嬉しさがにじみ出ている。
「お、つながった。悪いけど援護お願いね」
「え、ええ…」
見慣れぬ艦娘の唐突な要請に困惑が消せないまま、航空機を操作する。援護の意味を理解する前に2隻の戦艦は動き出す。腰に携えたものに手を添え――
「日向、伊勢、突撃する」
流れるような所作で刀を抜いた。