砲身の先から爆ぜる火薬に照らされた刃が振り下ろされる。金属の衝突音を響かせル級の装甲に食い込むがそこまでだ。
「…む」
日向が不満をわずかに出し、反対側で同様に伊勢が盾のような砲塔に止められているのを見る。砲撃を防ぐ障害はなくとも、戦艦の装甲が厚い鉄であることには変わりない。
「やっぱ簡単には切れないかー」
「だが忘れるな」
背中に備えた巨大な砲塔が重い駆動音とともにル級に向く。反応する時間を与えずに至近距離から砲弾を叩きこむ。
「私たちは戦艦だ」
爆炎に目を焼きながら刀を引く。刃こぼれを確かめるために視線を落とすと近くで爆弾が爆ぜた。爆撃機の降下音が耳を震わせるのを感じながら、次の目標に向かった。
北上は急いで魚雷を装填しようとするが、前に立つ球磨に後ろ手で制された。重雷装巡洋艦は交戦序盤に飽和攻撃を仕掛けるのが基本戦術だ。敵との距離が近くなった今、混戦になれば魚雷の不利とは言わないが、爆弾を抱えて戦う分危険が伴う。だからといって戦わない選択もあり得ないはずだが、それでも姉2人は北上と大井の前に立つ。
「たまにはいいとこ見せないとにゃー」
普段寝るか文字通り転がる2人しか見ていない北上は少し困惑しつつ戦況を見る。数的不利は明らかで、運びを間違えれば至近距離の撃ち合いになりかねない。ならばもう一度飽和攻撃を仕掛けて主導権を握る。重雷装巡洋艦の存在意義を果たすため、魚雷を装填――
しようとしたとき、深海棲艦の艦隊の先頭を爆炎が包んだ。
「…木曽!?」
明らかな魚雷の炸裂に、北上と大井だけはその発射元に視線を向けられた。自分でも珍しい声が出たと思う。認めた影が近づいてきて軽く手を上げた。
「おう、姉ちゃん。久しぶ――いてっ!」
「なにかっこつけてるクマ」
「たまには連絡よこすにゃ」
球磨と多摩が木曽に容赦なくとびかかる。振り払おうともがく木曽を久しぶりに見て、北上は大井と笑みを交わす。
「本気でやっちゃいましょうかね、大井っち」
「ええ、北上さん」
考えても仕方ない。なるようになる、そうやって生き延びてきたのだといつものように開きなおる。そうでなくては雷巡などやってられない。立ち上がり、発射管を構え――
ようとしたが、木曽が口をはさんできた。
「ああ、姉ちゃんたちは休んでて――いてぇって!」
「生意気クマ」
相変わらず群がられる木曽だったが、何とか振り払う。そのまま腰に手を当てる。
「おれだって遊んでたわけじゃねえんだって」
親指ではじき、鯉口を切った。
「まあ見ててくれよ」
「電!しっかりしなさい!」
暁に叱責されても電の進みは遅い。かばうように雷と響が間に入る。
「暁、電は――」
「怖いのは誰だって一緒よ!」
暁は響を押しのけて電の手を握る。その手も確かに震えていた。
「でもみんな頑張ってるんだから!雷だって、響だって」
小さな手で覆い隠そうとするかのように雷と響の手も重ねる。電はまだ泣きそうな表情のままだったが、確かに頷いた。
「電、行こう」
「私には頼ってくれていいのよ」
「はいなのです」
少しだけ表情が緩んだ電を見て、暁は号令をかける。
「第六駆逐隊、戦闘開始よ!輸送だけじゃないことを見せてあげるん――」
振り向きざま、海中から深海棲艦が飛び出してきた。駆逐艦だが、反応が遅れ手で無意味にかばうことしかできない。
ザン、と耳慣れない音がした。
「おいおい、ボーっとしてんじゃねーよ」
いつの間にか閉じていた目を開けて声の主を確かめる。水面にたたきつけられた駆逐イ級の前に眼帯をつけた艦娘が立っていた。太い刀身を肩に乗せて半身で暁たちを見る。
「そんなに怖いか?」
「こ、怖くなんてないわよ!」
誰かを訪ねる前に言い返していた。
「おーおー、そりゃ良かったぜ」
「ほんとよ!レディーに怖いものなんて――」
小ばかにされたようなあしらい方についムキになるが、それも途切れる。艦娘になじみのない刀に切られた深海棲艦が再び襲い掛かってきた。だが、刀を構える前にイ級が今度は横殴りにたたきつけられる。
「ダメよー、天龍ちゃん」
厚身の槍を突き刺した艦娘が刀を持つ艦娘に微笑みかける。槍を抜いたかと思えば再びイ級に差し込む。
ザクッ
「ほら、こうやって」
ザクッ
「しっかりとどめをささないと」
ドチュッ
「また襲い掛かってきたから」
グチュッ
痙攣するイ級の柔らかい部分から出た鈍い色の体液が龍田の頬に飛ぶ。変わることのない笑顔で抱き合い震える駆逐艦たちに目を向ける。
「この子たちがおびえてるじゃない」
「ぜってーお前のせいだからな!」