海が心なしか穏やかになってきたと気づいた時、永遠に続くかに思われた深海棲艦が途絶えるのが見えた。まだ遥か先だが、確実に終わりがあった。その中心に異形がいた。
「毎度のことながら仰々しいことだ…」
長門がぼやきながら鎮守府に通信を入れる。禍々しい顎と巨大な砲塔で築き上げられた玉座に座する深海棲艦。側部に滑走路まで見える。今まで確認したことのない姿だが、大規模作戦が発令されるほどの深海棲艦活性化には特殊な存在が現れることは覚悟していた。巨大な圧力を放つその異形を沈めねば終わらないことも。
指揮を聞き入れ隊列を組みなおす。倒すべき敵が見えようと、そこへたどり着かなければ始まらない。これが最後でも、もう立ち止まってはたどり着けないほど疲弊していた。
最後の戦いへ機関を全開にしたとき、水平線の向こうから砲撃音が聞こえた。
<Hey、みなさん元気ですカー?>
着弾と同時に全域に通信が開かれる。あまりに場違いな声に艦娘全員の時間が止まる。反応がないためもう一度聞きなおそうと息を吸う音に、長門は空回りした機関を再動させながら代表して答える。
「…ああ、全員無事だ」
「Okay!じゃーここで決めますヨ!」
嘆息を交えながらも、長門は応じるように加速した。
金剛はひたすらに加速する。敵の砲弾も航空機も置き去りにして。唯一捉えた電波が長門の声を届ける。
<言っておくが、勝手に出撃したことは許してないぞ>
それでもここに居てくれる。提督を信じてくれた。それで十分だ。
周囲の深海棲艦に手当たり次第に撃ち込む。取りこぼしたところで、背中には妹たちがいる。ずっとそばにいてくれた仲間たちが。ならば振り返る必要などない。
いつもより広い視界の中で確信する。自分のためだと己惚れるつもりはない。皆がそれぞれの理由で戦っただけだ。でも、金剛の、提督の希望をつないでくれた。今なら胸を張って言える。
――みんなが、この鎮守府が大好きだ。
戦う理由も負けない理由もそれだけで十分すぎた。
深海棲艦の最深に向けて全砲門を向けた。対称に長門の砲口が見える。
「これでFinishデース!」
号砲と閃光が景色の全てを包み込んだ。
白く染まった世界の中で更に輝く光の泡が立ち上る。消えゆく瞬きを瞳に焼き付けながら、金剛は胸に手を当て静かに祈る。
還り往く先が穏やかであるように――
海に静けさが広がり、生まれた空白に歓声が満ちていくなか、鳳翔はゆっくりと空を見上げた。
立ち込める感情が安堵か喜びか祝福か分からない。ただ一つ、はっきりと――
かつての戦場に背を向け、疲労で震える腕を上げて航空機を収容する。
――今はただ鎮守府に帰りたかった。