艦これ回想録~波濤の記憶~   作:COOH

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最終話 Curtain Fall

「司令官、大丈夫ですか?」

腫れが引いてきた頬を吹雪はまだ心配する。白瀬の首肯に応じて、頬に当てていた濡れたハンカチを離す。宗谷の秘書艦からもらったハンカチを、その艦娘は返さなくていいと言っていたが、吹雪はどうしたものか思案し、とりあえずといった感じでポケットにしまう。

そうこうする間に車は鎮守府の前に停まりドアが開く。門の前では鳳翔が待ってくれていて、丁寧なお辞儀のあと、少し不安な表情を見せる。

「おかえりなさい。…あら、金剛さんが――」

「テートク―!」

鳳翔が見回して探す前に、妙に上機嫌な金剛が遠くから走ってくる。

「テートク!見ましたカ!?サムライがいましたヨー!」

久しぶりに見せつけられた異国のテンションに白瀬はあいまいに返事する。それを見て金剛は白瀬の肩を揺さぶり感動を伝えようとする。

「私がジャパンに来た時はもうサムライはいないと聞かされてたんデスヨ!サムライは国家機密、つまりジャパニーズMI6だったんデスネ!」

とどまることない暴走に3人は顔を見合わせて困惑を共有する。なんと言うべきか頭をひねる吹雪の腕が引っ張られる。

「ブッキー!ハラキリみせてもらいマショー!」

「そ、それはダメです!」

焦って逆に引っ張り返す吹雪と不満そうに頬を膨らます金剛に、白瀬は肩の荷からが抜ける。

「お前は気にしないんだな。俺の処遇を」

金剛は少しの間止まって不思議そうな表情を見せたあと、小さく笑った。

「私はテートクの行くところにズットついていきますヨ」

その微笑みに答えるように、白瀬も静かに笑い返す。

「だったら、しばらくはここにいてもらわないとな」

「良かったデス。私もこの鎮守府が大スキですカラ」

明るさを増した笑顔と安堵の表情を見せる鳳翔に、吹雪も笑顔で応える。

「早く行きまショウ!みんなに教えてあげないとデス!」

金剛に背中を押されながら、庁舎に入っていった。

 

「すまない、遅くなっ――」

白瀬が執務室の扉を開けると、長門が窓にいい感じにもたれかかり黄昏ていた。扉が開く音を聞き、流し目を向ける。

「ああ、提督か。いや、もう提督ではないのかな」

違和感しかないたたずまいに吹雪と顔を合わせている間に長門はゆっくりと立ち上がった。

「長い付き合いとは言えないが、迷惑もかけたし世話になったな。いや、まずは非礼を詫びなければならないな」

「…あの、長門さん――」

吹雪が遠慮がちに間に入ろうとするが、長門は気づかずに続ける。何かを察した陸奥は長門から静かに離れていったが。

「あなたのおかげで我々は救われたんだ。あなたの行く先にこれからどんな困難があるか、私には分からないが、それは忘れないで欲しい。これは別れ酒であり、あなたの新しい人生の門出を祝う祝い酒だ」

「いや、その…」

神妙でどこか柔和な笑みを浮かべ、盃を差し出してきた。まっすぐ見つめてくる長門に対し、白瀬は斜め下に視線を逸らす。それを見て長門は苦笑する。

「まあ、こんな色気もない女に酌をされてもつまらないだろうが――」

「違うんだ、長門」

「…違う、とは…?」

上目で伺うと怪訝な表情の長門が見え、耐えられずに再び下を向く。なぜこんな仕打ちを受けるのかと自問しながら、それでもなんとか声を絞り出す。

「……不問になったというか、このまま提督を続けられるらしくて…その…」

「――!?」

視界から外れたところで動きが止まる。何に対してかは分からないが、心の底から述べた。

「…すまん」

その瞬間、バン、と何かが倒れる音が聞こえた。ちらりとそちらの方向を見ると、陸奥が机に突っ伏していた。必死に耐えているようだが、震える肩と噛み殺せなかった笑いが漏れ出ていては意味がない。

「…そうか、うん、そうか。それは良かった…いや、本当に――」

上げてしまった視線を恐るおそる長門に向けると、今度は長門がうつむいていた。盃を持ち差し出していた手が震えている。

「なが――」

――パキッ

白瀬を遮るように盃が割れた。吹雪が後ずさるのをよそに手に取った酒瓶の口が親指で圧迫されて悲鳴を上げる。

「――めでたいことだ。ほんとうに、めでたいなあ…」

先ほど以上に物々しい音を立てて瓶の先端が割れた。長門は破片が飛び散るのを意に介さず、割れた口から酒を一気に流し込む。うつろな目でふらふらと執務机に歩み寄るとおもむろに全館放送のスイッチを入れた。

「のむぞー!今日は宴だ!」

「待て待て!まだまっ昼間だぞ!」

慌てて長門を引き離すが、すでに軽空母寮を中心に雄たけびが響いてきた。前後不覚の長門は簡単に引きはがせたが、抵抗は続く。

「うるひゃい!ほら!ていとくものめ!」

「あぶなっ――」

口の割れた瓶を押し付けられそうになり、慌ててかわす。なんとか奪い取ったところで陸奥が背中から抱き着いてきた。まだ肩を震わせ、涙まで滲ませている。

「たまにはいいじゃない。今日ぐらい羽目を外しましょ」

「そうは言うが――」

「ムム、ムツ!なにしてるデスカ!?」

金剛が仁王立ちで陸奥を指さし糾弾する。静かに顔を出す鳳翔もだが、さっきまで吹雪を除いて隣にいなかった。

「お前ら逃げてたな…」

動揺で冷や汗を流して震える金剛をみても陸奥は余裕の笑みを作る。

「なにって、それはもちろん、ねえ」

「テートクをどうするつもりデス!?」

「あら怖いわ。たすけて、提督」

陸奥は掴みかかろうとする金剛を避けて白瀬に抱き着き、金剛がますます荒ぶる。開け放たれた窓から雲一つない空へ、いつもと変わらない鎮守府の喧騒が広がっていった。

「ムキ―!テートクから離れるデース!」

 

 

 

これからも

私たちの行く先は辛く苦難に満ちたものなのでしょう

でも、

これからは

あなたがいてくれる

それだけで

この長く果て無き航路を進み続けることができます

水平線が暁を告げる、その日まで

 




ご継読ありがとうございました。
初執筆であり、慣れないことも多くありましたが一通り書き終えることができました

実体験(イベ前に大和が欲しくなり溶鉱炉で資源を溶かしたうえ情報を集めず初日から突っ込み朝雲堀りが沼る)を補正しつつ書き上げた作品です。


最終話となっていますがこの話は第1章の位置づけで、これからもアイディアが続く限り投稿を続けていく予定です。

世界観は同じながら手法や話の方向性は変えていく予定ですので、別作品とするか続編とするかは未定ですが、近いうちに投稿します。

この先もお付き合いいただければ幸いです。
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