艦これ回想録~波濤の記憶~   作:COOH

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お久しぶりです。

前回の連載から3か月たってしまいましたが、今まで雑に立ててきたフラグを回収していく予定です。

感想などもいただければ励みになりますのでよろしくお願いします。


第2章 第1話 your doors

 荒れる海をかき分けて航路を選ぶ。高く跳ねる波も強固な機関に支えられた彼女の航行には大した支障をもたらさないが、そう言えるのは戦艦の中でも大型の武蔵だけだ。

…どうも最近気を使われているな。

波に足を取られる駆逐艦たちを見る。艦隊は他が駆逐艦のみで、任務も偵察。不自然な運用に異を唱えなかったのは提督に対してその思いがあったからだ。出撃すれば気がまぎれると思われているのは犬扱いされているようで心外だが、実際にそうなのだから文句も言えない。

 

 悪天候のなか不安そうに進む駆逐艦たちを見遣る。深海棲艦の勢力圏に入っていることもあり不安そうではあるが、上手くなだめる言葉が思い浮かばない。旗艦の難しさは編成数だけで決まるわけではないとやってみて思う。

――大和ならどうしたのだろうか。

ふいにもういない、ある意味で気を紛らわさなくてはいけなくなった元凶である姉を思い出す。武蔵と違い人あたりが良く、どこか抜けていても頼りにされていた姉。彼女がいたなら変わっていたのだろうと考えたところで、現実に意識を戻した。

 

「全艦減速」

端的な指令を出して前方を見る。偵察の目的、活性化する深海棲艦の中枢の確認は予想よりずいぶん手前で果たせそうだった。電探で捉えた敵を確認しようと感覚を研ぎ澄ますが

「なっ…!?」

捕捉したはずの意識はすぐに乱される。ついさっきまで内側にいたはずの存在が、そこにいた。普段からは想像したこともないであろう武蔵の声を聞いた駆逐艦も遅れて悟る。

「やま…と――」

 

 

「なんで清霜はいかせてくれなかったのー」

帰還して執務室に向かう廊下で清霜の聞きなれた声が聞こえた。大方、武蔵と出撃できなかったことをごねているのだろう。

「あなたはよっぽど武蔵が好きなのね」

「前回は一緒にしたのだからいいだろう?」

なだめているは長門と陸奥だ。想像通りに頬を膨らませている清霜を含めて3人が武蔵を認め、会話が止まる。

 

「あ、武蔵さん!」

「ほら、もういいだろう」

長門が疲れたようなほっとしたような溜息を出して清霜の背中を押す。清霜は押されるがまま武蔵のもとに駆け寄る。

「じゃあ、私は酒保に行くわね」

陸奥は武蔵と言葉を交わすことなく反対側へ歩いていった。それを見送った長門は武蔵へ向き直り弁解を含めて笑う。

 

「ご苦労だったな。どうだった?」

そんな長門もどこかよそよそしい。これが、提督が武蔵に気晴らしをさせる理由だ。

 前回の大規模作戦は成功に終わったと言える。だが作戦自体の是非であれば武蔵は否定的な立場に変わりはない。長門型、特に陸奥とどこか壁ができているのは今に始まったことではなく、原因が武蔵の言動にあることは武蔵自身も分かっている。だから彼女たちが表向き他の艦娘と変わらず接してくれていることには感謝しているが、武蔵が改めるのもまた違うのだろう。

 

――大和

この問題の端を発することになった姉と、出撃中に触れた感覚。

「武蔵、どうした?」

いつの間にか思考が揺れていたようで、気づけば長門が怪訝そうに武蔵を見ていた。小さくつばを飲み、浮かんだ世迷い言を追いやる。

「…いや、なんでもないさ。今から提督へ報告に行くが、お前はどうする?」

 

 

「――以上だ」

取り立てて珍しい情報もない報告が終わる。何かあるかと問いかけるが、提督である白瀬は特に追及もなく謝辞を述べる。

「提督、もう十分に情報は集まったと思うが」

武蔵の背後から長門が問う。大規模作戦の動向を聞くためにわざわざ同席するのだから熱心なものだと感心する。

 

「今回は急ぐ必要もないからな。通常の要綱に従うよ」

前回の作戦のことを思い出したのか、提督は軽く苦笑して首を振る。

「だが、今回も我が鎮守府が最前線であることは変わりない。厳しい戦いになるが、よろしく頼む」

世にいう提督としては珍しく艦娘に頭を下げる。それに軽く応えて背を向ける。

 

「武蔵」

向けた直後に呼び止められる。

「本当に何もなかったんだな?」

軍人には珍しい弱い物腰でも、やはり提督となるだけの素養はあるものだと武蔵は小さく笑う。それを隠そうとせずに振り返る。

「ああ。何か問題でもあるのか?」

 

 

 

扉が閉まると背後から大きく息を吐きだす音が聞こえた。

「イヤハヤ、こっちの気にもなってほしいものデスネー」

金剛が肩をまわしてほぐしながら来客用のソファに座り込む。

「ナガトもムサシもフレンドリーにしてもらわないと私たちが疲れマース」

さも同じ境遇の仲間感を出してくるが、さっきまで気配を消して背景に溶け込んでいたのを忘れてはやれない。

 

「そう言うな。あいつらだってあいつらなりの考えや苦労があるんだ」

前の作戦では長門の肩を持つ形になったが、武蔵の考えも理解できるし、むしろ冷静な判断だといえる。それぞれの信念が違う中で多少空気が重くなるくらいなら良くやっているほうだ。一応従軍しているとはいえ白瀬より年下の少女なのだから。

 

…年下、か

ふと心をよぎった言葉を繰り返してみる。白瀬は自分がやっていることを顧みる。いまさら是非や罪悪感といった感情に苛まれはしないが、どうにもできない自分をもどかしくは感じる。本来、深海棲艦のいない世界では海軍が守るべき存在だった。幼い駆逐艦たちはもとより――

「…そういや、鳳翔も俺より年下なんだよな――」

「テートク―」

金剛の低い声とジト目を受けてようやく意識が声に出ていたことに気づく。

「いや、悪い意味ではなくって、包容力があるとかそういう…」

「なんでもイイけど、ホーショーの前で言っちゃダメですヨー」

金剛はゆっくり立ち上がり白瀬に近寄る。次の動きを予想して腰を浮かせた。

「それに私だってホーヨーリョクはありマース!」

「物理的にな!」

 




今回もサブタイトルはアーマードコアの曲から引用していますが、たぶん途中でネタが切れます…

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