「テ、テートクはヤサオトコジャナイデスヨ…」
「無理にフォローしなくても、別に気にしてないからな!実際士官学校での体育の成績悪かったから自覚もあったし!」
目をそらしながらフォローされても逆に傷つく。
「で、司令官!なにするんですか?」
「なにって…」
「すごい作戦があるんですよね!」
吹雪が目を輝かせながら飛び跳ねているが、そのテンションがどこから来るのか。だって今回は本当に
「なにもないんだけどな…」
「…んえー?」
「テートクー!どーするんですカー!」
金剛が肩を揺さぶってくるが、思いつかないものはどうしようもない。自分でもらしからぬ楽天ぶりに笑えてくる。が、
「テートクー!ナニ笑ってるデスカ!ヤッパリヤサオトコデース!」
「金剛、やめてくれ」
金剛に脳を揺さぶられ続けてさすがに気分が悪くなってくる。
「提督ってのは何もできないもんだって思ってさ。俺ができるのはただお前たちがせめて自分で戦う理由を見つけてくれるのを願うだけだ」
白瀬としては実のところ心配していない。大和がそこにいようがいなかろうが、それぞれに向かい合って乗り越えると信じている。
「駄目だったときはその時だ。俺が責任もってなんとかするさ」
「隼鷹さん、今夜はもうこのくらいにしておいたほうが…」
「まだ八分目なんだけどねぇ。まあこのくらいにしておこうかね」
鳳翔に徳利を下げられて、名残惜しそうに最後の一滴を舌に落とした。隣の飛鷹もこれが最後、と残った酒を飲み干す。
「いつも十二分に呑むのを改めなさいって」
「せやせや。明日出撃あるんやから頼むでー」
龍驤も締めを何にしようか考えながら数口しか飲んでいないお猪口を返す。
作戦も最終段に入り、上手くいけば最後の出撃になる。3人は空母機動部隊として出撃する。そのうちの1人は泥酔寸前だが
「まあ隼鷹はいつも通りやしな。心配なのは――」
言いかけて鳳翔と目が合う。鳳翔はゆっくりと龍驤から目をそらす。
「なんや、まだ気にしとんか?」
加賀と瑞鶴も編成されているが、先日の瑞鶴を見ては心配する気持ちもわかる。鳳翔にとって加賀は生徒のようなもので、瑞鶴はさらにその弟子にあたる。鳳翔自身が出撃できないのであればなおさら気がかりだろう。
「酔った勢いなんてあんなもんやろ。飛龍と蒼龍も悪ノリが過ぎたかもしれへんけどな」
加賀の性格なだけに、瑞鶴には二航戦のような先輩も必要だろうと見逃していたが、さすがに締めとくべきだったかもしれない。
「そうですけど…」
鳳翔としては友好関係よりも作戦行動の懸念があるのだろう。今より厳しい戦場を知る身であれば、万が一の懸念も龍驤よりずっと大きいはずだ。その心境は慮る。
「私も出撃したほうが――」
「なめんなや」
だが、それは龍驤には看過できない言葉だ。
「怪我しとるあんたに何ができるんや?そんななりのあんたのほうがマシっちゅうことか?」
「私は決して皆さんを――」
「ウチらやない。加賀たちのことや。心配するのは分かるけどな」
龍驤は小さく溜息をついて戸に手をかけた。
「ちっとは信じてやらんかい」
「ちょっと、龍驤!」
飛鷹が追って出ていくのを見て、隼鷹は楽しそうに笑う。
「ま、あたしらに任せときなって」
どこからかとってきた一升瓶を開けて流し込んだ。
「まったく、あんたまで拗ねてどうするのよ」
「せやって…」
肩をすくめる飛鷹と夜の風でようやく言いたいことが整理がついてきて、道端の石を蹴った。
「鳳翔はずっと戦ってきたんやろ。ウチらが轟沈の心配もほとんどせんで出撃できるのも鳳翔のおかげや。もう十分やろ。艦娘なんてやめて好きにしたったらええやん」
「そう言ってあげればいいのに」
「アホか。どんなつらして言えばええねん」
それがもやもやの原因だ。鳳翔の背負ったものを引き受けるだけの力はないのは分かっている。実力も指導もまだまだ学ぶことのほうが多い。
「戦うことしか教えられない、か…」
同じことを考えていたらしい飛鷹の呟きが耳を抜ける。
結局、鳳翔の背負ったものを知ることすらできていない。ただ、抱え込みすぎだと思う。それを龍驤からでは伝えることも変えることもできないが。
「あいつらはどう思ってるんやろな…」
言葉少ない加賀も、変な意地を張っている瑞鶴も、そしておそらくは龍驤自身も
「どいつもこいつも、ガキばっかりや」
「おっす!よろしく頼むよ!」
「あ、隼鷹さん。おはようご――うぇっ」
振り返った瑞鶴が隼鷹の顔を見た瞬間、正確には息に混じって漏れ出すアルコール臭を嗅いだ瞬間に口元を抑えてうずくまった。こみ上げるものを抑えるのに必死な瑞鶴を見ながら隼鷹は腰に差したスキットルを口に運ぶ。
「まだ二日酔いが残ってんの?そんなときは迎え酒しときゃいいんだって」
「ちょっ…やめヴォエ――」
「隼鷹、やめてもらえるかしら?」
面白がって飲み口を瑞鶴に近づける隼鷹を加賀は制して離す。
「瑞鶴、あなたも体調管理をおろそかにしないように常日頃から言っているでしょう?」
「分かってるわよ!」
「できていないから言っているの」
見下ろしてくる加賀をにらみ返して立ち上がった。加賀の言っていることはもっともなのだが――
「なんで隼鷹さんには言わないんですか!体調管理どころか酔っぱらってるじゃないですか!」
「おうおう!言ってくれるねぇ」
「まったく、なにやってるのよ…」
楽しそうに笑う隼鷹と額を抑える加賀を遠巻きに見ながら、頭を抱えた飛鷹はしゃがみ込む。
「あんたの相棒やで、あれ」
隣にしゃがんだ龍驤が指さすと飛鷹は目をそらした。昨日のことを踏まえると隼鷹をしばいてでも禁酒するべきだったと後悔してももう遅い。
「おもたんやけど――」
「いや!聞きたくない!」
「瑞鶴が加賀につっかかるんは、周りのやつらのせいもあるんやろな」
「聞きたくないって言ったのに…」
酒を流し込む相棒を直視しないために飛鷹はうつむく。
結果を残せるか否か。加賀の判断基準は明確だ。飛龍と蒼龍も好き勝手しているように見えて2人なりの戦闘理論に基づいての訓練をしている。隼鷹は酔っぱらったほうがいいとは言わないが、隼鷹なりの精神安定方法ではある。
常道を守り、万全に万全を期す加賀の指導は正しいが、自由な先輩たちを見て窮屈に感じる瑞鶴の心境も分かるし、加賀の態度の差を理解するのにはまだ時間がかかるのだろう。
「時間が来たわね…」
重い腰を上げて出撃ゲートに向かうと龍驤も3人の背中を叩きに行く。
「ほら行くで。……仲良くせんかい!あんたらガキか!」