――あなたはこの世界が好きって言えるの!?
空を眺めたとき、ふとかつての友人の声がよぎった。きっかけは風なのか雲の形なのか、自分でも分からない何かで思い出す。
真剣に訊かれたその言葉に、どう答えたかは忘れてしまった。ただその問と、結局一度も向けられることのなかった砲口だけが反復する。
忘れても、事実は変わらない。
彼女が人としてあがいたのならば、私は――
「金剛さん」
意識が引き戻され振り返ると吹雪がいた。
「どうしました?なんか元気ありませんけど?」
「なんでもないデス!ちょっとぼんやりしてただけデス!」
手を振り笑うと、吹雪は少し不思議そうに見つめたあとで微笑み返す。
「そうですか。私もお昼ご飯のあとは眠くなっちゃいます」
「ブッキーはよくテートクに怒られてますネー」
「おこられるってほどでは…」
他愛のない話をしながら歩を進めていくうちに記憶は薄れ、演習のために集まる艦娘の小さな喧騒に埋もれていった。
金剛にとって、外洋演習の引率はもう慣れたものだった。金剛の後に続く5隻にとっては初めての外洋で戸惑うことも多かったが、その戸惑いも金剛にとっては見慣れた光景に過ぎない。不慣れな艦が砲弾を無駄に撃ってしまうことも、速度が定まらずに燃料を多く消費することも織り込み済みだったため、演習が規定時間より早く終わったことも気にしていなかった。適切な運用ができたときの見込み活動時間との差を感じてくれたらそれでいい。
予定通りに進んでいたからこそ、電探に引っかかった影が異質なものだとすぐに気が付いた。振り返って水平線を見ると、航空機の影が小さく見えた。
「あれは…?」
他の艦娘も金剛の視線の先に意識を向けたが、それが何かを判別するには経験以前に意識が不足していた。そもそも航空機の類だと思った者がいたのかどうか、少なくともそれが本来の敵だと気づいてはいない。
「この時間にここでの艦隊演習も護衛任務もないデス。敵航空艦隊ネ」
深海棲艦との遭遇など考えもしていなかった艦娘たちはにわかに浮足立った。金剛は僚艦に目を向けながら、周辺海域を思い出していた。
帰路にいたとはいえ泊地はまだ遠い。ほとんど深海棲艦がいないはずの海域では他鎮守府・泊地からの応援も時間がかかるだろう。目に見える範囲に陸があり、物流拠点となる港がある。
金剛は即座に泊地との回線を開いたが、同時に砲塔を起こし機銃を展開した。演習と変わらない声音に少し緊張が混ざる。
「全艦、対空戦闘用意!」