艦これ回想録~波濤の記憶~   作:COOH

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第2章 第6話 Great Wall

「瑞鶴、加賀はどうした?」

合流地点につくと隼鷹がのんきに訊いてくる。

「予定外の深海棲艦が――」

上がった息を抑えながら煩雑なままの説明を伝えると隼鷹があからさまに舌打ちをした。

「加賀の指示に従えとは言ったけど…帰投するわよ。この海域から離脱して鎮守府と通信できるまで下がって応援要請」

 

確認する時間も耐えがたいというように即座に針路を転換した飛鷹に、龍驤は首肯だけ返して続く。急に重くなった空気についていけない瑞鶴は少し遅れて追いかける。横に並んだ瑞鶴を見て龍驤は淡々と告げる。

「ウチらはほとんど艦載機を失っとる。あとは増援が間に合うかやが、正直分からん」

「…え?でも加賀さんは――」

「正規空母5隻と戦えると本気で思とんか?」

呆れよりも冷徹さが伝わる問に返す言葉はなく、ようやくその当たり前に気づく。

 

「で、でも――」

それでも加賀を信じたいのか、自分の愚かさを認めたくないのか。

「加賀さんは、ほら、烈風だって私に替矢でくれるくらい――」

「あのバカ」

「飛鷹、龍驤、本隊にも通信入れとくよ。敵機動部隊と接触の可能性ありって」

「それって…」

すがるように握った矢を見て消えた3人の焦りは諦めを受け入れる平静さに変わった。変わらず全力航行する艦隊から瑞鶴は離される。

 

「だって――」

「アホか!烈風なんて予備に回せるほど数あるわけないやろ!」

聞き分けのない子供を叱るように、龍驤が振り向いて声を上げる。平静を装うことで何とか保っていた空気が揺らぎ、一身に受けた瑞鶴は立ち止まる。

 

――なんでよ

私のこと嫌いじゃなかったの?

いつもは口うるさいくせに、こんなときだけ何も言わないで。

加賀は嫌いだ。

でも、握る矢の重みを否定するにはあまりに近くにいすぎた。

加賀の言葉を思い出した時、もうすでに針路は反転していた。

 

 

 

「瑞鶴!」

空母として高出力を誇る翔鶴型の機関音が遠ざかっていき、飛鷹の声が届いたのかもわからない。思わず減速する前に龍驤が制す。

「うちが行くからあんたらは鎮守府との連絡を優先せい!」

叱責された2人が再度加速して遠ざかる。手持ちの式神型艦載機を確認する。飛鷹と隼鷹から集めたそれは、本当は数える必要もない。

 

「半々ってとこか」

補給が不十分な龍驤が加わったところで生き残れるのはそんなところだ。命を懸けるにはあまりに低すぎる確率。瑞鶴はもちろん、加賀にも勝算があるわけではないのだろう。いつも難しい顔をしているくせに考えることは単純だ。

 航行性能の違う軽空母では今からでは戦闘海域前に追いつけない。だからもう考えている時間はなかった。

瑞鶴の航跡を探しながら、龍驤はバイザーを直し舌打ちをした。

――くだらん自己満足に付き合わせよって

「だからガキやってゆっとんのや!」

 

 

 

「あーあ、外しちゃった」

「ごちそうさまです」

蒼龍が肩を落とすと赤城は声を弾ませながら手を合わせた。その横で飛龍があおむけに倒れて手足を投げ出す。

「駄目だー。赤城さんに勝てない!どれだけお団子献上しないといけないの!」

「お二人から50本ずつ、合わせて100本です」

これは今夜のデザートが楽しみですね、と満面の笑みで夕食のメニューの話をしてくる師に、翔鶴は引きつった笑顔で応える。翔鶴は見たことも想像したこともない数の団子を食べる気で、そして食べてしまうだろう赤城を見る。

 夜を想像している赤城は先ほどすべての矢を的の中心に当てたとは思えないだらしない顔だが、その間でも崩さない背筋が説得力を残している。

「ねー今度は寝ころんでやろうよ―」

 

「その手には乗りませんよ。お二人はちゃんと撃つ練習をしないといけません」

蒼龍は頬を膨らます。赤城が珍しく二航戦恒例の賭けに参加したのは啓蒙の意味もあったらしい。一番は加賀がいないことによるのだろうが。

 蒼龍はふてくされて飛龍の横に転がるが、蒼龍が外したといった矢は中心からずれているものの的には当たっている。翔鶴に経験はないが、確か実際の弓道は的に当たりさえすればよかったはずだ。それでは勝負が終わらないからと中心の円だけが有効になっている。敵の攻撃をかわしながら発艦するためだという曲芸撃ちならば二航戦に分があるのだが、単純な精度なら赤城の、そして加賀の方が上だ。

 

翔鶴は当然のように賭けに参加していない。精度が上がってきたとはいえ、実力の及ばない後輩への配慮であることは間違いないのだが

「まだまだですね…」

つい気弱な言葉が出てしまう。飛龍が上体だけ起こして笑う。

「そんなことないって!翔鶴も瑞鶴も私たちが新人だったときより良くやってるよ」

そう言われても素直に頷けない。

「いえ、私もそうですが、瑞鶴も加賀さんに迷惑ばかりかけて――」

「んえ?」

抜けた声が聞こえて顔を上げると飛龍がぽかんと口を開けていた。

「いやいや、加賀さんなんて瑞鶴大好きじゃん」

「そうそう、加賀さん酔っぱらうと瑞鶴の話ばっかりするから困っちゃうよねー」

「のろけ話聞かされる身になってほしいんだけどね」

「そこまでにしときましょうか」

赤城が手を叩くと飛龍と蒼龍の顔が引きつる。

 

「…これ言っちゃダメなやつだったっけ?」

「そーだったー。赤城さん、加賀さんには言わないで!加賀さんにシメられちゃう!」

「うーん、お団子倍で手を打ちましょうか」

「赤城さんの鬼!あ、翔鶴もお願い!お団子あげるから!」

「ただでさえ酔いがさめた加賀さん、記憶飛ばそうと飛行甲板振り回してくるのにー」

足元に縋り付いてくる二航戦を振り払えずにいる翔鶴は加賀の姿を想像しようとしても上手くいかずに困惑する。

「ね、翔鶴」

二航戦を追い払いながら赤城は翔鶴に微笑む。ようやく伝えられることを喜ぶように。

「向上心は大切ですが、焦る必要はありませんよ。私も加賀さんも、あなたたちのことが大好きですから」

 

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