艦これ回想録~波濤の記憶~   作:COOH

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第2章 第8話 Rise in Arms

 加賀は握っていた戦闘機の矢を攻撃機に持ち替えた。持ちうる貴重な攻撃能力をあっさり打ち上げると翼を持ったそれは一直線に敵艦隊に向かっていった。

「直掩は任せるわ。あなたが守ってくれるなら――」

そこまで言われて瑞鶴は初めて守りを任させたことに気づく。敵の撃沈が艦隊戦の花形ではあるが、守りを何よりも大切にしている加賀に預けられた意味は――

 そこまで考えながら撃った烈風の機銃は見事に外れて、爆撃機の急降下爆撃を許す。

「やばっ!」

急いで追撃に入ろうとしたところで、横から入り込んだゼロ戦の銃弾が爆弾を射抜く。

「私は攻撃に専念できそうね…それなりに」

「いや、これは違うから!加賀さんが変なこと言うから!」

今まで何度も聞いた溜息が耳に入り、慌てて首を振る。今まで聞いたこともない声のせいで集中力が乱れたのは事実だ。それを必死に伝えるが

「分かったから、静かにしなさい」

「はいはい。赤城さんみたいに黙々とできなくて申し訳ありませんね」

「…本当に」

しみじみと同僚と組んでいたころを懐かしむ加賀に爆撃したくなった。そんな自分に気づいてつい笑いがこぼれる。加賀は怪訝な顔をしたが一瞬だけで、小さく笑みをかわす。こんなやり取りで艦載機の動きが軽くなった気がするのもおかしい話だが、これがいつも通りだ。おかしいというならさっきまでがおかしかったのだ。

「ほら、さっさと行ってくださいよ。援護出しましょうか?」

「邪魔よ。あなたはここで大人しくしていなさい」

いつものように反対を向いた2人は、背中を合わせた。

 

 

 最後に残る一隻に攻撃機を放った。装備的にも気力的にも許された最後の攻撃に加賀の操作能力すべてを費やす。限られた艦載機をすべて攻撃に向ける。頭上の守りも残りわずかだが、もう些細な問題だ。

 対空機銃を回避するべく海面を這う編隊が波を巻き上げながら奔る。迫る敵戦闘機から放たれた機銃がすぐ下の波を打ち抜いて新しい飛沫を生み出す。追撃をなんとか振り払おうとするが、敵の攻撃も制限するということは逃げ道も狭められるということ。相対する敵戦闘機を護衛の戦闘機を体当たり気味に寄せて振り払うが、無防備な攻撃機の背がさらされ、上空から追いかけてきた戦闘機の火線上に乗る。

最悪バレルロールで――

後ろに付く戦闘機の状況も把握できないまま、旋回のタイミングを探る。気流が不安定な海面スレスレで魚雷を抱えたままなど試したことはないが、できないとは言えなかった。慎重に間合いを計り、機銃のロックが解かれる瞬間に主翼を捻じ曲げる。

 が、旋回が始まる前に銃撃音が空気を揺らす。

「加賀さん、大丈夫!?」

瑞鶴の操る烈風に叩き落された戦闘機が水面に跳ね消えていく。回避の必要がないと知った加賀は傾いた攻撃機を本来の針路に戻す。

「もう少し早く来て欲しかったのだけれど」

「はあ?」

眉間にしわを寄せる瑞鶴を目の端に捉え、意識を再び攻撃機に移した。

「まあ、上出来よ」

腹から魚雷が放たれ、重量から解放された攻撃機が舞い上がる。水面下を泳ぐ魚雷の針路を阻むものは、もうなかった。

 

 

「やった、の…?」

巻き上げられる水柱と轟音を受け止めながら、瑞鶴が腕を力なく下げた。加賀は残身をもって肯定し、瑞鶴に向けようとした体に衝撃が響く。

「やった!やったよ!」

飛びつくように抱き着かれた加賀は危うく倒れそうになる。それでも瑞鶴は加賀に体を押し付けた。

「分かったから離しなさい」

「よかった、ほんとうに…加賀さん…」

表情を見せないことが、胸に顔をうずめて震える瑞鶴のせめてものの意地なのだろう。

 ちゃんとここにいる。そう伝えるために、急に頼りなくなった背中を撫でる。その感触が自分の存在を示してくれる。

私は、私…ね。

瑞鶴がいることも、守ろうとしたことも、助けられたことも、加賀が艦娘として手に入れたものだった。船でも人でも関係なく、加賀が加賀として手にしたもの。

かつて航空戦艦が言っていた言葉を思い出すのだけは癪だったが。

瑞鶴をゆっくり離そうとしたとき、いびつな風切り音が頭上から降ってきた。

「加賀さん!」

遅れて顔を上げた瑞鶴に言われるまでもない。自らのものとかけ離れた、だが聞きなれている航空機の音。深海棲艦の艦載機が母艦を失ってもなお残留する思念を宿して落ちてきた。腹に抱えた爆弾を見て、自らを守る航空機も回避する時間も持たない加賀はとっさに瑞鶴を押し飛ばそうとした。

「――っ!」

盾になるように差し出そうとした体は歯を食いしばった瑞鶴に押し返された。その抵抗は考えのないただの意地だ。だが失うことを否定するその意思が、加賀の中に流れる言葉を遺言からかつて聞いた言葉に変えた。

我々が船であるなら――

瑞鶴を押し除けることを諦めた右腕は左肩についた飛行甲板に伸びた。慣れない動きに軋みを上げた腕はそれでも甲板を引きはがし

――腕はカタパルト

投げ放った

一直線に打ち上げられた飛行甲板は爆弾が切り離される寸前に直撃し、敵航空機を真っ二つに割った。わずかなの間をおいて、閃光が空を照らす。近くで広がる爆風にとっさに腕を掲げて顔を下げる。が、そんな基本の防御姿勢をとったのは加賀だけだ。

「か、加賀さん…?」

「なに?」

顎を外れんばかりに開けて爆心を指さす瑞鶴の言いたいことは分かったが、自分でも不思議と落ち着いていた。

「別に…最善の判断をしただけよ」

「いやいやいや、さすがに投げちゃ駄目でしょう!」

いつものことながらうるさいので帰路につくふりをして離れる。ゆっくりと、なにも無くなった肩を掴んでみる。

「あなたが教えてくれたのよ」

「…は?」

懲りずに諦めようとしていた加賀は、生きる欲望を見た。手段や可能性よりも先に来る、単純な意思を。まだ力強い瑞鶴の感触が残っている手のひらが掴んでみたものは、まぎれもない加賀自身だった。

…もっと心もとないものだと思っていたけれど

艤装を失っても変わらない何かをようやく掴めた気がした。

「えっと、飛行甲板投げて遊んでたの、バレてたんですか…?でもあれは着任してすぐだったから――」

「瑞鶴」

「えっ、違うの……いやその、ノリというか、冗談といいますか…」

「おーい。生きとるかー!」

逃げ先を見つけ、先ほどと違う固まりかたをした瑞鶴の表情が安堵に変わる。説教を後回しにされた加賀も肩の力が抜けていくのを感じた。

「なんとか生きとるみたいやな。」

加賀と瑞鶴を見た龍驤は胸をなでおろす。

「おかげさまでね。…あなたならもう少し冷静な判断をすると思っていたのだけれど」

「言われんでもそのつもりやったわ。憎まれ口たたいとらんと弟子に感謝せいや」

「ですって」

龍驤の言葉を受けた瑞鶴に背中を叩かれた加賀は手を跳ねのける。

「元気そうでなによりや。さっさと帰るで…って、おい!」

急に崩れた加賀にもたれかかられた龍驤は急いで抱きかかえ、ようやく加賀に飛行甲板がないことに気づく。

「ごめんなさい。少し背中を借りるわね…」

「なんや、じぶんも冗談いうんやな。こっちは胸やで……冗談って言わんかい!ちょっとばかり大きいからって調子にのりよって」

龍驤は眠る加賀に悪態をつきながら加賀を放り投げた。

「お前がもってやれや。お前の師匠やろ」

「えーっ」

震える膝を素直に反映させた抗議をしてみたものの、加賀の寝顔が目に入った。穏やかな吐息がリズムよく聞こえる。こうして加賀の寝顔を見ることは初めてだったかもしれない。

「師匠、か…」

その言葉を意識したのも初めてだったと思う。とにかく、何となく力が入った脚に応えるように機関が回りだす。

「意外とかわいい寝顔に免じて、運んであげますよ」

聞こえてないはずなのに、加賀が顔をしかめた気がした。かわいげはなくなったが、少しずつ加速していくスクリューは止まらない。仕方ないので加賀を担ぎなおす。

――まだまだ教えてもらわないといけないことがあるんだから

 




いつも読んでいただきありがとうございます。
雑な伏線回収は1章32話のやつです。
思いつきで散りばめたものがあるのでできるだけ回収していこうとは思いますが
時間が空きすぎるのは連載のさだめ…

ちなみに航空機の操作をファンネルにしたのは某軍艦ゲームで
航空機が自動制御だったからです。
発艦したら勝手に倒してくれるのは便利だけど味気なかった…
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