「まさかお前たちが付いてくるとはな…」
「お前を従えるとなるとそれなりに立場が必要になるんだ」
武蔵の呟きを捉えて長門が苦笑いをして肩をすくめる。その動きに合わせるように陸奥は肩を下げる。
「お互い面倒な立場になったものね」
息をつく表情は心なしか穏やかで、武蔵はそんな陸奥を久しぶりに見た気がした。正確に言うなら、武蔵に見せた、になるのだろうが。
「あなたなりに思うところがあったのなら、きちんと話してくれれば良かったのに」
「それだけはお前たちに言われたくないな」
陸奥も自覚があったからか、苦笑いで肯定した。いつ振りかのなつかしさが滲んだ会話だったが、敵地のど真ん中での軽口もほどほどにして目線を切る。向けた先には懐かしい気配があった。
「大和…か。確かにな」
初めて対峙した長門がうなる。武蔵ももう否定するつもりはない。この先に姉がいることを。問題は辿りつく方法だ。
「さて、どうする?先ほどの入電では横やりの心配はないと――」
「行ってこい」
逡巡する武蔵の背中が軽く叩かれた。その手に合わせるように陸奥が軽く手を添える。
「ここは任せて、お前は大和のもとに行ってくれ。敵の数は多いが、できるだろう?」
「到底旗艦の言葉とは思えないが」
長門はまた肩をすくめて同意し、再度背中を叩く。今度は少し強かった。
「旗艦とて姉妹の再開を邪魔する気はないさ」
「やりたいこと、あるんでしょう?」
「武蔵さん!」
低いところから声が聞こえた。
「がんばってください!」
清霜のきらきらした目に、つい表情が緩む。いつものように頭を撫でてやる。
「ああ…行ってくる」
いつも信じてくれている小さな存在に、憧れてくれる瞳に応えたかった。強い背中を見せたかった。
背中の砲塔を前に向ける。水底まで震わせる轟音を合図に踏み出した。
敵陣を裂く突撃に当然のごとく照準を向けられる。だが、降り注ぐすべてを弾き返す。反撃する時間も惜しかった。ただ前に進む。単艦突撃という無謀でも、背中に宿された熱が立ち止まらせてくれなかった。
真正面からの巨大な砲弾を両腕で受け止める。後に南方棲戦姫と名付けられた深海棲艦の道理の外れた砲撃。十分な体勢で受けても後ろにのけぞりかけるが、踏ん張り耐える。
正面から受け止め、ねじ伏せる。それが大和型の戦闘だ。ここにはいない仲間の後押しを受け、退く理由はない。
ただただ前進を重ね、ついに南方棲戦姫に肉薄する。苦し紛れに放たれた砲撃を避け、正面に立つ。
――ようやく届いた
1人ではたどり着けなかった、たどり着こうともしなかった道の果て。
大和と会えたなら、言いたかったこと
「この――」
武蔵はその背に仲間の存在を感じながらこぶしを握り
「――馬鹿野郎が!」
顔面を殴りつけた。