艦これ回想録~波濤の記憶~   作:COOH

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第2章 第10話 Protrude

「いつぶりかしら、あなたと一緒に海に立つのは」

「ああ、本当に久しぶりだ」

横に立つ陸奥の姿は鎮守府で慣れた気配と異なり、戦地で忘れていた安心感を思い出させた。

 互いに艦隊指揮を預かる身となり、共に出撃する機会はなくなっていった。なにも分からずにいた初出撃の日も、初めて戦果を挙げた日も、初めて敗北を経験した日も隣には陸奥がいた。もうないのかもしれないと思っていた妹と出撃ができたのも

「武蔵に感謝、といったところか」

「長門、もう武蔵はいないわよ」

拗ねたように小さく頬を膨らます陸奥は長門に手を重ねる。

「私たちだけで楽しみましょう」

「お、おい。駆逐艦たちが見てるぞ」

「あら、見られて困ることじゃないでしょう?」

並び、重ねた手を前にかざす。前方に向けられた砲門のロックが静かに外される。

「長門、いい?いくわよ!一斉――」

ベキャッ!

と、肉体がぶつかり合う鈍い音が遠くから、しかしはっきりと聞こえた。

 

 

 

 頬に直撃を受けた南方棲戦姫が後ろに飛ばされる――前に腕を掴み引き戻す。正面からねじ伏せる、戦艦の在り方を体現せしめる踏み込み。とっさにかばおうとする腕の上から構わずこぶしを振り下ろす。

「なにが最強の艦娘だ!」

バキッ!

「実戦経験が少なかった?そんなのが言い訳になるか!」

ゴキン!

「挙句の果てにこんな姿に成り果てて!」

ドゴッ!

「そんなザマで私の姉を名乗るな!くだらん生き恥をさらすくらいなら――」

耐えられず倒れた戦姫に馬乗りになる。首根っこを押さえつけて腕を引く。

「さっさと沈んでしまえ!」

「――まてまてまて!」

振り下ろそうとしていたこぶしが止められ見ると長門が抱き着いて止めていた。

 

「なんでそうなる!?」

「好きにしろとお前たちが――」

「やりたいことがこれだとは思わんだろう!」

「そういえばあなた、こんな感じだったわね…」

念のため反対の腕を抑えていた陸奥が溜息をつきながらゆっくりと手を離す。

「なんかまあ、こっちのほうがあなたらしいんじゃない?」

「それはそうだが、これで本当にいいのか!?…清霜、泣くな!ほら、いつもの優しい武蔵お姉さんだぞ!」

 

好き放題言われているようでどうも釈然としない。けれど、それほど今までの自分は考えすぎていたのかと自らを振り返ると、確かにその通りだった。

 足元が光り、今は戦闘中だと思い出す。何が起きたのかを把握するために慌てて下を向くと先ほどまで相対していた敵の姿はなく、代わりに

「大和――!」

見慣れた姿があった。

「…本当に大和なの?」

可能性を提示していても信じていても、実際に見ると驚きを隠せない長門と陸奥の声でこれが現実だと知る。

 

「…やっと、捕まえられたな」

強く、それ以上に優しい姉。口に出すことはなかったが、その背に追いつこうとしていた。遠くへ行ったと諦めていた姉が、今目の前で眠っていた。

「私の気も知らないで」

心配もいらないほど穏やかな息に存在を感じ、何となく衝動がこみ上げ

ベキッ

殴ってみた。

「だからなんでそうなるんだ!」

 

 

 

「…んっ」

苦しそうに漏れ出す声と腕の下の揺れで武蔵は眠気から引き戻される。もう夜になろうとする時間、体に異常はないものの意識が戻らない大和の傍らにいたが、いつの間にか疲れが勝っていた。もたれかかっていた姉の足が動くのを感じ、武蔵は顔を上げる。

 

「む、さし…?」

何も分かっていない大和は不思議という感情すら追いつかないようで、ただぽかんと武蔵を見た。

「大和、お前…」

立ち上がってみたものの、武蔵とて何と言っていいのか分からない。だが無意識に大和の肩を掴んだ。伝わってくるしっかりとした、それでも柔らかな感触。幾度となく並べた肩は間違いなく知っている大和だった。

 

「私…いったい…?」

「少し長い間気を失ってただけだ。心配するな」

不安そうに見上げる大和の視線を受け、武蔵は椅子を引き寄せて座る。目線が同じ高さになり、武蔵はゆっくり息を吐く。

「長くなる。落ち着いたらきちんと話す」

「…そう」

ようやく武蔵を認識したように弱々しく笑い、うつむく。

 大和はどこまで覚えているのだろう、と武蔵は考える。覚えているというほどの意識はあったのか、これから思い出すのか。どうであれ、大和にとって良い記憶ではないだろう。覚えてなかったとしても、隠しきることはできない。それは大和を苦しめ、解けない枷になるかもしれない。

 

「――っ」

大和がわき腹を抱えてうずくまった。

「大和!」

「ちょっと痛んだだけよ。もう大丈夫」

武蔵を逆になぐさめるように頬に手を当てられる。気恥ずかしくなって掴んで離すと大和は残念そうだったが、掴まれたままの手を見て何も言わなかった。

 

「他に異常ないか?」

「ぼんやりというか、ふわふわした感じがするわ」

「ずっと眠っていたようなものだ、仕方ないさ」

「あと、おなかが空きました」

少し恥ずかしそうにする大和を見て、笑ってしまう。

「食欲があるのは何よりだ。すぐに用意させよう」

立ち上がる武蔵の腕を大和が掴み、引き留めた。

「でも、ほっぺが痛いの」

「…まあ、そういうことも…あるさ」

「武蔵?どうしたの?こっち向いて?」

 

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