艦これ回想録~波濤の記憶~   作:COOH

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第2章 最終話 Days

「はぁー。寿命が縮んだわー」

「ひゃっはっは。あんだけ啖呵切っちまって沈んだら洒落にならないからなー」

「言わんとってや―」

カウンターに倒れこむ龍驤を見て隼鷹は楽しそうに酒を注ぐ。

「なんであんたは他人事なのよ?」

「…皆さん、ありがとうございました」

鳳翔が深々と頭を下げた。

「そーいうことなら酒でも一杯――いてっ」

「ちょっとは黙ってなさい」

「鳳翔、相変わらずお門違いもほどがあるで」

龍驤が体を起こしてあからさまに溜息をつく。その間も鳳翔は頭を下げたままでいる。

「あいつらは無茶やったけどな、あいつらなりに思うところがあったんやろ。それでも生きてられたんはあんたのおかげや」

鳳翔の肩を小突くとようやく頭を上げてくれた。小さいと言われる龍驤と変わらない体、その上に載っているものが重りだけだと思っているのは鳳翔だけだ。

「あんたが教えたことちゃんと守ったから死なずにすんだんや。それ以上に大事なことなんて何があるんや」

鳳翔に笑って見せる。

「生きてるだけで丸儲けってな」

背中を叩いて背筋を伸ばす。龍驤にできることなんてこんなものだろうが、これ以上は出しゃばりすぎだ。

「あいつらも勝手に成長してるんや。うつむいてばっかやなくて、たまには顔上げてあいつら見てやらんかい」

「…はい」

ここまで言ってようやく返ってきた小さな返事は龍驤の耳膜を少しだけ揺らし、隣の喧騒に巻き込まれていった。

 

 

 

「赤城さん」

治療と検査を終えもう皆が寝ている時間になった廊下を歩いていると、縁側に座る良く知った後ろ姿を見つけた。長い髪の持ち主が加賀の声に振り返ると頬が膨らんでいた。

 

「加賀さん、どうでしたか?」

「特に問題は。数日は休むように言われましたが」

隣に腰を下ろすと赤城は安心したように微笑む。そんな赤城を見て、ようやくいつもの場所へ返ってきたことを感じた。

「今夜は月が綺麗ですから」

そう言って横に積み上げられている団子に手を伸ばす。食べるのはともかく、赤城が買うにしても多いそれにしばらく何も入れていない胃が動き出した。

 

「私も…いただいていいかしら」

「どうぞ」

さっそく手を伸ばすと、串を掴む寸前に赤城に取られた。手が宙をさまよい、再び取ろうとするとそれも先に取られ、赤城の口に運ばれた団子が消える。

 

「あの…怒ってます?」

「ほうへんへふ」

そっぽを向いて口に含んだ団子を飲み込む。

「加賀さんったら、最近は瑞鶴瑞鶴って。私のことちっとも見てくれないんですから」

団子がなくなっても膨らんだままの横顔を眺め、加賀は小さく頭を下げる。いつもそばにいてくれる存在にようやく向き合った。だがそれも今になったからこそ分かること。そう、初めてできた居場所にようやく帰ってきた。

「…ありがとうございます」

ずっと待っていてくれて。

赤城は大きく頷いて団子を加賀の前に差し出した。

「忘れないでくださいね。私と加賀さんで一航戦なのですから」

「はい」

加賀は素直に答え、目の前の団子にかぶりついた。

 

 

 

 翌朝、加賀は港に立っていた。休めと言われたが軽く動いたほうが調子が戻る気がした。何よりやりたいこと、課題はたくさんある。

 

「…その前に、瑞鶴」

加賀の視線を受けて瑞鶴も自身の腰元に目線を落とす。いつもとずれた位置に作られた腰ひもの結び目を手で弾く。

「これ、やっぱり少しななめにあるほうがかわいいですよね。加賀さんもどうですか?」

まったく意図の通じないことに頭痛を覚えた加賀は頭を押さえて溜息をついた。その様子にようやく察した瑞鶴は抗議の声を上げる。

「別に困ることないし、これくらい良いじゃない!」

「基本を大切にしなさい。それは服装から――」

「飛行甲板投げる人に言われたく――うひぃ!」

瑞鶴の頭上に飛行甲板が振り下ろされるのをかろうじて避ける。情けなくしりもちをつくも、顔にかかる風圧に避けられたことを安堵する感情しか湧いてこない。

「…あの、加賀さん?持ちネタにしようとしてます…?」

「なんのことかしら?」

 

 

「ああ…瑞鶴ってば、また加賀さんと…」

少し遠くで様子を伺っていた翔鶴が両手で顔を覆い、震える声を出した。だが赤城には

「心配ありませんよ。いつもの仲の良い2人です」

めげずに突っかかる瑞鶴といなして出撃ゲートに向かう加賀を見て、翔鶴も同じように微笑んだ。

 

「そうですね、本当に、仲のいい――」

「翔鶴」

「は、はひ!」

振り返った加賀ににらまれて翔鶴は姿勢を正す。

「後で演習場に来なさい。たまには的になるのもいいでしょう?」

「ひぃっ、なんで私だけ…」

 

 

 

「失礼するぞ」

武蔵が執務室の扉を開くと白瀬は珍しくソファに座っていたが、机の上のティーカップを見つけて納得する。

 

「休憩中だったか。邪魔したな」

「いや…まあ気にしなくていい。なんの用だ?」

白瀬がちらっと金剛を見たが、先を促すので武蔵も頬を膨らます秘書艦を無視して歩み寄る。

「なに、先日の礼だ」

「れい?」

不安はたくさんある。大和自身の問題も、そこから波及する問題もなにも解決していないし、その手段を思いついてもいない。それでも

「大和が戻ってきてくれて良かったよ」

それだけは間違いのない思いだ。そしてそれに気づかせてくれたのは――

「好きに生きるというのも悪くないな、相棒」

白瀬の隣に腰を下ろす。正面に座ると思っていた白瀬が横にずれる前に肩に腕をかける。

 

「そうか…それより、少し離れてくれないか?」

「なんだ、かわいい反応するじゃないか、相棒。遠慮するな、私と君の仲だろう?」

「アアアア、アイボー!?ナカ!?」

ティーポットが揺れ、紅茶がこぼれた。

「テ、テートク!?どーゆーことデス!?」

白瀬が反応する前にティーポットをついに落とした金剛が震えだす。金剛と白瀬を見比べて、武蔵は楽しそうにソファにもたれかかり白瀬を引っ張る。

「そういうことだ、金剛」

「だから、どーゆーことデスカ!」

間に割って入ろうとする金剛の頭を押さえて突っ張る。もがく金剛が机を跳ね上げ、お菓子と皿が宙に舞う。

「ムキャー!テートクから離れるデース!」

 




第2章はこれで終わりとなります。
最後までご愛読ありがとうございました。

次回は未定ですが、来週からもう1つの連載を再開しますのでそちらもよろしくお願いいたします。

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