車から出ると地面からこみ上げる熱風にあおられ急激に汗が噴き出る。新たに配属された鎮守府の門の前だが、再び冷房の効いた場所までたどり着く道のりは長そうだ。
「本当に良かったのか?泊地に残っていても良かったんだぞ?」
白瀬は小さく見える鎮守府本部の距離を想像して、早くも冷房の効いた執務室が恋しくなっていたが
「ナーニ言ってるデス!浮気する気なら許しまセンヨー!」
金剛は構わず腕を組んでくるのでゆっくりと押し返す。吹雪といえば鎮守府に入ってからせわしなくあたりを見回している。
「この鎮守府にはあの那珂ちゃんがいるんです!」
「あの…?」
ご存じの通りみたいに言われても、と思いながらも茹った頭でぼんやりと思いだそうとする。
「艦隊のアイドルですよ!艦娘は軍の機密なので活動も限定されているんですが、所属鎮守府内では限定グッズが手に入るって噂なんです!」
吹雪が珍しく熱っぽく語るが、その熱気に当てられたせいか、なんかそんなのもいたな…程度しか感想が湧いてこない。
「ひとりだけ仲間外れにされるのは寂しいですから。微力ながらお手伝いさせていただきます」
鳳翔が3歩後ろを歩きながら微笑む。いつもテンションの高い金剛と妙なテンションの吹雪がいる今、鳳翔がいてくれることには素直に感謝した。
「たくさんの方がいる鎮守府は、にぎやかで楽しいですよ」
「そうだな」
配属された鎮守府は数ある鎮守府の中でも大規模なものだ。当然今までの艦隊運用とは異なってくる。不安を感じながらも、ようやくついた本部の扉を開けた。
扉を開ける音を聞いて背の高い二人が振り向いた。
「あら、もう来たのね。もう少し遅い時間と聞いていたから」
「本当は私たちが出迎えなくてはいけなかったのだが、すまない」
「いや、こんな炎天下で待たれていたらこっちが申し訳なかった。本日からこの鎮守府に着任する白瀬だ。よろしく」
差し出した手を長門はがっちりとつかむ。
「私は長門、こちらは陸奥だ。この鎮守府の艦娘を代表して歓迎する」
「ありがとう。なにぶん新人なもので、よろしく頼むよ」
「経歴はうかがっている。なに、この鎮守府は艦娘が多い。焦らず慣れればいい。この長門が力になろう」
今までの艦娘に比べて随分と頼もしいので少し気後れしてしまう。もっとも、白瀬のあった戦艦など、新人かいまだ長門の手を握っている白瀬を見て不満顔の金剛しかいないのだが。
「では、さっそく案内しよう。まずは港がいいか」
「…いや、少し休ませてくれ」
ひとりだけ気合を入れる長門にウインクしながら陸奥は部屋を出ていく。
「長門、やる気は分かるけどほどほどにね。ボロが出るわよ」
「おーい、吹雪―!」
顔合わせのために駆逐艦寮へ歩き出してしばらくしたとき、聞きなれた声が聞こえたので振り返る。そこには予想通りの姿があり、手を振ってくれていた。
「深雪ちゃん!ここの鎮守府だったんだ!」
「おう!初雪もいるぜ。ここの鎮守府に吹雪がいなかったからもしかしてと思ってたんだ」
基本的に艦娘同士はそれぞれの所属や移籍を知らされない。しかし噂レベルでは話題にあがる上に、同じ艦を一つの鎮守府に所属させない原則によりある程度は推察可能だ。
「吹雪型なら白雪と磯波、浦波もいるからな。案内してやるよ」
深雪に腕を引かれながら友人に再開した喜びと頼もしさを感じていると後ろから頬っぺたを触られた、というよりつかまれた。
「これが噂の新入りかー。ねーねー、夜戦好き?」
「あ、川内さん。こんにちはー」
戸惑う吹雪をよそに深雪は普通に挨拶をしていることがさらに吹雪を困惑させる。その間も川内は吹雪の頬をつねり続ける。
「新入りも夜戦が好きだと嬉しいなー。ねえ、どう?」
「ちょっと、姉さん!」
後ろから影が現れて川内を引っ張る。
「おっ神通、ちょうど新入りが夜戦好きか聞いてたところなんだけどさー」
神通は話を聞かずに川内の腕をつかむ。ようやく解放された吹雪は頬をさする。
「えっと、夜戦とほっぺつねるのは何か関係が…?」
「いやー、ぷにぷにしてたからつい、って痛いいたい!」
川内は腕を背中に回されてひねり上げられる。涙目になる川内を無視して神通がにこやかに微笑む。
「姉が迷惑をおかけしました。今姉さんは夜戦明けでテンション上がっているので、また改めてご挨拶させていただきます」
「さようならー。じゃあ行こうぜ、吹雪」
神通に連行されていく川内に手を振った深雪は再び吹雪を引っ張って寮に向かう・
「…なんか強くなったね、深雪ちゃん」