「おはようございます!」
吹雪が元気よく執務室に入ってきた。先にいた金剛と鳳翔と長門が吹雪を見る。
「元気だな。よく眠れたか?」
「みんなと話してたら夜更かししちゃいました」
思い出したかのようにあくびした吹雪に長門は近づく。
「確か深雪と初雪とは見知った仲だったか。積もる話もあっただろう」
「はい。あの、それでこれから歓迎会をしてもらえるみたいで…」
来てすぐに出ていくことに申し訳なさがあるのか、少し上目遣いで白瀬の方を見る。それを遮るように長門が吹雪の頭をなでる。
「なに、雑務なら私に任せておけ。駆逐艦は数が多いからな。早く馴染むのも仕事だ」
「ありがとうございます!」
吹雪は勢いよく頭を下げて出ていった。長門は吹雪が廊下を曲がるまで見送ってから白瀬の方を向いた。
「しかしあれだな、吹雪はその、なんだ、かわいらしいな」
「Yes ! ブッキーはキュートデース!」
金剛は全面的に同意したが、頬を赤らめる長門をみて白瀬と鳳翔は顔を見合わせる。
「長門には近づかないように言うべきか?」
「いえ、さすがにそこまででは…」
「なっ、私はただ一般論を言っただけだ」
必死に否定する長門の後ろでドアが勢いよく開いた。
「お姉さまー!お姉さまのためにカレーを作ったので食べてください!」
長門を突き飛ばして入ってきた比叡に金剛の腕が引っ張られる。その反対側の腕を榛名が引く。
「違います!お姉さまは私とクレーンを見に行くんです!ね、霧島?」
「榛名の趣味に付き合わせるのもどうかと思いますが、比叡お姉さまのカレーよりは…」
「キリシマー!助けてくだサーイ!ちぎれちゃいマース!」
懇願むなしく金剛は外に運ばれていく。
「テートクー!」
助けを求める嘆きも扉が閉まることで遮られる。どうであれ戦艦の綱引きに白瀬が介入することなどできないのだが。
「ふむ、昨日の今日であいつらからあそこまで慕われるとは。なに、騒がしいのはいつものことだ。じきに慣れるさ」
長門が埃を払いながら立ち上がる。特に気にしてなさそうなところに日ごろの苦労が見える。
「あの、私もこのあとに間宮さんとお会いする予定が…」
あっさりいなくなった2人のことを考えてか、鳳翔が遠慮がちに切り出してきた。長門の言う通り、今は交流を深めることが優先だ。咎めることはない。
「うむ、あとはこの長門に任せておけ」
長門に後押しされて鳳翔も執務室をあとにする。
「皆うまくやっているようで何よりだな。今日一日よろしく頼むよ、提督」
静かになった執務室で白瀬は大量の書類を眺めていた。
「しばらくは演習も作戦行動も控えないとな…」
「ほう、なぜだ?」
ほとんど独り言だが長門はしっかりと拾う。いざ長門と2人だけになると何となく気まずいが、昨日さんざん連れまわされた分今日は書類確認が主になる。
「艦隊規模と比べて資材が少なすぎる。特に修復材が。これで大規模作戦は遂行できないだろう?」
「確かにな。提督は初任と聞いているが、良くわかったな」
眉を上げた長門は少し間を開けてから、試したわけではないのだが、と慌てて付け足す。特に気にすることなく長門に尋ねる。
「この状態で運営していたとは思えないんだが、何かあったのか?」
「…いや、前回の大規模作戦での負担が大きくてな。なに、提督の気にすることではない」
あからさまにごまかしが入っていたが、過去がどうであれ今後の指針に関係ないのは事実だ。ごまかしてまで言いたくないことを聞き出すほどの友好も信頼もまだなかった。
「とにかく、今後は遠征での資源確保を優先だ」
「もっともな判断だが、素直に聞いてくれる連中ばかりではないぞ?」
白瀬が長門の言を理解するのはそう遠い話ではなかった。