Metal Gear Solid/ Ark of ■■■■ 作:daaaper
すでにお読みの方は7以降からお読みください。
初めての方はこのまままお気になさらず本編をお楽しみくださいm(__)m
2月10日 AM09:00
ロドス 療養庭園内
ロドスによる1週間の経過観察が終わり、スネークは朝から観察結果をケルシーから説明されていた。
「血液中源石濃度はわずかに上昇したが、それ以外に大きな変化は見られなかった……彼女にも定期報告をしてもらっていたが、身体的な問題はなさそうだな」
「まあ俺も自覚症状はゼロだな」
ただ葉巻が欲しいという禁断症状は出始めているが、それをいま主張したところでなんの意味も為さないだろう。何より源石汚染やこの世界とは直接関係のないことだ。
・・・葉巻が必要な事態になったのはこの世界に来たせいではあるが。
「なら、俺は無罪放免か?」
「元から罪に問われてないが」
「1週間も拘束されていたからな、開放には変わるまい」
「随分と満喫していたように私は認識しているが?」
「まあな。随分と自由に過ごさせてくれたから、とても助かった」
少なくとも、スネークの人生の中で一番快適な拘束だった。入院でもここまで融通が効いたことはない。むしろ自分の知らない環境下で生存するという意味でも、ここまで快適かつ自分の希望通りにことが進んだこともなかった。
「それで、君はこれからどうするんだ。今からここで過ごす気はないと聞いているが」
「俺は……この世界について知らないからな。情報を集めるのにはここは持って来いなのは確かだが、俺の性に合わない」
少なくともここに留まり情報を集めるのは、情報の正確性に欠ける。一つの組織に属することにスネークは抵抗はない、だが何も知らないまま一つの側面からだけ情報を得ることは危険だと知っている。ただ一面からしか捉えられなくなれば重要な何かを見逃す。
生き残り、MSFに戻ることがスネークの最優先目標である以上、決まった組織に属すことで帰る手がかりが得られるならばそれに越したことはない。だが、このロドスという組織が自分に何かをもたらしてくれるかわからない以上、属する理由はない。
何より居候の身はスネークの性分に合わないのだ。まだ放浪する方が気楽とも言える。
「そうか、それなら私たちも止めはしない」
「私は採用担当とかじゃないけど、気になったらいつでもきてね〜、歓迎するわよ〜」
・・・といったスネークの希望は、ラナとの会話ですでに把握済みであるケルシーからすれば、何もいうことはない。自然なことだった。ラナとしても、ここに留まってくれないのは少し残念ではあったが、本人の希望を曲げることはしない、というのが様々な事情や背景を抱えた人々を受け入れているロドスの基本姿勢であること、何より今生の別れにはならないという香りがしている。きっとまた会えるだろう。
「ああ、その時はまたここに顔を出すとしよう」
「……そろそろ彼女たちの迎えが来るだろう」
「それならさっきBSWのみんなには連絡したわ、多分もうすぐ来るはずよ」
「なら私の仕事はこれまでだな、私の同僚が迷惑をかけるところだったが……何ごとも起きなくて何よりだ」
「もしかしなくてもワルファリンさん?」
「……危うく人体実験が始まるところだった」
全くもって、毎回なんで問題を積極的に起こしにいくのか、と何やらブツブツとケルシーという女が言い出す。なるほど、どうやらこの世界にも研究開発班のような研究者がいるらしい、おそらく常習犯なのだろう。その手の研究者は、自分の好奇心や何かに固執しているため防ぎようがないのだ。同時に腕も確かだが、大抵人として問題がある、コミュニケーションをいかに取るかが重要だ。
「ところでスネーク?」
「ん、どうした」
「あなた、龍門に行くって言ってはいたけど、具体的にどうするの?いくら彼女たちが送ってくれるとは言っても、龍門で何かしてくれるわけではないでしょう?」
「あーそれなんだがな、少し予定を変更することにした」
「予定を変更?」
「ああ」
ラナからすればスネークの今後について興味があるようだが、ケルシーはさほど興味がないらしい。自分の端末を操作し、何か作業をしているようだ。それでも一応、会話には注意しているようで少しだけ頭部の耳がスネークの方を指向している。
「予定を変えるって、龍門以外のところでも行くつもりなの?」
「いや、そういうわけではなくてだな——」
「そこから先は私たちが説明するわっ!」
スネークが事情を説明しようとしたところ、右手にBSWと書かれた封筒一式を抱え、療養庭園にバーンッと言わんばかりにフランカが現れた。その後ろにはバニラと呼ばれていた新人も見える、先輩の姿に何も言えず苦笑しているが。
「あらフランカ、それに彼女が新人さんのバニラちゃん?」
「は、はい!初めまして!BSWから訓練生として来たバニラです!!」
「元気な子ね〜、これからよろしくね」
「はい!」
「……それで、彼に関して説明があると聞いたが?」
元気のいい挨拶を初手にかましたバニラだが、残念ながらケルシーにはあまり届かなかったらしい。正しくは、とりあえず要件を片付けて欲しい、という感じでもあったが。そんな意思を感じ取ったのか、バニラは自分の振る舞いを思い出してあわあわし、そんな彼女をフランカが頭を撫でながらも、ケルシーに応えた。
「そうね、まあ手短に」
そう言うと、右手に持つBSWの書類一式を取り出し、そのうちの一枚をケルシーに差し出した。
「私たち、ブラックスチール・ワールドワイドは、彼と雇用契約を結ぶことになりました」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
その書類を見た瞬間、わずかにケルシーの口が開く
「・・・BSWは身元不明の彼を雇用すると?」
「ええ、といっても短期雇用契約、インストラクターとしてだけどね」
ほんの一瞬、書面の内容を読み返すロドスの医療部門のリーダーは、フランカに雇用に関する疑問を投げかける。
「彼は身元不明の人間だ、それに傭兵としてならまだしも、インストラクターとして彼を君の会社は受け入れるのか」
「ええ、すでに本部には了承を得たわ」
「付け加えると、フランカさんが頑張って説得して、条件付きということでインストラクターの短期雇用という形で落ち着きました」
そうバニラが補足説明をし、続けてフランカがBSW本社の承認書を差し出す。どうやら本当にスネークを受け入れるようだ。
「まあそんなわけで、彼はしばらくBSWのインストラクターとして、私たちBSWロドスアイランド派遣部隊の一員になるわ。部屋は私たちに割り当てられた一室が残ってるからそこを使うけど、問題ないわよね?」
「ああ、BSWに割り当てた部屋が余ってるのなら問題はないが」
「ま、問題ないことさえ確認できればこっちはOKね。あとは——」
「俺の返答はOKだ、むしろこの契約内容で本当にいいのか?怪我の責任は俺が持つのはわかるが、装備や消耗品に関してはそちらもち、さらには衣食住の保証と給与に関しても交渉可能、随分と雇うにしては羽振りが良すぎるだろう?」
雇用内容を一読した時点でスネークの答えは決まっていた。別に書類には怪しい箇所はなく、責任の所在や線引きははっきりと書かれていた。
しかしスネークが得をするというよりも、むしろ向こうが損をしそうなほどの内容だ。契約満了の基準もはっきりしていたが、それもあまり難しいことは求められていない。
「……条件を上層部に飲ませるのは相当の材料がいるはずだ、それも1週間で承認書まで。君は一体どんな手を使ったんだ?」
「あら、先生はそれは気になる?」
ケルシーが尋ねるが、あくまでなんでもないと言わんばかりにフランカは微笑んで返す。わざわざ自分から伝える気はないらしい。
「いやそれは俺も気になるんだが、面倒ごとは勘弁だぞ」
「……ま、そんな大したことじゃないわよ?契約満了の基準を私が提案したらそうなっただけよ」
「は?アレだけのことでか?」
スネークからすれば不思議でしかない。一介のPMCが、そこまで求めることなのだろうか。相手が御曹司やVIP、とも思えない。それほどまでに射撃は重要なスキルなのだろうか。
「その契約の基準って私たちが知ってもいいのかしら?」
「契約者本人が許可するなら問題ないと思うわよ?べーつに機密文書でもないしね」
「見るか?」
ラナが興味本位で尋ねると軽く許可が出た。
じゃあ遠慮なく見せて、というとスネークは少し待てといって、療養庭園の白い机に昨日から置いておいたバックパックをガサゴソと漁ると、1つの書類の束を手渡した。
書類の頭には【短期雇用契約内容】と書かれ、その下には甲乙の文章が並ぶ。パラパラといくつかめくると、最後のページに契約満了の条件が書かれていた。
「えーと、これかしら・・・『乙のインストラクターとしての任期満了は3ヶ月、あるいは甲による丙の査定評価がA相当になるものとする』……えーと丙っていうのは……どこにあるかしr——ジェシカちゃん!?」
「どうした急に」
「あ、あなたこんな契約に同意したの!?」
「1人のシューターを一人前にしろという話だろ。戦場の最前線ならともかく、ここには設備も資材もある、何より費用は向こうが持つらしいしな、好条件だ」
スネークが読んだ限り、A相当は今の査定評価の一段階上らしい、
つまり伸び悩んでいる相手を一人前に仕立て上げろという契約だ。ただ戦術や戦略を教えるならば3ヶ月では足りないが、銃を扱うシューターであれば十分だ。0からではないなら尚更、さらにサポートも手厚い、これほど簡単な依頼はない。
「ジェ、ジェシカちゃんってあのジェシカちゃんよね?」
「そうよ、あのジェシカよ」
「すごく頑張ってるって聞いてるけど、この条件は——」
「査定基準までは知らんが、要するに頭打ちになっているのを改善して欲しいんだろ、ハルバードや剣の扱いは知らんが銃なら問題ない。俺でも教えられるからな」
「……君はアーツを扱えるのか?」
「それはやってみないとわからんが、十分扱えるだろ」
「根拠は?」
「直感だ、何より銃はよく知っている、間違った扱いをしなければ自然と銃は応えてくれる、そういうもんだ」
あらゆる兵器を扱って来たスネークだが、その経験で分かったのは大切に扱えば銃も応えてくれることだ。この世界の銃は自分の知る銃と異なる点もあるだろうが、それでも銃には変わりない。きっと応えてくれるだろう。
「まあその点はこっちでも検討したわ、とりあえずあなた用の銃は後日、しばらくは予備のハンドガンを使ってもらうわ。アーツコントロールの練習も兼ねてね」
「了解した」
「それじゃあ行きましょうか」
「早速仕事か?」
「ええ、リスカムが練習相手になってるわ、まずは情報収集からでしょう?」
「そうだな」
「じゃ、そういうことで、今後ともわが社をご贔屓に〜」
そういうとフランカは颯爽と歩き出す。どうやら本当に今日から仕事開始らしい。
「え、ちょ、フランカさん!?早すぎませんか!?え、あ、はい!失礼します!!」
そしてその後ろを追いかけるため、そそくさとバニラが丁寧にケルシー先生とラナに頭を下げ、走っていく。
「世話になった、また暇を見つけたら訪ねにくる」
「な、なんだか突然のことで私もびっくりだけど・・・そうね、頑張ってらっしゃい。いつでもここで歓迎するわ」
「そうか、じゃあまたな」
そういってスネークはバックパックを手に持ち、走っていったバニラのあとを追っていった。
タッタッタと慌ただしくかけていく足音が2つ、それとは別に静かに廊下を駆けていく男の後ろ姿を見送ると、療養庭園にはラナとケルシーの2人が残された。
「……あっという間の出来事だったな」
「そうですね……嵐みたいに過ぎ去って」
「……BSWがそこまでするほどの魅力が彼にはあったのか?」
「わかりません、私は戦闘はからっきしなので」
「それもそうか。だが1週間よく働いてくれた、休暇を延長してもいいぞ」
「いいえ、明日から予定通り再開します、何より1人だとつまらないですから」
「そうか、君がそういうならそれでいい。今日中に彼の報告書をまとめて私に送っておいてくれ。あとは明日の準備もな」
「わかりました、先生もお気遣いありがとうございます」
そういってラナは優しく、ペコりと頭を下げる。
「……けど、彼は本当にどこから来たんでしょうか」
「さあな、検討もつかない、彼が嘘をついている可能性もあるが——」
「少なくとも彼は正気でした、何かしらの問題が生じているとはとても。何よりここにいる間、穏やかでした。感情の起伏が激しいわけでも、感情がないわけでもなく、普通の人でした」
「ここ1週間の報告でもそう書いていたな、それと知識量が豊富だと」
「傭兵は情報が命取りだから、といってましたけど……それにしては植物の種類や紅茶の作法、それに鉱石病に関する論文や歴史・地理、伝承やアーツコントロールの技術書の読破、どれも傭兵っぽくなくて……」
「まるでスパイだな」
「けど、スパイって感じでもないんですよね」
だってスパイが絵本まで読みます?
そうラナがおかしい様に笑いながら、ケルシー先生へ言葉を投げかける。
一方のケルシーは、表情をあまり変えず、少し考えた様な素振りをラナへと示し、何事もなかった様に指示を出した。
「とりあえず、私は研究室に戻る、君も自分の作業に戻るといい」
「そうですね、また彼もここに来てくれそうですしね」
「ああ、じゃあまた」
「はい、先生もいつでもいらしてください」
残された2人も、片方は明日から始まる仕事の準備に取り掛かり、片方は研究室へと戻っていった。こうして変則的にではあるが、ロドスには新しい仲間が加わることになった。きっと彼もここをなんだかんだと気にいる変人になるのだろう。
「……そういえば、ドクター君は彼のこと知ってるのかしら?」
ふと、ラナが残った疑問を口ずさむ。
けれどそれは些細なこと、しばらくロドスに滞在すれば自然と彼もドクターと会うことになるだろう。そう思い、明日の準備とこの1週間の彼の経過観察の報告書をラナは作り始めることにした。
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