Metal Gear Solid/ Ark of ■■■■ 作:daaaper
ちょっと長めです(1万4千くらい)
お時間がある時にどうぞ〜
「人は高いストレス下に置かれると身体に様々な変化が生じる。何が起きるのかBSWでは習うか?」
ジェシカの最初の訓練が終了し、スネークによる評価が始まった。
キルハウス内を回りながら評価をする、とのことでジェシカの他にもバニラやフランカ、そしてリスカムもキルハウスの中を一緒に回ることにした。ジェシカがどう評価されるのも気になるが、自分たちを奇襲し、制圧したこの男がどのような指導をするのか、3人それぞれがとても気になっているのだ。
「え、えーと……戦場での強いストレスはその場から逃げ出したくなったり、何もできなくなるといった反応が見られたり……あとはフラッシュバックを引き起こすこともある、とは習いました」
「ふむ……まあそうだな。戦場における心理的な負荷は身体的に様々な反応を引き起こす。遁走や思考停止は実際よくあるわけだしな。なら、身体機能に関しては何が起きるか知っているか?」
「身体機能、えーと、えーと・・・」
「あ、確かアドレナリンが分泌されますよね?」
ジェシカはメンタル的な影響についてよく理解している様だが、身体的な変化についてはバニラが先に思い出したようだ。後ろからついてくる先輩2人は『あーそういえばそんな事も習ったかなぁ』といった表情をしている。
「そうだ。別名ストレスホルモン、エピネフリンともいうが、それらは身体を戦闘に向いたコンディションにしてくれる。大量の酸素を取り込めるようになり、心臓はより早く動き、筋肉は効率良く働きだす」
「Fight or Flight 反応ですね」
「よく知ってるな、BSWで習ったか」
「はい、座学で習いました」
「なら話は早い。適度なストレスは自分の能力を引き上げてくれる、同時に妨げる要素にもなる」
そういうとスネークは最初の通路を直進してすぐ左の地面を指さす。
「まず、どうしても視野が狭くなる。ジェシカの場合はストレスが掛かればかかるほど警戒心が増すタイプの様だが、お前ら3人は心当たりがあるな?」
そうスネークに指摘されると、心当たりがある3人は表情をわずかに歪ませたりピクッと身体を震わせる。
……改めて見ると動物の様な反応をするな、と思いはしたが、自分も蛇だったことに気づき、妙な気分にスネークはなった。確か日本では"縁"というのだったろうか、カズがそんなことを言っていた気がする。
「そう、ですね、必ず足元は確認しないといけないですよね……」
「? どうしてバニラちゃんは残念がっているんです?」
「あ、いえ、あっー・・・話しても良いんです?」
「もう少ししてから話しましょ」
「りょ、了解です」
「?? 何かあるんです?」
「いずれわかる、とりあえず話を続けるぞ」
スネークがそういうと最初の部屋にたどり着く。
「ここで俺とバニラが追い始めた、声は聞こえたな?」
「は、はい……素直に言って怖かったです」
「まあそうしないと訓練にならんからな。効果があって何よりだ」
「あの、私が言うのもなんですけど・・・隣にいても少し怖かったです、こう、いきなりマガジンを壁に叩きつけるとは思わなかったので」
バニラが拳を作り、キルハウスの壁に向かって叩くような動作をする。
どうやらガンガンガンという甲高い音は、彼がマガジンで壁を叩いていた音らしい。
「驚かせて悪かったな、だがジェシカには必要なことだったんでな」
「わ、私にですか……?」
なぜ壁を叩くことが私に必要なのだろうか?
当然の疑問がジェシカに湧いたが、続けてスネークが言葉を紡ぐ。
「お前はとても注意深い、慎重すぎると言うこともできるがな。僅かな変化や異常を察知できることは大きい武器になる」
「そ、そうでしょうか……?」
「少なからずここにいる4人の中ではお前が一番敏感だ」
「そうねぇ、ジェシカの用心深さは真似できないわ」
「うん、フランカはこう言ってるけど、ジェシカの状況把握能力はとても高いと私も思うよ」
「そ、そうなんですか!?」
「だからいつも言ってるでしょ、あなたはもう少し自信持って良いのよ」
先輩2人にそう言われ、アワアワとするジェシカ。褒められるのはそれほど慣れていないらしい、予想通りといえば予想通りの反応だが。
「だが武器も扱い方を間違えれば凶器になる。お前さんのその高い警戒能力は、そのまま自分に恐怖をもたらすこともできる」
「恐怖……」
「特にお前は耳が敏感だ。午前の訓練中でも、イヤーマフを装着した上で音に気を使っていたな。あれは誰にでも真似できるものじゃない」
「え、え、そうで……すか?」
「訓練を真剣に取り組む、と口で言うのは簡単だが実戦とは違うことを頭は認識しているからな。妥協しても問題ないと心では思うもんなんだが、中には実戦と同じポテンシャルを発揮できるやつもいる、お前さんはその典型だな。一種のスキルとも言える」
「スキルですか……」
「まあ実感がないだろうがな、それはこれからわかる」
最初の部屋をでて、すぐ目の前の地雷を避け、左右に分かれる通路に出た。左には2つ目の部屋がある。もっともドアはバニラによって破壊されており、木片や部屋に設置された的がここからでも見える。
スネークが右へ曲がり、BSWの面々も狭い通路の中、彼の後ろについて行く。右には2体分の的が手前と奥に配置され、やがて突き当たりにぶつかる。スネークは手前側の的で止まり、4人の方へ振り返る。
「さて、ここからが本番だ。敵が後ろから迫っていることがわかり、さらには音で威圧されている中で、精度にどのくらいお前に影響を与えているのか見てみてくれ」
スネークはそう言いながら的の裏にまわり指差す。リスカムに背中を押され、恐る恐ると言った様子でジェシカが的の裏に回る。
的の裏にはいくつかの穴が空いていたが、彼が指を差している部分には赤丸が付いていない。どうやらそこが今の訓練で作った弾痕のようだ。それらの弾痕は・・・見事に中心線に沿って、頭部と胸部を貫いていた。
「・・・あれ?当たってます?」
「驚いてどうする……狙い撃ったなら当たっているに決まっているだろ」
「あ、いえ、それはそうなんですけど……てっきり外れているものかと」
「いいや、敵を確実に仕留めている。奥のも見てみろ、同じように頭部と胸部にそれぞれ命中している」
そう言われジェシカは少し駆け足でさらに奥の的の裏を確認しに行った。それを聞いて、他の3人も手前の的の裏に集まった。
「うん、キチンと急所に当たってる。これなら反撃されることはほとんどないかな」
「そうね〜、これだけ見ると何か影響がある様にはみえないわね」
「こっちも当たってましたー!少しズレてはいましたがバイタルは外してないように思えますー!」
「よし戻ってこい」
奥からジェシカが大声で返事をしてまた少し駆けて戻ってくる。どうやらフランカが言う通り、大した影響はないように見える。
「ここまでは問題ないな。言い換えれば、ただ敵の声が聞こえたくらいではお前の射撃精度には影響がない。さて次だ、ここの発砲で俺らは走り始めたが、今度はどうだ」
そう言うとスネークは通路左にある2つ目の部屋に向かう。途中でもう一体の的があったが、それも確実にバイタルを貫いていた。破壊されたドアを跨ぐと正面に1体、ドアからは見えない部屋の左隅に2体の的が置かれている。
「正面は問題なさそうだな、だが……一番奥の敵、肩に当たっているな」
そう言われジェシカは部屋の左隅一番奥の的に向かって走り出す。
リスカムとバニラもジェシカに続き、フランカは歩きながら正面の的の裏を覗いてから左隅へと移動する。
「こっちはさっきと同じ感じね。そっちはどうかしらー?」
「1発は胴体ですけど、もう1発は右肩に当たってます……」
「え、えーと、これはダメなんですか?」
バニラが先輩たちに質問する。バニラからすれば、2発も銃弾を喰らえばタダじゃ済まないことを知っている。ジェシカがここまでガッカリする必要はないんじゃ、と思ったがリスカムが『いや』と補足する。
「ダメとは言い切れない、けどベストでは無いかな。敵が何かしら装備していたら生き残っている可能性もあるし、武器によっては反撃されることも十分にある」
「それに今は脱出だもの、足が生きてるなら追跡もされる。増援を呼ばれる可能性もあるわね」
「そ、そう言うことですか……」
「何よりこの訓練はストレス下での影響だ。今まで頭部と胸部に当たっていたものが、右肩と腹部に命中している。僅かに力が入って銃口が下に、そして左側に傾いたな」
部屋の入り口からスネークがそう指摘する。改めて的の裏を全員で確認してみると、確かにもう1発は胴体に命中しているが胸部ではなく腹部だ。銃口が下がっていたという指摘は間違いではないだろう。
「入り口からその隅までは約5m、この距離でもそれだけ射撃精度に影響が出る。それは訓練が足りてないだとか、スキル不足といった理由じゃない。ある程度のストレスがかかると生じる身体の反応だ」
「身体が固くなる、ということでしょうか……?」
「そう言うことだ。どうしても身体に力が入るからな、自然と銃口は下に向く、それにお前は左利きだろう、なら自然と銃口は左にも向きやすくなる」
「な、なるほど……」
「最初の1ヶ月はひたすら自分の身体の癖や特徴を認識することからだ。その上でその癖をどの様に活用するかを考えていく」
「活用?矯正じゃなくて?」
フランカがスネークの活用、と言う言葉に疑問を口にする。身体が固くなるのは明らかに弱点だ。であれば、固くならないように訓練をするのが自然のはずだ。
「活用だ。もちろんあらゆる状況下で身体をリラックスさせる訓練も重要だが、それは方法の一つに過ぎない。目的は緊張の利用だ」
「どういうこと?」
「……よし、フランカ、そこにいてくれ」
スネークは部屋の片隅、入ってきたところとは対角線の、狙い撃つ的も次の部屋に行くドアもない開けたスペースを指差す。
「そこ?まあ良いけど」
「お前たちはそこら辺からフランカを見ておけ」
フランカはスタッスタッと歩き、指示された通りに開けたスペースに立つ。
大股で3歩ほど歩けばスネークに届く程度の距離はあるが、遠いというほどでもない。
その中間くらいでリスカム・ジェシカ・バニラの3人は位置しているため、ちょうど3人を直角にした三角形のような配置になった。続けてスネークが3人に向けてゆったりと語り出す。
「まあとりあえず、フランカの方を見ててくれ」
「は、はい」
「んで、まあフランカもさっき言っていたが、矯正はしない、利用だ」
瞬間、フランカは身を屈め
右足を出し左にある柄に手を伸ばす
そこにスネークがいつの間にか近づき彼女の頭に手を乗せる
「良い反応だ、よくやるな」
「ッあなたってば……!」
「あの、フランカ先輩はなぜスネークさんに突然近づいたのです?」
「どうしたのフランカ?」
「あわ、あわわわ」
バニラとリスカムは、どうして急にフランカがスネークに近づいたのかわからず、思ったまま言葉にする。ジェシカは2人が突然動いたことに驚いたのか、動揺している。
「そうだな、まずはタネを明かす……前に、ジェシカ」
「あ、は、はぁいい!!」
「その様子だと俺がやったことに気づいたみたいだな」
「え、ええーと、えーと、ええ……」
「安心しろ、単なる"遊び"だ、本気じゃない。そうだろフランカ?」
「・・・やられた方はたまったもんじゃないんですけど」
そういってフランカはスタスタとBSWの面々がいる部屋の隅に移動する。
若干機嫌が悪い様だが、額に汗が滲んでいることに気づいたリスカムは、スネークが何かしらしたのだろうかと予想した。
「悪かったな、後で飯でも奢ろう」
「ここ(ロドス)は社員食堂なんでお金かからないんですけど〜!!」
「ならいつか飯でも作るなり奢るなりしてやろう」
「……はあ、本当にとんでもないわねあなた」
「今更だな」
「ハイハイ、そうでしたそうでした〜」
「……でだ、ジェシカ、俺が何をフランカにしたと気づいた?」
そこで全員の視線がジェシカの方に向く。
向けられた当の本人はすこしだけオロオロとしたものの、スネークの方を見つめると、彼が力強くうなづいたため、自分なりに気づいたことを言葉にした。
「えーと、そのっ、あくまで私が気づいたというか感じたことなんですけど……フランカさんに対してものすごく怖い雰囲気を一瞬だけ纏ってたというか送ってたというか……」
「え?怖い雰囲気を、ですか?」
「バニラちゃんは感じませんでしたか……?」
「え、えーと……リスカム先輩は何か感じました?」
「ううん、いまフランカが汗をかいてるから、何かしらスネークがしたんだろうなとは思ったけど……特に何も感じなかったかな」
「むしろバレるとは俺は思わなかったがな。まあ少し殺気を彼女に送っただけだ」
「本当に冗談が過ぎると思うんだけど?」
「だが見本のような反応をしてくれたからな、それにだれも怪我はしていない」
そう言って笑いながらいうスネークに、完全に機嫌を悪くしたフランカは、リスカムの後ろに隠れてしまった。完全に拗ねたようだ。良いのか先輩。
「まあ、今のフランカの反応は反射的なものだ。殺気を感じたために、咄嗟に反撃に出ようとした、その反応が俺に近づき、レイピアを抜こうとしたわけだ」
そう言ってスネークは先ほどまでフランカがいた場所で、彼女がスネークに近づくまでの動作を真似する。
「ある程度再現するが、彼女は俺に近づく瞬間、膝を曲げて身を屈め、僅かに左足を下げてから右足を出してきた、こんな感じでな」
スネークの動きを踏まえて思い出してみると、確かにフランカが身を屈んだ時、僅かに左足を後ろに動かしてから右足が前に出ていた。
「確かにそうでしたけど……それになにか意味があるんでしょうか?」
「バニラ、そこからこっちに歩いてきてくれるか」
「え!?」
「あ、いや、俺に近づくのが嫌ならあっちの的に向かって歩いてみてくれ」
「あ、いえ、えーと……じゃあ失礼して」
そう言ってバニラは、申し訳なさを全身に纏いながら・・・部屋の入り口正面にあった的の方へと歩いて行った。そんな彼女に笑いながらも、そりゃあそうだろうな、と言いながらスネークは言葉を続けた。
「そしたらまた元の場所に戻ってくれ」
「戻るだけで良いんですか?」
「ああ」
そう言われて、そそくさとバニラはBSWの面々がいる場所に戻っていく、その間にスネークが簡単に捕捉する。
「バニラ、君は歩き始めた瞬間に、足を後ろに下げたか?」
「いや、普通に前に出しましたけど……」
「そうだ、普通に前に足を出す。後ろにわざわざ足を動かすのは本来不自然なわけだ」
「え?・・・あ」
「戦闘時は咄嗟の判断や動きが求められる場合もあるが、その瞬間はどれだけ訓練をしていても無駄に力は入る。フランカの場合はその力みは僅かだったがな、それでも何かしら無駄な動きは生じるものだ」
そう言ってスネークは床に落ちていた空マガジンを拾い、言葉を続ける。
「だがそれは戦闘によるストレスや緊張がもたらす身体の反応そのものだ。ある程度コントロールすることはできるがそれにも限りがある。だからこそ、克服よりも緊張した上で何ができるか、どうしたらもっと良くなるかを学んだほうが効果的だ」
そう言ってジェシカに近づき、空のマガジンを手渡す。
「このマガジンをドアに噛ませるのもその一つだ。身体だけでなく、その場にあるものを使うのも有効だ。知らなければできないが、知っていれば何かできることもある。それに、うまくいけば過度な緊張を和らげる場合もある」
スネークは次の部屋に向かうのか、歩き出し、2つ目の部屋を出ていく。それに連れられる形で4人もついていくと、ドアを開けたすぐの的を指差していた。
「ここはさっきの的と同じくらいの距離、同じように肩と腹部に命中している」
「ですね……」
「そう落ち込むな、次をみてみろ」
ジグザグした道を進み、最後の部屋が見えてきた。その途中には1つの的がある、距離的に約5m、やはり同じくらい離れている。
「あれはキチンと命中しているぞ」
「・・・え?」
そう言われ、裏側に回ってみてみると、確かに弾痕は中心線に沿って頭部と胸部に命中していた。
「ここら辺はバニラがドアを破壊している最中だったろう。仕掛けが確実に機能していることに気づいて無意識に身体が安心したんだろうな。まあ心中は相変わらず穏やかじゃないだろうがな」
そう言って最後の部屋に入る。入り口は部屋の真ん中にあり、正面に2体、右側に1体の的がある。
「ここの的は見事にバイタルに当ててるな、よく訓練されてる証拠だ」
「本当です、最初と同じように命中してます!」
「敵に迫られることがわかると焦ったが、そうじゃないとわかれば余裕を取り戻したんだろうな」
それだけ言うとスネークはジェシカの方を再び向き直り、顔を見る。
「ところでジェシカ」
「は、はい、なんでしょう」
「ここの部屋は今までの部屋で一番早くクリアリングしたな?」
「はい、すぐ近くまでお二人が来ていましたから」
「だろうな、ならあれが見えるか?」
「あれ?・・・あ」
スネークが部屋の後ろ、自分たちが入ってきたドアの方を指差す。言われたまま後ろを振り返りドアの方をみると・・・ドアの後ろに何かが見える。
「ドアの後ろのクリアリングを忘れたな」
そこでジェシカは反芻する。
このキルハウスの中で、1つ目、2つ目の部屋は確かにドアの裏を確認した。だが三つ目の部屋は……確認したような、していないような感覚だ。だが、後方を確認したような覚えはない、とにかく逃げ切るんだ、ということしか考えていなかった。
「極度のストレス下では今まで出来ていたことができなくなる、それも初歩的なことですらだ。出来なくなることをミスとも言えるが、俺は身体のどうしようもない反応だと捉えている」
「どうしようもない、ですか」
「そう落ち込むな。出来ないから落ちこぼれだとか、無理だと言うことを言いたいわけじゃない。どうしても通常では考えられないことが起きるというだけの話だ。ストレスがかかることによって何が出来なくなるのか、逆に何が得意になるのかは人によって様々だ」
そう言ってスネークは最後の部屋の出口に向かい、BSWの全員を見渡す。
「ここにいる他のメンバーもそれぞれだ。バニラの場合は周囲の状況把握は優れてるが、その状況で何をすればいいか判断が疎かになる。まあこれは経験不足が大きいだろうがな」
「え、あ、はい……確かに周りに何があるかを把握するようにはしていますが……どの様に動けば良いかはまだわからないので、先輩方にお任せすることが多いです、ね」
「それはこれから身につけていくものだ。フランカは瞬間的に最適な動きができるな、攻撃を仕掛け、身を引くタイミングをよく理解してる。敵の不意をつくのも得意だろう」
「・・・まあね、それが私の得意な戦い方ではあるわね」
「ただ直感的な判断に寄ってるな。戦術を立てるのもこの中では一番得意だろうが、深く考えるのが面倒になって、相棒に任せることが多いだろ」
「その通り、当たってるよ」
「ッなんでそんなことわかるのよ」
「なんだかんだで色々なやつをみてきたんでな」
リスカムにスネークが指摘したことを同意され、さらに不機嫌になるフランカだが、実際反論のしようがない。苦し紛れになぜわかるのかと反論したが、スネークからすれば見ればわかることでもあるが、その反論自体自分で認めているようなものだがな、と心の中でおもった。が、それを指摘すればどうなるか判ったものではないのでそっとしておく。
「リスカムはその点では理屈で状況把握、判断が下せるな。ただ、感情が絡むと冷静な判断ができなくなるだろう」
「……あんまり人前で指摘されたくはないけど、まあその通りかな」
「そうねー、あなた怒るとすぐ____イッタッ!?」
「フランカうるさい」
バチンッという音と同時に、フランカが跳ねる。同時に、フランカの髪がフワァと舞う。どうやら静電気を食らったようだ。リスカムによるアーツなのだろう。
「まあバランスが取れた良いバディだ、慎重な判断と柔軟な行動力を持っているな」
「今のやりとりにそんな嬉しい評価をしてくださる要素がありましたかね教官殿……」
「自分の胸に手をやればわかると思うぞ」
そう言って軽く2人のやりとりを笑ってやりながら、スネークはジェシカの方を見る。
「お前の場合は状況の変化や危険に、特に音に敏感になる。だが同時に危険が身に迫っているとわかると身体は過度に緊張し、死角への注意が疎かになる」
「……はい」
「どれだけ訓練をしても苦手なものは苦手だ。だが得意なものが苦手になることはそうそう無い」
そう言って最後の部屋を抜け、通路を右に曲がる。
最後の的も見事に敵の急所を射抜いていた。スネークの目から見ても、ジェシカに必要なのはスキルではない。彼女に必要なのはストレス下での身体操作方法、そして何より厳しい環境下での選択肢の拡充だろう、つまりは知識だ。
もちろん身体で覚える要素もあるが、それと同じくらい座学なども必要になるだろう。フランカのようなタイプであれば実践あるのみだが、ジェシカのようなタイプであれば必要な技術の意味と実際にやり方を見せていけばどんどん身につけていくだろう。
「他者を守るためにどう活かすか、さらに何が必要か考えていけばいい」
そう言ってボタンを押しキルハウスの出口が開く。
出口に置かれたプリントされた地雷を回収し、4人全員が出てくるのを待つ。
「とりあえずこんなところだな。何か意見や疑問はあるか?」
「ハイ」
ジェシカが手を挙げる。それは弱々しい普段の彼女ではなく、はっきりとした声で、まっすぐと手を挙げたシューターだった。
「私の得意なことや不得意なことはわかりました。今までは、自分が臆病なだけだと思ってましたけど……それが周りの人を守れる武器になるなら、頑張りたいです」
「まあお前さんのその過度な心配性も少し治したほうが良いだろうがな」
「うう、頑張りますぅ……!」
「まあそう気負うな、気張っていけ」
そう言いながら、スネークは胸ポケットを漁り・・・何もないことを思い出して、ため息を吐きそうになるが、なんとか堪え、言葉を続ける。
「……さて、とりあえず今日は顔合わせと今後の訓練の方向性を伝えた。俺がやりたかったことができたが、他に何かやりたいことはあるか?」
「え、もう終わりですか?」
「初日から詰め込んでも余計に疲れるだけだからな。もっとも、やりたいことがあれば付き合うぞ。どのみちロドスにしばらくいるわけだしな。だからといっても、夜間は身体を休ませる必要があるが」
「そ、そこはもちろんわかってます!そこまで無茶なことはお願いしません!!」
「まあ、可能な範囲内で付き合うがな。それで、何か要望はあるか?とりあえずジェシカ以外でも構わんが」
そういわれ、BSWの面々が悩む。
突然要望を言え、と言われて言える様なものではないのだ。それに、インストラクターである以上、変な風に思われるのも困る、と言った感情も彼女たちにはあるのだ。
「・・・スネークさんの動きをみてみたいです」
「ん、俺のか」
「あ、いや、スネークさんを疑っているわけでは無いのですが……見本を見せていただければ、嬉しいです、ね」
「まあそれもそうか。そしたら保安員にドアを直してもらったら一度俺もやろう。後ろからついてくるか?」
「はい!ぜひお願いします!」
「お前たちはどうする?」
「私はパスー、ちょっと疲れたから休むわ」
「私は見学かな、気になるし」
「わ、私も見学させてください!」
「良いだろう、まあ休憩も大事だからな、無理はするなよ」
そういわれ、フランカは『じゃあ遠慮なく〜』と言って、保安員にドアの修繕をついでに頼んで、訓練室を後にした。リスカムとしてはもったいないなとも思ったが、彼女が本当に疲れている様子だったので部屋に戻ってもらうことにした。
一方のスネークは、フランカに殺気を送ったことを やや申し訳なく思いながらも、ジェシカがフランカにだけ送った殺気によく気付いたこと、バニラやリスカムが何も感じていなかったことを振り返り、経験ではなく種族によって殺気や雰囲気を察知する感度に差があるのだろうか?という簡単な考察を立てていた。
同時に、ジェシカに必要になる身体操作についてどのように教えるか、そして葉巻をどうしたものかを考えていた。
「……心許ないな」
胸ポケットが空っぽとは、とても淋しいものだとおもいながら、どうしたものかと考える。
「何か問題でもあった?」
「ん、いや個人的な問題だ」
そこにリスカムがやってくる、どうやら呟きも聞かれていたらしい。といってもジェシカのことや訓練のこととは全く関係のないことなのだが。
「そう?まあそれならそれで良いけど、何か手助けできるかもしれない」
「ふむ……まあこの世界についてまだ知らないこともあるしな」
そう言ってスネークは『実は』と言葉を続け、とにかく葉巻が欲しいことをリスカムに訴えた。
「……あなた、結構なヘビースモーカーだったんだ」
「まあな、正直言ってここ1週間は葉巻のことばかり頭に浮かぶ」
「そう……」
正直言ってそんなことで悩んでいるなんて心配して損した、とおもったリスカムだが、実際にこうして彼が悩んでいることも事実のようだ。少し思案して、ふと思い出し、ジェシカを呼ぶ。
「・・・そう言えばジェシカって色々なものを購入してるよね?」
「え?まあそうですけど……」
「それって色々な流通業者を使うわよね」
「まあそうですね。大体フェンツ運輸さんとかペンギン急便さんとか経由が多いですけど、他にも色々なところから仕入れたりしますね」
「その中にさ、葉巻を取り扱ってるところってない?」
「葉巻ですか?葉巻ってタバコのアレですよね?」
「タバコとは違うんだが、まあ葉巻だな」
「はあ。けどありますよ、龍門だと取り扱っているところが多いですからね」
「本当か」
「は、はい、本当です」
「それって今日とか注文できる?」
「あーちょうど今日、ペンギン急便から荷物が届くので、その時に注文すれば三日以内には届くと思いますけど」
「よしジェシカ、知りたいことがあればなんでも教えてやる、いつでも聞いてくれ」
「え、あ、はい?よろしくお願いします??」
スネークはやるきを取り戻した。いや、やる気が倍増した。
確実に入手できるのであればこれほど嬉しいことはない。戦場では吸えないことは多々あるため、1ヶ月ほどの禁煙は覚悟していたが、それが3日で良いと言うのであればこれほど嬉しいことはない。やるきもみなぎると言うものだ。
「そ、そんなに欲しかったの、葉巻」
「ああ、とにかく欲しいな……しかし、おれは手持ちがない。あまりツケにするのは好きじゃないんだが」
しかし問題がある、なにせいまスネークはBSWと短期雇用契約を結んでいるとはいえ、現金や通貨と呼ばれるものは一切持っていない。今後報酬が支払われるだろうが、それまでは無一文であることに変わらないのだ。
「そんなツケというか、後からお金を払っていただけるなら問題ないですよ?いくらなんでもここから逃げ出すとか考えにくいですし。何より私は教えてもらう側ですし」
「そう言われてもな……」
あまりよろしい状態ではない。何かしら見返りがあったほうがいいだろう。
「なら、あれを見せてあげたら?」
「あれ?あれってどれだ」
「あなたが持ってきた銃。ジェシカ、自腹で銃を買うくらい銃が好きだし」
「ほう、そうなのか」
「は、はい……ドーベルマン教官には何か変な反応をされましたけど、銃は好きですね」
「ふむ、まあとりあえず俺の銃を見てみるか?流石に撃たせることはできんが」
「はい、ぜひ見せてください!」
「そうか、少し待ってくれ」
葉巻を入手できるのであれば自分の愛銃を見せるなどお安い御用である。バックパックをさぐり、グロックが入っていたガンケースを取り出す。3人が何かしているのをみてバニラもトコトコっと近づいてきた。
ロックを解錠しガンケースを開く、中からはマガジン一本と銃本体が出てくる。グロックとは異なり、金属製のボディが独特の光沢を放つハンドガンだ。
「……」
「1911、
「すごい綺麗な銃ですね」
「いい銃は見た目もいいものだ。もっともこいつは色々と改造はしているがな」
「私の持っている銃と似ているけど、全然違う・・・ジェシカ?」
「持ってみるか?」
スネークは愛銃をガンケースから持ち上げ、マガジンが挿入されていないことを確認、スライドを引き薬室が空であることも目視で確認しジェシカに渡す。ただひたすら銃を見つめ立ったままだったジェシカは恐るおそるスネークから銃を受け取ると、スライドを引き、薬室内を確認する。
「……」
続けて輝くスライドを覗き
マガジン導入部を確認
さらに銃を握りながら指を動かす
誰もいない方向に銃口を向けて引き金を引く
この一連の流れを、銃を受け取った途端無言で行い始めた彼女を不気味に感じたのか、バニラは『ジェシカ先輩?……ジェ、ジェシカさん?』と言いながらスネークやリスカムの方へソーっと移動してきた。一方でスネークは真剣に銃を観察するジェシカを見て、本当に銃が好きなんだなと確信しながら、彼女がある程度満足するまで待った。
「どうだ、いい銃だろう」
「……すごいです!こんなカスタマイズがあったなんて・・・!!」
「ジェ、ジェシカ?わかったから、少し落ち着いて?」
「いいえ、これは落ち着いてなんていられませんよリスカム先輩!」
「そ、そうなの?」
「そうです!!」
そう言ってジェシカはスライドを引きながら、(おそらく彼女なりの親切心から)リスカムにも見えやすいように銃を見せてきた。
「まずこの鏡のように磨きあがれたフィーディングランプ!ここまで綺麗に加工されていればどんな状況下でも給弾不良を起こすことはありません!加えてスライドは強化スライドに交換されているにもかかわらずスライドと銃本体の噛み合わせには全くガタ付きがありません!これはフレームに鉄を溶接しては削る作業を何度も何度も職人が繰り返さなければここまでできないです!けどそのおかげでこの銃は格段に精度が上がってるんです!!」
「そ、そうなんだ、それはすご___」
「さらにフロントストラップ部分にはチェッカリングが施されてまるで手に食いつくようで、さらにグリップにステッピングまで施されてます!メインスプリングハウジングもより握り込みやすいようにフラットタイプに変えてありますね!これなら滑ることはないです!!サイトシステムもスライドと一緒に交換したんでしょう、モダナイズされたスリードットタイプにフロントサイトは大型で視認性がとても高いものになってますね。そしてハンマーもリングハンマーに交換されコッキングの操作性とハンマーダウンの速度も確保されて・・・あ!!こ、これはグリップセイフティーもリングハンマーに合わせた加工がなされてキャンセルまでされてます!!それにサムセイフティにスライドストップも延長されているので確実な操作ができるんだ!トリガーガードの付け根は削られていながらトリガーは指をかけやすいロングタイプに!?これはより握り込みながら銃を操作できますね!!
・・・・先ほどトリガーをひきましたがトリガープルは約1.5kgですね、たしかこの銃なら2.2kgくらいトリガープルはあったはずなので700gも軽かったですから早撃ちや咄嗟の射撃にもより対応できます。さらにマガジン導入部はマガジンが入れやすいようにひろげられてマガジンキャッチボタンは短く切り落とされて!?これなら無駄なく確実なリロードができます!!その上、スライドの前部にまでコッキングセレーションも!?これなら緊急時の装弾排莢を確実に行えます!すごくないですか!?これすごくないですか!!?」
「う、うん、そうだね……すごいね」
特にジェシカの熱量と圧力がすごいね。
そう言いたかったが、今まで見たことがないくらい目を輝かせて語る彼女を止めることなんて、リスカムにはできなかった。きっとフランカにもこれはできないだろう。バニラに至っては今まで見たことがなかった先輩の姿をみて軽く放心状態だ。『はうじんぐ……そりゅーしょん?』となんとか聞き取れた単語を繰り返しているのがやっとのようだ。
もちろん、ソリューションなんて言葉は一度だって出てきていない。
「よく見ているな、それによく銃を知っている」
「はい!」
「ふむ……そうだな、お前さんの訓練がいけばこの銃を撃たせてもいい」
「本当ですか!?」
「ああ、だが少し問題があってな」
「問題ですかどんな問題ですか」
「まあ落ち着け。詳しいことは追々話すんだが、この銃は源石を一切使用していない」
「・・・源石を使わないで銃が?」
「ああ、色々と理由はあるんだがな。だからここで使われてる弾薬を使用しても発砲することができるかはわからない、もしかしたら暴発して壊れるかもしれない」
「そんな!それは絶対にダメです!!」
「そうだな、俺もそれは避けたい。だがあいにくこの世界のメカパーツについては俺は詳しくない」
「なら私が探してもいいですか」
「いやむしろ俺からお願いしたい。この銃をこの世界でも使えるように改造してくれ、必要費用は俺が出そう、ジェシカにはパーツの手配と改造を頼みたい」
「私が・・・この銃を改造……?」
「そうだ、こいつを使えるように手を貸してくれないか?もし使えるようにしてくれたなら、この銃をお前に撃たせてやれる」
「この銃……私撃ちたいです!」
「なら決まりだな、なら詳しい打ち合わせは夜にしよう。どうやらドアの補修も終わったようだしな」
「わかりました!」
「よし、なら見本を見せるとしよう」
「はい!よろしくお願いします!」
先ほどまで落ち込んでいた彼女はどこに行ってしまったのか。今はスネークが持っているカスタムピストルに夢中になって目を輝かせ、やるきに満ち溢れているシューターがそこにはいた。そしてその隣で、葉巻が思っていた以上にすぐ届くことに加え、自分の相棒をこの世界でも使えるかもしれないという希望までもてた戦士がいた。
意気揚々とキルハウスに向かって歩き出す2人の背中を、残された2人は静かに、座ったまま見つめていた。
「……ジェシカ先輩って、あんな饒舌にお話されるんです、ね」
「いやうん、銃について語るときはよく話すのは知っていたけれど……あんなに熱心に語ってるのは私も初めてかな」
「……リスカム先輩は何言ってるかわかりました?」
「……正直、早すぎて半分くらいしかわからなかったかな。まあすごい合理的にカスタマイズされてる銃なのは確かかな、私もあそこまで吟味されてカスタムされた銃はしらないかな」
「そ、そうなんですね」
「……まあ、一回見ただけであそこまでは私もわからない。バニラも気にしなくて大丈夫」
「で、ですよね!ジェシカ先輩がすごいってことですよね!」
「そうだね。じゃあ私たちも見学させてもらおうか」
「は、はい!」
そんな会話をして、遅れながらも2人はスネークのキルハウスでのクリアリングを見学することにした。
余談だが、スネークのタイムは41秒。本人曰く、『葉巻が買えるのと愛銃が使える見通しが立って気分が乗った』とのこと。空マガジンでドアをロックするのも実施してのタイムだったが、その確実なクリアリングと射撃を実施しながらのタイムにジェシカはまた感動し、リスカムやバニラもその早さに驚いていた。
その夜、タバコならまだしも葉巻だと2週間かかることを知らされ、少し残念がるヘビがいたとかなんとか。そして一晩かけてスネークの愛銃をみてニヤニヤしていた猫がいたとかいないとか。
私の作品を楽しみにされていた方には大変申し訳ありません。
詳細は活動報告にて書かせていただいてますが、個人的な理由で二次創作活動は停止することになりました。
本日にて、daaaperの二次創作活動を停止させていただきます。
もっとも、オリジナル作品は許可を取れば投稿しても良いそうなので何かのきっかけで何か投稿するかもしれません。
あと、文字の創作活動をやめるわけではありません。
何かの縁で知らぬ間に皆さんのところに私の打った文字が書かれているかもしれません。
感想欄やコメントにはお返しできますので何かありましたらご連絡ください。
後日(と言っても11月末くらい)に活動報告で今後のスネークやジェシカについて書く予定ですので、
もし『この後どうするんだろ?』と気になりましたらご覧いただけると幸いです。
では私はこの辺で。
皆様のご健康と快適な小説ライフを願っております
何かご意見やご感想がありましたら感想欄にて教えて頂けると作者の励みにも参考にもなります。
何かありましたら感想欄にて教えて下さい
daaaper m(_ _)m。