Metal Gear Solid/ Ark of ■■■■ 作:daaaper
PM 09:45 ロドス本艦 甲板
昼間ならばいざ知らず、夜は甲板上にはだれもおらず、見えるのは赤くゆっくりと点滅する航空障害灯、様々な物資が保管されているであろうコンテナと甲板上に設置された手すりがわずかな月明かりに照らされている。
そこに黒い人影が現れる
男の手に握られたアルミケースは手すりと同じようにわずかな月明かりに照らされる
数瞬、立ち止まる
・・・人の気配がないことを確認し歩き出す
男は甲板上に設置された手すりに歩み寄る
そして安全のために設置されたであろう意図を飛び越え甲板の端へと向かう
落ちてしまえば命など簡単に失うだろう
しかし男は特に迷うことなくアルミケースを床に丁寧に置いた
甲板の端に足を宙にさらすように座り込む
男の目に映るのは
闇に沈む荒野
わずかな月明かりに照らされても怪しく光る鉱石
どれも彼が見た覚えのない景色だ
だがそれを見ても男の心に悲壮感や喪失感は産まれなかった
アルミケースを開け中から丁寧に木箱を取り出し足の上に置く
木箱に取り付けられた金具を一瞥するがすぐに金具を外しゆっくりと蓋を開ける
中には葉巻が綺麗に並べられリング*1が男の正面に顔をむける
その中の一本を摘む
腰からナイフを取り出し慣れた手つきで吸い口をV字にカットする
胸ポケットからガスライターを取り出し風を遮るように手で覆い火をつける
葉巻を火に近づけゆっくりと回す
カチンとライターをしまい
火がついた葉巻を口に持っていく
目を閉じながら煙が口に広がるのを感じる
「……ウマイ」
それは間違いなく上質なプレミアムシガーによる芳醇な葉巻の味だった。味わったことのない葉巻ではあるものの、煙を楽しむこの感覚は身に覚えのある確かなものだ。
ゆっくりと煙を吐き香りを楽しむ。実に1ヶ月以上ぶりの葉巻だ。
「生きていることを実感する」
なんの比喩でもなく、この男……スネークにとって葉巻とはそれほど大事なものだ。むしろ1ヶ月以上も禁煙していたことが信じられないくらいだ。だが地球ではない、どこなのかもわからない世界に来て、今こうして同じように葉巻を味わうことができている。スネークにとってそれは極めて大きな意味を持っていた。
とはいえ、いまいる場所は製薬会社の船だ。それも鉱石病により呼吸器系に問題を抱えている者も多い。どこでも自由に煙を楽しもうとは思わない。主流煙より副流煙の方が身体には有毒なのだと、様々なメディックに散々言われた。自分が楽しむ分には自己責任だと思うが、他人にまで迷惑をかけて楽しむものではないと自分なりに弁えているつもりだ。
何より、ロドスの艦内には子どももいる。もっとも種族によって成長速度が異なるため、一概に子どもと決めつけるのはよろしくないようだが、見た目相応に成長発達の真っ直中にある者がいるのも事実だ。副流煙を浴びせるどころか、葉巻を吸ってる姿をみせて興味を持たせようものなら、医療班に何を言われるか分かったものではない、下手すれば没収だ。
こうして誰もいない場所で吸えば、煙も吸い殻や灰も誰かしらに被ることはないだろう。
再び葉巻を咥え煙を楽しむ
「……見たこともないブランドだ、こんど聞いておくか」
葉巻を楽しみながらリングのロゴを見るも、見たことも聞いたこともないブランド名だった。加えて、この木箱はボワト・ナチュールと呼ばれる留め金で蓋をされている箱だ。この留め金で、作られた年代がわかるもので愛煙家の中でもこの箱を集めている人間もいる。しかし、スネークが金具を一瞥したところ、やはり年代を特定することはできなかった。1930年代のものにもみえるが、それにしては箱が綺麗すぎる。それに年代を断定すること自体ができなかった。
「だがま、こいつを楽しめるならとりあえずは良い」
スネークの最優先課題は解決した。あとは元の世界に帰るだけだ……が、それは気長にやっていくしかないだろう。どう考えても、次元を超えるだの異世界にいくなんていうのは超常現象だ。いくらアーツでも、容易に達成できるものではないことはすでに把握済みだ。
とりあえず、今の目下の目標はジェシカを一人前にすることだろう。
そんな風に、ロドスの甲板上で見慣れぬ景色を足元に広げながら、長年のツレである葉巻を楽しむ彼の眼下、炎国領内の荒野の夜を動く2つの光源が見える。それはよく見ると・・・バイクだった。
「……あの配送会社のやつも、随分とやり手だな」
そう呟きながら、至福の時を楽しむ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
PM 09:50 炎国領内 某所
「……そんで?」
「ん?何が?」
「あのお客さんのことや、気になってたやんか」
「んー、とりあえず悪い人じゃなさそう!」
「なんやそれ!」
荒野を2台のバイクが駆け抜ける。すこぶる調子の良いバイクに跨るのは2人の女、その服装にはペンギン急便のロゴがあり、彼女らがそこの所属であることがわかる。
「まあけど、実力は本物だったよ。手加減なしで勝負したけど、弾数の制限くらってたらワンチャン負けてた」
「・・・それホンマかいな、冗談ちゃうよな?」
「私が銃に関して冗談言ったことある?」
「ウチからすれば割とある気がせんでもないけどな。けど、それが本当ならえらいことやろ?エクシアはんが撃てる様な銃が、ラテラーノ出身じゃないのに使えるなんて」
「まぁね〜」
クロワッサンは、事務所でジェシカのインストラクターを名乗るあのおじさんを見た時の第一印象は『わからない』だった。一見すると胡散くさくも見えるが、ロドスの集荷担当の人間や、あの警戒心と不安の塊のようなジェシカが気を許していたことから、正式にロドスと関わりがあることはわかった。それに、エクシアが事務所で自分のことを見てきたとき、あの銃のインストラクターを名乗るおじさんの実力を確かめたいのだろうと直感的に理解したからこそ、何の問題のないバイクのメンテナンスを勝手にすることにした。そして男の実力を確認した彼女はなんと言ったか?
「しかも腕前は一流だよ」
「……あのおじさん、何者なん?」
「さあね〜、正直見当がまるでつかない。サルカズが商隊を襲って守護銃を手にするってのはよく聞く話だから、別に他の人でも銃が使えるのは普通にあるんだよね。けど、あの人全然サルカズじゃないし、けど実戦経験は誰よりも豊富でしょ、あの人」
「おん?なんでそう思うん?まあBSWのインストラクター言うてたけど」
「んまぁ〜・・・天使の勘?」
「なんやねん、当てずっぽうかいな」
そう言いながら笑うエクシアとクロワッサン。だが、エクシアが言う勘はただの当てずっぽうではない。
スネークと名乗る男に商品を渡すほんの一瞬に感じた……血生臭く、硝煙と砂埃が舞い、そして今は亡き誰かの意志のようなナニカ。とても言葉では表現できないにおいをエクシアは感じた。
彼女からすれば、黒い角が生えてて全身からヤバそうなオーラが出てる天使は知っているが、オーラとは全く異なる異様なにおいを感じたのは生まれて初めてで、一瞬怯んだ。もっとも、異様なにおいを感じたのが一瞬だったことと、銃のインストラクターがどんなものなのかという興味が勝り、そのまま話しかけることができた。エクシア以外には、あのにおいを感じた者はいなかったのも幸いして、誰にも不審がられることはなかった。
近くにいたクロワッサンですら気づいていないあたり、あのにおいは気のせいだったのかもしれない……が、実力に関しては間違いなく本物だった。ただ銃を撃ちまくっているだけで、サンクタの射撃手と引けを取らない射撃レベルには至らないことを、射撃訓練に明け暮れているエクシアはよく知っている。自分が負けそうになる実力なんて、そう簡単に得られるものでは無いことを知っている。
「まあ、実力は本物だね。あれならジェシカちゃん強くなるよぉ〜」
「ほー、エクシアはんがそこまでハッキリ断言するなんて、今日は珍しい事ずくめやなぁ」
「ちょっとぉ、私がいつも適当みたいに言わないでくれる〜?」
「自由気ままやろ」
「アハハ、それは否定しない」
いずれにせよ悪い人ではない、それさえわかればエクシアとしては十分だった。むしろロドスで銃に関する知識や経験が豊富な人に会えてラッキーなくらいだ。
「しっかし、銃を頼んだと思ったら、まさかタバコの方が重要とは思いもせんかったわ」
「うん、それは確かに。愛煙家なのかね?」
「てか、ウチらのボスってタバコ吸うんかね?」
「吸うんじゃない?吸ってるところ見たことないけど、私らにはわからないから今回の商品もボスに発注頼んでもらったし」
「けどペンギンやろ?普通にタバコ吸ったら中毒になって死んでしまうやろ、体重軽いし」
「アルコール飲んでるし大丈夫なんじゃない?」
「それもそうやな」
「まあけど帰ったらボスに報告しよー、なんか面白いお客さんがいたよーって。あとタバコ喜んでたことも」
「あーはよ帰ってシャワー浴びて寝たいわぁ」
2台のバイクは砂埃を巻き上げながら、テラの大地を疾走する。フロントライトは彼女たちの行く先を一直線に照らし出す。その直線の先には、月明かりよりも明るく闇に沈む大地を照らす、大都市が移動していた。
次回の投稿は月曜日です、お楽しみに
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