Metal Gear Solid/ Ark of ■■■■   作:daaaper

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部屋を出てから1時間ほどかけて、この街を探索し物資を探した。やはり内戦か紛争か、とにかく何らかの戦闘行為があったらしく、街はもぬけの殻だった。物資のあらかたは略奪され、店のショーケースは見事に破壊し尽くされている。

 

しかし、物資を根こそぎ持っていったわけでもないらしく、店一つ一つには物資はあまり残っていなかったが10も回れば十分な水と食料を見つけ出すことができた。商品のロゴからも、ここがソ連領内であることは窺えた。

 

「Чернобог……チェルノボーグ、街の名前か?」

 

同時に気になることも増えた。

 

1つ目、街の名前

Чернобог、チェルノボーグと読むこれがどうやらこの街の名前らしいこと。だがそんな街の名前は聞いたことがない。マイナーな街かもしれないが、学校やショップ、自家用車や家々を見る限り、地方都市の一つだと思えるほどに発展しているのにもかかわらず、自分の記憶にないことを彼は不思議に思った。

記憶喪失に陥っているらしいことは確かで、地理についてもおかしくなった可能性もあるが、聞き覚えもないこの地名は彼に興味を抱かせるには十分だった。

 

2つ目

街中では車を見かけた。もちろん廃車ではあるが、自家用車が街中にあるのだ、それも普通に。ソ連領内で自家用車を手に入れるには6〜7年待つ必要がある、それも労働者の給料10年分の値段がする。だからこそ車を傷つけられないようガレージで管理される。

それなのにこの地方都市の一つでしかないであろうこの街には自家用車があふれている。壊れたり炎上して焦げているものばかりで、車種までは特定できないが、そもそも街中に車が何台も置いてあること自体が奇妙だ。

 

「オリジニウム……?」

 

加えてガソリンスタンドが一つも見当たらない。これ自体は別に不自然ではない。自家用車が少ないソ連領内では、ガソリンスタンドはもちろん整備工場や高速道路といった自動車インフラは貧弱、街中にガソリンスタンドがないこと自体は不思議ではない。気になるのは、ガソリンスタンドではなく、オリジニウムと書かれた看板にガソリンスタンドのような燃料を補給するようなエリアがいくつか街中で見受けられることだ。だがそのような言葉は聞いたことがない、何かの元素だろうか。

 

3つ目

これが一番の問題である。

地図は街中で見つけた、だがそこに書かれていたのは『チェルノボーグ』と書かれており、一見すると普通の街の案内図だが、よく見ると階が付けられており、いま居るのはどうやら最上階らしく、他の階層もあることがわかった。この階層には非常口もあるらしい。

 

「……ここそのものが建造物なのか」

 

だが、米軍ハウスのように建造物をいくつも建てるならともかく、街そのものの建造物とは聞いたことがない。そもそも階層まで作る意味がないのに加えて地方都市の1つの規模の建造物を建築するというアイデアそのものが聞いたことがなかった。

 

MSFのマザーベースもある種の街のようなものではあるが、所詮基地であり地方都市のような規模ではない。加えて海上で建設されているため目立っていないが、このような規模の建造物が陸上で作られれば、いくらなんでも西側の諜報機関が騒ぐ。しかしそんな騒ぎを聞いたことすらない。

だが現実に自分はそんな聞いたこともないような規模の建造物にいる、しかも記憶を失って。

 

「……とにかく東を目指すしかないな」

 

地図が欲しかったが、そのようなものは一切なく、この街の案内図しか探し出すことはできなかった。探し出すことができなかったのか、地図がなかったのかはわからない。

 

ただ、いま自分が置かれている状況が今まで経験してきた任務とは、まるで異なっていることをなんとなく察している。聞いたことのない地名や物質に存在すること自体を疑う規模の建造物、そして直近の記憶を失っている自分。何が起きているのかもわからないが、アクシデントに巻き込まれている可能性があるようだ。

 

「まずは地上に降りるか」

 

とにかく移動するしかあるまい。

幸いこの街……は移動するが……そのものが封鎖されているわけではないらしく、街の中から出る方法をこうして入手することができた。もっと楽な方法があるのかもしれないが、どうやらいくつかの非常口があり、これを使って本当の地上に降りることはできるらしい。案内図に書かれた非常口に向かう。

現在地は中枢区画に近いらしく、ここから歩いて東へ30分、そこから降りるのにどのくらいかかるか。

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 

 

 

 

 

10xx年2月2日 AM06:56 曇天 視界距離17km

 

チェルノボーグ北西部

 

BSW B.P.R.S(生体防護処置班員)ロドスアイランド派遣部隊、4WD車内

 

「……で、ロドスに帰れると思ったら早速任務なわけね」

 

「まだそれをいうのフランカ」

 

「文句の一つや二つも言いたくなるわよ」

 

「もうすでに13回目」

 

「相っ変わらず細かいわねぇ」

 

それに対して意に返すこともなくハンドルを握り、目的地へと車を走らせる運転手、リスカム

 

「だいたいリスカムは真面目すぎるのよ、私みたいに文句を言うのが普通よ」

 

「相棒が運転している最中に与えられた任務に文句を言うことを、私は普通とは思わないけど」

 

「だーかーらー、別に任務に文句はないわよっ!」

 

バシッと助手席から左肩をぶっ叩く運転手の相棒、フランカ。

 

「ハハハ……」

 

そんな頼れる先輩たちのBSWではなかなか見ることができないやりとりを、後部座席から楽しんでいたりするロドスへ交換留学生として派遣される新人、バニラ。

 

会社を出発してからというもの、助手席からずっと文句をブツブツと言ってくる相棒に、丁寧(?)に返答する。もうこのやりとりも何十回目だろうか。しかし仲が険悪なわけでもなく、ただ時間を潰すためお互いに言葉を交わしているのが見ているだけでよくわかる。加えて、ただフランカが文句を言いながら運転席へとちょっかいをかけているだけのようにも見えるが、彼女はきちんと車両の周囲を警戒している。

 

チェルノボーグの騒動の後、すぐ戻ると言ってなかなか戻ることができなかった2人。

『ロドスにようやく帰ることができる。』

そう思いながら車を走らせ、ついにロドスにつくと思った矢先、会社から『ロドスから依頼が来たからチェルノボーグで任務してこい』と今朝の出発直前に無線連絡があったのだ。リスカムはその場で了解と返事をし、そんな相棒を睨むフランカ、今日から新しい職場に先輩と一緒に移ると言うことでワクワクしているバニラ、という三者三様の姿が早朝からあった。

 

実際、リスカムもフランカの文句に理解はしている。任務そのものにも文句はないし、出発直前に任務内容に変更があることも常だ。それでも、すぐ戻ると言って1ヶ月近く経ち、ようやくあのロドスに戻れると思っているところに、出発する直前に会社から仕事を言い渡されたのだ。文句も言いたくなるのはわかる。

 

……だからといって1時間以上、運転している相手にひたすら言い続けるのはどうかと思うけど。

 

それが相棒であるリスカムの思いである。

だがしかし、文句を言いながらも周囲の警戒も怠っておらず、その姿を見て同じように周囲に気を配っている後部座席の後輩のことも踏まえると、あえて注意をする必要もないとは思う。……だからこそ、なかなか相棒に注意できない状態にある、とも言えるが。

 

「まあ、ロドスからの依頼だからやるけどさ……なんかねぇ」

 

「何か気になることでもあるのですか?」

 

ため息を吐きながらシートに背中を当てるフランカに、何か引っかかることがあるのかとバニラは遠慮がちに尋ねる。もちろん警戒は怠らず、後部座席から周囲を見渡す。

 

「そんな気をはらなくていいわよー、ここらへんはレユニオンの支配下でも元から無いわ。それにこんな地形だもの、襲ってくる奴がいれば車両よ、まあ襲ってくる奴がいればだけれど」

 

天災による地形変動と源石の発生により、移動都市を除けば基本的にこの世界には建物はおろか人工物はほとんどなく、植生が残っている地域もあるが、いま車を走らせている場所はチェルノボーグでの暴動の際に発生した天災の影響を受けていたエリアでもあるため、植物も見当たらない荒野と化している。

 

襲撃されるにしても遠距離からの狙撃か車両による追撃になる。地形により身を隠せる場所はあるものの、注意さえしていれば十分に奇襲されることなく対処できる地形でもある。わざわざ新人であるバニラが警戒する状況でも無いのだ。

 

もちろん、朝早いとはいえ、うたた寝せずきちんと全周警戒をしているあたり、BSWの評価通り真面目な性格であることが窺え、先輩として、また共に戦う戦友としても評価できる。

 

「そうかもしれませんが、念には念を。それに今は周囲を警戒する以外にできることもありませんから」

 

「ま、それもそっか」

 

「その通り、わざわざ愚痴を言わずに後輩を見習って静かにしているのが正しい」

 

「だーかーらー」

 

「ハイハイ」

 

「話を最後まで聞きなさいよね!」

 

再びバシッとリスカムの左肩をぶっ叩く。

 

「えーと、それで、フランカさんは何か気になることでも?」

 

「ん?あーそうね……まあ気になることというか、疑問というか」

 

「はっきり言いなよフランカ」

 

「んーそれはそうなんだけど……まだ仮説というか、はっきりしてないし」

 

「そんな仮説とかいちいち気にしないで敵を切るのがフランカでしょ。さっさと話して、バニラも気になってるみたいだし」

 

「っリスカムが言うならともかく、後輩が気になってるというならとりあえず言うしか無いわね」

 

そう言って助手席から身を乗り出し、後部座席に座る後輩に対して自慢げにフランカは人差し指をビシッと突き出して語り始めた。

 

「気になることは1つ、チェルノボーグから謎の信号が発信されたから調査しに行くってことよ」

 

「えーと……それはつまり、調査しに行くことが気になることですか?それともチェルノボーグから通信があったことでしょうか?」

 

「その両方ね」

 

「なるほど」

 

いや1つじゃなくて2つじゃん

 

そうリスカムはツッコミたくなったが、残念ながら後輩はそのまま納得してしまったため発言を控えた。同時に人事部に評価されていた、彼女の一般常識に関する留意点を思い出していた。

 

「しかし、そこまで引っかかることでしょうか?」

 

「別に調査しに行くこと自体は不思議じゃ無いわ。それに信号があったこと自体も、別に変でもなんでも無いわ。レユニオンの生き残りか、はたまたトランポーターが休憩ついでに天災の情報を入手しようとしたのかもしれないしね」

 

「けど、フランカさんは引っかかると?」

 

「何かしらね……なーんか引っかかるのよね、通信も別に無いわけでも無いし、それにわざわざ調査する必要あるのかしら、とも思うのよねぇ」

 

「しかし、ロドスは生存者がいる可能性があるなら積極的に救助をしていますよね?」

 

「そうね。それにアーミヤのことだもの、生きてて困っていたなら助けるわよ。それが感染者であろうがなかろうが手を差し伸べるしね、現に私も助けられている……訳なんだけどねー」

 

そう言って再びシートを押し倒すように背中を当てるフランカ。

ロドスやアーミヤの目的、その考え、これまでの実績や行動を踏まえてもBSWを介して自分たちに依頼があったのは理解ができる。何より感染者である自分も助けてもらっている……が、今回の依頼は彼女の中でなぜか引っかかる、というかすっきりしない。

 

「さっきもリスカムに言ったけど、別に私たちに依頼があったことやチェルノボーグに調査しに行くこと自体に文句はないわよ?タイミングが悪すぎって話で」

 

「はい、まあ急な任務は珍しくないですけど、今回のは急でしたね」

 

「共感してくれてありがと、バニラのそういうところ好きよ。やっぱりヴイーヴル出身者は話がよくわk——」

 

ビリッ

 

「イッッタァ !?」

 

「ど、どうしました!?」

 

運転席をじろっと睨むフランカ、そこには自分の左手にそっと右手を添えて……思いっきり電撃を放ってきた相棒がいた。どうやらヴイーヴル出身者、という単語から『そんな後輩に対して〜』と言われることを先読みし、先制してきたらしい。

 

「あーいや……ちょっと静電気がね」

 

かくして、リスカムの先制攻撃は効果を示し、フランカの口撃を未然に防いだ。

 

「……ま、タイミングについては文句も言いたくなるけど。それとは別に、私が気になるのは調査しに行くことね。だって別にこれまでもチェルノボーグで活動してたレユニオンのことを考えれば通信の1つや2つあっただろうし」

 

「しかし、先月のロドスと龍門による戦闘でレユニオンの活動は縮小したんですよね?」

 

「そうみたいね。会社の情報部門の話だと、レユニオンの目立った活動はここしばらくみられてないみたいよ」

 

「それなのにチェルノボーグから通信があった、と」

 

「それも“謎“のね。短くて内容もわからない、発信者もわからない謎の通信、ってことみたいだけど」

 

なーんでそんな通信を傍受できたのかしらね

 

そう心の中でフランカは呟く。

たまたま、というだけかもしれないが、そうするとたまたま何かの通信がチェルノボーグから発信されて、たまたまロドスがその通信を傍受して、たまたまロドスに向かうから自分たちに任務として受注されたことになる。

 

偶然が3つも重なれば必然になる

 

なんて言葉もあるけど、さてどうかしら

 

「11時方向、見えてきた、あと15分で着くよ」

 

「ん、本当ね、バニラ戦闘準備」

 

「ハイ」

 

「リスカム、予定通りチェルノボーグを一周してから西側の避難区画から潜入するわよ」

 

「わかってる」

 

BSWを発ってからおおよそ1時間、目的地であるチェルノボーグに到着する。

そこで待っているのはただの廃墟か、はたまた何者か、任務を遂行すればわかるだろうが……どちらにせよ移動都市を捜索するというのは骨が折れる。痕跡が上手いこと見つかればいいが、見つからなければ時間がかかる。

 

はあ……やっぱりめんどくさいわね

 

そう思いながらもフランカは、自身の得物である短剣をバックパックから取り出し、いつでも扱えるように調整する。後部座席に座るバニラも獲物をいつでも取り出せるよう、右側にペリカンケースを置いた。

 

敵性勢力がいるとは考えにくいが、何がいるかわからない以上備えるに越したことはない。どちらにせよ、この仕事が終わればようやくロドスに帰ることができるのだ。さっさと片付けてあそこに帰る、それをモチベーションにフランカは準備し、またリスカムも実は同じようにロドスに帰ることをモチベーションに、チェルノボーグに車を走らせていた。

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

非常口は案内通り存在していた。そして施錠されていたわけでも封鎖されていたわけでもなく、通路の一つとして当たり前のように存在していたらしい。

 

非常口はいくつかあり、大まかに東西南北にそれぞれ非常口は確保されてるようだった。案内図を見る限り、一般市民が利用するのはだいぶ大きい非常口らしく、車両も出入りできるようだが、ここは扱いとしては予備の非常口、一番規模も小さいようで普通の建物にあるような人が通れるような防火扉があるだけだ。方角として都合がいいのと規模が小さく、かつ予備の非常口であれば人目につく可能性も低い。

 

ハンドガンを構えてゆっくりとドアを開けると、音を出すこともなく滑らかにドアは開いた。やはり、廃れてからそれほど時間が経っているわけではないらしい。ドアの先は薄暗かったが、すぐ前に梯子が下に続いていた。覗くと高左はおよそ10m程。耳を澄ませてみるも気配もない。

 

梯子を掴み、強度を見るが装備したままでも十分に使えるようだ。そのまま四肢を梯子に乗せ、滑るように下に降りる。後ろを振り返ると、再びドアがある。どうやら直接下に降りれるのではなく、一旦外に出なければいけないらしい。

 

ドアノブに手をかけ再びゆっくり手前に引く、今度はギギギと音を立てながらドアが開く。予備の非常口、それも少人数だけが利用できるような通路はほとんど利用されていなかったらしい。先ほどまでは屋内であったこともあり、あまり劣化も気にならなかったが、外部に晒されていることもあったのか、ここのドアはやや錆びつき、ドアを動かすにも引っかかる感覚がある。

 

だが外の様子が伺える。正面には長く続く通路、数キロはありそうだ。足場は先ほどまでのアスファルトなどと異なり金属製で、上部には配管が走り、街というより船のような印象を受ける。左は壁、右手はどうやらこの街の外部らしい。落下防止のためか1mほどの高さの手すりに鉄板が貼られている。正面を確認し、左の壁を背にハンドガンを構えながら一歩外に出る。

 

「…………」

 

そこには・・・ネバダ州のような砂漠地帯のようでありながら、地形は陥没し、何かが燻り黒煙が上がっている。

グランドキャニオンのように隆起した地形に、尖った黒色の鉱石のようなものが小さいものから人よりも明らかに大きい物まである。

 

ただ一言で言い表すことができない風景がそこには広がっていたが、砂漠に陥没し隆起している地形、正体不明の鉱石があるだけの風景は荒廃した地球のようであった。

 

アフガン周辺なのかと考えもしたが、やはり場所が絞り込めない。何よりでかいウニのように尖った黒色の鉱石は、光の反射によるものなのか白く光っているようにも見えるが、その見た目は綺麗でもあり、何か奇妙な気配も感じる。

 

とにかく謎の鉱石が目につく。あのような物体は見たことも聞いたこともない。ギアレックスのトゲも確かに大きかったが、あのサイズのものからそれよりもでかいものまである。

 

「ここは一体……?」

 

そう言わずにはいられなかった。

食料と水はある、武器も最低限のものがあるため身を守ることはおそらく可能ではある。だが、荒廃した地に何が出てくるかなど想像がつかない。現地人と接触し情報を得たいが、言語が通じる保証もない、そもそも人がいるか……ヒトという生命体がいるのかも怪しい。それならそれで、異常だと確定することができるが。

 

この風景から分かるのは、自分の知識にはないどこかに自分がいるということ。しかしキリル文字が使われていることからスラヴ圏にいる可能性は考えられる。もっとも、この荒廃した大地に見たこともない鉱石を見てしまうと、ユーラシア大陸にいるような感覚は全くないのだが——

 

 

瞬間、反射的にしゃがみ込み手すりの鉄板に張り付く

 

 

いま何かの音が聞こえた

 

・・・・・気のせいではない、車両だ

 

距離は……確実に近づいている

 

方角からしてこの通路の前方方向、北から接近している

 

鉄板の隙間から外の様子を伺う

 

音は確実に近づいている

 

・・・目視で砂煙を捉えた、車両らしき物も見える

 

どうやらこの建造物と並行するように走行しているようだ

 

あの距離であれば手すりから乗り出すことさえしなければバレることはないだろう。

バックパックから双眼鏡を取り出し、念のため反射しないことを確認するが、双眼鏡も破損や反射防止加工が劣化していることもなかった。

 

膝立ちになり、ゆっくりと上半身を起こし、手すりと鉄板の隙間から砂煙を観察する。

 

車種はジープのような四輪駆動車、搭乗員は……3人、性別はおそらく女、武装は不明……だが、いずれも頭部に角や獣のような耳が生えている、なんらかのセンサー類の装備だろうか。

 

車内からこのデカイ建造物を観察しているのか、目視で車両の右側をみている。北から車両ということは、北部方面には車両をこちらに向かわせてくるなんらかの地域があるのだろうか。もっとも、本当に北部から来たのかも不明だが。

 

ともかく、わざわざこちらをみている以上、自分がいることがバレるとなんらかのトラブルに巻き込まれかねない。再び身を屈み、鉄板の裏に隠れ、わずかな隙間から肉眼で様子を伺い、車両が通り過ぎるのを待つ。

 

砂煙を上げながら車両は徐々に近づき、肉眼でも搭乗員3人が見えるようになった。……顔立ちからはアジア系のような印象も受けるがヨーロッパ系のようにシャープな顔立ちでもある。髪色は茶髪・銀髪・金髪であり、人種を特定することは難しい。その他にも何か情報は得られないかと思った

 

 

が…………静かに隙間から顔を覗くことをやめ、完全に鉄板の裏に隠れる。

 

 

車両の速度が見るからに落ちている。どうやら隠れているところの真正面に車が止まるらしい。

バレたのか、だが向こうからはこちらの姿を見つけたとは思えない。だが実際に車両は明らかに速度を落とし停まろうとしている。偶然だとは考えにくい、一体なぜか……そう思いふと背後を確認すると、彼は失態に気付いた。

 

引いて開けたドアが開いたままだったのだ。

 

確かにドアは劣化していたが、どうやらその劣化具合は予想していた以上らしく、錆び付いた金具は見事に中途半端に開いたままの状態だった。このデカイ建造物を見ながら車を走らせていたのなら、他の非常口が閉まっているのにここだけ開いているならば異常にも気付くだろう。

 

問題は向こうがなんの目的で車でここにきたのかだ。ただ物資を頂くことが目的ならば、人がいるかもしれない箇所を避けるだろう。だが、異常を発見し調べる必要がある立場であるならば……それはこのバカでかい建造物の持ち主の関係者か、ここを攻めた組織の斥候か、あるいは全く別の集団か。

 

とにかく今は隠れてやり過ごすしかない。今更扉を閉めれば不審がられる。こちらとしては、情報が手に入るなら調査しにきてもそのままスルーしても構わない。

 

研究開発班が開発した指向性マイク付きの双眼鏡がここで役立つとは思いもしなかった。装甲のように分厚い鉄板でもないため、指向性マイクが機能しなくなることはないと判断し、鉄板越しに、車両が止まったであろう真正面へ双眼鏡を向ける。

 

《……し……よ……ッぱ……》

 

どうやら何か話しているらしい、音が大きくなる方向を探し、左に向けるとクリアに音を拾い始めた。

 

《……あり、あそこだけ開いていますね。たまたま開いているだけじゃないの?しかし、あそこは点検用の通路ですよ、それに他は開いてませんでしたが、あそこだけ開いているというのも変です。まあ、それはそうだけど、リスカムは?発信者が開けたかもしれないし、たまたま開いてるだけかもしれない。つまり?手がかりがありそうなら調べるべきそうなるわよね。・・・バニラ、本部に連絡して、BPRSロドス派遣部隊は作戦予定を変更して東部から侵入するってね。わかりました。で、どうする?一周する?私たちが探しているのが人なら時間をかけないほうが良いと思う。なら即侵入ね。車出すよ、つかまって》

 

車のエンジン音が大きくなり、車両はUターンし来た方向へと戻る。案内図と、先の会話とを考えると、東のでかい非常口から車ごと侵入するようだ。時間が経てばここにやってくるのだろう。どうやら人を探しているらしいが……それはもしかして自分なのだろうか。

 

だが、探しているというのが単なる行方不明者の捜索を意味するとも考えにくい。BPRSがなんの略称かは不明だが、派遣部隊と名乗っていた以上、ある程度の規模の組織から派遣されてきたらしい。

 

選択肢は2つ、この場を立ち去りこの見知らぬ土地を彷徨うか、先の3人から情報を収集するか

 

……彼の中で選択肢は決まっていた。

 

頭の中に入れた案内図が正しければ、このまま通路をまっすぐ行けばデカイ非常口へと繋がっていたはずだ。車両は砂煙を上げながら東部の非常口へと走っている。十分に車が離れたことを確認してから立ち上がり、通路を走り抜ける。

 

距離にしておよそ2km、走ればおよそ3分半、3人が移動する直前に到着することができるだろう。そこからどうするかは、臨機応変に立ち回ることにする。

 




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