Metal Gear Solid/ Ark of ■■■■ 作:daaaper
今回のお話には不快になる表現(過呼吸や嘔吐)が含まれております。
この手の表現が苦手な方、また、食事をしたばかりの方も閲覧にはご注意ください。
ブラウザバックも選択肢の1つということをお伝えしますm(_ _)m
3月17日 00:12 ロドス本艦 甲板
深夜、ほとんどのオペレーターが寝静まった頃に手すりを超え、1人甲板の端に座り葉巻を楽しむのがスネークの習慣となった。スネークはヘビースモーカーという自覚はあるが、何処でも吸って構わないという考えは持ち合わせていない。葉巻は理解ある者が楽しむものであり、強要するものでは無いからだ。
何より艦内は禁煙だ、こうして誰も来ないであろう場所で吸っていれば、誰かに指摘されることもない……甲板上は艦内かどうかはバレてから決めてもらうことにして、深く考えることは最初に吸ったあとから放棄している。
月夜がよく映える中でスネークは左手に葉巻を挟むと、おもむろに腰からナイフを抜き、月にかざす
挟まれた葉巻はゆっくりと燃え、太い灰の束を作りだし、やがて風に飛ばされ、灰の束の根本が赤く強く光る
「そろそろアイツにもナイフを仕込むか」
考えているのはこの一週間でCQCの基礎を一通り叩き込んだジェシカに、どのようなナイフを渡すかだった。スネークが持つのは刃と柄の部分が極めて太く、どんなに振り回しても折れる心配のないサバイバルナイフと、敵のナイフや銃を
この一週間でジェシカはCQCの基礎となる姿勢、徒手格闘の身体操作、ガンファイトとの兼ね合いについてひたすら教えられ、実践し、それらを習得した。彼女はスネークが予想していた以上に習得の早さは早かった。
それは非常に喜ばしいことだ……が、彼女を一人前に仕上げるには格闘戦に関する経験が必要になる。その経験は練習用のゴムナイフだけでは足りず、刃と重量がある実際のナイフによる格闘も必要になる。
リスカムが言うにはジェシカに対してはBSWからナイフは支給されているはずとのことだったが、リスカムが持つ支給品のナイフを確認したところジェシカが握るには少し大きいものだった。しばらくは支給品のナイフを使わせるが、彼女の手に馴染むナイフが必要だ。
しかしナイフを外部に注文するとなれば、例のペンギン急便が思いつくが……彼女の手の大きさに合わせたナイフが届くとは限らない。いや、あの業者であれば注文通りの品物を届けてくれそうだが、ナイフを渡すのは彼女が一人前になった証として直接渡したい。せっかく用意したものをバラされたら興醒めだ。何よりあのエクシアという女はポロッと話してしまいそうだ。
「鍛冶屋でもあれば良いんだが……フランカあたりにこっそり聞いてみるか」
鍛冶屋でなくても、刃物を扱う職人や武器屋と繋がることができれば僥倖だ。いずれにせよ、明日からは実物のナイフを使い、より実戦に近づける。精神的な負荷もさらにかけるつもりだ。刃物を扱う以上、怪我をすることは避けられない。だが怪我を知らなければ実戦で使い物になどならない。
「……そういえば、フランカやリスカムはえらく肌が綺麗だな」
何かいい軟膏でもあるのだろうか、であれば個人的にも入手したい。古傷を気にする様な歳でもないが、MSFに持ち帰れば喜ぶ隊員もそれなりにいるだろう。それに創傷は綺麗に治すに越したことはないだろう。
そんな考えに耽っていると、葉巻の赤い光が指にだいぶ近づきつつあった。煙を楽しむ時間はここまでの様だ。腰につけたバックパックから携帯灰皿を取り出し葉巻をしまう。また明日楽しむことにしよう。
甲板から宙に遊ばせていた足を持ち上げ、ゆっくりと立ち上がる。落ちればまあ間違いなくこの世からオサラバのため、そろそろ命綱でも用意しようかと考えている、ついでにラペリング用の紐も仕入れるか。そういえばジェシカはラペリングの技術はあるのだろうか、などと考えながら手すりを超え安全地帯へと舞い戻る。自室がある階層に向かうため鉄扉を開け階段を降りる。
「……ん?」
だが扉を開けた瞬間、下から誰かが上がってくる気配がする。別にそれだけならただ人が甲板に上がるだけだが……様子がおかしい。カンカンカンという階段を駆け上がるのと同時にブウンっと手すりが揺れる音がする、さらに息が上がっているのか呼吸音が荒い。
あまり良くない事態が起きていると直感が告げる、何が起こるかわからない。咄嗟に空マガジンを鉄扉に噛ませ最低限の視界と空間を確保する。直後、カンッと甲高い音が最も大きくなり、スネークの眼下、階段の踊り場に音を立てていた正体が人影となることなく、扉から入り込む月夜に照らされ現れた。
それは・・・女、いや少女だった
パッと見る限り種族はわからないが赤メッシュが目立つ髪に、革のブーツに学生服の様なニットを着ている……が、踊り場から見える彼女は明らかに様子がおかしい。額には大粒の汗が湧いており、眼の焦点は定まっておらず、呼吸は乱れ、どうにか手すりを掴んでいる手は震えている。
少女は今自分が登ってきた誰もいないであろう空間を向いて叫ぶ。
「ああぁあっ!だぁぇああ!!」
どうにか絞り出したその声は絶叫に近く、さらに呼吸を乱れさせている。
少女は発狂している
スネークはそう判断し冷静に声をかける
「落ち着け、階段を登って、こっちに来い」
音で反応することができたのか、階段から顔がこちらへと振り向く。だが変わらず焦点は合っていない、表情には恐怖が張り付いている。
「俺は、お前の味方だ、こっちに、登ってこい、ゆっくりでいい」
発狂を起こした人間、それも幻聴や幻視が生じているであろう相手をその場で治療することは不可能だ。急性のストレス症状なのか、あるいは何らかの薬物中毒なのか、精神疾患によるものなのか、はたまた何か別の疾患によるものなのか、相応の時間をかけて専門家が判断を下す必要がある。当然ながらスネークは専門家ではないため治療を施すことはできない、だが応急処置はできる。
「ああ怖いな、大丈夫だ、ゆっくり、こっちに、上がってこい」
少女の様子から、なんらかの幻覚が生じており、ひどく恐れており、その結果呼吸が乱れていると考えられる。ならまずは呼吸への処置だ。
少女はいまだ焦点は合っていないものの、声には反応できているのかゆっくりと階段を登り始めた。だが、あと数段というところで急に後ろを振り返る。
「・・・アッ、あっああっっあああっっっ」
そして喉から音を出し、膝を震わせその場に立ちすくみ、呼吸の乱れが酷くなる。
すぐにスネークは少女の肩を担ぐ。触れた瞬間、少女の震えが強くなるが階段から運び出し開けたままの扉を通り外へと連れ出す。少女を甲板に四つん這いさせ、背中をさする。彼女の全身は緊張しており、こわばっている。
「よーしよく頑張った、ここは安全だ、ゆっくり呼吸をすればいい」
「はあぁ、はあああ、はっァ ゛、あッぅ゛」
呼吸にえづきが混ざり、直後に嘔吐する
「よしよし、大丈夫だ、ゆっくり呼吸しろ」
ザッと吐いたものを見る限り、固形物は見えるため食事は摂れているらしい。背中をさすりながら吐瀉物に汚れないよう彼女を少しだけ移動させる。
「はあ、はあぁ、はあ、はああ、はああ」
「そうだ、それでいい、喋れるようなら喋れ、楽になる。お前の名前は?」
「はあ、はあぁ!はああっ、はああ!」
「大丈夫だ、焦らなくていい」
「はああ、はあ、ああ、ずッ、ズィマッ」
「ふむ、ズィマか、いい名前だ。《この言葉の方が聞き馴染みがあるか?》」
ズィマはロシア語で冬を意味する。この世界にはウルサスという帝国があり、そこはキリル文字を使う文化圏らしい。チェルノボーグの非常階段の表記を見る限り、ウクライナあたりの訛りに近いらしい。少女に訛りを意識しながらゆっくりとロシア語で話しかけると、眼を見開き正気を少し宿しながら、うなずく様な仕草を見せた。
《そうか、大丈夫だ、ゆっくり呼吸しろ、ゆっくりでいい》
背中をさすり続けながらロシア語で語りかける。少女を襲っているのは他者には想像もつかない恐怖だ。だからこそ、刺激することなく、今いる場所は安全であることを伝え続ける必要がある。安全だと脳が理解し始めれば呼吸の乱れは自然と落ち着く。
《童謡でも歌ってやろう、一緒に歌えば少しは落ち着くぞ。モスクワ郊外の夕べでも歌うか?》
「はあ、はああ、《そんなの、しらねぇっ、てかっ、歌、なんて、歌うわけ、ねぇ、だろっ》」
《そうか?まあそれなら仕方ないな、ゆっくり呼吸しろ》
「はあ、はあ、《ちくしょう、なんで、なんでッ》!」
《いまは落ち着けばいい、ゆっくり話せ》
《くっそ、くっそ、くっそ》
《そうだ、それでいい、言葉にすれば楽になる》
スネークはパニックを起こした人間を何人も見ているが、過呼吸を起こしている相手に対しては可能な限り話すよう促すことが効果的だと経験則で学んでいる。過呼吸は過剰に空気を吸い息を吐き出せない状態だ、言葉を発している間は息を吸えなくなる。
いきなり話すように促すのは無茶だが、過呼吸は刺激を与えず気分を落ち着かせるように関われば必ず処置できる。時間をある程度かけながらでも少しづつ落ち着かせ、話すよう促せば段々と過呼吸は収まる。
スネークが背中をさする少女も、悪態をつきながらも言葉を発し、少しづつ呼吸も落ち着いてきた。やがて目にも正気を取り戻してきた、服は汗で濡れているが額に冷や汗はかいていない。
《アタシは、アタシはッ、なんだって、こんな……》
《さあな、だが今はもう安全だ》
《……そうか、あんぜんか》
「ああ」
《……それなら……》
「……大丈夫か?」
少女からの返事がなくなる、どうやら寝てしまったらしい。念のため呼吸と脈拍を確認するが問題はない、おそらく疲れたのだろう。過呼吸もなく寝息を立てて落ち着いている。
先ほどまでの黒く暗い感情と恐怖が入り混じった様子が嘘のように静かに寝ている少女は、白い肌が月夜に照らされ美しく光っている。閉じた目からは一筋の線が流れていたが起きる様子はない、うなされてもいない様だ。
とりあえず応急処置は終えた……が、流石に少女を外に放っておくわけにもいかない。ましてやあれだけの恐怖と過呼吸を起こしていた、また同じことが起きるとも限らない、いや間違いなく起きる。
スネークはバックパックからガーゼを取り出し、少女の顔を軽く拭いてやるとうつ伏せにし、脇に腕を引っ掛け上体を起こしてから背面から正面へと回る。そして服の腰の部分を握ってから持ち上げ、腹部を背負うように抱えあげてファイヤーマンズキャリーの形で少女を背負う。思いのほかがっしりとした体格のようだが、問題なく背負うことができた。その間も少女は寝息をたて、なにか寝言を言っている。
「…………」
「……俺には娘はいないんだがな」
スネークは背負った少女を起こさないようゆっくりと歩き移動する。吐瀉物はまだ湿っているが、荒野の乾燥している環境だからか乾燥し始めていた。ひとまずは少女を医療部門へ運ぶ。ドアをくぐり、噛ませていたマガジンを回収し階段をゆっくりと、確実に降りていった。
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